ひけっかくせいこうさんきんしょう
非結核性抗酸菌症(NTM感染症)
結核菌以外の抗酸菌による感染症。ほとんどが肺への感染
6人の医師がチェック 126回の改訂 最終更新: 2024.02.22

非結核性抗酸菌(NTM)症とは:原因、症状、検査、治療など

非結核性抗酸菌症は、非結核性抗酸菌というタイプの菌が肺に住み着いてしまう病気です。長年症状のない人から、命に関わる人まで病気の進み方はさまざまです。ここではその原因、症状、行われる検査や治療について解説します。

1. 非結核性抗酸菌症はどんな病気か

非結核性抗酸菌症では、非結核性抗酸菌と呼ばれる菌が肺に住み着いてしまいます。一度肺に菌が定着してしまうと完全に排除するのは難しく、治療期間も年単位になることが一般的です。「非結核性抗酸菌」というのは長い名称なので、英語での「NonTuberculous Mycobacteria」の頭文字をとって「NTM」と呼ばれることもあります。

NTM症について深く理解したい人のために、まずは抗酸菌について説明していきます。(ここを飛ばして「2. 非結核性抗酸菌症の原因について 」から読んでも構いません。)

抗酸菌症とは

抗酸菌は、菌を色素で染色したときに、酸やアルコールで脱色されにくい性質から命名されました。2022年時点で190種類以上の菌種が抗酸菌属として認められています。抗酸菌属はさらに以下のように3つの群に分類されます。

【抗酸菌属の分類】

  • 結核菌
  • らい菌群
  • NTM群

結核菌群は肺結核などを起こす菌、らい菌群はハンセン病の原因となる菌です。結核菌群や、らい菌群に属する抗酸菌の種類はわずかなので、190種類を超える抗酸菌のうち、ほとんどはNTM群に含まれます。

NTMは環境中に広く存在しており、ヒトに感染して問題となるのはNTMの一部です。ヒトに感染する場合には、肺に感染することがほとんどです。

結核との関係

結核は1950年まで日本人の死亡原因トップであった感染症です。現代では有効な治療法が確立されていますが、それでも感染者・死亡者は絶えない状況です。欧米と比べて日本の結核患者数はいまだに多い状況です。

NTMは結核菌と同じ抗酸菌属に含まれます。そのため、菌を染色して顕微鏡で観察するだけでは、NTMと結核菌は区別がつきにくいです。NTMと結核菌は肺に感染しやすい点も共通しています。

一方で、結核菌はヒトからヒトへと感染するものの、NTMは基本的にヒトからヒトへは感染しません。その点で、結核よりはNTM症のほうが感染対策に神経質にならずに済みます。ただし、結核よりもNTM症のほうが治療に対する反応性は悪い傾向にあります。結核は半年から1年ほどの薬物治療で完治する人が多いものの、残念ながらNTM症で完治する人は多くありません。

非定型抗酸菌症との関係

非結核性抗酸菌症のことを、以前は「非定型抗酸菌症」と呼んでいました。抗酸菌症のうち最も「定型的」なものは、死亡者数が多く、ヒトからヒトへも感染する結核であるという考えがあったからです。結核以外の抗酸菌症は、結核ほどは問題にならないとされていました。

しかし、近年ではNTM症と診断される患者数が増加して、結核よりもNTM症のほうが患者数が多くなってしまいました。そのため、NTMのことを「非定型」的な抗酸菌であるとするのは相応しくないという意見が出てきました。現在では、非定型抗酸菌症という名称は次第に使われなくなってきています。

肺マック(MAC)症との関係

前述の通り、NTM群には100種類を優に超える菌種が含まれます。このうち、ヒトに感染する最も代表的な2菌種がマイコバクテリウム・アビウム(Mycobacterium avium)とマイコバクテリウム・イントラセルラー(Mycobacterium intracellulare)です。

この2菌種は性質が似ているため、まとめてMAC(Mycobacterium Avium Complex)と呼ばれます。MACは基本的には肺に感染し、MACが肺に感染して発症する病気を肺MAC症と呼びます。

国や地域によっても異なるのですが、NTM症のうち80-90%ほどを肺MAC症が占めています。そのため、肺MAC症という病名もよく使われています。

ちなみに、関東・東北・北海道など北のほうでは、肺MAC症の原因としてマイコバクテリウム・アビウムとイントラセルラーが8:2くらいの割合と言われていますが、中国・四国・九州では5:5ほどというデータがあります。また、原因は明らかではありませんが、西南日本のほうがNTM症の患者数は多いと言われています。

2. 非結核性抗酸菌症の原因について

NTMは基本的にヒトからヒトに感染するものではなく、NTMが生息する環境からヒトに感染するものと考えられています。結核菌が動物の細胞に感染しないと生存できないのとは対照的に、NTMは自然環境中に常在しています。

NTMが生息する環境としては、以下のような場所が知られています。

【NTMの生息環境】

  • 池や沼など湿地帯の水や土壌
  • トリ・ブタ・ウシなどの動物
  • 農地や庭などの土壌
  • 浴室内
  • 蛇口や水道水
  • 家庭内の塵 など

このように、NTMは多様な環境中に生息しています。増殖に際しても特殊な栄養源を必要とせず、殺菌剤や紫外線にも強いため、種々の環境で長期に生存できます。

NTMは基本的に肺に感染する菌です。その感染経路としては、環境中のNTMを吸い込んでしまうことが想定されています。以下ではどのような人がNTM症にかかりやすいのか、最も代表的なNTM症である肺MAC症について解説していきます。

肺MAC症に感染しやすい人とは

上記のようにMACなどのNTMは環境中に多く生息しています。農業や土壌運搬、ガーデニングの習慣がある人、プールでよく泳ぐ人などは肺MAC症にかかりやすいというデータもあります。

ところが、ほとんどの人はMACを吸い込んだとしても感染しません。感染するかどうかは、環境要因よりも個々人の身体の問題のことが多いからです。肺MAC症にかかる可能性が高いのは、以下のような人とされています。

【肺MAC症にかかりやすい人】

  • 痩せ型、中高年でタバコを吸わない女性
  • 気管支喘息COPDなど、肺の病気がある人
  • ステロイドの内服治療を受けている人
  • 肺炎で入院したことがある人 など

その他にも、菌に対する免疫に異常が起きているような人では肺MAC症にかかりやすいと言えます。一方で、特に健康に問題のない人がかかってしまうことも多い病気でもあります。健康な人のうちでも、なぜ肺MAC症にかかる人とかからない人がいるのかは十分に解明されていません。

肺MAC症の予防法

MACは環境中に広く生息している菌であり、特に病気のない人に感染することもあるため、予防することは困難です。ただし、なるべくMACに曝露する機会を減らすことにより、感染率を下げることができる可能性もあります。

そのため、もともと肺に持病がある人、免疫に異常をきたす持病がある人、肺MAC症を治療後の人、などでは対策をするとよいかもしれません。MACの曝露を減らす方法として、以下のようなものが挙げられます。

【家庭内でMACの曝露を減らす方法】

  • 2週間ごとに貯湯タンク内の温水を排水する
  • 給湯水の温度を55℃以上に上げる
  • シャワーヘッドを外して定期的に清掃する
  • シャワーヘッドの噴出口は霧状のものではなく流水(口径1mm以上)にする
  • 浴室内の換気を十分に行う
  • シャワーや水道取水口に細菌除去フィルターを取り付ける
  • 2週間ごとに活性炭フィルターを取り換える
  • 加湿器は使用しない
  • エアコンの加湿モードを使用しない
  • 10分間の煮沸で抗酸菌殺菌をした水をなるべく使用する
  • 鉢植え土壌からのほこりを避ける など

このような工夫をしても感染予防は容易でないという意見もありますが、NTM症が心配な人では生活に取り入れてみてもよいかもしれません。

なお、ヒトからヒトには基本的にうつらないと考えられているため、肺MAC症の人との接触や同居を避ける必要はありません。

3. 非結核性抗酸菌症の症状について

NTM症では、肺にNTMが持続的に感染することによって以下のような症状が出てきます。

【非結核性抗酸菌症で出やすい症状】

  • 黄色い痰
  • 血が混じった痰
  • 微熱
  • 全身のだるさ
  • 体重減少 など

これらの症状がよく出ますが、特に症状がなく健康診断などで発見されることも珍しくありません。一方で、病状が進行した人や、病気の勢いが強い人では以下のような症状が出ることもあります。

【非結核性抗酸菌症で出ることのある症状】

  • 高熱
  • 夜間に大量の発汗
  • 喀血
  • 息切れ、呼吸困難 など

いずれの症状も、NTM症以外でも出てくることがあるものです。そのため、これらの症状で困っている人は、まずは胸部X線レントゲン)検査ができる程度の規模の内科を受診してください。咳や痰などの症状が目立つ人では、特に呼吸器内科を受診すると専門的に診てもらえることが多いです。また、NTM症は呼吸器内科が専門としている病気です。

なお、まれではありますが、NTMは子どもで首のリンパ節に感染したり、免疫の機能が著しく低下した人の腸や血液中に感染することもあります。こうした人は、小児科や感染症科のお医者さんが専門に診てくれることが多いです。

4. 非結核性抗酸菌症の検査、診断について

NTM症は、咳や痰などの症状をきっかけとして、あるいは健康診断などで胸部X線(レントゲン)検査を受けて疑われることが多いです。また、胸部X線検査で異常が見つかった人では、胸部CT検査が行われることが一般的です。

X線検査CT検査などの画像検査でNTM症らしい異常が見つかることに加えて、実際にNTMが検出されることも確定診断のために必要となります。そのため、痰の検査や気管支鏡(肺の内視鏡)検査で実際にどのような菌がいるのか確認する検査もよく行われます。

ここではこれらの検査や、補助的に行われる血液検査について説明していきます。

血液検査

血液検査はNTM症の診断を確定させるために必須ではありません。しかし、比較的簡単な検査であるためしばしば行われています。その目的として、他の隠れている病気をチェックしたり、全身の状態を把握するという意味があります。

NTM症に特有の血液検査項目としては、「抗MAC抗体検査」というものがあります。MAC以外のNTMでも偽陽性になってしまうことはあるものの、この検査で陽性であればNTM症の可能性がかなり高いと言われる優れた検査です。健康診断など肺の病気が疑われていない人で抗MAC抗体をチェックすることは基本的にありません。そのため、X線検査やCT検査でNTM症が疑われた人で行われることが一般的です。

その他にも血液検査は、NTM症治療中の副作用をチェックする際にも役立ちます。

画像検査

胸部X線(レントゲン)検査や胸部CT検査などの画像検査は、NTM症が疑われるきっかけとして最も一般的です。CT検査では胸部を輪切り画像として細かく観察できるため、CT検査はX線検査よりも精密な検査と言えます。

肺MAC症の人がCT検査を受けると、両側の肺の真ん中あたり(中葉・舌区)に菌による粒々とした影が見られることがよくあります。他にも菌の種類によって異常が出る場所や影の見え方が異なるので、CT検査では菌の種類をある程度推測することもできます。

喀痰検査

NTM症を疑うきっかけとしては画像検査が重要ですが、NTM症の診断を確定させるためには実際に菌を検出することが必要です。そのために痰の中に含まれる菌を調べて、NTMが存在するかどうか調べるのが喀痰(かくたん)検査です。喀痰検査は以下のようにいくつかの項目に分けられます。

【喀痰検査の内容】

  • 塗抹検査
  • 培養検査
  • 薬剤感受性検査
  • PCR検査 など

◎塗抹(とまつ)検査

塗抹検査では、採取した痰を染色して顕微鏡でチェックします。抗酸菌が存在するかどうかは短時間である程度分かりますが、結核菌なのか、あるいはどのようなNTMなのかは判断が難しいです。

◎培養検査、薬剤感受性検査

培養検査は痰の中に含まれる抗酸菌を、数週間から数ヶ月かけて育てる検査です。これにより、塗抹検査では検出できない少量の菌量でも抗酸菌を検出できるようになります。また、菌量が多くなることにより、どのような菌種なのか詳細に調べることができるようになります。さらに、育てた菌にどのような抗菌薬が効きやすいのかをチェックする「薬剤感受性検査」が行われることもあります。

◎PCR検査

PCR検査は菌の遺伝子を増幅させて、痰の中にどのような菌がいるか速やかに調べる検査です。培養検査はとても有用な検査ですが、かなり時間がかかるのが問題です。そこで、採取した痰に対してPCR検査を行うことで、数日ほどで結核菌やNTMの有無を調べることができます。ただし、PCR検査ではMAC以外の珍しいNTMを検出したり、薬剤の感受性を調べることは困難です。

ここまで、NTM症の確定診断には実際に菌を検出する必要があることを説明してきました。しかし、NTMは環境中にも生息する菌です。そのため、喀痰から検出されたNTMが、例えば飲料水などの環境中から混入したものである可能性は否定できません。したがって、喀痰検査でNTM症だと確定する際は、2回以上繰り返した喀痰検査で同様の結果が得られることが必要です。

気管支鏡検査

気管支鏡検査は、主に口から気管支へと内視鏡を進めて、肺の中の様子を観察したり、肺に対する処置を行うための検査です。胃カメラ大腸カメラを、肺に対して行うようなものなので、いわゆる「肺カメラ」とも言えます。

気管支鏡検査では、痰があまり出なくて喀痰検査ができない人でも、肺の中の病変部位を水で洗ってきた液を使ってNTMに対する検査ができます。また、気管支鏡検査では環境中からの混入は起こりにくいと考えられます。そのため、気管支鏡検査でNTMが検出された人では、そのNTMが病気の原因であると1回の検査で判断できます。ただし、珍しいタイプのNTMや、環境中によくいるタイプのNTMが検出された際には、1回の検査で診断を確定できないこともあります。

5. 非結核性抗酸菌症の治療について

NTM症の治療は、複数の抗菌薬を年単位で使用して、菌の勢いを抑えることが主な目的となります。70歳未満くらいの比較的若い人で、抗菌薬の効きが悪い場合などは手術で肺を一部切除することもありますが、行われる頻度は多くありません。

使われる抗菌薬をはじめとして、治療の戦略は原因となっている菌によって変わってきます。ここではよくある原因菌ごとに分けて治療方針を解説していきます。

肺マック(MAC)症

肺MAC症は日本のNTM症の80-90%ほどを占めており、最もよくあるタイプのNTM症です。中高年の女性を中心に、近年かかる人が増えてきています。

肺MAC症治療の基本は抗菌薬を複数組み合わせて使うことですが、治療しなくてもあまり病状が進行しない人もいます。そのため、診断がついたら必ずしもすぐに治療を始めるのがよいとは限りません。肺の病変の範囲が狭く症状が乏しい人、あるいは治療の副作用が問題になりやすい75歳以上の高齢者などでは治療を見合わせることがよくあります。

一方で、広範囲に肺の病変があり症状が強い人、進行が早い人などでは抗菌薬を組み合わせた治療が行われます。よく使われる抗菌薬には以下のようなものがあります。

【肺MAC症で使われることの多い抗菌薬】

一般的には、まず上の3剤、つまりクラリスロマイシン(あるいはアジスロマイシン)、リファンピシン、エタンブトールを併用することが多いです。ただし、多くの薬剤を年単位で使用していくことになるため、副作用に注意する必要があります。副作用は血液検査で分かるものも多いですが、以下のような症状は血液検査には現れにくいものです。

【肺MAC症の治療時に注意すべき自覚症状】

  • 皮疹
  • 目の見えかたの異常
  • 発熱
  • めまいや耳鳴り
  • 足の痺れ など

担当のお医者さんは、定期的に血液検査や胸部レントゲンX線)検査などを行って副作用の出現に注意しています。しかし、上に挙げたような症状は患者さん本人のほうが早く気付くことも多いものです。そのため、これらの症状を自覚した人は、担当のお医者さんに相談するようにしてください。

肺カンサシ症

肺カンサシ症はマイコバクテリウム・カンサシ(Mycobacterium kansasii)という菌が原因で起こるNTM症です。肺MAC症の次に多いタイプのNTM症であり、日本におけるNTM症の5%ほどを占めるというデータがあります。タバコを吸う男性がかかりやすいとも言われています。

肺カンサシ症は、他のNTM症と比べて抗菌薬の効きがとても良いことが特徴です。薬剤で完治が期待できる唯一のNTM症とも言われています。しかしそれでも、治療期間は1-2年ほどは必要となります。よく使われる抗菌薬には、以下のようなものがあります。

【肺カンサシ症で使われることの多い抗菌薬】

上記の3剤を併用することが一般的です。肺MAC症と同様に、副作用チェックのための血液検査などが定期的に行われますが、以下のような自覚症状には注意が必要です。

【肺カンサシ症の治療時に注意すべき自覚症状】

  • 皮疹
  • 目の見えかたの異常
  • 発熱
  • 足の痺れ など

肺カンサシ症は完治が期待できる病気ではありますが、治療を途中でやめてしまうとしばしば再発することも知られています。そのため、他のNTM症にも言えることですが、年単位での闘病生活を、お医者さんとよく相談しながら根気よく続けていくことが大事です。

肺アブセッサス症

肺アブセッサス症は、主にマイコバクテリウム・アブセッサス(Mycobacterim abscessus)によって引き起こされるNTM症です。日本全体では肺NTM症のうち約3%を占めますが、沖縄では30%近くを占めるというデータもあり、地域差が大きいことが知られています。

肺アブセッサス症は、他のNTM症と比べると治療に難渋することが多いのが特徴です。他のNTM症とは治療の内容も大きく異なり、以下のような薬がよく使われます。

【肺アブセッサス症で使われることの多い抗菌薬】

上記のような薬を使って治療しますが、複数の薬を組み合わせてもあまり効果が見られないことも珍しくありません。また、イミペネムやアミカシンは注射薬なので、入院や通院の頻度も多くなりがちです。

他のNTM症と比べると薬だけで治療するのが特に難しいので、若くて体力がある人などでは、手術による治療を組み合わせることもしばしば検討されます。(手術について詳しくはこちらで説明しています。)

その他、NTM症に関して知っておくとよい日常生活の注意点などはこちらのページにまとめています。

参考文献

日本結核病学会/編, 非結核性抗酸菌症診療マニュアル, 医学書院, 2015