せいそうしゅよう
精巣腫瘍
精巣に生じる腫瘍の総称でそのほとんどが悪性腫瘍である
6人の医師がチェック 87回の改訂 最終更新: 2024.03.13

精巣腫瘍(精巣がん)とはどんな病気なのか

精巣は精子や男性ホルモンを作り出す男性に特有の臓器です。精巣腫瘍は精巣の細胞が腫瘍化する病気で、そのほとんどが「悪性腫瘍がん)」です。ここでは、精巣腫瘍の概要として、症状や原因、検査、治療などについて説明します。

1. 精巣腫瘍とはどんな病気?

精巣(睾丸)は男性の陰嚢の中にある臓器で、左右に1つずつあります。主な役割には「男性ホルモンの分泌」と「精子の生産」の2つがあり、それぞれを別々の細胞が担っています。 精巣腫瘍のほとんどが「精子の生産」を担う細胞(精母細胞)から発生します。精子や卵子のように生殖を担う細胞を胚細胞と呼ぶことから、精巣腫瘍は胚細胞腫瘍とも呼ばれます。精巣腫瘍の多くは悪性腫瘍で、平たく言うと精巣のがんです。進行すると命に危険を及ぼす病気です。

精巣腫瘍にかかる人はどれくらいいるのか

精巣腫瘍にかかる人は多くはありません。精巣腫瘍にかかる割合(罹患(りかん)率)は10万に1人から2人程度とされており、比較的まれな病気と言えます。

精巣腫瘍を発病しやすい年齢層はあるのか

精巣腫瘍が見つかりやすい年齢層は2つあります。1つは5歳以下で、もう1つは20歳代後半から30歳代です。患者さんの約3分の2が40歳未満で発病を経験しています。

2. 精巣腫瘍の症状について

精巣腫瘍はほとんどが、無痛性陰嚢腫大(痛みを伴わずに陰嚢が大きくなること)をきっかけに見つかります。大きくなること以外の症状はないことが多いです。

また、精巣腫瘍は転移しやすいことが知られています。腫瘍が小さいうちに転移することもあり、発見されたときにすでに転移がある人は珍しくはありません。精巣腫瘍が転移しやすいのは、後腹膜リンパ節(お腹の中のリンパ節)や、肝臓、肺などです。リンパ節や肝臓に転移したがんが大きくなると、腹部のしこりや張り、背部痛を自覚し、肺に転移したがんが大きくなると、息切れや血痰(血液が混じった痰)、咳などが現れます。

3. 精巣腫瘍の原因について

精巣腫瘍が発生する原因は未だ完全には解明されてはいません。しかし、次のような条件にあてはまる人は精巣腫瘍にかかりやすいことが知られています。

【精巣腫瘍を発病しやすい条件】

  • 停留精巣がある
  • 家族に精巣腫瘍になった人がいる
  • 過去に精巣腫瘍になったことがある

難しい単語も混ざっているので、それぞれを簡単に説明します。

停留精巣がある

精巣は胎児の時にはお腹の中にあります。徐々に降りてきて生まれる時には陰嚢に収まりますが、うまく降りて来ずにお腹の中に留まったままになることがあり、この状態を停留精巣といいます。新生児の約5%程度に見つかり、停留精巣の人には精巣腫瘍が発生しやすいことが分かっています。手術で精巣の位置を陰嚢に移すことができ、停留精巣の治療は精巣腫瘍の予防的働くと考えられています。

家族に精巣腫瘍になった人がいる

家族に精巣腫瘍の患者さんがいる人は、精巣腫瘍になりやすいと言われています。発病には遺伝的な要因もしくは環境的な要因が関係していると考えられていますが、詳しいことは分かってはいません。

過去に精巣腫瘍になったことがある

過去に精巣腫瘍になった人は、残ったもう1つの精巣にも腫瘍ができやすいことが知られています。

4. 精巣腫瘍の種類について

精巣腫瘍の中にはいくつか種類があります。性質の違いから腫瘍はセミノーマと非セミノーマに大別されます。

【精巣腫瘍の主な種類】

  • セミノーマ
  • 非セミノーマ
    • 胎児性(embryonal carcinoma)
    • 卵黄嚢腫瘍(yoli sac tumor)
    • 奇形腫(teratoma)
    • 絨毛癌(choriocaricinoma)
    • 混合型(mixed germ cell tumor)

セミノーマが約4割、非セミノーマが約6割を占めます。腫瘍ごとに少しずつ性質が異なり、性質の違いは治療法やその後の経過にも影響します。詳しくはこの後の「精巣腫瘍の治療」と「精巣腫瘍について知っておくとよいこと」で説明しているので、参考にしてください。

5. 精巣腫瘍の検査について

精巣腫瘍が疑われた人や診断された人はいくつかの診察や検査が行われて、「精巣腫瘍かどうか」や「精巣腫瘍の進行度」などが調べられます。

【精巣腫瘍が疑われた人や診断された人が受ける検査】

  • 問診
  • 身体診察
  • 血液検査
  • 画像検査
    • 超音波検査
    • CT検査
    • MRI検査
    • PET検査
  • 病理検査

受診するとまずは問診や身体診察で症状の様子が詳しく調べられます。精巣腫瘍が疑わしい人には、その後、超音波検査で精巣の状態が観察されます。精巣腫瘍かどうかの判断が難しい場合には、さらに詳しい情報を得るためにCT検査やMRI検査が行われます。

精巣腫瘍は進行が早く転移を起こしやすい病気です。精巣腫瘍と診断されたらすみやかに手術をして精巣が摘出されます。摘出された精巣には病理検査(顕微鏡で病気の部分を詳しく調べる検査)が行われ、精巣腫瘍の種類などの詳しい情報がわかります。

6. 精巣腫瘍のステージについて

ステージとは腫瘍の進行度を示したものです。胃がん大腸がん肺がんなどでもステージという言葉が使われるので、聞いたことがある人は少なくないかもしれません。精巣腫瘍の進行度もステージで表現され、I期からIII期の3つに大別されます。他のがんで耳にするステージIVは存在しません。

それぞれのステージについて簡単に説明します。

■ステージI(I期)

ステージIは腫瘍が精巣にとどまり転移がない状態のことです。

■ステージII(II期)

精巣腫瘍にはリンパ節に転移をしやすい性質があります。リンパ節とはリンパ液が流れるリンパ管がいくつか合流してできたもので、全身にたくさんあります。ステージIIはお腹の中のリンパ節に転移がある状態で、お腹以外の場所のリンパ節や他の臓器に転移はありません。

■ステージIII(III期)

ステージIIIは転移がある状態ですが、その程度がステージIIより進んでいます。具体的には、お腹以外の場所のリンパ節や、肺・肝臓など他の臓器に転移している状態です。

7. 精巣腫瘍の治療について

精巣腫瘍の治療法にはいくつか種類があります。治療法は腫瘍のタイプと進行度を踏まえて、適したものが選ばれます。

【精巣腫瘍の主な治療法】

  • 手術
  • 抗がん剤治療
  • 放射線治療
  • 緩和治療

精巣腫瘍と診断されたら、まず手術で精巣が摘出されます。精巣腫瘍にはいくつかの種類がありますが、セミノーマと呼ばれるタイプは他の腫瘍と性質が異なるので、セミノーマかどうかでその後の治療が変わります。腫瘍の種類は、摘出した精巣を調べるとわかります。

これ以後はセミノーマと非セミノーマ(セミノーマ以外の腫瘍)に大別して治療の流れを説明します。

なお、治療内容についてさらに詳しく知りたい人は「こちらのページ」を、ステージごとの治療法については「こちらのページ」を参考にしてください。

セミノーマの治療

セミノーマには手術、抗がん剤治療、放射線治療が有効です。この中でも放射線治療に効果がある点がポイントです。転移がないセミノーマでは、精巣摘出後は経過観察のみでよいことが多いです。一方で、転移がある人には抗がん剤治療か、放射線治療が必要です。大動脈周囲のリンパ節が5cm以上または肺や肝臓など他の臓器に転移がある場合は、抗がん剤治療の後に、手術で腫瘍が取り除かれます。

非セミノーマの治療

非セミノーマには手術、抗がん剤治療が有効です。セミノーマとは違って放射線治療に効果がほとんどありません。転移がない場合は、基本的にはそのまま経過を見ることができますが、再発する危険性が高いと考えられる場合には抗がん剤治療を行い、再発を予防します。一方で、転移がある場合は、まず抗がん剤治療が行われ、その後必要に応じて転移した腫瘍が手術で取り除かれます。

8. 精巣腫瘍について知っておくと良いこと

精巣腫瘍で特に気になる「完治の可能性」や「余命」「再発」についてまとめます。その他の疑問については「こちらのページ」を参考にしてください。

精巣腫瘍は転移があっても完治する可能性がある

精巣腫瘍のほとんどは悪性腫瘍です。悪性腫瘍は転移や浸潤(他の臓器に入り込んで破壊すること)を起こして、命に危険を及ぼします。いわゆる「がん」のことです。一般的に、がんが転移を起こした後は、抗がん剤を使ったとしても完治の可能性がかなり小さいです。一方で、精巣腫瘍には抗がん剤がよく効くので、転移があっても十分に完治が望めます。

精巣腫瘍の経過を見通すにはIGCC分類が重要である

精巣腫瘍の進行度を示す分類法にはステージ(病期分類)があり、治療法を決める際に重要です。一方で、病状の経過を見通すのに有用な分類法としてIGCC分類があります。IGCC分類では次の基準項目をもとに、予後良好群、予後中間群、予後不良群の3つに分類します。

【IGCC分類の基準項目】

  • 腫瘍の種類:セミノーマかそうでないか
  • 転移の有無や状況
  • 腫瘍マーカーの値
    • AFP
    • hCG
    • LDH

IGCC分類は次の表のように細かな基準が決まっています。腫瘍がIGCC分類のどこに当てはまるか調べることで、その後の経過が予想しやすくなります。

以下、腫瘍の種類がセミノーマの場合と非セミノーマにわけて表を示します。

【セミノーマのIGCC分類と5年無増悪生存率】

  条件 5年無増悪生存率(%)
予後良好群 肺以外の臓器転移がない かつAFPが正常範囲内 (hCG、LDHは問わない) 82
予後中間群 肺以外の臓器転移がある
かつAFPが正常範囲内 (hCG、LDHは問わない)
67
予後不良群 該当なし(セミノーマに予後不良群は存在しない)

【非セミノーマのIGCC分類と5年無増悪生存率】

  条件 5年無増悪生存率(%)
予後良好群 肺以外の臓器転移がない かつAFPが1,000ng/ml未満 かつhCGが5,000IU/L未満 かつLDHが正常上限値の1.5倍未満 89
予後中間群 予後良好にも予後不良にも当てはまらない 75
予後不良群 肺以外の臓器転移がある
またはAFPが10,000ng/mlより多い またはhCGが50,000IU/Lより多い
またはLDHが正常上限値の10倍より多い
41

無増悪生存率とは病気が進行することなく生存した人の割合のことです。

セミノーマに比べると非セミノーマのほうが無増悪生存率は低い傾向にありますが、最も進行している状態でも病気の進行なく5年間生存する人々は4割程度います。これは他のがんではあまりみられない傾向です。

精巣腫瘍の再発はいつ起こりやすいのか

精巣腫瘍の再発は治療後2年以内に起こることが多いと考えられています。2年経ってもも再発が見られなければ、その後に再発する確率は大きく減少します。精巣腫瘍の特徴の1つが進行の早さですが、再発したときもその特徴は変わらないことが多いです。このため、少なくとも2年間は定期的に検査を受けて、再発がないかを頻繁にチェックする必要があります。

参考文献

・国立がん研究センター内科レジデント/編, 「がん診療レジデントマニュアル」, 医学書院, 2016年
・「赤座英之/監, 「標準泌尿器科学」, 医学書院, 2014年
International Germ Cell Consensus Classification: a prognostic factor-based staging system for metastatic germ cell cancers. International Germ Cell Cancer Collaborative Group, J Clin Oncol. 1997 Feb;15(2):594-603.