こうかりうむけっしょう
高カリウム血症
血液中のカリウム濃度が何らかの原因により上昇した状態
16人の医師がチェック 145回の改訂 最終更新: 2024.10.08

高カリウム血症の原因:腎不全、高血圧の薬など

高カリウム血症は腎不全など腎臓からのカリウム排泄が落ちている状況で起きやすいです。また横紋筋融解症のように細胞内のカリウムが血液に漏れ出ることや、副腎不全などのホルモンの病気、薬の副作用によるものもあります。

1. 高カリウム血症はなぜ起きるのか?メカニズムによる分類

高カリウム血症は血液中のカリウム濃度が高い状態です。

食べたものに含まれるカリウムは体内に取り込まれます。一方で身体の中にある余分なカリウムは尿などを通じて体外に排出され、身体の中のカリウムの量は一定になるよう調整されています。しかし、腎臓から排泄できるカリウムの量より多いカリウムを摂取してしまうと身体の中のカリウムの量が過剰となり、高カリウム血症が起こります。

また、身体はいろいろな細胞が集まってできていますが、細胞の中にはカリウムが含まれています。細胞が壊れるなどして細胞の中のカリウムが血液中に移動することがあると高カリウム血症の原因になります。

身体の中で出ているホルモンの異常や薬の副作用も高カリウム血症の原因になります。これらに対してはホルモンを正常にする、薬を中止するといったように、治療が少し異なります。まとめると高カリウム血症の原因は以下のように分類されます。

  • カリウムの過剰摂取
    • フルーツ、ナッツ、豆類、サツマイモ、アボカドなどの食べ過ぎ
  • カリウム排泄の低下
  • 細胞内から血液へのカリウムの移動
  • ホルモンの異常
    • 副腎不全
  • 薬の影響
    • 降圧薬(ACE阻害薬、ARBなど)
    • 利尿薬(抗アルドステロン薬)
    • 鎮痛薬(NSAIDs
    • 抗菌薬・抗真菌

以上のように原因を分けて考えることは、適切な治療を選択するために重要です。詳しくは以下で説明していきます。

2. カリウムの過剰摂取

カリウムの摂取量が、腎臓で排泄される量より多いと高カリウム血症を起こします。健康な人では通常の食事の中に含まれるカリウム量を問題なく腎臓から排泄できるので、高カリウム血症を起こすことはありません。しかし、腎臓の機能が落ち、カリウムの排泄量が少なくなると、食事中に含まれるカリウムの量が多い時に高カリウム血症を起こすことがあります。カリウムが特に多いものとしては、フルーツ、ナッツ、豆類、サツマイモ、アボカドなどがあります。腎臓で十分なカリウムの排泄ができないと医師に判断された場合には、上記を取りすぎないよう指導を受けることがあります。

3. カリウム排泄の低下

身体の中にある余分なカリウムは腎臓から尿などを通じて体外に排出され、身体の中のカリウムの量は一定になるよう調整されています。しかしながら、腎臓の機能が落ちることで、カリウムを十分に排泄できなくなると、高カリウム血症を起こします。このように腎臓の機能が落ち、カリウムや他の老廃物を十分に排泄できない状態を腎不全と呼びます。

腎不全の人では高カリウム血症を起こさないようにカリウムの摂取量に気をつける必要があります。

また、血液中のカリウム値を下げる薬を飲むこともあります。この場合には陽イオン交換樹脂製剤という薬が使われます。陽イオン交換樹脂は、腸の中でカリウムと結合し、便としてして排泄させる薬です。

さらに腎不全が進行し、尿から十分にカリウムや老廃物の除去が行えない場合には、透析を行い、人工的にカリウムや他の老廃物を取り除く必要があります。

4. 細胞内から血液へのカリウムの移動

カリウムは筋肉を動かす時や、神経の信号を伝える時などに身体の中で使われます。カリウムは身体の中の様々な細胞の中に含まれている物質です。何らかの理由で細胞の中のカリウムが血液内に放出されると高カリウム血症の原因になります。ここではアシドーシスと横紋筋融解症について説明します。

アシドーシス

アシドーシスとは血液が酸性に変化しようとしている状態を言います。アシドーシスの状態では、高カリウム血症を起こしやすいことがわかっており、アシドーシスがある高カリウム血症ではアシドーシスも改善する必要があります。

アシドーシスは様々なことが原因で起こります。

たとえば、腎臓の尿細管という場所には、身体の中の酸性の物質を排泄する役割がありますが、尿細管の異常によって酸性の物質の排泄ができなくなると、アシドーシスを起こします。(尿細管アシドーシスと呼びます)

他にも、血液を酸性にする物質に二酸化炭素がありますが、何らかの理由で呼吸が十分にできなくなると、二酸化炭素を十分に身体の外に排泄できず、アシドーシスを起こします。(呼吸性アシドーシスと呼びます)

アシドーシスが見つかった場合には、その原因に応じた対応を行います。炭酸水素ナトリウム製剤(商品名:メイロン®︎など)という点滴を使って、アシドーシスを補正することもあります。

横紋筋融解症

筋肉が壊れると、筋肉の細胞の中にあるカリウムが血液中に放出され、高カリウム血症の原因になります。この状態を横紋筋融解症と言います。

横紋筋融解症では、全身の筋肉の痛みに加えて赤茶色の尿が出るようになります。赤茶色の尿は、筋肉の細胞内にあるミオグロビンという物質が血液中を大量に流れ、腎臓から尿として排泄されることで現れます。赤茶色に見えるほどミオグロビンの多い尿はミオグロビン尿と呼ばれます。ミオグロビンは尿から排泄される時に腎臓を傷つける原因にもなります。

横紋筋融解症を起こす原因には、外傷や薬の副作用などがあります。横紋筋融解症腎不全不整脈を引き起こし、最悪の場合、命に関わる非常に危険な状態です。そのため、全身の痛みや赤茶色の尿が現れた場合には、すぐに病院を受診して、大量の点滴を投与してミオグロビンを薄める治療や、カリウムを正常化するための治療を行う必要があります。

5. ホルモンの異常

体内のホルモンによって血液中のカリウムの濃度は調整されています。カリウムの濃度を下げるホルモンの一つに、副腎皮質ホルモンがあります。副腎皮質ホルモンが増えるとカリウムの濃度は下がり、副腎皮質ホルモンが減るとカリウムの濃度は上がります。

副腎皮質ホルモンは副腎という小さな臓器で作られるホルモンです。

図:副腎は左右の腎臓の上にある。

何らかの理由で副腎が正常に機能しなくなった状態(副腎不全)では副腎皮質ホルモンが十分作られなくなるため、高カリウム血症を起こします。副腎皮質ホルモンには血糖値や血液のナトリウム濃度を上げる作用もあるため、副腎不全は低血糖低ナトリウム血症を起こすこともあります。他にも倦怠感、体重減少、血圧低下などが起こることもあります。

副腎不全では副腎皮質ホルモンを補充する必要があります。

6. 薬の影響

高カリウム血症は薬の副作用としてあらわれることがあります。薬が原因の高カリウム血症では薬を中止することで改善が見込めますが、もともとの病気の関係で薬を中止できないことも多いので、薬の中止は自分で判断せず、担当の医師と相談するようにしてください。高カリウム血症を起こすことがある薬の例を以下に挙げます。

  • 降圧薬(ACE阻害薬、ARBなど)
  • 利尿薬(抗アルドステロン薬)
  • 鎮痛薬(NSAIDs)
  • 抗菌薬・抗真菌薬

それぞれどのような薬で、どんな場合に注意するべきかを以下で詳しく説明していきます。

降圧薬(ACE阻害薬、ARBなど)

血圧を下げる薬(降圧薬)の一部は高カリウム血症を起こすことが知られています。特に、注意が必要な降圧薬にACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)やARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)と呼ばれる種類のものがあります。ACE阻害薬やARBは血圧を下げる作用に加えて心臓、腎臓などの臓器保護作用があることから、心不全慢性腎臓病を持つ高血圧の人などに幅広く用いられています。具体的には以下の薬がACE阻害薬やARBです。

  • ACE阻害薬
    • エナラプリル(主な商品名:レニベース®)
    • リシノプリル(主な商品名:ロンゲス®)
    • ペリンドプリル(主な商品名:コバシル®)
  • ARB
    • カンデサルタン(主な商品名:ブロプレス®)
    • ロサルタン(主な商品名:ニューロタン®)
    • バルサルタン(主な商品名:ディオバン®)
    • テルミサルタン(主な商品名:ミカルディス®)
    • イルベサルタン(主な商品名:アバプロ®、イルベタン®)
    • アジルサルタン(商品名:アジルバ®)

また、近年ではARBと他の薬との配合剤も発売されており、これらもARBが含まれるため、副作用として高カリウム血症に注意が必要です。

  • ARBと利尿薬(サイアザイド系)の配合剤
    • ロサルタン・ヒドロクロロチアジド(主な商品名:プレミネント®)
    • カンデサルタン・ヒドロクロロチアジド(主な商品名:エカード®)
    • テルミサルタン・ヒドロクロロチアジド(主な商品名:ミコンビ®)
  • ARBと他の降圧薬(カルシウム拮抗薬)の配合剤
    • バルサルタン・アムロジピン(主な商品名:エックスフォージ®)
    • オルメサルタン・アゼルニジピン(商品名:レザルタス®)
    • イルベサルタン・アムロジピン(主な商品名:アイミクス®)
    • アジルサルタン・アムロジピン(商品名:ザクラス®)

ACE阻害薬やARBを飲んでいて高カリウム血症が起きてしまった場合には、他の種類の降圧薬に切り替えることで対応することが多いです。

利尿薬(抗アルドステロン薬)

抗アルドステロン薬はアルドステロンというホルモンの働きを抑える薬です。アルドステロンが過剰になる原発性アルドステロン症という病気に使われます。原発性アルドステロン症では血圧上昇、筋力低下、疲れやすさなどがあらわれます。筋力低下、疲れやすさは過剰になったアルドステロンにより低カリウム血症が起こるためです。

また、アルドステロンは、腎臓の遠位尿細管という場所で尿中のナトリウムや水分を血液中へ戻す作用もあります。抗アルドステロン薬はこの作用を抑えることによって、尿としてナトリウムや水分を多く排泄させ、尿の量を増やす作用(利尿作用)を発揮します。そのため、抗アルドステロン薬は利尿薬として用いられることもあります。

加えて、アルドステロンには心臓の肥大や心臓及び血管の線維化を起こす作用があり、抗アルドステロン薬を心不全の治療薬として用いることもあります。代表的な抗アルドステロン薬には以下があります。

  • スピロノラクトン(主な商品名:アルダクトン®)
  • エプレレノン(商品名:セララ®)

抗アルドステロン薬を飲んでいて高カリウム血症が起きてしまった場合には、もともとの病状から抗アルドステロン薬が中止できるようであれば、中止にして経過を見ることが多いです。

鎮痛薬(NSAIDs)

痛み止めとして様々な状況で用いられる鎮痛薬ですが、鎮痛薬の中でNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)と呼ばれる薬は高カリウム血症の副作用が報告されています。NSAIDsは市販薬としても多く販売されています。

代表的なNSAIDsには以下があります。

  • ロキソプロフェンナトリウム(主な商品名:ロキソニン®)
  • セレコキシブ(商品名:セレコックス®)

NSAIDsを飲んでいて高カリウム血症が起きてしまった場合には、他の種類の鎮痛薬に切り替えることで対応することが多いです。

抗菌薬・抗真菌薬

感染症の時に使われる抗菌薬・抗真菌薬も高カリウム血症の原因になることがあります。感染症の原因にはウイルス細菌や真菌(カビ)などがありますが、抗菌薬は細菌による感染症、抗真菌薬は真菌による感染症に使われる薬です。感染症の治療を受けている時に、全身の力の入りにくさなどを自覚した場合には、抗菌薬や抗真菌薬による高カリウム血症の可能性も考える必要があります。具体的に高カリウム血症を起こす薬剤には以下のようなものがあります。

  • 抗菌薬
    • ベンジルペニシリンカリウム(商品名:ペニシリンGカリウム)
    • スルファメトキサゾール・トリメトプリム(主な商品名:バクタ®)
  • 抗真菌薬
    • ペンタミジン(商品名:ベナンバックス®)

これらの抗菌薬・抗真菌薬を飲んでいて高カリウム血症が起きてしまった場合には、他の種類の抗菌薬・抗真菌薬に切り替えることで対応することが多いです。