敗血症の検査について:血液検査・細菌学的検査・診断基準など
敗血症は命にかかわる危険な状態です。敗血症が疑われる場合は診察や検査で素早く診断が行なわれて、治療が開始されることが望まれます。ここでは敗血症の診断に用いられる診察や検査、診断基準を中心に説明します。
1. 問診:状況や背景の確認
以下は問診で聞かれる質問の例です。
- どんな症状を自覚するのか
- 症状が起きたのはいつくらいか
- 症状が強く出ている場所はあるか
- 症状は軽くなったりひどくなったりするか
- 持病はあるか
- 定期的に飲んでいる薬はあるか
問診の答えをもとにして、
次に問診の中でも答え方に工夫が必要だと考えられる「持病はあるか」と「定期的に飲んでいる薬はあるか」の2つについて詳しく説明します。
持病はあるか
糖尿病の人や肝硬変の人などは敗血症を起こしやすいことが知られています(敗血症を起こしやすい人の特徴は「敗血症の原因」で説明しているので参考にしてください)。敗血症になりやすい持病があるかどうかはその後の経過を予想する上でも重要です。
持病と言われると、現在治療中の病気のことを想像する人が多いと思いますが、過去に治療した病気も忘れずに伝えるようにしてください。敗血症は人工物を身体に埋め込んでいる人に起こりやすいことが知られています。例えば関節を人工関節にしている人は、生活に影響がなくなるとついつい忘れがちになってしまいます。
持病を伝えるときには、「通院をしている病気」「治療をしていたが治ったと言われた病気」「入院をしたことのある病気」を頭の中で思い出して説明すると整理がしやすいです。
定期的に飲んでいる薬はあるか
敗血症で状態が悪化すると人工呼吸の管の挿入などが必要になり自分で薬の内服ができなくなることもあります。その際には、飲み薬を注射薬に置き換えなければなりません。このため、あらかじめお医者さんに自分が服用している薬を伝えておく必要があります。
薬をたくさん飲んでいると、それぞれの薬の種類を全て覚えておくのは簡単ではなくなります。服用中の薬を医療関係者に上手に伝える方法として「お薬手帳」を活用するとよいです。お薬手帳には「薬の種類」や「薬の開始時期」などが記されているので、これをみせることでもらさずに服用している薬の情報を伝えることができます。
2. 身体診察
身体診察はお医者さんが患者さんの身体をくまなく観察したり、触ったりして調べることを指します。具体的に診察では次のようなことが行なわれます。
身体診察を行うことで感染を起こしている場所を特定できたり、重症度の推測ができたりします。
バイタルサイン の確認- 視診
聴診 - 打診
- 触診
バイタルサインの確認
バイタルサインは英語の「vital signs(バイタルサインズ)」のことを指します。直訳すると生命徴候という意味です。生命に危険が迫っているとバイタルサインに異常が現れます。
バイタルサインは以下の6つのことを指すことが多いです。
【バイタルサイン】
- 体温
- 脈拍数
- 呼吸数
- 血圧
- 意識状態
- 酸素飽和度(血液中に含むことができる酸素の最大量に対して実際に含まれている酸素の割合)
バイタルサインを確認することで、身体に異常を起こしている原因が何か素早く見当をつけることができます。また、後述する「敗血症かどうかを判断するための診断基準」にもバイタルサインは用いられます。
視診
身体の様子を見た目で判断する診察方法を視診といいます。明らかな変化がある場合は見た目だけで判断することができます。視診ではお医者さんは身体の隅々を観察しますが、見落としを少なくするために、おかしな感覚がある場所などは自分から伝えるようにしてください。
聴診
聴診器を用いて身体の中の音を聞く診察方法を聴診といいます。胸部からは心臓や肺の音が聞こえますし、腹部からは腸の音が聞こえます。臓器に異常が起こっていると聴診でも正常な状態とは違った音が聞こえるので、感染が起きている場所の推定に役立ちます。
打診
打診は背中やお腹などを軽く指で叩いて中で異常が起こっているかを調べる診察方法です。例えば、お腹にガスが溜まっている場合には太鼓を叩いているような感触が得られたりします。
触診
触診は身体の一部分を押したり念入りに触ったりする診察の方法です。特に腹部の診察で重要です。お腹を強く押したり急に手を離したりして痛みの変化を観察しています。例えば、敗血症を起こす腹膜炎という病気になると腹膜刺激症状という症状が現れます。腹膜刺激症状とは、お腹を押さえたときより離したときに痛みが強くなる症状のことです。触診は痛みを伴うこともありますが、重要な診察方法です。症状の程度や変化をお医者さんに伝えるようにしてください。
3. 細菌学的検査
細菌学的検査には「塗抹検査」と「
塗抹検査
塗抹検査では感染が疑われる
原因菌のより詳しい情報は培養検査で調べられます。
培養検査
培養検査とは、検体(血液や痰、胆汁、尿など)に含まれている細菌を微生物が育ちやすい環境下で育てて数を増やし、特徴をより詳しく観察する検査です。培養検査では細菌が増えるのを待つ必要があるので、塗抹検査のようにスピーディーに診断をすることはできませんが、より確実な情報を得ることができます。培養検査の結果が出れば、塗抹検査で大まかであった細菌の正体が明らかになるので、塗抹検査をもとにして選んだ抗菌薬を最も適したものに選び直すこともできます。
4. 血液検査:白血球やCRPについて
敗血症が疑われる人は血液検査を用いて身体の中に「どの程度の
敗血症が疑われる人の血液検査では主に次の項目が注目されます。
- 全身の炎症の程度をみる検査
白血球 (WBC)CRP
- 血液の凝固機能をみる検査
血小板 - PT
- APTT
- FDP
- D- ダイマー
- 呼吸の状態をみる検査
動脈血 液ガス分析
- 肝臓の機能をみる検査
ビリルビン (Bil)- AST
- ALT
- 腎臓の機能をみる検査
- クレアチニン
- 尿素窒素
このうち太文字で記したものはSIRSやSOFAといった敗血症の診断基準の項目として用いられるもので特に重要です。(SIRSやSOFAは「敗血症の診断基準」を参考にしてください)
次に、これらの項目についてもう少し詳しく説明します。
全身の炎症の程度をみる検査
感染症が起こると多くの場合、体内で炎症が起こります。炎症が起こると
体内への影響は血液検査からも推し量ることができます。
■白血球数(WBC)
白血球数は感染症が疑われる際に頻繁に測定される検査項目です。お医者さんから示された検査結果にはWBCと表記されているかもしれません。白血球は英語でwhite blood cellといい、その略がWBCです。
白血球は体内で感染が起こると増えることが多いため、感染の有無を推測するためによく用いられます。白血球数が正常範囲を超えることは感染以外でも起こるために、白血球の増加だけでは感染が起こっているとは考えられない点については注意が必要です。
■CRP
CRPは炎症が起こったときに肝臓で作られるタンパク質です。ちなみにCRPはC-Reactive Protein(Cーリアクティブプロテイン)の略です。
CRPは白血球同様に感染症が疑われたときに頻繁に測定される検査項目です。CRPは感染症だけでなく
血液の凝固機能をみる検査
敗血症が重症化するとDIC(ディーアイシー:播種性血管内凝固)という状態が起こることがあります。DICは「血液を固める作用」と「血液をさらさらにする作用」のバランスが崩れた状態です。血管の中に
呼吸の状態をみる検査
敗血症が重症化すると呼吸状態にも影響を及ぼします。具体的には酸素と二酸化炭素の交換が不十分になります。身体の酸素と二酸化炭素をみる検査として動脈血液ガス分析があります。動脈血液ガス分析では血液中の酸素濃度(PaO2)や二酸化炭素濃度(PaCO2)を知ることができます。酸素濃度(PaO2)は後述する敗血症の診断基準であるSOFAスコアにも用いられる重要な値です。
他にもpH(水素イオン濃度)や重炭酸イオン(HCO3-)、乳酸なども合わせて調べることができるので、全身のバランスを探ることができます。
肝臓の機能をみる検査
肝臓は血流が多い臓器なので、敗血症になって全身の血液の巡りが悪くなると影響を受けやすいです。肝臓への血流が低下すると肝臓がダメージを受けてビリルビン(Bil)やAST、ALTといった肝臓逸脱
このうち、ビリルビンは敗血症の診断基準であるSOFAスコアにも用いられています。
腎臓の機能をみる検査
腎臓の機能の評価には主にクレアチニンが用いられます。クレアチニンが上昇すると腎臓の機能が低下していることが示唆されます。また、後述する敗血症の診断基準であるSOFAスコアにもクレアチニンが含まれています。
腎臓の機能には老廃物を尿の一部にして身体の外に排泄する働きや、
敗血症が起こった後には腎臓の機能に注目しておく必要があります。
5. 画像検査
画像検査には
敗血症の患者さんによく用いられる超音波検査と
超音波検査(エコー検査)
超音波検査は身体の中を深部まで観察できる検査です。超音波を身体の外からあてると、臓器などに当たって反射します。超音波検査ではこの反射の程度を画像にします。放射線を使わないので、レントゲン検査やCT検査と違って被曝の可能性はありません。超音波検査は空気や骨などがある場所はうまく画像にできませんが、空気や骨がないお腹の中を調べるのには向いています。
実際の方法としては、観察をする場所にジェルを塗ってプローブという超音波が出る機械を当てて検査をします。プローブの先にあるものが画像として映し出されます。また、超音波検査はCT検査や
X線検査(レントゲン検査)
X線検査は放射線を使った検査です。健康診断などで受ける
しかし、後述するCT検査に比べると得られる情報量が少ないので、診断の決め手にならないこともあります。その際にはCT検査を行いより詳しく調べられることになります。
CT検査
CT検査はX線検査と同様に放射線を使った検査で、身体の中を輪切りにした形で観察することができます。CT検査は全身を短時間で調べることができ、頭からお腹までを調べたとしても数分で結果を知ることができるので、いち早く原因を調べる必要がある敗血症にはとても有用な画像検査です。検査の結果、敗血症の原因が推定できれば、抗菌薬治療を開始したり、処置や手術の必要性についての判断をすることができます。
敗血症の治療中にもその効果を調べるために、CT検査を繰り返して行うことがありますが、被曝の影響を考えて最小限の回数に抑えられるような配慮がされます。
6. 敗血症の診断基準:SIRS、SOFAスコアなど
いくつかの診察や検査の結果が組み合わせられて敗血症の診断が行なわれます。ここではSIRSとSOFAスコア、quick SOFAスコアの3つについて説明します。
これ以降は専門的な内容ですので、すべてを理解する必要はありませんが、敗血症がどのようなポイントに注目して診断されているのかなどの参考にしてください。
SIRS
SIRS(サーズ)はSystemic Inflammatory Response Syndromeの略で、これを直訳すると全身性炎症反応症候群になります。臨床現場ではSIRSと呼ばれることの方が多いです。
SIRSは下記の診断基準のうち2項目を満たす状態と定義されています。
【SIRSの診断基準】
チェックする項目 | 基準 |
体温 | 38度より高いあるいは36度未満 |
脈拍数 | 1分間に90回より多い |
呼吸数 | 1分間に20回より多い呼吸数あるいは PaCO2(動脈血中の二酸化炭素濃度)が32Torr未満 |
白血球数 | 12,000/mm3より多いあるいは4,000/mm3より少ない あるいは幼若 |
SIRSは全身が炎症を起こしている状態を指しており、感染症以外でも怪我や手術後にも見られる現象ということには注意が必要です。つまり、SIRSの状態だからといって敗血症が起こっていると直線的に考えることはできません。
以前は感染症によってSIRSの基準を満たすものが、「敗血症」と診断されていました。
しかし、「敗血症」の定義が見直された結果、現在はSIRSを敗血症の診断に用いない新しい診断基準が提唱されました。次に説明するquick SOFAスコアやSOFAスコアを用いた方法です。
SIRSは敗血症の診断基準として用いられなくなったとはいえ、歴史があることに加えて、検査項目が多いSOFAスコアより簡便に調べることが出来るので、今も臨床現場ではqSOFAスコアやSOFAスコアとともに用いられています。
qSOFA(quick SOFA)スコア
qSOFAスコアはSOFAスコアを用いる前に簡便に点数をつけるもので、以下の項目のうち2つ以上に当てはまる場合を陽性とします。陽性の場合にはより詳しい情報が得られるSOFAスコアが調べられます。
【qSOFAスコアの評価項目】
- 呼吸数:1分間に22回以上
収縮期血圧 :100mmHg以下- 意識レベルの低下
「収縮期血圧」と「意識レベルの低下」は耳に馴染みがないと思うので個別に説明します。
■収縮期血圧
収縮期血圧は血圧を測定したときの数値が高い方の血圧のことです。「
意識レベルの低下はGCS(ジーシーエス)という評価の方法で判断されます。GCSはGlasgow Coma Scale(グラスゴー・コーマ・スケール)の頭文字をとった略語です。qSOFAスコアでの「意識レベルの低下」はGCSで15点未満のことを指します。
専門的な内容になりますが、以下にGCSについて記します。
【Glasgow Coma Scale】
- 開眼機能(Eye opening:E)
- 4点:自発的に、またはふつうの呼びかけで開眼
- 3点:強く呼びかけると開眼
- 2点:痛み刺激で開眼
- 1点:痛み刺激でも開眼しない
- 言語機能(Verbal response:V)
- 5点:見当識が保たれている
- 4点:会話は成立するが見当識が混乱
- 3点:発語は見られるが会話にならない
- 2点:意味のない発声
- 1点:発語みられず
- 運動機能(Motor response:M)
- 6点:命令にしたがって四肢を動かす
- 5点:痛み刺激に対して手で払いのける
- 4点:指への痛み刺激に対して四肢を引っ込める
- 3点:痛み刺激に対して緩徐な屈曲運動
- 2点:痛み刺激に対して緩徐な伸展運動(除脳姿勢)
- 1点:運動見られず
GCSは「開眼(E)」、「言語(V)」、「運動(M)」の3つの要素を調べることで意識状態を評価します。 具体例をあげてみます。
【GCSを用いて意識状態を評価した例】
- 開眼している→E4点
- 意味不明な言葉を発して会話にならない→V3点
- 痛み刺激に対して手で払いのける→M5点
この場合はE4V3M5、合計12点といった具合に点数化されます。
正常な意識状態の場合のGCSは満点の15点です。qSOFAスコアで意識状態に問題があると診断されるのは15点未満なので、少しでも意識の変容がある場合には、qSOFAスコアの意識レベルの低下に該当することになります。
qSOFAスコアのうち2項目以上に当てはまり、陽性となった場合には次に説明するより詳しい情報が得られるSOFAスコアが求められます。ただし、qSOFAスコアのうち2項目以上を満たさなくても、敗血症が疑わしいと考えられる場合には、SOFAスコアの判定に進み、敗血症かどうかの判断が行なわれます。
SOFAスコア
SOFAスコアはSequential Organ Failure Assessmentの略です。敗血症の新しい診断基準として用いられています。SIRSを用いた基準に比べて臓器の機能に障害があるかが重視されており、qSOFAスコアで調べた内容の一部がより詳しい形で項目に組み込まれています。
各項目にはかなり専門的な内容が含まれていますので、覚える必要はなくどのような項目が重視されているかなどに注目して読んでください。
【SOFAスコア】
0点 | 1点 | 2点 | 3点 | 4点 | |
呼吸 PaO2/FiO2 (mmHg) |
400以上 | 400未満 | 300未満 | 200未満及び呼吸補助 | 100未満及び呼吸補助 |
凝固 血小板数(個/μL) |
15万以上 | 15万未満 | 10万未満 | 5万未満 | 2万未満 |
肝臓 ビリルビン (mg/dL) |
1.2未満 | 1.2-1.9 | 2.0-5.9 | 6.0-11.9 | 12.0以上 |
循環 平均血圧 DOA,DOB, Nad,Ad の単位は μg/kg/min |
70mmHg以上 |
70mmHg未満 |
DOA 5未満 あるいはDOBの併用 |
DOA 5.1-15 あるいは Nad 0.1 以下 あるいは Ad 0.1 以下 |
DOA 15.1 以上 あるいは Nad 0.11 以上 あるいは Ad 0.11 以上 |
中枢神経 GCS |
15 | 13-14 |
10-12 | 6-9 | 6未満 |
腎臓 クレアチニン(mg/dL) 尿量(mL/日) |
1.2未満 | 1.2−1.9 | 2.0-3.4 | 3.5-4.9 500未満 | 5.0以上 200未満 |
*PaO2:Partial pressure of arterial oxygen(動脈血酸素分圧)
*FiO2:Fraction of inspiratory oxygen(吸入酸素濃度)
*DOA:dopamine(ドパミン)
*DOB:dobutamine(ドブタミン)
*Nad:noradrenaline(ノル
*Ad:adrenaline(アドレナリン)
*GCS:Glasgow Coma Scale(グラスゴー・コーマ・スケール)
*平均血圧:(収縮期血圧+
感染症が原因でSOFAスコアが2点を上回る場合、敗血症と診断されます。
また、SOFAスコアが高いほど、多くの臓器がダメージを受けていたり、深刻なダメージを受けていたりすることを意味します。SOFAは治療経過を評価する際にも用いられることがあります。具体的に言うと、SOFAの点数が小さくなると臓器の障害は改善傾向にあると判断することができます。重症の敗血症は日々刻々と状況が変化していくので、SOFAのような客観的な評価基準を用いてそのときの状況を判断することが、適切な治療をする上で重要です。