かんぞうがん
肝臓がん
肝臓にできた悪性腫瘍のこと
1人の医師がチェック 71回の改訂 最終更新: 2022.10.17

肝臓がんのステージ:肝臓がんのステージ分類や転移などについて

肝臓がんのステージは、大きく4つに分類されます。ステージは妥当と考えられる治療法を選んだりすることに役立ちます。ステージは他にも生存率などの集計をする際にも使われるのでステージごとの生存率もわかります。 

肝臓から発生するがん原発性肝がん)はほとんどが肝細胞がんであり、約90%を占めます。その次に多いのが肝内胆管がんで約5%です。肝臓がんと肝内胆管がんは発生する組織が異なるのでその分生存率や治療法などが異なり、分けて考える必要があります。

ここでは主に肝細胞がんについて解説します。肝内胆管がんについては「肝内胆管がん胆管細胞がん)とは?」を参考にしてください。以下で肝細胞がんと肝内胆管がんの違いについて説明します。

肝臓には肝細胞という細胞があります。肝細胞はたんぱく質の合成、炭水化物・脂質の代謝、解毒作用など様々な役割を担っています。肝細胞がんは肝細胞ががん化したものです。肝細胞がんの主な原因は肝炎ウイルスの持続感染による慢性肝炎や肝硬変です。

肝臓には胆管という胆汁が流れる管が張り巡らされています。胆汁が流れる管を胆道ということもあります。肝内胆管がんは胆管の上皮から発生するがんです。肝細胞ががん化する肝細胞がんとはがん化する細胞が異なります。このため肝内胆管がんは肝細胞がんとは性質が違います。肝内胆管がん胆道がんの一部に分類されます。

「がんの統計」に載っている肝細胞がんの5年生存率を下に示します。

ステージ

生存率

I

62.9%

II

45.4%

III

15.9%

IV

4.5%

ここで紹介する数値は「がんの統計」の最新の値ですが、数値のもとになっているのは2012-2013年に肝臓がんと診断された人の生存率です。統計の性質上、今現在の治療による生存率を知ることはできません。がんの治療は日々進歩しています。現在の治療は統計上の生存率を上回ることもありえます。

肝臓がんの進行度に基づいてステージが診断された後には、どうしてもその生存率が気になると思います。しかしステージ分類は進行度を大きく4つに分けたものでしかありません。一人ひとりの顔が違うようにがんの状態も一人ひとりで違います。生存率は参考にこそなれど絶対ではありません。大事なことは自分の状態に向き合い日々の生活や治療に前向きに取り組んでいくことです。

「がんの統計2021」までは「肝臓がん」の統計データの中に「肝細胞がん」と「肝内胆管がん」の両者が含まれていました。これらはいずれも肝臓の中にできるがんですが、がん細胞の性質が異なっており治療法も別々です。一般的に「肝臓がん」といった場合には「肝細胞がん」のことを指すことが多いのですが、今までの統計ではこれらがまとめて集計されていたことが問題でした。「がんの統計2022」からはそれぞれのがんの生存率データが別に示されるようになり、より理解しやすくなっています。このページでは今後、主に「肝細胞がん」の説明を行っていきます。肝内胆管がんについて詳しく知りたい人は、「肝内胆管がん(胆管細胞がん)とは?」で解説しているので参考にしてください。

肝臓がんの治療はステージとともに肝臓の機能が重要になります。ステージが進んでいなくても肝臓の機能が治療に耐えられないと判断される場合もあります。肝臓は生きていく上でなくてはならない臓器の一つです。治療をした結果肝臓の機能が低下して命に危険をおよぼすことは避けなければなりません。

肝臓の機能を評価する方法としては肝障害度とChild-Pugh分類の2つがあります。どちらも肝臓の機能を見ていますが、少し調べる項目が異なります。手術が適しているかを判断する場合には肝障害度をも用い、焼灼療法や塞栓療法などが適しているかを判断する場合にはChild-Pugh分類を用いることが多いです。肝臓の機能を調べて治療方針を定めます。

肝障害度は肝臓の機能を検査や症状からA、B,Cの3つに分類したものです。肝障害度は以下の5つの項目が用いられます。

  • 腹水 

  • 血清ビリルビン 

  • 血清アルブミン 

  • ICG15 

  • プロトロンビン活性値

腹水とはお腹の中の腹腔(ふくくう)という場所にたまった水のことです。肝臓の機能が悪くなくても少量の腹水はありますが、肝臓の機能が低下すると腹水が多くなりお腹が張った感じなどの症状がでます。腹水は利尿剤などの薬で良くなることがあります。

ビリルビンは赤血球が壊れた後にできる物質です。ビリルビンは肝臓で処理され体の外に出されます。肝臓の機能が低下している場合にはビリルビンが処理されずに体の中に貯まります。

アルブミンはたんぱく質の一種です。アルブミンは肝臓でつくられます。肝臓の機能が低下するとアルブミンをつくる勢いがなくなり体の中のアルブミンが低い値となります。

ICG(アイシージー)はIndocyanine green(インドシアニングリーン)の略です。ICGが注射で体の中に入ると肝臓で代謝されます。正常な肝臓の場合は15分程度でICGは10%以下になります。肝臓の機能が低下している場合はICGを代謝するのに時間がかかります。ICGが代謝される時間で肝臓の機能を推測することができます。ICG15の名称はICGを投与してから15分後に検査をすることを由来としています。

プロトロンビンは血液を固める役割をもつ物質です。プロトロンビンは肝臓でつくられるので肝臓の機能が低下するとプロトロンビンの働き(活性値)が低下します。プロトロンビンは他にも表現の仕方があります。プロトロンビン時間(PT)やPT-INRとして検査結果が表示されることもあります。

分類に使われる基準値を表に示します。

 

肝障害度A

肝障害度B

肝障害度C

腹水

なし

治療効果あり

治療効果少ない

血清ビリルビン(mg/dl)

2.0未満

2.0-3.0

3.0超

血清アルブミン(g/dl)

3.5超

3.0-3.5

3.0未満

ICG15(%)

15未満

15-40

40超

プロトロンビン活性値(%)

80超

50-80

50未満

肝障害度の決め方は5項目について評価をして、2項目以上が該当する分類を肝障害の分類とします。2項目以上該当するものが2つの場合は肝障害度が高い方を採用します。

例えば肝障害度Aに該当するものが4項目、肝障害度Bに該当するものが1項目に該当した場合には肝障害度Aになります。肝障害度Bが3項目、肝障害度Cが2項目の場合は肝障害度はCになります。

Child-Pugh分類は肝臓の機能を検査や症状からA、B、Cの3つに分類したものです。Child-Pugh分類は以下の5つの項目が用いられます。

  • 血清ビリルビン 

  • 血清アルブミン 

  • 腹水 

  • 精神神経症状(昏睡度) 

  • プロトロンビン時間(%)

ビリルビンは赤血球が壊れた後にできる物質です。ビリルビンは肝臓で処理され体の外に出されます。肝臓の機能が低下している場合にはビリルビンが十分処理されずに体の中に溜まります。

アルブミンはたんぱく質の一種です。アルブミンは肝臓でつくられます。肝臓の機能が低下するとアルブミンをつくる勢いがなくなり体の中のアルブミンが低い値となります。

腹水はお腹の中の腹腔というスペースに水が貯まることです。腹水はアルブミンが低くなると溜まります。

肝障害で問題になるアンモニアという物質があります。アンモニアは常に体内で生成されています。アンモニアは肝臓で処理されて尿として体の外にだされます。肝臓の機能が低下するとアンモニアの処理も弱くなります。アンモニアが体の中に溜まると異常な行動をとるようになったり、意識状態が低下したりします。

プロトロンビンは血液を固める役割をもっています。プロトロンビンは肝臓でつくられるので肝臓の機能が低下するとプロトロンビンが低下します。

以下の表は細かな数値になるので次に進んでも理解の差し支えにはなりません。

  1点 2点 3点
血清ビリルビン(mg/dl) 2.0未満 2.0-3.0 3.0超え
血清アルブミン(g/dl) 3.5超 2.8-3.5 2.8 未満
腹水 ない 少量 中等量
精神神経症状(昏睡度) ない 軽度 重症
プロトロンビン活性値(%) 70超 40−70 40未満
  • A:5-6点
  • B:7-9点
  • C:10-15点

以上の5項目にを評価して合計点数が分類になります。例えば7点だった場合Child-Pugh Bとなります。

Child-Pugh分類は抗がん剤のソラフェニブを使おうとする時に重要になります。ソラフェニブが使える肝機能の状態はChild-Pugh Aと考えられています。

肝臓がんは初期には症状がないことが多いです。肝臓がんが進行して大きくなると以下の症状が出る場合があります。

  • 右の肋骨の下の痛み(右季肋部痛) 

  • みぞおちの痛み(心窩部痛) 

また肝臓がんは肝硬変の状態から発生することが多いのでステージとは別に肝硬変の症状が目立つ人もいます。

どのステージでどの症状が出るかは必ずしも対応しません。比較的早くから症状が出る人もいる一方で、かなり進行するまで症状がない人もいます。

理由はがんの進行の仕方には個人差が大きいためです。さらに症状の感じ方に個人差があることも理由のひとつです。

肝臓がんと診断された後に「これからどんな症状が出るのだろう?」と気になると思います。ほんの少しでも症状が出れば「がんが大きくなったからか?」、「がんが転移したからか?」と不安になることもあると思います。不安を一人で抱え込むのは良くはありません。心配なことはまず担当医師に尋ねてみてください。症状に合わせて治療を変えることで、よりよい状態で治療を続けられる場合もあります。

肝臓がんで最も多い転移は肝臓内に転移をすることで、肝内転移といいます。肝臓がんが進行すると門脈という太い血管にがんが入り込みます。門脈の血流にがん細胞が乗って肝臓の中に転移することで肝内肝転移がおきます。

肝臓がんはかなり進行するまでは肝臓の外に転移をすることは少ないと考えられています。転移する場所として多いのは、肺、リンパ節、骨、副腎に多いとされています。

肝臓の外に転移が確認された場合は、肝臓の機能と相談しながら抗がん剤で治療をします。

肝臓がんのステージはステージIからステージIVに大きく分けられます。ステージIVはさらにステージIVaとIVbに分かれます。ステージはT因子(肝臓でのがんの状態)、N因子(リンパ節転移の有無)、M因子(遠隔転移の有無)の3つの組み合わせから決められます。以下が対応した表になります。

ステージ

T因子

N因子

M因子

I

T1

N0

M0

II

T2

N0

M0

III

T3

N0

M0

IVa

T4

T1-4

N0

N1

M0

IVb

T1-4

N0-1

M1

以下ではそれぞれについて解説します。やや専門的な内容も出てきますが、自分に当てはまらないと思う部分は飛ばして読んでも差し支えありません。

TはTumor(腫瘍)の頭文字です。肝臓でのの状態を示しています。原発性肝癌のT因子は以下の5つの項目から決められます。以下はやや専門的な内容になります。

門脈、肝静脈は肝臓の中を走る静脈です。門脈は腸からの血流が肝臓に流れ込むための血管です。肝内胆管は胆汁が流れる胆管のことです。胆汁は肝臓で作られて胆管に流れていきます。胆管は次第に合流を繰り返して十二指腸に流れ込んでいきます。肝臓がんは多発することがあります。多発している方が病気が進行していると考えます。大きさも大きいほど進行していると考えます。

  • 門脈侵襲

    • vp0:門脈侵襲なし 

    • vp1:3次分枝まで侵襲

    • vp2:2次分枝まで侵襲 

    • vp3:1次分枝まで侵襲 

    • vp4:本幹まで侵襲 

  • 肝静脈侵襲

    • vv0:肝静脈に侵襲なし

    • vv1:末梢静脈まで侵襲 

    • vv2:右・中・左肝静脈まで侵襲 

    • vv3:下大静脈まで侵襲  

  • 肝内胆管侵襲 

    • B0:肝内胆管に侵襲なし 

    • B1:3次分枝まで侵襲 

    • B2:2次分枝まで侵襲 

    • B3:1次分枝まで侵襲 

    • B4:総肝管まで侵襲 

  • 個数 

    • 単発 1個 

    • 多発 2個以上 

  • 腫瘍最大径 

    • 2cm以下 

    • 2cmを超える

5つの項目をそれぞれ評価してT因子を決定します。T因子の決定には以下の表を用います。

 

単発

多発

最大径≦2cm

2cm<最大径

最大径≦2cm

2cm<最大径

脈管侵襲なし(vp0、vv0、b0の全てに該当)

T1

T2

T2

T3

脈管侵襲あり(vp1-vp4、vv1-vv3、b1-b4のいずれかに該当)

T2

T3

T3

T4

Nはリンパ節(lymph node)を指すNodeの頭文字です。N因子はリンパ節転移の程度を評価したものです。肝臓の近くのリンパ節を所属リンパ節といいます。ここでのリンパ節転移は所属リンパ節への転移をさします。所属リンパ節以外のリンパ節への転移は遠隔転移に入ります。

がんは時間とともに徐々に大きくなり、リンパ管の壁を破壊し侵入していきます。リンパ管は全身で網の目のようなつながり(リンパ網)を作っています。

リンパ網にはところどころにリンパ節という関所があります。リンパ管に侵入したがん細胞はリンパ節で一時的にせき止められます。がん細胞がリンパ節に定着して増殖している状態がリンパ節転移です。

  • N0:リンパ節転移を認ない

  • N1:リンパ節転移を認める

MはMetastasis(転移)の頭文字です。M因子は遠隔転移を評価します。肝臓から離れた臓器に肝臓がんが転移することを遠隔転移と言います。所属リンパ節転移は遠隔転移とは言いません。「転移」という言葉は、遠隔転移を指し領域リンパ節は除くという意味で使われている場合があります。

  • M0:遠隔転移を認めない

  • M1:遠隔転移を認める

参考:原発性肝癌取扱規約 第6版

肝臓がんの治療法には以下のものがあります。

  • 手術

  • 焼灼療法

  • 塞栓療法

    • TACE(肝動脈化学塞栓療法)

    • TAE(肝動脈塞栓療法)

  • 抗がん剤治療

    • 分子標的薬(ソラフェニブ) 

    • 動注化学療法

  • 肝移植

  • 緩和医療

肝臓がんの治療を決めるにあたってはステージとともに肝臓の機能が重要です。ステージだけでは治療法は定まりません。詳しくは「肝臓がんの治療:手術、焼灼療法、塞栓療法などの選び方」をご覧ください。

ステージIVは肝臓がんのステージ分類では最も進行した段階に当たりますが、ステージIVだからといって「末期がん」とは限りません。

実は、「末期がん」には厳密な定義はありません。ステージIVと診断がされた場合、「末期がん」を思い浮かべてしまうかもしれません。しかしながらそれは正確とは言えません。

肝臓がんにおけるステージIVとは以下の場合です。肝臓がんにはステージIVにはIVAとIVBの2つがあります。

  • ステージIVA:以下の条件のいずれか一つでも満たすもの

    • がんが2cmより大きく多発しており脈管侵襲もある

    • 所属リンパ節に転移がある

  • ステージIVB:肝臓から離れた場所に転移がある

いずれかに該当するのがステージIVです。

ステージIVでも残された治療は多くあります。肝臓の機能が手術に耐えられると判断された場合はステージIVでも手術の対象になることがあります。

ステージIVの5年生存率は5%未満であり、ほかのステージに比べると厳しいのは否定できません。ステージIVと言われるだけで大きな衝撃を受けるとは思います。しかし大事なのはイメージや数値にとらわれることではなく自身の状況を正面からみつめて日々の生活を大事にしていくことです。ステージIVでも治療法がないわけではなく、一部ですがステージIVから長期生存する人もいます。ステージIVは必ずしも末期がんを意味しません。

では「末期がん」はどんな状態でしょうか。

最初に述べましたが末期がんには定義がありません。一般的なイメージをふまえて考えてみることにします。末期というと余命がかなり限られていることが明らかな状態だと考えられます。そこで、ここで言う「末期」は抗がん剤による治療も行えない場合、もしくは抗がん剤などの治療が効果を失っている状態で、日常生活をベッド上で過ごすような状況を指すことにします。

肝臓がんの末期は、すでにいくつかの臓器に転移があったり肝臓の機能がかなり低下している段階です。肝臓がんは肺、骨などに転移し、体に影響を及ぼします。このような状況では、以下のような症状が目立つ悪液質(カヘキシア)と呼ばれる状態が引き起こされます。

  • 常に倦怠感につきまとわれる

  • 食欲がなくなり、食べたとしても体重が減っていく

  • 身体のむくみがひどくなる

  • 意識がうとうとする

悪液質は身体の栄養ががんに奪われ、点滴で栄養を補給しても身体がうまく利用できない状態です。気持ちの面でも、思うようにならない身体に対して不安が強くなり、苦痛が増強します。

末期の症状は抗がん剤などでなくすことができません。緩和医療で症状を和らげることが重要です。また不安を少しでも取り除くために、できるだけ過ごしやすい環境を作ることも大事です。

【参考文献】

がんの統計2021

第22回全国原発性肝癌追跡調査報告

原発性肝癌取扱規約 第6版