ひけっかくせいこうさんきんしょう
非結核性抗酸菌症(NTM感染症)
結核菌以外の抗酸菌による感染症。ほとんどが肺への感染。
6人の医師がチェック 116回の改訂 最終更新: 2020.12.15

非結核性抗酸菌(NTM)症の治療について:薬物療法、手術など

非結核性抗酸菌症は、非結核性抗酸菌というタイプの菌が肺に住み着いてしまう病気です。菌の種類よって治療の内容は異なり、抗菌薬を長期間使用する、手術する、様子見にする、などの選択肢があります。ここでは、非結核性抗酸菌症の治療について解説します。

1. 非結核性抗酸菌症の薬物治療

非結核性抗酸菌症は完治できることが少なく、残念ながら抗菌薬の効果には限界があります。そのため、複数の抗菌薬を年単位で使用して、菌の勢いを抑える治療が中心となります。70歳未満くらいの比較的若い人で、抗菌薬の効きが悪い場合などは手術で肺の一部を切除することもあります。しかし、実際に手術が行われることは多くありません。

非結核性抗酸菌には100種類を超えるタイプがあります。そして、使われる抗菌薬をはじめとして、治療戦略は感染している菌によって異なります。以下ではよくある原因菌ごとに分けて、手術以外の治療方針を説明していきます。

肺マック(MAC)症

MACはマイコバクテリウム・アビウム(Mycobacterium avium)、あるいはマイコバクテリウム・イントラセルラー(Mycobacterium intracellulare)という非結核性抗酸菌の総称です。MACは肺に感染することがほとんどであり、肺に感染した場合を肺MAC症と呼んでいます。

肺MAC症は日本における非結核性抗酸菌症の80-90%ほどを占めており、最も多いタイプです。中高年の女性を中心に、近年かかる人が増えてきています。

肺MAC症の治療を行う人は、抗菌薬を複数組み合わせて使うことが多いです。治療期間は1年間あるいは2年間、それ以上、などいろいろな意見がありますが、いずれにしても年単位となることが一般的です。

一方で、治療を受けなくても病状があまり進行しない人もいます。したがって、診断されたらすぐに治療を始めるのがよいとは限りません。病変の範囲が狭く症状が乏しい人、治療の副作用が問題になりやすい75歳以上の高齢者、などでは治療を見合わせることも多いです。

広範囲に肺の病変があり症状が強い人、進行が早い人などでは抗菌薬を組み合わせた治療が行われます。よく使われる抗菌薬には、以下のようなものがあります。

【肺MAC症で使われることの多い抗菌薬】

これらの抗菌薬のうち、まずは上の3剤、つまりクラリスロマイシン、リファンピシン、エタンブトールを併用することが一般的です。ただし、多くの薬剤を年単位で使用していくので、副作用には注意が要ります。副作用は血液検査で分かるものも多いですが、下記のような症状は血液検査では分かりにくいものです。

【肺MAC症の治療時に注意すべき自覚症状】

  • 皮疹
  • 目の見えかたの異常
  • 発熱
  • めまいや耳鳴り
  • 足の痺れ など

担当のお医者さんは、定期的に血液検査や胸部レントゲンX線)検査などを行って副作用の出現に注意します。しかし上に挙げたような症状は、患者さん本人のほうが早く気付くことも多いものです。そのため、これらの症状を自覚した人は、お医者さんに早めに相談するようにしてください。

◎エリスロマイシン単剤療法

上で説明した抗菌薬のうち、最も中心的な役割を果たすのはクラリスロマイシンです。しかし、クラリスロマイシンだけで肺MAC症を治療しようとすると、菌がクラリスロマイシンに対する耐性をつくってしまいます。したがって、クラリスロマイシンだけでの治療は避けるべきとされています。ところが、クラリスロマイシンに似ている薬であるエリスロマイシンの場合には、1剤だけで治療しても耐性が問題になりにくいかもしれない、というデータがあります。そのため、無治療で様子見にするわけにはいかないけれども、抗菌薬を3種類も使用するのは難しい人などで、エリスロマイシン単剤療法が行われることもあります。

肺カンサシ症

肺カンサシ症はマイコバクテリウム・カンサシ(Mycobacterium kansasii)という菌が原因の非結核性抗酸菌症です。マイコバクテリウム・カンサシは米国のカンザス州で発見された菌です。日本では肺MAC症の次に多いタイプであり、非結核性抗酸菌症の5%ほどを占めると言われています。喫煙する男性がかかりやすいというデータがあります。

肺カンサシ症は、他の非結核性抗酸菌症と比べて抗菌薬の効きがとても良いことが特徴です。薬剤で完治が期待できる唯一の非結核性抗酸菌症とも言えます。しかしそれでもやはり、治療期間は1年から2年ほど必要になります。よく使われる抗菌薬には、以下のようなものがあります。

【肺カンサシ症で使われることの多い抗菌薬】

上記の3種類の薬剤を併用することが一般的です。肺MAC症と同様に、副作用チェックのための血液検査などが定期的に行われますが、以下のような自覚症状には注意が必要です。

【肺カンサシ症の治療時に注意すべき自覚症状】

  • 皮疹
  • 目の見えかたの異常
  • 発熱
  • 足の痺れ など

肺カンサシ症は完治が期待できる病気ですが、治療を途中でやめると再発しやすい病気でもあります。そのため、他の非結核性抗酸菌症と同様に、お医者さんとよく相談しながら根気よく年単位の治療を続けることが大事です。

肺アブセッサス症

肺アブセッサス症は、主にマイコバクテロイデス・アブセッサス(Mycobacteroides abscessus)によって引き起こされる非結核性抗酸菌症です。日本全体では非結核性抗酸菌症のうち3%ほどを占めていますが、沖縄では30%近くを占めるというデータもあります。韓国や台湾でも20-30%ほどを占めるとされ、地域ごとに差が大きいことが知られています。

肺アブセッサス症は、他の非結核性抗酸菌症と比べて抗菌薬が効きにくいのが特徴です。治療の内容も大きく異なり、以下のような薬が使われます。

【肺アブセッサス症で使われることの多い抗菌薬】

これらのような薬を使って治療されますが、複数の薬を組み合わせてもあまり効果が得られない人も珍しくありません。また、イミペネムやアミカシンは注射薬なので、入院・通院の頻度も多くなりがちです。このように、様々な面で他の非結核性抗酸菌症よりも治療が大変な病気とも言えます。

他の非結核性抗酸菌症と比べると、薬だけでは治療が難しいので、若くて体力がある人などでは手術による治療を組み合わせることも積極的に検討されます。

その他の非結核性抗酸菌症

肺MAC症、肺カンサシ症、肺アブセッサス症以外の非結核性抗酸菌症はかなり珍しい病気です。これら3つ以外の非結核性抗酸菌としては、MACが首のリンパ節に感染するものや、免疫の機能が著しく低下した人の腸や血液に感染するものもあります。

また、さらに珍しいタイプの非結核性抗酸菌が感染することもあります。ヒトに感染する珍しい非結核性抗酸菌には以下のようなものがあります。

【ヒトに感染する珍しい非結核性抗酸菌】

  • Mycobacterium marinum
  • Mycobacterium xenopi
  • Mycobacterium fortuitum
  • Mycobacterium bolletii
  • Mycobacterium massiliense
  • Mycobacteroides chelonae
  • Mycobacterium szulgai
  • Mycobacterium gordonae など

これらの菌についても、それぞれの菌に応じた抗菌薬および治療期間があります。ただし、こうした非結核性抗酸菌症の治療経験が豊富なお医者さんは珍しいと考えられます。そのため、必要に応じて専門的な医療機関を紹介してもらうことになるかもしれません。

2. 非結核性抗酸菌症の手術

ここまで非結核性抗酸菌症に対する抗菌薬での治療について解説してきました。抗菌薬が全ての菌のタイプにおいて主役となるのは間違いありません。しかし一方で、抗菌薬で完治が期待できるのは肺カンサシ症だけです。非結核性抗酸菌症の大半を占める肺MAC症では抗菌薬の治療を受けても、菌の勢いを抑えるものの、期待されるほどの効果は得られないことが珍しくありません。

そこで、非結核性抗酸菌症の治療に外科手術を併用することがあります。手術には大きく分けて2つの目的があります。

【肺非結核性抗酸菌症における手術の意義】

  • 菌が大量にいる部位を切除して、抗菌薬の効く効率を高める
  • 菌が定着する温床になりやすい、壊れてしまった肺を予め取り除く

上記のような意味合いがあります。肺にいる菌の量を減らすことで、菌に対して相対的に免疫細胞や抗菌薬の量が増え、効果が高まることが期待されます。また、肺が破壊された部位にはうまく免疫細胞や抗菌薬が届かないため、菌が繁殖しやすい傾向にあります。そのような部位を予め切除しておくことは有意義なことと考えられます。

外科手術は有効な治療法であることが複数の論文で示されています。しかし、手術で肺を切除しても全ての菌を除去できるわけではないので、手術は根治を目指したものではないことを知っておく必要があります。主に手術が考慮されるのは以下のような状況です。

【肺非結核性抗酸菌症に対する手術適応の目安】

  • 抗菌薬に対する反応が悪い
  • 感染している菌が、主な抗菌薬に対する耐性菌であると分かっている
  • 喀血などの重大な合併症がある など

上記のような状況で手術が検討されます。肺非結核性抗酸菌症に対する手術はそれほど頻繁に行われているものではなく、高度な技術を要求されます。そのため手術を受ける人は、専門的な病院を紹介してもらうことが一般的です。

なお、手術は根治が期待できるものではないため、手術を受けても抗菌薬による治療が不要になるわけではありません。複数の抗菌薬を使用する治療を、年単位で継続していくことが多いのが現状です。

参考文献

日本結核病学会/編, 非結核性抗酸菌症診療マニュアル, 医学書院, 2015