しゅようせいすいのうほう
腫瘍性膵のう胞
膵臓にのう胞ができる病気
4人の医師がチェック 76回の改訂 最終更新: 2024.02.19

腫瘍性膵のう胞の治療について:手術などの治療が勧められる人、経過観察を行う人

腫瘍性膵のう胞が見つかった人のうち、ほとんどの人では治療は必要なく通院・経過観察を行います。検査で膵のう胞膵臓がんに変化していると診断された人は、外科手術などの治療が勧められます。治療法は膵のう胞の種類や病状によって異なります。ここでは、腫瘍性膵のう胞の治療について詳しく説明します。

1. 腫瘍性膵のう胞で治療が必要な人とは

腫瘍性膵のう胞をもつ人のうち、ほとんどの人では治療は必要なく通院・経過観察を行います。治療が必要なのは、検査結果から膵のう胞膵臓がんに変化していると診断された人です。これらの人では腫瘍性膵のう胞を取り除く外科手術が勧められます。

ひとえに腫瘍性膵のう胞といってもいくつかの種類に分類されており、どの種類の腫瘍性膵のう胞かによって治療方針・治療法が異なります。(分類について詳しくはこちらを参考にしてください。)

このページでは、もっとも多く見つかる膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)とそれ以外に分けて説明をします。

膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)で治療が必要な人

IPMN(Intraductal papillary mucinous neoplasm)はのう胞の内側にある細胞からどろりとした粘液が産生されているのが特徴です。腫瘍性膵のう胞と診断された人で最も多くみられるのがこのIPMNです。ガイドラインでは、IPMNが膵臓がんに変化していることを疑う特徴として以下の3点を挙げています(high risk stigmataと呼びます)。

  • IPMNが胆管を塞ぎ胆汁の流れが悪くなって黄疸になっている
  • のう胞の内部に5mmを超えるかたまり(充実成分)がある
  • 主膵管の太さが10mm以上ある

これらのいずれか1つでも当てはまる場合には、IPMNが膵臓がんに変化しているものと考え、外科手術が勧められます。また今後膵臓がんに変化する危険性がある特徴として以下の8点が知られています(worrisome featuresと呼びます)。

  • のう胞の大きさが3cm以上ある
  • のう胞の内部に5mm未満のかたまり(充実成分)がある
  • のう胞の壁が一部厚くなっている(壁肥厚)
  • 主膵管の太さが5~9mmである
  • 主膵管が狭窄し、膵臓の一部が縮んでいる(萎縮している)
  • 膵臓の近くにあるリンパ節が腫れている
  • 血液検査で腫瘍マーカーであるCA19-9が高値である
  • 2年間にサイズが5mm以上大きくなっている

これらのいずれかがある場合は超音波内視鏡EUS)や内視鏡的逆行性膵胆管造影検査ERCP)での精密検査が勧められ、外科的手術を行うか経過観察をするかが検討されます。

IPMN以外の腫瘍性膵のう胞で治療が必要な人

腫瘍性膵のう胞の中には、IPMN以外にもまれなタイプの病気がいくつか存在します。

◎粘液性嚢胞腫瘍(MCN)

MCN(Mucinous cystic neoplasm)は球形で粘液を内部に含み、厚い壁(被膜)に囲まれているのが特徴です。MCNが見つかる人のほとんどは女性です。MCNはそのままにすると膵臓がんに変化する可能性が高いと考えられており、MCNと診断された人では全員に外科手術が勧められます。

どの時期に手術を行うかは、MCNが膵臓がんに変化しているかどうかによって異なります。CT検査やMRI検査などの画像検査でMCNが疑われた人には超音波内視鏡(EUS)での精密検査を行い、MCNが膵臓がんに変化しているサインがないかを調べます。サインとなる特徴は次の2つです。

  • のう胞の壁や隔壁が部分的に厚くなっている
  • のう胞内部にかたまり(結節)がある

これらの特徴が見られた場合にはMCNがすでに膵臓がんに変化している可能性が高いと考え、あまり期間をあけずに手術を行うことが勧められます。それ以外の場合にはそれほど手術を急ぐ必要はありませんので、お医者さんとよく相談して手術のタイミングを決定してください。

◎漿液性嚢胞腫瘍(SCN)

SCNは"Serous cystic neoplasm”の略で、内部に漿液(さらさらした液体)を含み、腫瘍の中心に蜂の巣のように細かいのう胞が集まっている形が特徴です。SCNは基本的に良性腫瘍であり、CT検査やMRI検査などの画像検査でSCNにほぼ間違いないと診断された人では経過観察を行います。

ただし、以下のような特徴があるSCNでは膵臓がんに変化している可能性があるため外科切除が検討されます。

  • SCNによる症状(腹痛、嘔吐など)がある
  • SCNのサイズが増大している
  • 画像検査ではIPMNやMCNと区別がつかない

◎SPN(Solid pseudopapillary neoplasm)

SPNは20-30代の女性にみられる膵腫瘍で、腫瘍の内部に充実性部分(組織がつまった部分)とのう胞部分が混在しています。SPNは低悪性度腫瘍と呼ばれる進行のとても遅いがんの仲間です。診断された人には外科手術が勧められます。

◎膵神経内分泌腫瘍(P-NET)

膵神経内分泌腫瘍(Neuroendocrine tumor of pancreas, P-NET)は、神経内分泌細胞と呼ばれる細胞から発生する膵腫瘍で、内部が液体状に変化して腫瘍性膵のう胞のように見える場合があります。P-NETはがんの仲間であり、放置するとサイズが大きくなったり別の臓器に転移したりするので、外科手術が勧められます。診断時にすでにがんが進行している状態であった場合には、化学療法抗がん剤治療)を中心とした薬物治療が行われます。

2. 腫瘍性膵のう胞の外科的手術

膵臓がんが疑われる腫瘍性膵のう胞では外科的手術が治療の基本です。取り除く膵臓の部分によって手術の方法が異なります。

膵頭十二指腸切除術

腫瘍性膵のう胞が膵頭部(膵臓の十二指腸側)にある人には「膵頭十二指腸切除術」が行われます。膵頭部は十二指腸にくっついており、また肝臓から十二指腸に胆汁を流す胆管が膵頭部の内部を通過しているなど、周りの臓器との関係が非常に複雑です。そのため手術も非常に複雑なものとなります。

膵頭十二指腸切除術では、膵臓を半分切除、胆管を切除、胃を3分の1切除、十二指腸を切除し、消化液を流す管である膵管と胆管は小腸につなぎ直します。さらに食べ物の通り道である胃と小腸をつなぎ直す手術を同時に行います。

手術時間は施設にもよりますが6-8時間程度で、手術後の入院日数は合併症がなければ平均10-14日です。身体への負担がとても大きい手術ですので、手術前にいろいろな検査を行って全身麻酔や手術に耐えられるかどうかを判断します。

膵体尾部切除術

腫瘍性膵のう胞が膵体尾部にある人には「膵体尾部切除術」が行われます。膵体尾部は脾臓という臓器と隣り合っており、膵体尾部切除術では膵臓の半分と脾臓を切除します。胃や腸の切除は行いませんので食べ物の通り道は元のままです。

手術時間は施設にもよりますが3-4時間程度で、手術後の入院日数は合併症がなければ平均10-14日です。膵頭十二指腸切除術に比べれば身体への負担は少ない手術といえますが、決して小さな手術ではありませんので、同様に手術前の検査で全身状態を詳しく調べます。

膵体尾部切除術では腹腔鏡を用いた手術も選択肢になりますが、全ての人が受けられるわけではありません。個々の病状や手術を行う施設の状況等に応じてお医者さんと相談する必要があります。

膵腫瘍核出術

膵頭十二指腸切除術、膵体尾部切除術は腫瘍性膵のう胞を完全に取り切れる可能性が高いことがメリットですが、膵臓を大きく切除しなければならず、術後に膵臓の機能が低下してしまうというデメリットがあります。

膵臓の機能をできる限り温存することを目的として、腫瘍性膵のう胞が存在する部分だけを切除する「膵腫瘍核出術」と呼ばれる手術法があります。この手術は膵臓がんが疑われる場合には基本的には行われず、主にサイズの小さいP-NETに対して候補に挙げられる方法です。ただし、術後に膵液が漏れ出す膵液ろうが生じることがが多いため、核出術を行うかどうかは個々の病状や手術を行う施設の状況に応じてお医者さんと相談する必要があります。

手術が必要と言われたらどの病院を選ぶか

腫瘍性膵のう胞の手術では、膵頭十二指腸切除術または膵体尾部切除術を行うことが多いです。膵臓の手術は難易度が高いため、日本肝胆膵外科学会が修練施設および高度技能専門医という制度を設けて患者さんに安全な治療を提供できるような体制を整えています。近くに認定を受けた施設や専門医が在籍する医療機関があるかどうかこちらのページで検索ができますので参考にしてください。

3. 腫瘍性膵のう胞を治す薬はあるか

腫瘍性膵のう胞に対する治療薬は存在しません。検査で膵臓がんが疑われた人は外科手術を行い、それ以外の人は経過観察をするのが原則です。検査を進める中で膵臓がんが見つかり、すでに手術で取りきれないほど広がっていた場合には化学療法(抗がん剤治療)が行われます。詳しくは「膵臓がんの抗がん剤治療」のページを参照してください。

P-NETが診断された時点で手術ができないほど進行しているがんであった場合には、抗がん剤を用いた薬物治療が行われます。

【P-NETの治療で使われる薬】

どの薬剤で治療を行うかは一人ひとりの病状に応じて検討されます。

4. 腫瘍性膵のう胞のガイドラインはあるか

日本を中心に作成されたガイドラインとして「IPMN/MCN国際診療ガイドライン 2012年版」、「IPMN国際診療ガイドライン 2017年版」があります。また、アメリカ消化器病学会(AGA, American Gastroenterological Association)からは腫瘍性膵のう胞全般を対象としたAGAガイドラインが発表されています。

ただし、腫瘍性膵のう胞の診断・治療に関するデータはまだまだ不足しているのが現状であり、ガイドラインは存在するものの絶対的な指標とはいえません。ガイドラインを参考にしつつ個々の患者さんに応じて各施設で工夫しながら診療を行っています。自身の病状についてお医者さんとよく相談しながら治療をすすめるようにしてください。

なお、P-NETの診断・治療に関するガイドラインとして、「膵・消化管神経内分泌腫瘍(NET)診療ガイドライン」が2015年に発表されインターネット上で公開されています。

SCNやSPNを対象としたガイドラインはありませんが、SCNやSPNの診療では常にIPMNやMCNとの見極めが重要になりますので、日本を中心として作成された「IPMN/MCN国際診療ガイドライン 2012年版」が参考にされます。