肝臓がん(肝細胞がん)のステージ:ステージ分類や転移について
肝臓がんの
目次
1. 肝臓がんの種類
肝臓がんのステージについて考える前に、肝臓がんの種類について知っておく必要があります。肝臓から発生する
このページでは主に肝細胞がんについて解説しますが、まずは以下で肝細胞がんと肝内胆管がんの違いについて説明します。
肝細胞がん
肝臓には肝細胞という細胞があります。肝細胞はたんぱく質の合成、炭水化物・脂質の
肝内胆管がん
肝臓には
2. ステージの決め方
肝臓がんのステージはステージ1からステージ4に大きく分けられます。ステージ4はさらにステージ4aと4bに分かれます。ステージはT因子、N因子、M因子の3つの組み合わせから決められます。
- T因子:肝臓内でのがんの大きさや広がり
- 肝臓のがんがどの程度大きいか、周囲の血管や組織にどれくらい広がっているかを示します。
- N因子:
リンパ節転移 - がんが肝臓近くの
リンパ節 に転移 しているかどうかを示します。
- がんが肝臓近くの
- M因子:
遠隔転移 - がんが肝臓以外の臓器に転移しているかどうかを示します。
以下が対応した表になります。
| ステージ | T因子 | N因子 | M因子 |
| I(1) | T1 | N0 | M0 |
| II(2) | T2 | N0 | M0 |
| III(3) | T3 | N0 | M0 |
| IVa(4a) | T4 T1-4 |
N0 N1 |
M0 |
| IVb(4b) | T1-4 | N0-1 | M1 |
以下では、それぞれについて解説します。やや専門的な内容も出てきますので読み飛ばしても差し支えありません。
T因子
TはTumor(
- ①門脈にどの程度入り込んでいるか(門脈侵襲)
- ②肝静脈にどの程度入り込んでいるか(肝静脈侵襲)
- ③肝内胆管にどの程度入り込んでいるか(肝内胆管侵襲)
- ④腫瘍の個数:単発(1個)か、多発(2個以上)か
- ⑤腫瘍最大径:2cm以下か、2cmより大きいか
門脈、肝静脈は肝臓の中を走る血管です。門脈は腸からの血流が肝臓に流れ込むための重要な血管です。胆汁は肝臓で作られて胆管に流れていきます。肝内胆管は肝臓の中で枝分かれしている胆管のことで、肝内胆管は合流を繰り返して1本の総胆管となり十二指腸に流れ込んでいきます。
肝臓がんは多発することがあります。多発しているほうが病気が進行していると考えます。大きさも大きいほど進行していると考えます。
これらの項目を総合してT1からT4の4つに分類します。
T因子の決定には以下の表を用います。
| 腫瘍が1個(単発) | 腫瘍が2個以上 (多発) | |||
| 最大径が2cm以下 | 最大径が2cmより大きい | 最大径が2cm以下 | 最大径が2cmより大きい | |
| 脈管(門脈、肝静脈、肝内胆管)への侵襲なし | T1 | T2 | T2 | T3 |
| 脈管(門脈、肝静脈、肝内胆管のいずれか)への侵襲あり | T2 | T3 | T3 | T4 |
T1-T4のうち数字が大きいほど進行していることを示します。
N因子
Nはリンパ節(lymph node)を指すNodeの頭文字です。N因子はリンパ節転移の程度を評価したものです。肝臓の近くのリンパ節を所属リンパ節といいます。ここでのリンパ節転移は所属リンパ節への転移をさします。所属リンパ節以外のリンパ節への転移は遠隔転移に入ります。
がんは時間とともに徐々に大きくなり、リンパ管の壁を破壊し侵入していきます。リンパ管は全身で網の目のようなつながり(リンパ網)を作っています。
リンパ網には、ところどころにリンパ節という関所があります。リンパ管に侵入したがん細胞はリンパ節で一時的にせき止められます。がん細胞がリンパ節に定着して増殖している状態がリンパ節転移です。
- N0:リンパ節転移がみあたらない
- N1:リンパ節転移がある
M因子
MはMetastasis(転移)の頭文字です。M因子は遠隔転移を評価します。
- M0:遠隔転移がみあたらない
- M1:遠隔転移がある
遠隔転移とは、肝臓から離れた臓器に肝臓がんが転移することです。所属リンパ節への転移は遠隔転移とは言いません。「転移」という言葉は「遠隔転移」を指し、領域リンパ節は除くという意味で使われている場合があります。
参考文献:日本肝癌研究会, 原発性肝癌取扱規約 第6版, 金原出版, 2019
3. ステージごとの治療方針
肝臓がんの治療法には以下のものがあります。
- 手術
- 焼灼療法
塞栓 療法- TACE(肝動脈化学塞栓療法)
- TAE(肝動脈塞栓療法)
抗がん剤治療 - 分子標的薬(ソラフェニブ)
- 動注
化学療法
- 肝移植
- 緩和医療
肝臓がんの治療を決めるにあたってはステージとともに肝臓の機能が重要です。ステージだけでは治療法は定まりません。詳しくは「肝臓がんの治療」をご覧ください。
4. ステージと同じくらい大事な肝臓機能:肝障害度とChild-Pugh分類
肝臓がんの治療はステージとともに「肝臓の機能」が重要になります。ステージが進んでいなくても、肝臓の機能が低下していて治療に耐えられない、と判断される場合もあります。肝臓は生きていくうえでなくてはならない臓器の一つです。治療をした結果、肝臓の機能が低下して命に危険をおよぼすことは避けなければなりません。
肝臓の機能を評価する方法に、「肝障害度」と「Child-Pugh分類」の2つがあります。どちらも肝臓の機能を見ていますが、少し調べる項目が異なります。手術が適しているかを判断する場合には肝障害度を用い、焼灼療法や塞栓療法などが適しているかを判断する場合にはChild-Pugh分類を用いることが多いです。肝臓の機能を調べて治療方針を定めます。
肝障害度
肝障害度は肝臓の機能を検査や症状からA、B,Cの3つに分類したものです。肝障害度には以下の5つの項目が用いられます。
腹水 - 血清
ビリルビン - 血清アルブミン
- ICG15
- プロトロンビン活性値
腹水とはお腹の中の腹腔(ふくくう)という場所にたまった水のことです。肝臓の機能が悪くなくても少量の腹水はありますが、肝臓の機能が低下すると腹水が多くなりお腹が張った感じなどの症状がでます。
ビリルビンは
アルブミンはたんぱく質の一種です。アルブミンは肝臓でつくられます。肝臓の機能が低下するとアルブミンをつくる勢いがなくなり体の中のアルブミンが低い値となります。
ICG(アイシージー)はIndocyanine green(インドシアニングリーン)の略です。ICGを注射で体内に入れると肝臓はこれを代謝します。正常な肝臓の場合は15分程度でICGは10%以下になりますが、機能が低下している場合は時間がかかります。ICGが代謝される時間で肝臓の機能を推測することができます。ICG15の名称はICGを投与してから15分後に検査をすることに由来しています。
プロトロンビンは血液を固める役割をもつ物質です。プロトロンビンは肝臓でつくられるので、肝臓の機能が低下するとプロトロンビンの働き(活性値)が低下します。プロトロンビンは他にも表現の仕方があります。プロトロンビン時間(PT)やPT-INRとして検査結果が表示されることもあります。
分類に使われる基準値を表に示します。
| 肝障害度A | 肝障害度B | 肝障害度C | |
| 腹水 | なし | 治療効果あり | 治療効果少ない |
| 血清ビリルビン(mg/dL) | 2.0未満 | 2.0-3.0 | 3.0超 |
| 血清アルブミン(g/dL) | 3.5超 | 3.0-3.5 | 3.0未満 |
| ICG15(%) | 15未満 | 15-40 | 40超 |
| プロトロンビン活性値(%) | 80超 | 50-80 | 50未満 |
肝障害度では、5項目を評価をして、2項目以上が該当する分類を肝障害の分類とします。2項目以上該当するものが2つの場合は肝障害度が高いほうを採用します。
例えば肝障害度Aに該当するものが4項目、肝障害度Bに該当するものが1項目に該当した場合には肝障害度Aになります。肝障害度Bが3項目、肝障害度Cが2項目の場合は肝障害度はCになります。
Child-Pugh(チャイルドピュー)分類
Child-Pugh分類は肝臓の機能を検査や症状からA、B、Cの3つに分類したものです。Child-Pugh分類は以下の5つの項目が用いられます。
- 血清ビリルビン
- 血清アルブミン
- 腹水
- 精神神経症状(
昏睡 度) - プロトロンビン時間(%)
ビリルビンは赤血球が壊れた後にできる物質です。ビリルビンは肝臓で処理され体の外に出されます。肝臓の機能が低下している場合にはビリルビンが十分処理されずに体の中に溜まります。
アルブミンはたんぱく質の一種です。アルブミンは肝臓でつくられます。肝臓の機能が低下するとアルブミンをつくる勢いがなくなり体の中のアルブミンが低い値となります。
腹水はお腹の中の腹腔というスペースに水が貯まることです。腹水はアルブミンが低くなると溜まります。
肝障害で問題になるアンモニアという物質があります。アンモニアは常に体内で生成されています。アンモニアは肝臓で処理されて尿として体の外にだされます。肝臓の機能が低下するとアンモニアの処理も弱くなります。アンモニアが体の中に溜まると異常な行動をとるようになったり、意識状態が低下したりします。
プロトロンビンは血液を固める役割をもっています。プロトロンビンは肝臓でつくられるので肝臓の機能が低下するとプロトロンビンが低下します。
以下の表は細かな数値になるので次に進んでも理解の差し支えにはなりません。
| 1点 | 2点 | 3点 | |
| 血清ビリルビン(mg/dL) | 2.0未満 | 2.0-3.0 | 3.0超え |
| 血清アルブミン(g/dL) | 3.5超 | 2.8-3.5 | 2.8 未満 |
| 腹水 | ない | 少量 | 中等量 |
| 精神神経症状(昏睡度) | ない | 軽度 | 重症 |
| プロトロンビン活性値(%) | 70超 | 40−70 | 40未満 |
- A:5-6点
- B:7-9点
- C:10-15点
以上の5項目を評価して合計点数が分類になります。例えば7点だった場合Child-Pugh Bとなります。
Child-Pugh分類は
参考文献:日本肝癌研究会/編, 臨床・病理 原発性肝癌取扱い規約 第6版補訂版, 金原出版, 2019
5. ステージと症状の関係
肝臓がんは初期には症状がないことが多いです。肝臓がんが進行して大きくなると以下の症状が出る場合があります。
- 右の肋骨の下の痛み(右季肋部痛)
- みぞおちの痛み(心窩部痛)
また、肝臓がんは肝硬変の状態から発生することが多いのでステージとは別に肝硬変の症状が目立つ人もいます。
どのステージでどの症状が出るかは必ずしも対応しません。比較的早くから症状が出る人もいる一方で、かなり進行するまで症状がない人もいます。
理由はがんの進行の仕方には個人差が大きいためです。さらに症状の感じ方に個人差があることも理由のひとつです。
肝臓がんと診断されると「これからどんな症状が出るのだろう?」と気になると思います。ほんの少しでも症状が出れば「がんが大きくなったからか?」、「がんが転移したからか?」と不安になることもあると思います。不安を一人で抱え込むのは良くはありません。心配なことはまず担当医師に尋ねてみてください。症状に合わせて治療を変えることで、よりよい状態で治療を続けられる場合もあります。
6. 肝臓がんの転移
肝臓がんで最も多い転移は肝臓内に転移をすることです。これを肝内転移といいます。肝臓がんが進行すると、門脈という太い血管にがんが入り込みます。門脈の血流にがん細胞が乗って肝臓の中に転移することで肝内肝転移がおきます。
肝臓がんはかなり進行するまでは肝臓の外に転移をすることは少ないと考えられています。転移する場所として多いのは、肺、リンパ節、骨、副腎に多いとされています。
肝臓の外に転移が確認された場合は、肝臓の機能と相談しながら抗がん剤で治療をします。
7. ステージ4は「末期がん」なのか
ステージ4は肝臓がんのステージ分類では最も進行した段階に当たります。しかし、ステージ4だからといって「末期がん」とは限りません。
実は、「末期がん」には厳密な定義はありません。ステージ4と診断がされた場合、「末期がん」を思い浮かべてしまうかもしれません。しかしながらそれは正確とは言えません。
肝臓がんにおけるステージ4とは以下の場合です。
- ステージ4A:以下の条件のいずれか一つでも満たすもの
- がんが2cmより大きく多発しており脈管侵襲もある
- 所属リンパ節に転移がある
- ステージ4B:肝臓から離れた場所に転移がある
一口にステージ4といっても幅のあるものですし、個々の肝臓の機能や全身の状態によっても大きく状況は異なってきます。
ステージ4では手術できないのか
ステージ4でも残された治療は多くあります。肝臓の機能が手術に耐えられると判断された場合はステージ4でも手術の対象になることがあります。
末期がんの状態とは
では「末期がん」はどんな状態でしょうか。
最初に述べましたが、末期がんには医学的な定義がありません。そのため、ここでは一般的なイメージをふまえて考えてみることにします。
末期というと、余命がかなり限られていることが明らかな状態だ、と考えられます。そこで、ここで言う「末期」は抗がん剤による治療も行えない場合、もしくは抗がん剤などの治療が効果を失っている状態で、日常生活をベッド上で過ごすような状況を指すことにします。
肝臓がんの末期は、すでにいくつかの臓器に転移があったり肝臓の機能がかなり低下している段階です。肝臓がんは肺、骨などに転移し、体に影響を及ぼします。このような状況では、以下のような症状が目立つ悪液質(カヘキシア)と呼ばれる状態が引き起こされます。
- 常に
倦怠感 につきまとわれる - 食欲がなくなり、食べたとしても体重が減っていく
- 身体の
むくみ がひどくなる - 意識がうとうとする
悪液質は身体の栄養ががんに奪われ、点滴で栄養を補給しても身体がうまく利用できない状態です。気持ちの面でも、思うようにならない身体に対して不安が強くなり、苦痛が増強します。
末期の症状は抗がん剤などでなくすことができません。緩和医療で症状を和らげることが重要です。また不安を少しでも取り除くために、できるだけ過ごしやすい環境を作ることも大事です。
【参考文献】
- 国立研究開発法人国立がん研究センター「がんの統計2021」(2025.5.23閲覧)
- 日本肝癌研究会追跡調査委員会, 第22回全国原発性肝癌追跡調査報告
- 日本肝癌研究会, 原発性肝癌取扱規約 第6版, 金原出版, 2019