こうなとりうむけっしょう
高ナトリウム血症
血液中のナトリウム濃度が上昇した状態。喉の渇きや興奮状態、痙攣を引き起こす
5人の医師がチェック 50回の改訂 最終更新: 2021.12.28

高ナトリウム血症の原因:脱水、尿崩症など

高ナトリウム血症の原因は様々なものがあり、体内のナトリウム量が多い場合と水分量が少ない場合に分けて考えることができます。また薬の副作用で高ナトリウム血症が起こることもあり内服薬の確認も必要です。

1. 高ナトリウム血症はなぜ起きるのか:メカニズムによる分類

高ナトリウム血症は血液中のナトリウム濃度が高い状態です。高ナトリウム血症の原因を考える上で、身体のナトリウムの量と水分の量で考えると分かりやすいです。高ナトリウム血症は通常よりナトリウム量が水分の量と比較し多い状態と言えます。この状態は言い換えると次の2通りに分けられます。

  • 身体の中のナトリウムの量が多い(水分量は正常な状態とあまり変わらない)
  • 身体の中の水分量が少ない(ナトリウムの量は正常な状態とあまり変わらない)

高ナトリウム血症をこのように分類することは治療を考える上でも非常に重要です。例えば、身体の中のナトリウムの量が多い場合には、ナトリウムの摂取を制限したり、ナトリウムを身体の外に出す薬を使ったりします。

それに対し、身体の中の水分量が減っていることで高ナトリウム血症になっている場合は、水分を補充する必要があります。

また、もう一つ大事な考え方に高ナトリウム血症が薬によって引き起こされているかということがあります。薬の種類によって、ナトリウムの量が多くなる場合も、水分量が少なくなる場合もありますが、薬が原因の場合には原因となっている薬を中断するだけで良くなる可能性があることから分けて考えます。

それぞれの分類に対応する原因の例として以下のものがあります。

  • 身体の中のナトリウムの量が多い
  • 身体の中の水分量が少ない
    • 水分補給不足による脱水
    • 下痢
    • 火傷(やけど
    • 尿崩症(にょうほうしょう)
    • 糖尿病による高浸透圧高血糖症候群
  • 薬剤が影響している
    • 浸透圧利尿薬
    • バソプレシン受容体拮抗薬
    • 甘草を含む漢方薬

詳しくは以下で説明していきます。

2. 身体の中のナトリウムが多いことが原因の場合

身体の中のナトリウムが多い場合、高ナトリウム血症になります。具体的には以下のような状況が考えられます。

詳しくは以下で説明していきます。説明が難しい病気もありますので、当てはまらないと思ったところは読み飛ばして頂いても構いません。

ナトリウムの入った点滴の過剰

ナトリウムの入った点滴の量が多い場合、高ナトリウム血症が起こることがあります。この点滴が原因で起こる高ナトリウム血症は寝たきりの人や、集中治療室で意識がない人に起こることが多いです。これには二つの理由があります。

一つ目は寝たきりの人や集中治療室にいる人は全身状態がよくないことが多く、ホルモンバランスや内臓の機能が通常と異なるためです。身体の中にはナトリウムの量を調整するホルモンがたくさんあり、またそのホルモンが腎臓などの内臓に働きかけることで、ナトリウムの濃度を調整するようになっています。しかし、全身状態が悪い人ではこのバランスが崩れてしまい、健康な人では高ナトリウム血症を起こさないような量のナトリウム入りの点滴でも高ナトリウム血症を起こしてしまうことがあります。

二つ目は意識がないために、のどがかわいていると感じても水を飲むことができないためです。健康な人では血液中のナトリウム濃度が上がると強いのどのかわきを自覚します。そのため、健康な人が食事で塩分をとりすぎても、のどのかわきを感じてたくさん水を飲むために高ナトリウム血症は起こりません。しかしながら、意識がない人ではナトリウムの濃度が上がった時に、水を飲むことができないために、血液を薄めることができません。

そのため、寝たきりの人や、集中治療室で意識がない人でナトリウム入りの点滴をする場合には、定期的な血液検査をしながら、高ナトリウム血症に注意をする必要があります。

原発性アルドステロン症

原発性アルドステロン症は高血圧や浮腫むくみ)、疲れやすさ、脱力などの原因になる病気で、稀ですが高ナトリウム血症の原因になることがあります。

アルドステロンは腎臓の上にある副腎という小さな臓器で作られるホルモンで、ナトリウムの値を上げる作用があります。原発性アルドステロン症は副腎でアルドステロンが大量に作られる病気で、高ナトリウム血症の原因になると考えられています。またアルドステロンにはカリウムという物質を体外に排出する作用もあります。原発性アルドステロン症で見られる疲れやすさ、脱力といった症状はカリウムが減ることによるものと考えられています。

原発性アルドステロン症に対する根治療法は、アルドステロンを大量に作っている副腎を手術で取り除くことです。アルドステロンは身体のナトリウムの濃度を調整するために必要なホルモンの一つですが、副腎は左右2箇所に存在するため、片方の異常な副腎を取り除いても、残った正常な副腎が役割を果たすことができます。

しかし、原発性アルドステロン症の中には左右両方の副腎がアルドステロンを大量に作っている場合があります。このような場合には片方の副腎を取り除いても根治療法にはならないので、アルドステロン拮抗薬を使います。アルドステロン拮抗薬については「治療の章」で説明しています。

クッシング症候群

クッシング症候群は以下のような症状があらわれる病気です。

  • 顔やお腹に脂肪がつく(中心性肥満
  • 妊娠線のような線がお腹にできる
  • 皮膚が薄くなる
  • ニキビができやすくなる
  • 体毛が増える
  • 筋力が衰える
  • 生理が止まる(女性の場合)
  • 気分が落ち込む
  • 血圧が高くなる
  • 血糖値が高くなる

クッシング症候群副腎皮質ホルモンという副腎で作られるホルモンが過剰に分泌されることで起こります。副腎皮質ホルモンはナトリウムの値を上げる作用があるため、クッシング症候群では高ナトリウム血症が起こります。

クッシング症候群の原因、すなわち副腎皮質ホルモンが過剰に分泌されることの原因は、副腎であることもあれば、副腎以外の場所のこともあります。というのも、身体の中には副腎に副腎皮質ホルモンを作るように司令を出すホルモンがあり、この司令を出すホルモンがたくさん作られた場合にもクッシング症候群を起こすためです。副腎皮質ホルモンを作るように司令を出すホルモンは副腎皮質刺激ホルモンACTH)と呼ばれ、通常は脳の下垂体と呼ばれる場所で作られます。また時に、がんが副腎皮質刺激ホルモンを作ることがあり、これもクッシング症候群の原因になります(異所性ACTH産生腫瘍と呼びます)。

クッシング症候群の根治療法はクッシング症候群を引き起こしている場所を手術で取り除くことです。例えば、副腎がおかしくなり、副腎皮質ホルモンを大量に作っている場合には、副腎自体を取り除きます。一方で、下垂体から副腎皮質刺激ホルモンが大量に出ていることが原因でクッシング症候群が起きている場合は下垂体の手術をします。

ただし、クッシング症候群の中には手術ができないような場合もあり、このような時には副腎皮質ホルモン合成阻害薬を使います。副腎皮質ホルモン合成阻害薬については「治療の章」で説明しています。

3. 身体の中の水分が少ないことが原因の場合

身体の中の水分量が少ない場合、ナトリウム量が正常でも高ナトリウム血症になります。具体的には以下のような状況が考えられます。

  • 水分補給不足による脱水
  • 下痢
  • 火傷(やけど
  • 尿崩症(にょうほうしょう)
  • 糖尿病による高浸透圧高血糖症候群

詳しくは以下で説明していきます。説明が難しい病気もありますので、当てはまらないと思ったところは読み飛ばして頂いても構いません。

水分補給不足による脱水

脱水は高ナトリウム血症の代表的な原因の一つです。特にお年寄りや赤ちゃんは脱水を起こしやすく注意が必要です。通常、脱水になると、のどの渇きを感じるので、水を飲めば脱水の悪化を防げます。しかしながらお年寄りや赤ちゃんでは、のどの渇きを訴えることが難しかったりや自分で水分補給ができなかったりするので、脱水を起こしやすくなります。

脱水による高ナトリウム血症を防ぐ上では、のどが渇いたら水分摂取をするといったことが大事になります。お年寄りや赤ちゃんが近くにいる場合には、次のような様子に気を付けてください。

  • 極端に水分摂取が減っていないか
  • 口の中が渇いていないか
  • 尿量が減っていないか

のどが渇いていそうな様子を観察しながら、適切に水分摂取を促すことが大事です。

嘔吐・下痢

嘔吐や下痢で身体の中の水分を失うことも高ナトリウム血症の原因になることがあります。そのため、嘔吐や下痢を繰り返している場合には、水分摂取を心がける必要があります。

ただしこのような場合には一度に大量の水分を摂取すると、嘔吐や下痢の症状が悪化することもあるので、少しずつ水分摂取することが大事です。また、嘔吐の症状がひどい場合には水分摂取ができないこともあるかもしれません。水分摂取ができないほど嘔吐がひどい時は注意が必要で、点滴で水分を補充しなければならない場合もあるので、病院を受診するようにしてください。

火傷(やけど)

やけども高ナトリウム血症の原因になることがあります。これはみずぶくれのような形で水分を失うためです。しかし、通常、小さな範囲のやけどで高ナトリウム血症まで至ることはほとんどなく、高ナトリウム血症が起こるやけどはかなり重症のものだけです。重症なやけどを起こした場合には、高ナトリウム血症にならないよう注意しながら治療する必要があります。

尿崩症(にょうほうしょう)

尿崩症とは1日に5-10L近くの尿が出るような状態です。尿により大量の水分を失うことが高ナトリウム血症の原因になります。

尿崩症は抗利尿ホルモンと密接に関わる病気です。抗利尿ホルモンは脳で作られるホルモンで、腎臓に働きかけることで尿の水分を血液中に吸収させる作用があります。脱水になると抗利尿ホルモンが分泌されることで血液中の水分が増えるようなしくみになっています。尿崩症は抗利尿ホルモンが作られなくなったり、腎臓での効きが悪くなったりすることで起こります。抗利尿ホルモンが作られなくなることで起こる尿崩症を中枢性尿崩症、腎臓での効きが悪くなることで起こる尿崩症を腎性尿崩症と呼びます。

治療としては中枢性尿崩症では不足した抗利尿ホルモンを補うことを目的としてデスモプレシン製剤という薬を使った治療をします。腎性尿崩症ではサイアザイド系利尿薬を使うことがあります。デスモプレシン製剤やサイアザイド系利尿薬については「治療の章」で説明します。

糖尿病による高浸透圧高血糖症候群

糖尿病でも高ナトリウム血症を起こすことがあります。糖尿病では血液中の糖の値が上がることで尿から糖が漏れr出ることがありますが、尿が糖で濃くなる(浸透圧が上がる)と尿を薄めるように身体の水分が出ていきます。そのため、糖尿病になると尿から身体の水分を失ってしまいます。

時に尿から失う水分量が多いと、脱水、高ナトリウム血症、極度な血糖値上昇が起こることがあります。この状態を高浸透圧高血糖症候群(こうしんとうあつせいこうけっとうしょうこうぐん)と呼びます。高浸透圧高血糖症候群では強いのどの渇きや多尿の症状が現れるほか、ひどい場合は錯乱状態になったり、意識がもうろうとしたりします。高浸透圧高血糖症候群は糖尿病の中でも命に関わる危険な状態です。糖尿病の人で強いのどの渇きを感じた場合や意識がもうろうとする場合にはすぐに病院を受診するようにしてください。

4. 薬の副作用が原因の場合

高ナトリウム血症は薬の副作用で起こることがあります。薬の中には脱水の原因になるものや、ナトリウムの値を上げるホルモンと似た作用を持つものがあります。ここでは以下の薬について説明します。

  • 浸透圧利尿薬
    • マンニトール(商品名:マンニットールなど)
    • グリセリン製剤(商品名:グリセオ-ル®など)
  • バソプレシン受容体拮抗薬
    • モザバプタン(商品名:フィズリン®)
    • トルバプタン(商品名:サムスカ®)
  • 漢方薬(主に甘草を含む漢方薬)

これらの薬剤で高ナトリウム血症が起きている場合には、薬を中止することで高ナトリウム血症の改善が見込めます。ただし、もともとの病気の関係上、薬を中止できない場合もありますので、対応については担当の医師との相談が必要となります。それぞれの薬の作用について以下で詳しく説明していきます。

浸透圧利尿薬

マンニトール(D-マンニトール)やグリセリン製剤などは浸透圧利尿薬と呼ばれる薬です。浸透圧とは液体の濃さを指す考え方ですが、濃度の高い液体は水分を引き寄せる力があり、浸透圧利尿薬はこの水分を引き寄せる作用を利用して尿の量を増やす作用(利尿作用)を発揮します。

マンニトールは体内でほとんど代謝されずに腎臓の中(尿細管の管腔内)まで移行し利尿作用をあらわす薬で主に急性腎不全や脳圧亢進による脳浮腫の治療などに使われます。

グリセリン(グリセロール)は脳圧降下作用などをあらわし、頭蓋内圧の亢進に対する脳浮腫や脳代謝の改善、脳血流量の増加作用などが期待できる薬です。グリセオール®はグリセリンに果糖などを加えた製剤で脳浮腫などの脳領域の治療の他、眼圧降下作用を利用して緑内障などの眼領域の治療などに使われる場合もあります。

浸透圧利尿薬によって尿の浸透圧が高くなると、尿を薄めるように身体の水分が出ていきます。この時、尿から失われる水分量が多いと高ナトリウム血症の原因になることがあります。

バソプレシン受容体拮抗薬

モザバプタン(商品名:フィズリン®)やトルバプタン(商品名:サムスカ®)は抗利尿ホルモン分泌異常症(抗利尿ホルモンが過剰に分泌される病気)に対して使われる薬剤です。トルバプタンは心不全肝硬変による身体のむくみをとるためにも使います。

モザバプタンやトルバプタンは抗利尿ホルモンであるバソプレシンの作用を阻害することで利尿作用を発揮します。言い換えると、これらの薬はバソプレシンの作用を阻害した結果、尿崩症のような状態を作り出しています。そのため、副作用として時に高ナトリウム血症を起こしてしまうことがあります。

抗利尿ホルモン分泌異常症や心不全肝硬変などの治療でモザバプタンやトルバプタンを服用中に強いのどのかわきや意識がもうろうとする症状などがみられた場合、高ナトリウム血症を起こしている可能性があるため、担当の医師や薬剤師に相談するなど適切に対処することが大切です。

漢方薬(主に甘草を含む漢方薬)

一般的に安全性が高いとされる漢方薬も「薬」の一つですので、副作用がおこる可能性はあります。

漢方薬(漢方方剤)は自然由来の生薬成分から構成されている薬ですが、生薬のひとつである甘草(カンゾウ)が高ナトリウム血症の原因となることがあります。

ここでは甘草が高ナトリウム血症を起こす仕組みを少し詳しくみていきます。

甘草には腎臓の尿細管などに存在する11β-HSD-2(11β-hydroxysteroid dehydrogenase type2)という酵素の活性を抑える作用をあらわします。

この11β-HSD-2はホルモンの一つであるコルチゾールをコルチゾンへと変換させる酵素です。そのため、この酵素の活性を甘草が抑えるとコルチゾールが増加する傾向になります。増加したコルチゾールはアルドステロンと似た効果を示すことがあり、高ナトリウム血症の原因となります。甘草による高ナトリウム血症では他にも高血圧や浮腫、疲れやすさ、脱力などの症状があらわれます。これらの症状はアルドステロン過剰分泌が原因の病気である原発性アルドステロン症と似ており、「偽アルドステロン症(偽性アルドステロン症)」と呼ばれています。

マメ科のカンゾウ属植物を由来とする甘草は鎮痛・鎮痙作用など多様な効果が期待でき、漢方方剤の約7割に含まれる生薬成分です。漢方方剤の中でも甘草の含有量が比較的多いものに甘草湯(カンゾウトウ)や芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)、甘麦大棗湯(カンバクタイソウトウ)などがあります。

他にもグリチロン®配合錠などの医薬品にも甘草と似た成分(グリチルリチン酸)が含まれており、偽アルドステロン症の原因になることがあります。甘草やグリチルリチン酸を含む薬による治療中に血圧上昇、浮腫、脱力感、筋力低下がみられた場合は、偽アルドステロン症の可能性があるため、医師や薬剤師に相談するなど適切に対処することが大切です。