腫瘍性膵のう胞が疑われたときに行われる検査について:血液検査、画像検査など
腫瘍性膵のう胞にはいくつか種類があります。種類によって治療方針が異なるので、腫瘍性膵のう胞が疑われた人は、どの種類の
目次
1. 問診
- どのような症状があるか
- これまでにかかった病気はあるか
- 飲酒や喫煙をするか
- 血縁者に膵臓がんになった人はいるか
それぞれの質問について詳しく説明します。
どのような症状があるか
問診ではまず症状があるかどうか聞かれます。ほとんどの人は腫瘍性膵のう胞で症状が出ることはありませんが、まれに、腹痛、背部痛、
これまでにかかった病気はあるか
これまでにかかった病気や持病の有無について聞かれます。特にこれまでに膵炎を起こしたことがあれば、お医者さんに伝えてください。膵炎を起こしたことのある人は膵炎のなごりとして膵のう胞ができている場合があり、
飲酒や喫煙をするか
多量のアルコール摂取は急性膵炎の原因となり、長期に渡る飲酒習慣は慢性膵炎の原因になります。そのため、膵臓の病気を考えるうえで飲酒量を確認することはとても重要です。また、喫煙も膵炎のリスクになることが知られており、飲酒の習慣とともに喫煙量についても聞かれます。
血縁者に膵臓がんになった人はいるか
腫瘍性膵のう胞の中には膵臓がんに変化するものがあり、血縁者に膵臓がんの人がいる場合には膵臓がんになりやすいことが知られています。血縁者に膵臓がんの人がいるからといって必ず膵臓がんに変化するわけではありませんが、注意が必要なのでお医者さんに伝えてください。
2. 身体診察
身体診察ではお医者さんが患者さんの身体を触って詳しく調べます。腫瘍性膵のう胞では主におなかの診察を行い、押されて痛みがあるか(圧痛)、軽く叩いたときに響くような痛みがあるか(叩打痛)、どの場所が痛いのか、などを確認します。症状がない人では痛くないことがほとんどで、もし痛みが出るようであれば膵炎などが疑われます。
また、目の色や皮膚の色を見て
3. 血液検査(アミラーゼ、リパーゼ、CEA、CA19-9など)
血液検査のみで腫瘍性膵のう胞のタイプを区別することはできませんが、腫瘍性膵のう胞によって膵炎が起きているかどうか、膵臓がんができている可能性があるかどうかなどを調べることができます。
膵炎が起きているか調べるための血液検査
腫瘍性膵のう胞によって膵炎が起きている人では、のう胞が膵管を圧迫して膵液の流れを妨げていることがほとんどです。膵液の流れが滞ると血液中に漏れ出る膵
ここでは、膵炎の診断に特に重要な膵酵素について詳しく説明します。
◎アミラーゼ
アミラーゼはでんぷんやグリコーゲンを
アミラーゼは、膵液だけでなく唾液にも含まれている酵素です。膵液に含まれるもの(P−アミラーゼ)と唾液に含まれるもの(S−アミラーゼ)は血液検査で区別することができるので、アミラーゼが高値であった場合にはどちらのタイプが増えているのかをチェックします。
◎リパーゼ
リパーゼは
◎エラスターゼ1
エラスターゼ1はタンパク質を分解する酵素です。アミラーゼと同様に、膵液の流れが滞ったり、膵炎によって膵臓の細胞が破壊されることで血液中のエラスターゼ1濃度が上昇します。
膵臓がんの診断の参考にされる血液検査:腫瘍マーカー
腫瘍性膵のう胞が悪性化している場合には膵臓がんの
◎CA19-9
CA19-9は身体のいろいろな部位に存在する糖鎖抗原と呼ばれる物質です。膵臓がんが発生するとCA19-9がたくさん作られるようになって血液中の濃度が上昇します。膵臓がんにおける陽性率(実際にがんである人のうち検査で陽性になる人の割合。
ただし、胆管がん、胃がん、大腸がん、肺がん、卵巣がんなどでもCA19-9値が上昇することが知られており、また、がん以外の病気(
◎CEA
CEA(Carcinoembryonic antigen,
◎DUPAN-2
DUPAN-2はムチン様タンパク質と呼ばれる物質です。膵臓がん、胆道がん、肝がんなどで血液中の濃度が上昇します。膵臓がんにおける陽性率は50-60%程度とそれほど精度が高い検査ではありませんが、上記のCA19-9、CEA検査とは違って胃がん、大腸がんなどでの陽性率が低いことが知られています。また、膵炎では値が上昇しないといわれているので、他の腫瘍マーカーと組み合わせて調べることで、より診断に役立てることができます。
◎SPan-1
SPan-1は高分子ムチン様タンパク質と呼ばれる物質で、CA19-9と似たような物質を検出する検査です。CA19-9検査と同様に膵臓がんにおける陽性率は70-80%程度と精度が高く、膵臓の他の病気(慢性膵炎など)と膵臓がんを区別するのに有用と言われています。日本人に5-10%程度いるルイス
4. 画像検査
腫瘍性膵のう胞が疑われる人は、
膵臓の病気を調べるには複数の画像検査が必要
わかりやすさのため、最初に皮膚にできた病気について考えてみます。医学の世界では、病気の部分の細胞を顕微鏡で観察して(病理検査といいます)診断することがあります。皮膚の病気は肉眼で色や形を観察することができ、必要であればその場で細胞を取って病理検査を行うことができます。つまり、皮膚の病気では診断に至るまでのステップで患者さんにかかる負担が比較的少ないと言えます。
次に、胃や大腸の病気を考えてみます。例えば胃にポリープがあるか調べる場合、お医者さんが直接自分の目で胃の中を観察することはできないので、口から
では、膵臓の病気が疑わしいときにどうするかを説明します。膵臓はお腹の奥深くに位置しており、直接見ることも胃カメラを使って観察することもできません。膵臓を観察したり、細胞をとったりするためにはお腹を切る手術をするしかありませんが、検査のために行うには患者さんの負担が大きすぎます。つまり、膵臓の病気を調べるためには「直接見る」「細胞をとる」ことが非常に難しいことがわかります。
そこで頼りになるのが画像検査です。細胞を取ることはできませんが、色々な種類の画像検査を組み合わせることで病気の正体に迫ることができます(色々な角度から影絵を見ているようなイメージです)。
腹部エコー検査
腹部エコー検査は
CT(computed tomography)検査
CT検査は放射線を使って身体の断面像を映し出す画像検査です。撮影する画像の量が多いことから、同じように放射線を使う
膵臓のCT検査では、
造影CT検査では、造影剤の分布が時間とともに変化することを利用して「ダイナミック撮影」を行うことがあります。造影剤を注射したあと、決められたタイミングで複数回(3〜4回)の撮影を行います。数回に分けて撮影を行うことで、血管がよりはっきり見える画像、膵臓がよく見える画像、時間経過とともにどのように画像が変化するか、などさまざまな情報を得ることができます。
腫瘍性膵のう胞に対しては、のう胞の場所、形、大きさを調べるとともに、膵臓がんができていないかを確認するための最も精度の高い検査と位置付けられています。
MRI(magnetic resonance imaging)検査
MRI検査は磁気を利用して身体の断面像を映し出す画像検査です。技術進歩に伴いMRI検査で得られる画像の質が向上し、健康診断や人間ドックでもMRI検査を導入している施設が増えています。放射線を使わないので被曝の影響はありませんが、身体の中に金属製品(
MRIでは磁気を利用してさまざまな種類の画像情報を得ることができます。腫瘍性膵のう胞に対してよく用いられるのは、体内の水分をより強調して表示するT2強調画像、膵管の全体像や膵のう胞の形態を表示するMRCP(magnetic resonance cholangiopancreatography)画像、がんや炎症のある部位を目立たせて表示する拡散強調画像などです。
腫瘍性膵のう胞に対しては、のう胞の場所、形、大きさを調べる他に、「のう胞が膵管とつながっているかどうか」、「のう胞の内部にたまっているのが液体なのかどうか」、「膵臓がんが
また、定期的な
5. 超音波内視鏡検査(EUS, endoscopic ultrasonography)
超音波内視鏡(
膵臓とお腹の壁の間には胃があり、胃の中のガスが超音波の妨げになるため、お腹の外側からエコープローブを当てる
口から
腫瘍性膵のう胞に対してはのう胞の場所、形、大きさを調べる他に、「のう胞が膵管とつながっているかどうか」、「のう胞の内部にたまっているのが液体なのかどうか」、「膵臓がんが合併していないか」などを調べます。
なお、EUSで観察しながら
ただし、腫瘍性膵のう胞に対するEUS-FNAは日本では行われていません。理由は、針を刺すことでのう胞の中にある液体がお腹の中(腹腔)に漏れてしまうのではないかと懸念されているためです。