はいけつしょう
敗血症
病原体が血液中に入り込んで全身に広がった重篤な状態
8人の医師がチェック 97回の改訂 最終更新: 2022.10.31

敗血症の症状について:重症化した場合や敗血症性ショック、DICなど

敗血症は全身に影響を及ぼすのでさまざまな症状が現れます。重症化すると脈が触れない、意識がもうろうとするなどの危険なサインが現れます。ここでは敗血症の症状とそれに加えてさらに危険な状態である「敗血症性ショック」、敗血症にともなって起こることが多い「DIC」という状態についても説明します。

1. 敗血症で現れる症状

敗血症とは感染症によって強い炎症反応が起こっている状態です。強い炎症反応は身体にさまざまな変化を起こして症状として現れます。

具体的には次のものです。

  • 体温に異常が起こる
  • 呼吸回数が多くなる
  • 脈拍数が多くなる

「体温」、「呼吸数」、「心拍数」は全身に炎症が起こっていることを示すSIRS(サーズ)の診断基準としても用いられます。SIRSについては「敗血症の検査」で詳しく説明しているので参考にしてください。

体温に異常が起こる

敗血症では体温に異常が起こります。感染症にかかるとほとんどの場合発熱が起こります。感染症が重症化して起こる敗血症でも同様に体温が異常に上がることがあります。発熱は身体の中に侵入してきた病原体に対する炎症反応によって起こると考えられています。一方で、敗血症では体温が下がって平熱を下回る低体温になることもあります。低体温は、熱を作り出す力の低下や血の巡りが悪くなったことなどが原因で起こります。

呼吸回数が多くなる

強い炎症が起こると、身体が必要とする酸素の量が増加します。身体に取り込む酸素の量を増やすために、呼吸の回数が増えます。じっとしている時の健康な大人の呼吸数は1分間あたり12回から18回程度ですが、強い炎症が起こると20回以上になることがあります。敗血症が起こっている場合には、1分間あたりの呼吸数は22回以上になることがあります。

心拍数が多くなる

敗血症が起こると心拍数が増加(脈が速くなる)します。心拍数の増加も呼吸数が増えるのと同様に身体が必要とする酸素の量が増えることが原因です。呼吸によって取り込まれた酸素は血液に溶け込んで全身に運ばれます。心臓はより多くの酸素を届けるために、拍動を多くします。安静にしているときの健康な大人の脈拍数は1分間あたり60回から70回ですが、敗血症で起こるような強い炎症では脈拍数は90回以上になります。

2. 敗血症が重症化したときの症状

敗血症が重症化すると、上で説明した症状に加えて次のような症状が組み合わさって現れます。

  • 脈が触れない、冷や汗が出る
  • 意識がもうろうとする
  • 息が苦しくなる
  • 皮膚に赤いぶつぶつができる、出血しやすくなる

それぞれについて詳しく説明します。

脈が触れない、冷や汗が出る

敗血症が進行すると後述する「敗血症性ショック」という状態になります。敗血症性ショックが起こると血圧が保てなくなります。血圧が低下すると手首や首で脈をとることができなくなります。また、血圧が低下すると身体はなんとか血圧をあげようとして交感神経の働きを強めます。交感神経の働きが強まると現れる症状の1つが冷や汗です。脈が触れない、冷や汗が出るといった症状は身体に十分な血液が巡ってないことをあらわす極めて危険なサインです。

意識がもうろうとする

敗血症が重症化すると意識がもうろうとすることがあります。敗血症を起こすほどの感染症では身体の中で激しい炎症が起きており、その影響で意識がボーっとすることがあります。

また、敗血症が悪化すると血圧が下がり、脳への血の巡りが悪くなって意識状態が悪くなります。意識がもうろうとする場合、身体に速やかに対処しなければいけない事態が起こっている可能性が高いです。敗血症が原因の場合はすぐに治療を始めなければなりませんし、仮に他の原因であったとしてもそれは同じです。すみやかに医療機関を受診してください。

息が苦しくなる

敗血症では身体に激しい炎症が起きています。激しい炎症が起こると、身体は炎症性サイトカインに代表される炎症物質を作り出します。炎症物質のなかには血管の壁に作用して血管の中の水分が外に出やすくするものがあります。肺の血管から水分が染み出して肺胞(酸素と二酸化炭素の交換が行なわれる場所)に水がたまると酸素と二酸化炭素の交換がうまくできなくなり、息苦しさが現れます。

酸素の取り込みが生命を維持できないほど悪化した場合には、人工呼吸器を用いて呼吸のサポートを行います。人工呼吸器では強制的に呼吸をさせたり、自発的な呼吸を楽にするように圧力をかけたりすることができます。

皮膚に赤いぶつぶつができる、出血しやすくなる

敗血症のような激しい炎症が起こると、血液を固める作用と血液をサラサラにする作用のバランスが崩れることがあります。これは後述するDICという状態のことです。DICが起こると血液を固める作用をもつ物質の消費が多くなって不足が起こるので出血しやすくなります。そのため皮膚の下で出血してぶつぶつができたように見えたり、口の中の粘膜から出血しやすくなります。

3. 敗血症性ショックとはどんな状態なのか

敗血症が重症化すると「ショック」という状態が起こります。敗血症性ショックはどんな状態なのでしょうか。

医療現場でのショックとは

「ショック」と聞くと、ある出来事に強い衝撃を受けて精神的なダメージを負ってしまうことを思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。しかし、医療現場で用いられる「ショック」は精神状態ではなく身体の状態を指します。具体的には「全身の血液循環が悪くなることによって多臓器不全が起こり、命に危険が迫っている状態」のことを意味します。

ショックを起こす原因はいくつかあるので次のように分類されます。

敗血症性ショック(septic shock)」はこの中でも血液分布異常性ショックに分類されます。敗血症性ショックは専門用語を用いると次のように定義されます。

  • 適切な輸液負荷にもかかわらず、平均血圧を65mmHg以上に維持するのに昇圧薬を必要とする、かつ血中乳酸値が2mmol/L以上を呈する状態

難しい言葉が続いているので噛み砕いて説明します。

まず平均血圧について説明します。

平均血圧は(収縮期血圧拡張期血圧+拡張期血圧)÷3で求められる値で、臓器への血流が十分であるかの目安として用いられます。

低下した血圧を上げる方法には「点滴で血液の量を補う方法」と「昇圧薬を使う方法」の2つがあります。

「点滴で血液の量を補う方法」とは、血液量の不足が原因で血圧が低下している場合に、点滴で血管の中に水分を補うことで血圧の改善を図る方法です。「適切な輸液負荷」がこれにあたります。

しかし、敗血症ショックが起こると十分な補液を行うだけでは血圧を保つがことができません。そのため「昇圧薬を使う方法」も必要になります。昇圧薬とは心臓の動きを強めたり血管の太さを細くしたりして血圧を上げる働きをもつ薬です。つまり、敗血症性ショックとは打てる手を打ってなんとか臓器への最低限の血流を維持しているという危険な状態です。

4. 敗血症で起こるDICとはどんな状態なのか

敗血症が重症化するとDIC(ディーアイシー)という極めて深刻な状態が起こります。

血液には「血液を固める作用」と「血液をさらさらにする作用」の2つの作用があります。DICはこの2つのバランスが崩れた状態のことを指します。DICはDisseminated Intravascular Coagulationの略で、日本語では播種性血管内凝固といいます。臨床現場ではDICと呼ばれることが多いです。

DICは敗血症に限らず重症な病気をきっかけに起こることが知られており、がんや大量出血、急性膵炎などでも起こります。

DICが起こり「血液を固める作用」が強まると、血管の中に血栓(血の塊)ができます。身体の至るところに血栓ができてしまうと、臓器に酸素や栄養を届けることができなくなり、多くの臓器の機能が低下します。この状態を多臓器不全といい、生命の維持が難しくなります。

逆に、血液を固める作用をもつ物質が使われすぎると「血液を固める作用」が不十分になって出血が起こりやすくなります。出血が起こりやすくなった状態では「敗血症状が重症化したときの症状」で説明したように「皮膚に赤いぶつぶつができる」「出血しやすくなる」といった症状が現れます。

DICは極めて重篤な状態なので、早期に発見して治療が行なわれることが重要です。DICに陥っているかどうかの判断は血液検査で行なわれます。敗血症の治療中に繰り返して血液検査が行なわれる目的の1つにDICの早期発見があります。

DICの状態を改善するには、まず原因となっている病気の治療を行います。敗血症が原因の場合は抗菌薬を中心とした「感染症の治療」が行なわれます。DICの治療がうまく運ぶどうかは敗血症の原因となっている感染症の治療にかかっています。

また、崩れてしまった「血液を固める作用」と「血液をさらさらにする作用」のバランスを整える薬(トロンボモジュリン製剤ヘパリンアンチトロンビン製剤など)が併行して用いられることもあります。

DICについては「播種性血管内凝固(DIC)の基礎情報ページ」でも詳しく説明しているので参考にしてください。