こうなとりうむけっしょう
高ナトリウム血症
血液中のナトリウム濃度が上昇した状態。喉の渇きや興奮状態、痙攣を引き起こす
5人の医師がチェック 51回の改訂 最終更新: 2025.10.04

高ナトリウム血症の治療:水分補給や利尿剤など

高ナトリウム血症は原因に応じてその治療法が異なります。高ナトリウム血症では体の水分量が少なければ水分補給を、ナトリウムの量が多ければナトリウムを減らす治療を行います。

1. 高ナトリウム血症の治療の考え方

高ナトリウム血症は様々なことが原因で起こります。治療を考える時には高ナトリウム血症の原因が水分量が少ないことで起こっているか、ナトリウム量が多いことで起こっているか、ホルモンの異常や薬剤が原因となっていないかを考えます。

ここでは高ナトリウム血症を以下のように分類します。

原因の分類 異常の内容 病気や状況の例
ホルモンの異常や薬剤以外 身体の中の水分量が少ない
  • 水分補給不足による脱水
  • 下痢
  • 重度な火傷(やけど
  • 糖尿病による高浸透圧高血糖症候群
身体の中のナトリウムの量が多い
  • ナトリウムの入った点滴の過剰投与

ホルモンの異常

身体の水分を増やすホルモンが不足しているか、効きが悪い
身体のナトリウムを増やすホルモンの量が多い
薬剤 (薬剤によって異なる)
  • 浸透圧利尿薬
  • バソプレシン受容体拮抗薬
  • 甘草を含む漢方薬

以下で原因に対応した治療法を詳しく説明していきます。

2. ホルモンの異常や薬剤以外が原因の場合の治療法

ホルモンの異常以外が原因の場合には、高ナトリウム血症の原因が水分量が少ないことなのか、それともナトリウム量が多いことなのかにより治療法が異なります。それぞれに当てはまる状況として以下のものがあります。

  • 身体の中の水分量が少ない
    • 脱水
    • 下痢
    • 重度な火傷(やけど
    • 糖尿病による高浸透圧高血糖症候群
  • 身体の中のナトリウム量が多い
    • ナトリウムの入った点滴の過剰投与

以下でそれぞれの場合の治療を詳しく説明していきます。

身体の中の水分量が少ない時

ホルモンの異常が関係なく、身体の中の水分量が少ないために高ナトリウム血症が起きている場合には、口から水分を補充したり点滴投与を行ったりすることで治療します。

もし、のどのかわきがあったり下痢を繰り返したりしている時は、脱水による高ナトリウム血症が起こりやすい状況なので、口からの水分補充を心がけていると高ナトリウム血症を防ぐことができます。

糖尿病により起こる高浸透圧高血糖症候群では水分補充に加え、入院してインスリンの投与など糖尿病に対する治療が必要になります。

身体の中のナトリウム量が多い時

身体の中のナトリウム量が多くなることで起こる高ナトリウム血症は、寝たきりの人や集中治療室で意識がない人などにナトリウムの入った点滴を投与することで起こることが多いです。これは、寝たきりの人や集中治療室で意識がない人は、ホルモンのバランスが乱れていたり、のどの渇きなどを訴えることができないため、ナトリウムの濃度の調整が難しいためです。

点滴投与により高ナトリウム血症になってしまった場合には、点滴をナトリウムの量が少ないものに替えることで血中ナトリウム濃度の正常化を目指します。点滴のナトリウムを減らしても十分に良くならない場合や、重症の高ナトリウム血症で急いで治療をする必要がある場合にはフロセミドなどのループ利尿薬を使うことがあります。

■ループ利尿薬

ループ利尿薬の「ループ」は、腎臓の「ヘンレループ」と呼ばれる部分でナトリウムや水分などの吸収を抑えることに由来します。ループ利尿薬の代表的なものにフロセミド(主な商品名:ラシックス®)があります。フロセミドは内服のものと注射のものがあり、治療が外来・入院どちらで行われるか、他にも緊急性などを踏まえて、剤形選択が行われます。

ループ利尿薬で注意すべき副作用としては低ナトリウム血症低カリウム血症などの電解質異常があります。後で詳しく述べますが、高ナトリウム血症ではナトリウムの値を下げるスピードが重要になってくるので、ループ利尿薬を使う時はナトリウムの値が急速に下がらないように注意が必要です。他にも血小板減少などの血液障害、血圧低下、めまいや頭痛、耳鳴り、頻尿、腎障害、肝機能障害などの副作用が出る場合があります。

3. ホルモンの異常が原因の場合の治療法

ホルモンの異常で起こる高ナトリウム血症は、異常になっているホルモンの種類に応じて以下のように分類して考えます。

それぞれの原因に対する治療について以下で詳しく説明していきます。

身体の水分を増やすホルモンが不足している時

身体の水分を増やすホルモンはいくつかあり、そのひとつが抗利尿ホルモンです。抗利尿ホルモンが不足すると高ナトリウム血症を起こしてしまうことがあります。抗利尿ホルモンは脳で作られるホルモンで、腎臓に働きかけることで尿の水分を血液中に吸収させる働きがあります。通常は脱水になると抗利尿ホルモンが分泌されることで、腎臓から水分吸収が起こるようになっています。

尿崩症は抗利尿ホルモンが作られなくなったり、腎臓での効きが悪くなったりすることで起こる病気です。抗利尿ホルモンが作られなくなることで起こる尿崩症が中枢性尿崩症、腎臓での効きが悪くなることで起こる尿崩症が腎性尿崩症です。

中枢性尿崩症の治療では不足した抗利尿ホルモンを補うことを目的としてデスモプレシン製剤という薬を使った治療をします。腎性尿崩症ではサイアザイド系利尿薬を使うことがあります。

■デスモプレシン製剤

抗利尿ホルモンであるバソプレシンは腎臓の尿細管という場所にあるバソプレシン受容体に作用し、尿細管から血管への水分の取り込みを促進させる働きを行っています。

デスモプレシンはバソプレシンを元に造られた薬剤です。主に腎臓の集合管という場所でバソプレシン受容体に作用することで、水分の取り込みを促進させバソプレシン不足による尿崩症(中枢性尿崩症)を改善する薬になります。

中枢性尿崩症に用いられるデスモプレシンは鼻腔内から投与を行う点鼻液やスプレー剤(点鼻スプレー)があります。またデスモプレシン製剤には点鼻液などの経鼻製剤の他、経口製剤(商品名:ミニリンメルト®)が尿崩症に使われることもあります。ミニリンメルト®OD錠は内服薬(飲み薬)のため、鼻からの投与に比べて投与方法や薬の携帯が比較的簡便であると考えられます。また、ミニリンメルト®は口腔内崩壊錠であるため、お子さんでも内服が簡単であるといったメリットがあります。

デスモプレシン製剤で注意すべき副作用には浮腫低ナトリウム血症、頭痛やめまいなどの精神神経系症状、吐き気などの消化器症状などがあります。

その他、バソプレシン自体が注射製剤(商品名:ピトレシン®)として尿崩症に対して使われる場合があります。

■サイアザイド系利尿薬

サイアザイド系利尿薬は腎臓の遠位尿細管という部分におけるナトリウムや水分などの取り込みを抑える作用をあらわす薬です。サイアザイド系利尿薬に分類されるヒドロクロロチアジドやトリクロルメチアジド(主な商品名:フルイトラン®)などが使われます。

サイアザイド系利尿薬は尿崩症による高ナトリウム血症の治療に使うことがあります。先ほども少し触れましたが、サイアザイド系利尿薬は遠位尿細管という部分におけるナトリウムや水分などの血管内への取り込みを抑えることで利尿作用をあらわします。水分と一緒にナトリウム排泄が促されるため、サイアザイド系利尿薬は尿崩症における高ナトリウム血症に対しては改善効果が期待できます。サイアザイド系利尿薬の副作用には低ナトリウム血症低カリウム血症などの電解質異常、めまいや立ちくらみ、過敏症、貧血などの血液障害、吐き気などの消化器症状などがあります。

体のナトリウムを増やすホルモンの量が多い時

ナトリウムを増やすホルモンが多いことで高ナトリウム血症が起こる病気の例として原発性アルドステロン症クッシング症候群があります。ここでは原発性アルドステロン症クッシング症候群の治療をそれぞれ説明していきます。

原発性アルドステロン症

原発性アルドステロン症は副腎でアルドステロンが大量に作られる病気です。アルドステロンには身体の中のナトリウムを増やす作用があるので、原発性アルドステロン症では高ナトリウム血症が起こります。原発性アルドステロン症の治療には手術療法と薬物療法があります。副腎は左右2箇所にありますが、アルドステロンを大量に作っている副腎が左右どちらかわかっている場合は原因となっている副腎を切除する手術療法を行います。一方で両方の副腎がアルドステロンを大量に作っている場合や、左右どちらの副腎が原因かわからない場合には薬物療法が選択されます。薬物療法ではアルドステロン拮抗薬を使います。

■アルドステロン拮抗薬

アルドステロンは副腎で産生されるホルモンのひとつでナトリウムやカリウムの濃度調節などに関わっています。

腎臓の遠位尿細管という場所では尿中のナトリウムや水分を血液中へ戻す再吸収という働きが行われていますが、ここでの再吸収に関わっている主な物質がアルドステロンです。

スピロノラクトン(主な商品名:アルダクトン®A)やエプレレノン(商品名:セララ®)などの薬は一般的にアルドステロンの働きを抑えるアルドステロン拮抗薬に分類されます。

アルドステロン拮抗薬はアルドステロンの作用を抑えることで、ナトリウムや水分の再吸収を抑え、尿としてナトリウムや水分を排泄させることで利尿作用をあらわします。利尿薬として高血圧症などの治療に使われることも多いですが、アルドステロンの作用を抑える効果もあることから原発性アルドステロン症の診断や症状改善に対しても保険承認されています。

アルドステロン拮抗薬で注意すべき副作用には高カリウム血症低血圧、めまいや頭痛などの精神神経系症状、吐き気などの消化器症状などがあります。

また女性化乳房や乳房の腫脹などの症状があらわれる場合があり、これはアルドステロン拮抗薬によって血液中の男性ホルモンテストステロン)濃度が減少することなどが要因として考えられています。胸の周囲に張りがあるなどの症状があらわれた場合には医師や薬剤師に相談するなど適切に対処することが大切です。エプレレノンはスピロノラクトンに比べると男性ホルモンへの影響が少なく女性化乳房などへの懸念が少ないとされています。

クッシング症候群

クッシング症候群副腎皮質ホルモンが大量に作られる病気です。副腎皮質ホルモンのナトリウムを増やす作用によりクッシング症候群では高ナトリウム血症が起こります。

副腎皮質ホルモンの大量産生は副腎自体に問題があることもあれば、副腎以外が原因になっていることもあります。

副腎以外に原因になるものの一つが脳の下垂体(かすいたい)という場所です。下垂体は副腎皮質刺激ホルモンACTH)というホルモンを出して、副腎に副腎皮質ホルモンを作るよう司令し、副腎皮質ホルモンの産生量を調整しています。したがって下垂体の異常により副腎皮質刺激ホルモンが大量に作られる状況でも副腎からの副腎皮質ホルモンの産生が増しクッシング症候群になります。

また時に、がんが副腎皮質刺激ホルモンを作ることがあり、これもクッシング症候群の原因になります(異所性ACTH産生腫瘍と呼びます)。

クッシング症候群の治療も手術療法と薬物療法があります。手術療法はクッシング症候群の原因となっている場所により方法が異なります。例えば、副腎皮質ホルモンが大量に作られている原因が副腎にある場合には副腎を切除する治療を行います。下垂体で副腎皮質刺激ホルモンが大量に作られることが原因の場合には、下垂体に対する手術を行います。副腎皮質刺激ホルモンをがんが作っている場合にはがんの切除を試みます。

クッシング症候群で何らかの理由があり手術が難しい場合やクッシング症候群の原因となっている場所がわからない場合には、薬物療法を行います。具体的には治療薬の副腎皮質ホルモン合成阻害薬があります。

■副腎皮質ホルモン合成阻害薬

副腎皮質ホルモンの合成を抑えることでクッシング症候群などの治療に使われる薬です。

クッシング症候群ではなんらかの原因によって副腎皮質ホルモンが過剰に分泌されることで高ナトリウム血症などの様々な症状があらわれます。クッシング症候群では副腎皮質ホルモンを過剰にしている原因の場所を手術することが根本治療になりますが、手術ができない場合では薬物治療も考慮されます。

メチラポン(商品名:メトピロン®)、ミトタン(商品名:オペプリム®)、トリロスタン(商品名:デソパン®)などの薬はそれぞれの作用によって副腎皮質ホルモンの合成を抑えクッシング症候群やそれに伴う高ナトリウム血症の改善効果が期待でき、治療の選択肢になっています。

メチラポンは1958年に開発され、2011年にクッシング症候群の治療薬としても承認されています。メチラポンは投与開始後、比較的速やかに効果が期待できる薬剤で、次に述べるミトタンの投与開始初期に併用されることもあります。メチラポンの注意すべき副作用にはめまいや頭痛などの精神神経系症状、吐き気や食欲不振などの消化器症状などがあります。

ミトタンは副腎皮質に対して毒性を示すことで副腎皮質ホルモンの合成を阻害します。そのためミトタンはクッシング症候群の他、副腎がんの治療に対しても承認されています。

ミトタンは作用発現が比較的ゆっくりであるため、投与初期の数週間程度はメチラポンの併用が考慮される場合もあります。ミトタンの注意すべき副作用には食欲不振や吐き気などの消化器症状、めまいや頭痛などの精神神経系症状などがあります。また肝機能障害や脳の機能障害などがあらわれる可能性もあるため、定期的な肝機能などの検査の実施がより大切です。

トリロスタンは副腎皮質ホルモンの合成に関わる物質(3β-hydroxysteroid脱水素酵素)を抑えることで効果を発揮します。トリロスタンはメチラポンやミトタンといった薬とはまた異なる作用のため、比較的副作用の懸念が少ないといったメリットがあります。トリロスタンは比較的副作用の懸念が少ない薬剤ですが、吐き気など消化器症状、発疹などの皮膚症状などには注意が必要です。

この他、神経伝達物質ドパミンの働きを亢進させ、副腎皮質刺激ホルモンの分泌を抑えることで効果を発揮するカベルゴリン(主な商品名:カバサール®)やソマトスタチンというホルモンの受容体へ作用する薬であるパシレオチド(商品名:シグニフォー®)を治療に用いることもあります。

4. 薬剤が原因の場合の治療法

薬剤が原因の場合は薬を中止することで高ナトリウム血症の改善を見込めます。基本的には、高ナトリウム血症を起こしやすい薬(浸透圧利尿薬、バソプレシン受容体拮抗薬、甘草を含む漢方薬など)を飲んでいる時は中止することが望ましいです。ただし、もともとの病気の関係上、薬を中止できない場合もありますので、対応については担当の医師との相談が必要となります。

5. 高ナトリウム血症の治療(正常化)の注意点

高ナトリウム血症の治療では高くなった血液中のナトリウム濃度を下げる必要があります。しかしながら、ナトリウムの値を戻す時には一つ大事な注意点があります。それはナトリウムの値を下げていくスピードです。具体的には24時間で10-12mEq/L以上を下げてはいけないとされています。

これは、ナトリウムの血液中の濃度が急速に下がると脳がむくみ脳浮腫)、脳に障害を残すことがあるためです。最悪の場合、寝たきりになる可能性や命に関わることがあります。

そのため、治療が必要な高ナトリウム血症では原則入院で治療を行います。1日に何度も採血をしながら、ナトリウムの濃度の下がるスピードに注意しながら治療を行っていきます。