しゅようせいすいのうほう
腫瘍性膵のう胞
膵臓にのう胞ができる病気
4人の医師がチェック 76回の改訂 最終更新: 2024.02.19

腫瘍性膵のう胞が疑われたときに行われる検査について:血液検査、画像検査など

腫瘍性膵のう胞にはいくつか種類があります。種類によって治療方針が異なるので、腫瘍性膵のう胞が疑われた人は、どの種類の腫瘍か見極めるための検査が行われます。ここでは、腫瘍性膵のう胞が疑われた人が受けることになる検査について詳しく説明します。

1. 問診

問診では受診のきっかけとなったことや症状、これまでにかかった病気などについてお医者さんから詳しく聞かれます。以下は問診で聞かれる質問の例です。

  • どのような症状があるか
  • これまでにかかった病気はあるか
  • 飲酒や喫煙をするか
  • 血縁者に膵臓がんになった人はいるか

それぞれの質問について詳しく説明します。

どのような症状があるか

問診ではまず症状があるかどうか聞かれます。ほとんどの人は腫瘍性膵のう胞で症状が出ることはありませんが、まれに、腹痛、背部痛、ホルモンの過剰産生に伴う症状が現れることがあります。(詳しい症状についてはこちらを参照してください。)気になる症状があれば、遠慮なくお医者さんに伝えるようにしてください。

これまでにかかった病気はあるか

これまでにかかった病気や持病の有無について聞かれます。特にこれまでに膵炎を起こしたことがあれば、お医者さんに伝えてください。膵炎を起こしたことのある人は膵炎のなごりとして膵のう胞ができている場合があり、のう胞のタイプを絞り込む際に重要な情報となります。この場合の膵のう胞は「仮性のう胞」と呼ばれるものが大多数であり、無症状であれば基本的に治療は必要ありません。

飲酒や喫煙をするか

多量のアルコール摂取は急性膵炎の原因となり、長期に渡る飲酒習慣は慢性膵炎の原因になります。そのため、膵臓の病気を考えるうえで飲酒量を確認することはとても重要です。また、喫煙も膵炎のリスクになることが知られており、飲酒の習慣とともに喫煙量についても聞かれます。

血縁者に膵臓がんになった人はいるか

腫瘍性膵のう胞の中には膵臓がんに変化するものがあり、血縁者に膵臓がんの人がいる場合には膵臓がんになりやすいことが知られています。血縁者に膵臓がんの人がいるからといって必ず膵臓がんに変化するわけではありませんが、注意が必要なのでお医者さんに伝えてください。

2. 身体診察

身体診察ではお医者さんが患者さんの身体を触って詳しく調べます。腫瘍性膵のう胞では主におなかの診察を行い、押されて痛みがあるか(圧痛)、軽く叩いたときに響くような痛みがあるか(叩打痛)、どの場所が痛いのか、などを確認します。症状がない人では痛くないことがほとんどで、もし痛みが出るようであれば膵炎などが疑われます。

また、目の色や皮膚の色を見て黄疸症状や貧血症状がないかをチェックします。

3. 血液検査(アミラーゼ、リパーゼ、CEA、CA19-9など)

血液検査のみで腫瘍性膵のう胞のタイプを区別することはできませんが、腫瘍性膵のう胞によって膵炎が起きているかどうか、膵臓がんができている可能性があるかどうかなどを調べることができます。

膵炎が起きているか調べるための血液検査

腫瘍性膵のう胞によって膵炎が起きている人では、のう胞が膵管を圧迫して膵液の流れを妨げていることがほとんどです。膵液の流れが滞ると血液中に漏れ出る膵酵素(アミラーゼ、リパーゼ、エラスターゼ1)の量が増えて、これらの値が正常値を超えて上昇します。さらに、膵臓に炎症が生じて膵炎に至った場合には、炎症反応の指標となる白血球数とCRPの値が上昇します。

ここでは、膵炎の診断に特に重要な膵酵素について詳しく説明します。

◎アミラーゼ

アミラーゼはでんぷんやグリコーゲンをブドウ糖に分解する消化酵素です。膵液の流れが滞ったり、膵炎によって膵臓の細胞が破壊されると血液中のアミラーゼ濃度が上昇します。

アミラーゼは、膵液だけでなく唾液にも含まれている酵素です。膵液に含まれるもの(P−アミラーゼ)と唾液に含まれるもの(S−アミラーゼ)は血液検査で区別することができるので、アミラーゼが高値であった場合にはどちらのタイプが増えているのかをチェックします。

◎リパーゼ

リパーゼは中性脂肪をグリセロールと脂肪酸に分解する消化酵素です。アミラーゼと同様に、膵液の流れが滞ったり、膵炎によって膵臓の細胞が破壊されることで血液中のリパーゼ濃度が上昇します。

◎エラスターゼ1

エラスターゼ1はタンパク質を分解する酵素です。アミラーゼと同様に、膵液の流れが滞ったり、膵炎によって膵臓の細胞が破壊されることで血液中のエラスターゼ1濃度が上昇します。

膵臓がんの診断の参考にされる血液検査:腫瘍マーカー

腫瘍性膵のう胞が悪性化している場合には膵臓がん腫瘍マーカー(CA19-9、CEAなど)が上昇する場合があります。腫瘍マーカーとは、身体の中にがんができた場合に血液中に分泌される特徴的な物質(タンパク質など)のことです。ただし、腫瘍マーカーの結果だけでがんを診断できないことに注意が必要です。小さながんでは腫瘍マーカーの値が高くならないこともありますし、がん以外の病気で値が高くなることもあります。そのため、他の検査結果と合わせて判断する必要があります。

◎CA19-9

CA19-9は身体のいろいろな部位に存在する糖鎖抗原と呼ばれる物質です。膵臓がんが発生するとCA19-9がたくさん作られるようになって血液中の濃度が上昇します。膵臓がんにおける陽性率(実際にがんである人のうち検査で陽性になる人の割合。感度ともいう)は70-80%程度といわれており、数ある腫瘍マーカーの中では膵臓がんを見つける能力に優れてます。

ただし、胆管がん胃がん大腸がん肺がん卵巣がんなどでもCA19-9値が上昇することが知られており、また、がん以外の病気(胆管炎、膵炎、肝炎、子宮内膜症気管支炎など)でもCA19-9値が高値になることがあります。そのため、CA19-9値が正常値を超えているからといって必ず膵臓がんであるというわけではありません。

◎CEA

CEA(Carcinoembryonic antigen, 胎児抗原)は大腸がんの組織から発見された糖タンパク質です。大腸がん胃がん肺がん乳がんなどで血液中の濃度が上昇し、膵臓がんができた場合にも正常値を超えた値になることが知られています。ただし、膵臓がんにおける陽性率は30-60%程度とそれほど精度が高い検査ではありません。

◎DUPAN-2

DUPAN-2はムチン様タンパク質と呼ばれる物質です。膵臓がん胆道がん肝がんなどで血液中の濃度が上昇します。膵臓がんにおける陽性率は50-60%程度とそれほど精度が高い検査ではありませんが、上記のCA19-9、CEA検査とは違って胃がん大腸がんなどでの陽性率が低いことが知られています。また、膵炎では値が上昇しないといわれているので、他の腫瘍マーカーと組み合わせて調べることで、より診断に役立てることができます。

◎SPan-1

SPan-1は高分子ムチン様タンパク質と呼ばれる物質で、CA19-9と似たような物質を検出する検査です。CA19-9検査と同様に膵臓がんにおける陽性率は70-80%程度と精度が高く、膵臓の他の病気(慢性膵炎など)と膵臓がんを区別するのに有用と言われています。日本人に5-10%程度いるルイス抗体陰性の人では、がんがあってもCA19-9が作られないのでCA19-9検査の結果を参考にすることができません。しかし、SPan-1はこれらの患者さんでも検査が可能です。

4. 画像検査

腫瘍性膵のう胞が疑われる人は、腹部エコー検査CT検査、MRI検査などを組み合わせた画像検査を受けることになります。腫瘍性膵のう胞を含む膵臓の病気では画像検査がとても重要です。その理由を説明します。

膵臓の病気を調べるには複数の画像検査が必要

わかりやすさのため、最初に皮膚にできた病気について考えてみます。医学の世界では、病気の部分の細胞を顕微鏡で観察して(病理検査といいます)診断することがあります。皮膚の病気は肉眼で色や形を観察することができ、必要であればその場で細胞を取って病理検査を行うことができます。つまり、皮膚の病気では診断に至るまでのステップで患者さんにかかる負担が比較的少ないと言えます。

次に、胃や大腸の病気を考えてみます。例えば胃にポリープがあるか調べる場合、お医者さんが直接自分の目で胃の中を観察することはできないので、口から内視鏡胃カメラ)入れて胃の中の様子を確認します。胃カメラでポリープが見つかれば、必要に応じてポリープの細胞を取って病理検査を行うこともできます。しかし、胃カメラ検査は患者さんにとって決して楽な検査とは言えないので、必要な場面を見極めることが大切です。

では、膵臓の病気が疑わしいときにどうするかを説明します。膵臓はお腹の奥深くに位置しており、直接見ることも胃カメラを使って観察することもできません。膵臓を観察したり、細胞をとったりするためにはお腹を切る手術をするしかありませんが、検査のために行うには患者さんの負担が大きすぎます。つまり、膵臓の病気を調べるためには「直接見る」「細胞をとる」ことが非常に難しいことがわかります。

そこで頼りになるのが画像検査です。細胞を取ることはできませんが、色々な種類の画像検査を組み合わせることで病気の正体に迫ることができます(色々な角度から影絵を見ているようなイメージです)。

腹部エコー検査

腹部エコー検査は腹部超音波検査とも呼ばれ、超音波を使って身体の表面からお腹の中の様子見る検査です。超音波の通りを良くするためのゼリーをお腹に塗り、プローブという機械をお腹に押し当てて検査を行います。プローブから出た超音波がお腹の中の臓器に当たってはね返り、そのはね返った超音波を検知した結果が白黒の画像としてディスプレイに表示されます。

エコー検査は簡便に行うことができ、かつ放射線を用いないので放射線被曝の影響がないことが利点です。ただし、膵臓はお腹の奥深くにあるため、胃や腸にたまったガスや脂肪の影響で超音波が届きづらく、膵臓全体を観察できないことがほとんどです。膵臓全体のチェックが必要な人はCT検査やMRI検査を受けることになります。

CT(computed tomography)検査

CT検査は放射線を使って身体の断面像を映し出す画像検査です。撮影する画像の量が多いことから、同じように放射線を使うレントゲン検査と比較すると被曝量はやや多くなりますが、健康に影響がでるほどの量ではありません。

膵臓のCT検査では、造影剤という薬を注射したうえで撮影する「造影CT検査」がよく行われます。造影剤は血流にのってお腹の中に広がっていきますが、お腹の中でも血液の多い部分にはより多くの造影剤が入っていきます。造影剤が多く入った部分はCT画像で白くコントラストがついて見えますので、病気の位置や広がり、周りの臓器との位置関係がよりはっきりと観察できます。(ただし、造影剤にアレルギーがある人、腎臓の機能が低下している人、喘息がある人などでは造影剤が使用できません。)

造影CT検査では、造影剤の分布が時間とともに変化することを利用して「ダイナミック撮影」を行うことがあります。造影剤を注射したあと、決められたタイミングで複数回(3〜4回)の撮影を行います。数回に分けて撮影を行うことで、血管がよりはっきり見える画像、膵臓がよく見える画像、時間経過とともにどのように画像が変化するか、などさまざまな情報を得ることができます。

腫瘍性膵のう胞に対しては、のう胞の場所、形、大きさを調べるとともに、膵臓がんができていないかを確認するための最も精度の高い検査と位置付けられています。

MRI(magnetic resonance imaging)検査

MRI検査は磁気を利用して身体の断面像を映し出す画像検査です。技術進歩に伴いMRI検査で得られる画像の質が向上し、健康診断や人間ドックでもMRI検査を導入している施設が増えています。放射線を使わないので被曝の影響はありませんが、身体の中に金属製品(ペースメーカーなど)が入っている人は検査ができない場合があります。

MRIでは磁気を利用してさまざまな種類の画像情報を得ることができます。腫瘍性膵のう胞に対してよく用いられるのは、体内の水分をより強調して表示するT2強調画像、膵管の全体像や膵のう胞の形態を表示するMRCP(magnetic resonance cholangiopancreatography)画像、がんや炎症のある部位を目立たせて表示する拡散強調画像などです。

腫瘍性膵のう胞に対しては、のう胞の場所、形、大きさを調べる他に、「のう胞が膵管とつながっているかどうか」、「のう胞の内部にたまっているのが液体なのかどうか」、「膵臓がん合併していないか」などをCT検査とは異なる視点から確認します。

また、定期的な経過観察が必要な人への画像検査として、被曝量が少ないという意味からMRI検査がよく利用されています。

5. 超音波内視鏡検査(EUS, endoscopic ultrasonography)

超音波内視鏡(EUS)は、上部消化管内視鏡(胃カメラ)の先端にエコーのプローブ(超音波が出る機械)を付けた内視鏡検査機器です。

膵臓とお腹の壁の間には胃があり、胃の中のガスが超音波の妨げになるため、お腹の外側からエコープローブを当てる超音波検査では膵臓全体を観察することは難しいです。そこで、胃の中にプローブをいれて胃の壁を通して超音波で観察すれば膵臓がより詳しく観察できるのではないか、という発想をもとに生まれたのが超音波内視鏡です。

口からカメラを入れて胃の中まで進めます。胃内に入ったら胃の壁にプローブを押し当てて胃の裏側にある膵臓を観察します。お腹から当てる超音波検査よりも近い距離から観察できるので、膵臓全体の状態を詳しく知ることができます。

腫瘍性膵のう胞に対してはのう胞の場所、形、大きさを調べる他に、「のう胞が膵管とつながっているかどうか」、「のう胞の内部にたまっているのが液体なのかどうか」、「膵臓がんが合併していないか」などを調べます。

なお、EUSで観察しながら病変の細胞を採取するEUS-FNA(fine needle aspiration)と呼ばれる検査が存在します。これは、胃の壁の奥にある膵臓の細胞をとって病理検査(顕微鏡の検査)ができる画期的な検査法で、膵臓がんなどの膵腫瘍に対してよく行われる検査です。

ただし、腫瘍性膵のう胞に対するEUS-FNAは日本では行われていません。理由は、針を刺すことでのう胞の中にある液体がお腹の中(腹腔)に漏れてしまうのではないかと懸念されているためです。