ごえんせいはいえん
誤嚥性肺炎
食べ物を飲み込む際や、気づかないうちなどに、唾液や胃液、食物とともに細菌が気管に入り込むことで生じる肺炎
11人の医師がチェック 138回の改訂 最終更新: 2025.02.04

誤嚥性肺炎はなぜ起こる?むせることが原因?

誤嚥性肺炎は、主に喉の機能が低下することによって、飲食物や唾液などが菌とともに肺に入ってしまうことで起きます。高齢者で多く見られる病気です。ここでは誤嚥性肺炎が起きるメカニズムを詳しく紹介します。

1. 嚥下(えんげ)とはどういう意味か?

嚥下とは食べ物を飲み込み、食道・胃へと送ることを指します。口へんに燕(ツバメ)という難しい漢字で、ツバメがエサを丸呑みする様子が由来と言われています。

誤嚥(ごえん)とは、本来は食べ物の通り道である食道の方に流れるべき飲食物や唾液などが、空気の通り道である気管支や肺の方に入ってしまうことを指します。食べ物ではないものを誤って食べてしまうという意味の誤飲(ごいん)とは違う意味です。

用例:

  • 高齢者が吐いてしまって、嘔吐物を誤嚥した
  • 慌てて食事をしたら誤嚥した
  • 赤ちゃんがタバコを誤飲した
  • 子どもが乾電池を誤飲した

イラスト:喉〜胸にある臓器の断面図

喉頭蓋(こうとうがい)のしくみ

イラスト:喉の断面図

喉頭蓋は、飲食物などが気管に入っていかないようにフタをする役割を担っており、誤嚥を防ぐうえで重要な存在です。呼吸や発声時など、気管・肺の方へ空気を通したい時には気管にフタをせず、嚥下のときには気管にフタをしてくれているわけです。

普段は無意識に行っている嚥下という行為ですが、実は舌や喉、喉頭蓋、食道などの絶妙な連携プレーによって成り立っており、誤嚥しないようになっています。

覚える必要は特にありませんが、食べ物や飲み物を目で見て認識してから飲み込むまでのメカニズムは、医学的に下記の5つの段階に分類されています。

  • (1)先行期:飲食物の形や量、質などを認識して心の準備をする
  • (2)準備期:飲食物を噛み砕き、飲み込みやすくする
  • (3)口腔期:飲食物を口の中から咽頭へと運ぶ
  • (4)咽頭期:飲食物を咽頭から食道へと送り込む
  • (5)食道期:飲食物を食道から胃へと送り込む

正式には、この(4)(5)の運動を合わせて嚥下と呼びます。

2. どうして誤嚥(ごえん)は起こるのか?

なぜ気管にものが落ちる?

通常の嚥下の際には、舌や喉、喉頭蓋、食道などの連携プレーによって口に含んだ飲食物は食道、胃の方へと流れていきます。しかし、もともと脳卒中になったことがある方、認知症の方、寝たきりの方、口や喉に病気のある方などでは、喉周りの筋肉や感覚が衰えているので、間違って気管の方に飲食物が入りやすくなってしまうのです。健康な方でも、急いで食べた場合や話しながら食べた場合などに、気管の方に飲食物が入ってしまうことはあります。

唾液でも誤嚥は起こるのか?

唾液でも誤嚥や誤嚥性肺炎はしばしば起こります

人間の口の中には様々な常在菌が住み着いています。諸説ありますが、口の中の常在菌は数百種類以上にのぼると考えられています。代表的な菌としては、口の中にいるタイプのレンサ球菌やナイセリア属と呼ばれるものがあります。このような口の中の常在菌は毒性が弱く、他の毒性のある菌が口の中に住み着かないように守ってくれているという良い働きもあります。

一方で、口の中とは異なり、気管、気管支、肺などは、健康な方の場合には無菌の環境です。したがって、唾液に含まれる口の常在菌が気管、肺へと落ちてきてしまうと、肺炎を起こしてしまうことがあるのです。

喉の機能が正常な方の場合には、唾液は気管の方になかなか垂れこまないですし、仮に唾液が入りそうになっても自然と咳をして、肺まで唾液が到達するのを防ぎます。さらに仮に多少の常在菌が肺まで到達しても、健康な方の場合には毒性の弱い口の中の常在菌でハッキリとした肺炎にはなりません。

喉の機能が落ちてきている方の場合には、唾液が気管に垂れ込んでしまうことがしばしばあります。また、垂れ込んでもご自身では気づかず、咳が出ないことも多いです。このように気づかないうちに唾液などを誤嚥しているということを不顕性(ふけんせい)誤嚥と呼びます。不顕性誤嚥は寝ている時に起こりやすいとされています。

明らかに飲食物でむせ込んで誤嚥することを顕性誤嚥と呼びます。正確な人数は分かっていないものの、顕性誤嚥よりも不顕性誤嚥による誤嚥性肺炎の方が多いのではないかと推測されています。

3. 誤嚥が起こるとみんな肺炎になるのか?

誤嚥が起きても必ずしも肺炎になるとは限りません。空気の通り道である気管に飲食物を誤嚥してしまった際に、正常では咳反射(せきはんしゃ)という防御機能がはたらいて咳が出て、誤嚥したものを押し出そうとします。さらに、仮に飲食物や唾液などがわずかに肺の方まで入ってしまったとしても、健康な方であれば症状として分かるような肺炎にはなかなかなりません。

誤嚥をして肺炎になってしまうのは基本的には高齢者が中心であり、特に誤嚥性肺炎になりやすい方は以下のような背景がある方です。

  • 脳の病気(脳卒中になったことがある、認知症パーキンソン症候群など)
  • 寝たきり状態
  • 口の中の異常(入歯が合わないなどの噛み合わせ障害、口の中のなど)
  • 胃や食道の問題(胃切除後、胃癌食道癌逆流性食道炎食道憩室など)
  • 薬剤の副作用(睡眠薬や鎮静薬、口が乾燥する薬など)
  • 鼻や口からチューブで栄養を摂っている状態

4. 肺炎を起こす原因となるものは何?

口の中の常在菌など

誤嚥性肺炎の原因としては、口の中の常在菌である口腔内レンサ球菌や嫌気性菌と呼ばれる菌が多いとされています。これらは誤嚥性ではない肺炎においては原因となることが少ない菌であるため、誤嚥性肺炎では使われる抗菌薬抗生物質)も一般的な肺炎とはやや違う傾向にあります。一般的な肺炎における原因菌に関してはこちらのページもご覧ください。

写真:菌のイメージ

胃液

何らかの原因で意識がぼんやりとしている、つまり意識障害のある患者さんが嘔吐してしまった際などに胃液を誤嚥することがあります。このような場合には、細菌による肺炎というよりは胃酸そのものの刺激による肺炎が起こります。胃酸という化学物質による肺炎なので、化学性肺炎やMendelson(メンデルソン)症候群などと呼ばれます。誤嚥性肺臓炎(はいぞうえん)と呼ぶこともあります。

菌による肺炎が同時に起きている場合もあり、そのような場合には抗菌薬での治療が行われますが、胃酸だけであれば嘔吐してしまったものを吸引チューブを使って吸引するなどの治療、必要に応じて人工呼吸による治療が行われることが多いです。菌による肺炎の要素もあるのか、純粋に胃酸だけによる肺炎なのか、判断が難しい場合には念のため抗菌薬が使われます。

参考文献
N Engl J Med. 2001 Mar 1 ; 344(9) : 665-71.