腎がん(腎細胞がん)のステージと生存率について:5年生存率や転移のある状況での生存率など
腎がんと一口にいっても初期の小さなものから、大きくなって進行したものまで多様です。様々な腎がんの状態を表す方法として
1. 腎がんのステージ
腎がんのステージはI-IVまであります。腎がんのステージは、腎がんを次の3つの状態で評価して行われます。
- T分類:
原発巣 (原発腫瘍 )の状態 - N分類:
リンパ節転移 - M分類:
遠隔転移
上の3つでステージを決める方法をTNM分類と呼びます。
次にそれぞれの分類について詳しく説明しますが、専門的な内容を多く含んでいるので、読み飛ばして次の「ステージと生存率」に進んでも問題はありません。
T分類
T分類のTはTumor(腫瘍)の頭文字をとったものです。 まず、4段階(T1、T2、T3、T4)に大きく分かれ、その中がさらに細かく分かれます。 T分類の診断は
ここからはさらに細かい分類が続きます。これらの基準を覚えたり完全に理解する必要はありせん。お医者さんは
- T分類-原発腫瘍
- T1 最大径が7cm以下で腎に限局する腫瘍
- T1a 最大径が4cm以下
- T1b 最大径が4cm以上を超えるが7cm以下
- T2 最大径が7cmを超え腎に限局
- T2a 最大径が7cmを超えるが10cm以下
- T2b 最大径が10cm以上を超える腫瘍
- T3 腫瘍が主要な静脈内への進展、または腎周囲脂肪組織への浸潤をきたすが同側副腎への浸潤はなく、Gerota筋膜を超えない
- T3a 腎静脈または腎周囲脂肪組織への浸潤するがGerota筋膜を超えない
- T3b 横隔膜以下の下大静脈内進展
- T3c 横隔膜を超える下大静脈内進展または下大静脈壁への浸潤
- T4 Gerota筋膜を超える腫瘍
- T1 最大径が7cm以下で腎に限局する腫瘍
T分類は手術の方法を決める判断材料になります。 腎がんの手術法には、腎臓を丸ごととる腎摘除術と、がんとその周りだけを切り取る腎部分切除術の2つがあります。T分類を参考にして、適した治療が選ばれます。詳しくは「腎がんの手術」で説明しているので参考にしてください。 また、腎がんには大きくなると血管(静脈)の中に入りむ性質があります。静脈の中に入り込んだ腎がんは静脈を切り開いて取り除かれなければなりません。また、血管の中にがんが入り込んでいると、そうでない状態に比べると再発しやすい傾向があるので、治療後はより念入りに再発の有無が調べられます。 T4は原発巣の状態としてはもっとも深刻な段階です。 腎臓の周囲には脂肪(腎周囲脂肪織)があり、腎臓と腎周囲脂肪織はゲロタ筋膜(Gerota筋膜)という強固な膜で覆われています。ゲロタ筋膜は強固な構造物で、がんでも簡単には破壊できません。このゲロタ筋膜が破壊されているということはがんの
N分類
N分類は所属
- N分類-所属リンパ節(腎門、腹部
大動脈 、大動脈リンパ節)- N0 所属リンパ節転移なし
- N1 単発の所属リンパ節転移あり
- N2 複数の所属リンパ節転移あり
リンパ節というのは、全身にたくさんある小さな器官です。がんが時間とともに徐々に大きくなると、リンパ管や血管などの管の壁を破壊し侵入します。リンパ管の中にはリンパ液という液体が流れており、全身のリンパ管はつながっています。 リンパ管にはところどころにリンパ節という関所があり、リンパ管に侵入したがん細胞はリンパ節で一時的にせき止められます。がん細胞がリンパ節に定着して増殖している状態がリンパ節転移です。
所属リンパ節とはがんが初期に到達するリンパ節のことを指します。
【腎がんの所属リンパ節】
- 腎門部リンパ節
- 腹部傍大静脈リンパ節
- 腹部大動静脈間リンパ節
- 腹部傍大動脈間リンパ節
所属リンパ節に1個の転移の場合はN1、複数のリンパ節転移がある場合はN2とします。所属リンパ節以外のリンパ節転移は遠隔転移に分類されます。 リンパ節転移が1個と複数個で比較したところ、複数個のリンパ節転移を認めた場合の方が再発率や余命が短かったとする報告があります。
参考: J Urol. 2006;175:864-869, Eur Urol. 2009;55:28-34
M分類
M分類は遠隔転移の評価です。MはMetastasis(転移)の頭文字です。 腎臓から離れた臓器に腎がんが転移することを遠隔転移と言います。転移でも所属リンパ節への転移は遠隔転移とは言いません。また、単に「転移」と言うと遠隔転移を指す場合が多いです。 腎がんが転移しやすい臓器は、肺、肝臓、骨、膵臓、脳などが挙げられます。 混乱しがちなのですが、所属リンパ節以外のリンパ節転移は遠隔転移に分類されます。
- M分類-遠隔転移
- M0 遠隔転移なし
- M1 遠隔転移あり
一般的には遠隔転移があるがんに手術をしても、メリットがほとんどないため、遠隔転移があるときに手術(原発巣の切除)は行われません。しかし、腎がんでは遠隔転移があっても、原発巣を切除することで余命が延長することがわかっているので、全身状態が良いことなどの一定の条件を満たしている人には手術が行われます。
TNMの組み合わせとステージの決め方
T分類、N分類、M分類が分かると、下の表に従ってステージが決まります。
ステージ分類 | T分類 | N分類 | M分類 |
ステージⅠ | T1 | N0 | M0 |
ステージⅡ | T2 | N0 | M0 |
ステージⅢ | T3 | N0 | M0 |
T1-T3 | N1 | M0 | |
ステージⅣ | T4 | any N0 | M0 |
any T | N2 | M0 | |
any T | any N | M1 |
*anyはどの状態でもという意味です。
ステージは生存率や治療法と密接な関係があります。次にステージと生存率について説明します。
2. 腎がんのステージと生存率:ステージIII(3)、ステージIV(4)の生存率など
各ステージでの生存率について解説します。ここで取り上げている数値は2000年代に報告されたものが中心になるので、現在の治療を必ずしも反映しているとは限りません。ここ数年で腎細胞がんの治療は薬物治療を中心に進歩を遂げており、ここで紹介する生存率を上回る可能性が十分あります。
ステージI
転移がなく、大きさが7cm以下の腎がんです。手術は腎部分切除を中心に行われます。(腎部分切除の詳細については「腎がんの手術はどんな手術?」で説明しています)
【ステージIの
- 87.4%(実測生存率)
腎がんが見つかった人のうち、ステージ1の人が68.5%を占めます。手術によって治る可能性が高いステージであり、5年生存率は高い数字を示しています。
ステージII
転移がなく大きさが7cmを超えるものの、がんが腎臓に留まっている状態です。
【ステージIIの5年生存率(2014年-2015年診断)】
- 82.0%(実測生存率)
腎がんは大きいほうが転移や再発しやすい特徴があります。ステージIIはステージIに比べると生存率は低い傾向にありますが、他のがんのすてーじ2と比べると5年生存率は高い水準と言えます。
ステージIII
ステージIIIは下記のいずれかを1つ満たす状態です。
- 転移がなく、腎臓の周囲の脂肪(腎周囲脂肪織)に浸潤している
- 転移がなく、腎がんが静脈の中に入ってい、腫瘍栓を形成している
- 1つのリンパ節転移を有する(腎がんはゲロタ筋膜を超えて進展しておらず、遠隔転移がない)
ステージⅢを簡単に表現すると、腎がんがある程度進行しているものの腎臓から離れた場所には転移が見つからない状態です。腎がんは血管の中に入り込んで発育し、腫瘍栓(しゅようせん)というものを形成することがあります。腫瘍栓は転移とは呼びません。腫瘍栓は原発巣(もともと発生した場所にある腎がん)と繋がっており摘出することでがんを取りきれる可能性があります。 腎臓にがんが限局している(留まっている)場合でも、所属リンパ節に1個のリンパ節転移がある場合はステージⅢになります。複数の所属リンパ節転移がある場合はステージⅣです。
【ステージIIIの5年生存率(2014年-2015年診断)】
- 69.6%(実測生存率)
ステージⅢの腎がんで5年生存率は69.6%です。進行した状況ですが、手術によりがんを全て取り除くことができれば完治が望める方もいると考えられます。
また、ここで示した数値は2014-2015年に診断された人々の治療結果であり、近年登場した効果の高い治療薬を使った人の結果が含まれてはいません。このため、現在の生存率がここで示した数値を上回ることは十分ありえます。
ステージIV
ステージIVは以下のいずれかに当てはまる場合です。
- 腎がんがゲロタ筋膜を超えて進展している
- 所属リンパ節に複数個の転移がある
- 遠隔転移がある
ステージ4でも3つの条件を全て満たすものと1つだけ満たすものでは、大きく状態が異なります。全身の状態がよく切除可能であると考えられる場合には、原発巣や転移巣の切除も考慮されます。
【ステージIVの5年生存率(2014年-2015年診断)】
- 17.2%(実測生存率)
ステージIVの5年生存率は厳しい数字です。ですが、手術や薬物治療により余命の延長が期待できます。手術で腎臓を摘出できれば、生存期間が5.8ヶ月延長した(中央値)という報告があります。
また、ここで示している生存率は2014-2015年に診断された人々の治療結果に基づくものなので、近年登場した薬物療法はほとんど使われていません。近年登場した薬には有望なものがいくつかあります。具体的には、スニチニブ・アキシチニブ・ペムブロリズマブなど余命延長・進行抑制の効果が確認されている薬が登場していますし、さらに新しいニボルマブとイピリムマブ併用療法も有望です。この治療の有効性が試された臨床試験では、半数を超える人が42ヶ月生存したと報告されており、腎がんステージIVの生存率を大きく改善する可能性があります。そして、これからも有望な薬の発見は続くと思われます。
最期に生存率との付き合い方について触れます。生存率はあくまで過去に治療を受けた人の結果です。現在の治療を反映するものではありません。どうしても気になってしまう気持ちは理解できますが、あくまで参考程度と考えてください。先に述べたように、今の治療は以前より進んでいることは明らかです。数値に惑わされるのではなく、前向きに治療を受け、一日一日を大切に過ごすことをおすすめします。
参考:
Cancer. 2005;104:968-074
Cancer. 2007;109:2439-2444
J Clin Oncol. 2002;20:2376-2381
J Urol 2004;171:1071-1076
NCCN Guidelines kidney Cancer
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