こうかりうむけっしょう
高カリウム血症
血液中のカリウム濃度が何らかの原因により上昇した状態
16人の医師がチェック 144回の改訂 最終更新: 2019.01.09

高カリウム血症の治療:GI療法、カルチコール®など

高カリウム血症の治療では血液のカリウム濃度を下げる治療や高カリウム血症による不整脈を予防する治療を行います。高カリウム血症を起こした原因がわかっている場合には、原因に対する治療を並行して行います。

1. 高カリウム血症の治療には何があるか

高カリウム血症は血液のカリウム濃度が高いことで、筋力低下や不整脈などが起こる病気です。治療として血液のカリウム濃度を下げることで、症状の改善を図ることができます。また、高カリウム血症により起こる不整脈が持続すると、命に関わることがあるため、不整脈が起きないようにするための薬を使うことがあります。

これらの治療は高カリウム血症がどんな原因で起こった場合にも行うことができます。一方で、高カリウム血症を起こす何らかの原因がある場合には、原因を解決することで高カリウム血症をよくすることができます。高カリウム血症の原因を探し、原因が明らかになった場合には、原因に対する根本的な治療も進めていきます。

まず、どの原因でも行う治療と個々の原因に対する治療として、それぞれどんな方法があるかを説明していきます。

どの原因でも行う治療

高カリウム血症は血液のカリウム濃度が高いことが筋力低下や不整脈などを誘発するため、カリウム濃度を下げる治療は、原因が何であっても必要な治療になります。カリウム濃度を下げる治療には、具体的に以下のようなものがあります。

  • 陽イオン交換樹脂製剤
  • グルコースインスリン療法(GI療法)
  • 利尿薬

上記の治療で十分な改善がない場合には、あとで述べる血液透析を行ってカリウム濃度を下げることもあります。

また、高カリウム血症で一番怖いことは、命に関わる不整脈を起こすことです。高カリウム血症で不整脈を起こす可能性が高いと判断された場合には、不整脈を予防するための治療をします。不整脈を予防するための治療にはグルコン酸カルシウム(商品名:カルチコール®注射液)を使います。

個々の原因ごとの治療

高カリウム血症の原因検索を行い、原因がわかった場合には、血液のカリウム濃度を下げる治療や不整脈を予防する治療に加えて、原因に対する治療を行います。高カリウム血症の原因は以下のようなものがあります。

  • カリウムの過剰摂取
    • フルーツ、ナッツ、豆類、サツマイモ、アボカドなどの食べ過ぎ
  • カリウム排泄の低下
  • 細胞内から血液へのカリウムの移動
  • ホルモンの異常
    • 副腎不全
  • 薬の影響
    • 降圧薬
    • 利尿薬
    • 鎮痛薬:NSAIDsなど
    • 抗菌薬・抗真菌

原因ごとの治療には以下のようなものがあります。

  • カリウムを豊富に含むものの摂取を控える(カリウムの過剰摂取が原因の場合)
  • 血液透析(腎不全が原因の場合)
  • 炭酸水素ナトリウム製剤(アシドーシスが原因の場合)
  • 大量輸液横紋筋融解症が原因の場合)
  • 副腎皮質ホルモンの補充(副腎不全が原因の場合)
  • 薬の中止(薬剤が原因の場合)

それぞれの方法や注意点などについて、カリウム濃度を下げる治療や不整脈を予防する治療とともに、以下で説明します。

2. 陽イオン交換樹脂製剤

陽イオン交換樹脂製剤は、腸の中で薬剤のもつカルシウムイオンやナトリウムイオンとカリウムイオンを交換し、カリウムと結合したまま便として排泄される薬です。これにより体内のカリウムが排泄されるため、血液中のカリウム値を下げることができます。

  • ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(商品名:ケイキサレート®など)
  • ポリスチレンスルホン酸カルシウム(商品名:アーガメイト®など)

陽イオン交換樹脂製剤は粉末状の製品のほか、シロップタイプのものやゼリータイプのものもあります。高カリウム血症は高齢の人に起こることが多く、シロップタイプやゼリータイプは飲み込む動作がうまくできない人でも飲みやすいといった利点があります。

陽イオン交換樹脂製剤の副作用には、便秘、腹痛、嘔吐、腸閉塞などがあります。もし、陽イオン交換樹脂製剤内服中に強い腹痛や血便腹部膨満感などがあらわれた場合には担当の医師、薬剤師に相談するようにしてください。

3. グルコース・インスリン療法(GI療法)

高カリウム血症の治療として、グルコース・インスリン療法(GI療法)と言って、グルコースとインスリンという2種類の物質を同時に使う治療を行うことがあります。

グルコースは糖の一種であり、体内の細胞の活動に必要なエネルギー源の一つです。また血液内のグルコースの濃度を血糖値といいます。インスリンは膵臓から分泌されるホルモンで、血液中のグルコースを細胞内に取り込むことで血糖値を下げる効果を発揮します。細胞内にグルコースを取り込む時に、カリウムも同時に細胞内に取り込むことがわかっており、このことを応用したのがグルコース・インスリン療法です。グルコースはインスリン投与により血糖値が下がるのを防ぐために、同時に投与されます。

グルコース・インスリン療法は、非常に効果が早く現れます。数分から数十分程度でカリウム値の改善が見込めます。そのため、高カリウム血症で不整脈を起こす危険性がある場合など緊急でカリウムを下げなければいけない時に行われる治療になります。ただし、細胞内に取り込めるカリウムの量には限界があるため、陽イオン交換樹脂製剤などカリウムを体外排泄する治療を同時に行うことが多いです。

GI療法ではインスリンの作用により低血糖を起こす可能性があるため、定期的に血糖値も確認します。

4. 利尿薬

利尿薬とは尿量を増やす薬のことです。利尿薬は腎不全心不全などの治療に用いられることが多いですが、高カリウム血症の治療として用いることもあります。これは一部の利尿薬は尿量を増やすだけでなく、身体のカリウムの排泄を促す作用があるためです。

高カリウム血症の治療にはループ利尿薬という種類のものが用いられることが多いです。

具体的にはフロセミド(主な商品名:ラシックス®)というループ利尿薬がよく用いられます。ループ利尿薬は腎臓の「ヘンレループ」と呼ばれる部分に作用します。ヘンレループは尿を作る過程でナトリウムやカリウム、水分を血液に再吸収し、尿の量や成分を調整していますが、ループ利尿薬はヘンレループでの再吸収を阻害することで利尿効果を発揮するとともにカリウムの排泄量を増やします。

ループ利尿薬で注意すべき副作用には低カリウム血症低ナトリウム血症、脱水、頻尿、腎障害、肝機能障害などがあります。もし利尿薬を使っていて、めまいや強いのどの渇きなど、脱水が疑われる症状がある場合には、担当の医師、薬剤師に相談するようにしてください。

5. グルコン酸カルシウム製剤

カリウムは筋肉を動かす時や、神経の信号を伝える時などに身体の中で使われる物質です。心臓の筋肉(心筋)が収縮して脈を打つ働きにもカリウムが関わっています。

高カリウム血症では過剰なカリウムにより本来のタイミングではない時に心筋の収縮が起こり、不整脈を引き起こします。高カリウム血症で起こる不整脈は命に関わることもあるので、不整脈を予防するためにグルコン酸カルシウム(商品名:カルチコール®注射液)という薬を点滴投与することがあります。

グルコン酸カルシウムの作用は心筋の収縮を起こしにくくする(心筋の興奮を起こしにくくする)ことです。これにより高カリウム血症のような、カリウムが過剰な状態であっても、余計な心筋収縮を防ぐことができます。

なお、グルコン酸カルシウムには血液のカリウム濃度を下げる作用はないため、グルコン酸カルシウムにより不整脈を予防しつつ、並行してカリウム濃度を下げる治療を行う必要があります。

6. カリウム摂取制限

食べたものに含まれるカリウムは体内に取り込まれます。高カリウム血症の原因として、カリウムの過剰摂取が疑われる場合には、カリウムの摂取制限をすることが治療の上でも重要です。特にバナナなどのフルーツやナッツ、豆類、サツマイモ、アボカドなどにカリウムが豊富に含まれているので、高カリウム血症を起こしたことがある人や腎不全の人などではこれらを食べ過ぎないように注意する必要があります。また、豆類や芋類に関しては、大量の湯で茹でることでカリウムを落とすなどの工夫もあります。

7. 血液透析

腎臓はカリウムを尿として排泄することで、血液中のカリウム濃度を調整しています。腎不全になり腎臓が正常に機能しなくなるとカリウムの排泄が低下し、高カリウム血症を起こします。そのため、腎臓の代わりに血液中のカリウムを排泄する手段として血液透析を行うことがあります。

血液透析は血管から血液を取り出し、人工的に血液をろ過することで、血液中の老廃物やカリウムを除去し、再度血管内に戻す治療です。

血液透析を行う場合には太い血管から血液を回収する必要があります。そのため、もともと腎不全の診断を受けていて、近い将来血液透析が始まる可能性が高い場合には、「シャント」と呼ばれる太い血管を作る手術を事前に行い、血液透析に備えます。シャントがすでにある人が高カリウム血症になった場合にはシャントから血液を回収して血液透析を行います。

シャントがない場合に高カリウム血症が見つかり、緊急で血液透析を行わなければならない場合には、首や足の付け根などの太い血管に透析用の管(カテーテル)を挿入し、血液を取り出します。取り出された血液は透析の機械によりろ過され、過剰なカリウムや老廃物を取り除かれた状態で体内に戻されます。緊急に開始した血液透析は腎臓の状態により一時的で済むこともあれば、永続的に行う場合もあります。永続的な血液透析が必要と判断された場合には、シャントを作る手術を行います。腎臓の機能が回復し、血液透析を中断できるようになるか、シャントから血液透析が行える状態になれば、透析用のカテーテルを抜去して生活することができます。

8. 炭酸水素ナトリウム製剤

アシドーシスとは血液が酸性に変化しようとしている状態を言います。アシドーシスの状態では、高カリウム血症を起こしやすいことがわかっており、アシドーシスがある高カリウム血症ではアシドーシスも改善する必要があります。

炭酸水素ナトリウム製剤(商品名:メイロン®︎など)はアシドーシスに用いられる治療薬です。炭酸水素ナトリウム製剤は血液をアルカリ性にする働きがあり、身体の中の酸性の状態を改善することができます。使用にあたってはしびれなどの副作用に注意が必要です。

9. 大量輸液

横紋筋融解症による高カリウム血症では大量輸液を行います。

横紋筋融解症は筋肉細胞が大量に壊れる病気ですが、筋肉細胞の中にはカリウムが含まれているため、横紋筋融解症では細胞の中にあるカリウムが血液中に放出され、高カリウム血症の原因になります。横紋筋融解症は全身の筋肉の痛みに加えて赤茶色の尿が出るようになります。赤茶色の尿は、筋肉の細胞内にあるミオグロビンという物質が血液中を大量に流れ、腎臓から尿として排泄されることで現れます。横紋筋融解症では大量輸液を行うことでミオグロビンを薄めるとともに、カリウムを正常化することを目指します。

10. 副腎皮質ホルモンの補充

高カリウム血症の原因としてホルモンの異常がある場合には、ホルモンの正常化を目指します。ホルモンの異常により高カリウム血症を起こす病気としては副腎不全があります。副腎不全は副腎が正常に働かなくなる病気です。副腎には副腎皮質ホルモンと呼ばれるホルモンを作る役割があります。副腎皮質ホルモンには血液のカリウム濃度を下げる作用がありますが、副腎不全では副腎皮質ホルモンが作れなくなることで、高カリウム血症が起こります。

副腎不全による高カリウム血症の治療は、足りなくなった副腎皮質ホルモンを内服薬や点滴薬などの形で補うことです。副腎皮質ホルモンはカリウムを下げる作用以外にも血圧、血糖値、血中ナトリウム濃度を正常に保つなどたくさんの役割があり、生命維持に欠かせません。そのため、副腎皮質ホルモンが不足していれば、高カリウム血症の改善だけでは不十分です。

高カリウム血症が見つかった人で、低血圧低血糖低ナトリウム血症なども一緒にある場合には、副腎不全を疑い、副腎皮質ホルモンの補充を検討する必要があります。

11. 原因薬剤の中止・変更

高カリウム血症で薬剤が原因の場合は薬を中止することで改善を見込めます。同じ効能のある代わりの薬(代替薬)がある場合には、代替薬への変更も検討します。ただし、もともとの病気の関係上、薬を中止・変更できない場合もあり、対応については担当の医師との相談が必要となります。