しゅようせいすいのうほう
腫瘍性膵のう胞
膵臓にのう胞ができる病気
4人の医師がチェック 76回の改訂 最終更新: 2024.02.19

腫瘍性膵のう胞とはどんな病気か

腫瘍性膵のう胞は膵臓にできた袋状の膨らみで、なかに液体がたまっています。ほとんどの人で症状はなく健康診断や他の病気で受けた画像検査などで発見されます。腫瘍性膵のう胞にはいくつかの種類があり、種類によって治療方針が異なります。多くの人は良性腫瘍と診断され通院・経過観察を行いますが、膵がんに変化している場合には膵臓を切除する手術が必要です。

1. 膵臓はどんな働きをする臓器なのか

膵臓はおなかの中央から左寄りに位置しています。膵臓のおなか側には胃があり、背中側には大動脈が通っています。大きさは約15cm、重さは約100gの臓器です。

膵臓には2つの主な働きがあります。

  • 食べ物の消化吸収を助ける消化液(膵液)を十二指腸に分泌する働き(外分泌機能)
  • 全身の代謝を調節するホルモン血糖値を調整するインスリンやグルカゴンなど)を産生して血液中に分泌する働き(内分泌機能)

膵液は膵臓の中にある「腺房(せんぼう)」と呼ばれる部分で産生され、「膵管(すいかん)」という管に入ります。細い膵管が徐々に集まって「主膵管」と呼ばれる太い流れとなり、最終的には「十二指腸乳頭」から十二指腸内に流れ込みます。

2. 膵臓にできるのう胞とは何か

辞書をひもとくと、「のう胞嚢胞)」とは「腺が閉ざされて分泌液がたまり袋状になったもの」(大辞林第三版)とされています。医学の世界ではもう少し広く解釈し、「液体成分がたまった袋状の病変」をのう胞と呼ぶことが多いです。

つまり膵臓にのう胞ができるとは、「膵臓に液体がたまった病変ができること」ということになります。

少し専門的な解説になりますが、膵臓にできるのう胞は、顕微鏡で観察した結果をもとにして「真性のう胞」と「仮性のう胞」に分けられます。のう胞の壁の内側に「上皮(じょうひ)」と呼ばれる細胞があるものを「真性のう胞」、のう胞の壁がうすい皮一枚のものを「仮性のう胞」と呼びます。

3. 腫瘍性膵のう胞は膵臓がんとは違うのか

腫瘍性膵のう胞はがんではありませんが、中にはがんに変化する性質をもつものがあります。そのため、画像検査や血液検査などを駆使して慎重に診断を行って、治療方針を立てることが大切です。

がん、すなわち悪性腫瘍とは、次の3つの性質をもっているものです。

  • 増殖:細胞が増えて大きくなる性質
  • 浸潤(しんじゅん):周囲の組織に入り込んで広がる性質
  • 転移(てんい):血液やリンパの流れにのって離れた別の臓器に飛び火する性質

腫瘍性膵のう胞は原則としてこれらの性質をもたない良性腫瘍ですが、腫瘍性膵のう胞のうち膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)や粘液性嚢胞腫瘍(MCN)は膵臓がんに変化する可能性がある病気と考えられています。そのため、一定の条件を満たす場合には膵臓がんと同様に治療をする必要があります。治療が必要な腫瘍性膵のう胞については、こちらを参考にしてください。

4. 腫瘍性膵のう胞に起こりやすい症状について

腫瘍性膵のう胞はほとんどの人で無症状で、健康診断や人間ドックなどの画像検査(腹部エコー検査CT検査、MRI検査など)をきっかけに発見されることが多いです。

まれに、腫瘍性膵のう胞のできた場所や大きさによって症状が起こることがあります。

腫瘍性膵のう胞が大きくなると、膵液を流す管である主膵管を圧迫して膵液の流れを妨げるようになります。膵液の流れが悪くなることで急性膵炎が引き起こされ、次のような症状が起こります。

急性膵炎が起きた時の主な症状】

  • 腹痛
  • 背部痛
  • げっぷ
  • 吐き気
  • 嘔吐
  • 下痢
  • 発熱
  • ふらつき

急性膵炎についてさらに詳しく知りたい方はこちらも参考にしてください。

腫瘍性膵のう胞が膵頭部(膵臓の十二指腸寄り)にできた場合、肝臓で作られた消化液である胆汁を流すための管(=胆管)を圧迫して胆汁の流れを妨げることがあります。胆汁の流れが悪くなることで症状が現れることがあります。

【胆汁の流れが悪くなった時の主な症状】

  • 腹痛
  • 吐き気
  • 嘔吐
  • 黄疸
  • 発熱

その他の症状を含め詳しくはこちらのページで説明しています。

症状を起こす腫瘍性膵のう胞はまれではありますが、無症状のものと比べてがん化している可能性が高いと考えられているので、医療機関での治療が必要です。

5. 腫瘍性膵のう胞の原因について

腫瘍性膵のう胞ができる原因はよく分かっていません。食事、アルコール摂取、喫煙、運動は腫瘍性膵のう胞の発生とは関係がない言われています。また、腫瘍性膵のう胞が遺伝することはないと考えられています。

6. 腫瘍性膵のう胞の検査

腫瘍性膵のう胞が見つかった人には、どのタイプの腫瘍なのかを調べるために以下のような検査が行われます。

  • 血液検査
  • 画像検査:腹部エコー検査、CT検査、MRI検査
  • 内視鏡検査:超音波内視鏡検査EUS

血液検査では、膵酵素(アミラーゼ、リパーゼなど)、炎症反応(白血球数、CRPなど)、腫瘍マーカー(CA19-9、CEAなど)を調べます。膵液の流れが滞っていないか、膵炎などの炎症が起こっていないか、膵臓がんがないか、などを調べることが目的です。

ただし、血液検査だけではどのタイプの腫瘍性膵のう胞なのかを区別することはできませんし、膵臓がんがあるかどうかを正確に調べることはできません。また、無症状の腫瘍性膵のう胞の場合はいずれの検査結果も正常値であることが多いです。

腹部エコー検査、CT検査、MRI検査などの画像検査を組み合わせて総合的に診断を行います。腫瘍性膵のう胞がある場所や形、大きさ、特徴を調べることが目的です。これらを見ることで、ある程度診断を絞り込むことができます。

血液検査や画像検査からがんを疑うサインが見られた場合には、さらに詳しく調べるために超音波内視鏡検査(EUS)を行います。超音波内視鏡は胃カメラの先端にエコーの機械をとりつけた特殊な内視鏡で、胃や十二指腸の壁を通してエコーで観察することで膵臓などの精密検査を行うことができます。のう胞の壁の形や特徴をさらに細かく見たり、のう胞の内部を詳しく観察することができます。

これらの検査を組み合わせることで、大部分の腫瘍性膵のう胞の診断をつけることができます。

7. 腫瘍性膵のう胞にはどんな種類があるか

腫瘍性膵のう胞にはいくつかの種類がありますが、大部分は「IPMN」と呼ばれるタイプの腫瘍性膵のう胞です。その他にもまれなタイプの腫瘍がいくつかありますので、以下に解説していきます。

膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)

腫瘍性膵のう胞と診断された人のほとんどはIPMNです。IPMNは"Intraductal papillary mucinous neoplasm"の略で、mucinous(粘液の)が示すとおり、のう胞の壁の内側にある細胞からどろりとした粘液が作られ、のう胞の内部には粘液が溜まっています。

「のう胞」という名前が付いていますが袋状をしているわけではなく、膵管の中に粘液が溜まってふくらんだ状態のものです。主膵管という一番太い本流の管がふくらんだものを「主膵管型IPMN」、分枝膵管という枝分かれした細い管がふくらんだものを「分枝型IPMN」と呼びます。

IPMNは主に40歳以上の人に見られますが、高齢者になるほどIPMNが見つかる人の割合が高くなります。2008年の報告によれば、人口10万人あたり約26人にIPMNがあり、60歳以上に限ると人口10万人あたり約99人にIPMNがあるといわれています。近年の画像検査の普及に伴って人間ドック等で偶然発見されるケースが増えており、実際はもう少し割合(罹患率)が高い可能性があります。男女比は約2:1で男性に多いです。

IPMNの診断では画像検査を用いて、のう胞の形が典型的な「ブドウの房」状をしているかどうか、膵管とつながっているかどうか(交通があるかどうか)を確認します。

IPMNは見つかった時点ではほとんどが良性病変で、定期的な通院による経過観察が行われます。しかし中には膵臓がん合併しているものや、経過観察をするうちに膵臓がんに変化するものがあります。膵臓がんへの変化が疑われるIPMNでは外科手術などの治療が必要です。治療が必要なIPMNの特徴について詳しくはこちらのページで説明しています。

粘液性嚢胞腫瘍(MCN)

MCNは"Mucinous cystic neoplasm”の略で、IPMNと同様に粘液を作り出すのう胞性腫瘍です。患者さんのほとんどは女性で(男性は2%ほどしかいません)、膵臓の中でも膵体尾部にできます。10代後半から上の年代の人に見つかり、平均年齢は50歳前後といわれています。

MCNはのう胞の壁が厚く、内部が「夏みかん」状に分かれているのが特徴で、これらの様子は画像検査からわかります。また、IPMNとは異なり、MCNは膵管とはつながっていないものがほとんどです。

MCNは膵臓がんに変化する可能性があることが知られているので、外科手術で取り除く必要があります。のう胞の壁の一部が厚くなっていたり、のう胞内部にかたまり(結節)がある場合はがん化している可能性が高まります。

一方で、サイズの小さなMCN(4cm未満)ではがん化している人が少ないというデータもあり、どんな患者さんでも手術を受けるべきかは議論があるところです。病状に応じてお医者さんとよく相談することをおすすめします。

漿液性嚢胞腫瘍(SCN)

SCNは"Serous cystic neoplasm”の略で、内部に漿液(さらさらした液体)を含むのう胞性腫瘍です。SCNが見つかる人は60代から70代の女性に多く、膵臓のどの部分にも発生する可能性があります。

蜂の巣のように細かいのう胞が集まった蜂巣状構造(honeycomb structure)をもち、この周りを数mmから20mmくらいまでのやや大きめののう胞が取り囲むような形をしているのが特徴です。

SCNは通常は良性腫瘍であり、診断が確定した場合には経過観察の方針となります。ただし、SCNが大きくなって痛みが強くなるなどの症状が現れた人には外科手術が検討されます。

次に説明するSPNと膵神経内分泌腫瘍の2つは、もともとは充実性腫瘍(内部が液体ではなく中身がつまっている腫瘍)だったものの内部の細胞が抜け落ちることで、画像検査で嚢胞性腫瘍のように見えるものです。

SPN (Solid pseudopapillary neoplasm)

SPNは若い女性の膵体尾部に発生することが多いのう胞です。SPNの大部分は無症状ですが、もともとは中身のつまった固い腫瘍であるため他の腫瘍性膵のう胞に比べると膵管を圧迫しやすく、腹痛や背部痛などの症状が多いといわれています。

SPNは一部に石灰化が見られることがあります。また、内部の細胞が抜け落ちてのう胞のように変化する場合があり、この場合は他の腫瘍性膵のう胞と区別する必要があります。

SPNの5%程度ががん化すると言われているので、診断された場合は原則として外科手術が行われます。

膵神経内分泌腫瘍(P-NET)

膵神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine tumor of pancreas, P-NET)は、神経内分泌細胞と呼ばれる細胞から発生する腫瘍です。NETは消化管や膵臓、肺などにできることが多く、全悪性腫瘍の1-2%を占めます。その中で膵臓に発生するNETを膵神経内分泌腫瘍(P-NET)と呼びます。

P-NETの多くは無症状ですが、サイズが大きくなると腹痛や背部痛などの症状が現れることがあります。また、ホルモンを過剰産生する機能性NETというものが約30-40%あり、さまざまな症状を引き起こします。代表的なものはインスリノーマ(インスリンの過剰産生により低血糖発作)、ガストリノーマ(ガストリンの過剰産生により胃十二指腸潰瘍)、VIPオーマ(重症の下痢)などです。

P-NETは血流が豊富で、造影を用いたCT検査をすると白く映し出されるのが典型的です。内部の細胞が抜け落ちてのう胞のように変化する場合があり、この場合は他の腫瘍性膵のう胞と区別する必要があります。

P-NETはがんの一種なので診断された場合には外科手術で取り除く必要があります。ただし、診断された時にすでにがんが進行していた場合には、化学療法抗がん剤治療)などを組み合わせた治療が行われます。

8. 日常生活で気を付けることはあるか

腫瘍性膵のう胞があっても、原則的には食事・運動などの日常生活に制限はありません。アルコール摂取も一般的な量であれば問題ありません。ただし、急性膵炎の症状を起こしている人は脂肪分の多い食事を避けたほうが良いです。1日の脂肪摂取量は20-40g程度を目安にしてください。また、膵炎を起こしているときはアルコール摂取も避けてください。