たはつせいこつずいしゅ
多発性骨髄腫
血液がんの一種。免疫細胞の一種が異常ながん細胞となり、骨髄の中で増殖する状態。骨や免疫が弱くなったりする。
9人の医師がチェック 116回の改訂 最終更新: 2024.05.24

多発性骨髄腫とはどんな病気なのか

多発性骨髄腫は、血液細胞の一種である形質細胞が「がん化」して起こる病気です。血液が作られる骨髄でがん細胞が増殖し、進行すると全身にさまざまな症状が現れます。

このページでは多発性骨髄腫の概要として症状や原因、検査、治療について説明していきます。

1. 多発性骨髄腫(英語名: Multiple Myeloma)とはどんな病気か

多発性骨髄腫は形質細胞ががん化した状態である

多発性骨髄腫は血液細胞の一種である形質細胞ががん化した状態です。がん化した形質細胞(骨髄腫細胞)は、血液を作り出す場所である骨髄の中で増殖し、さまざまな影響を身体に及ぼします。

形質細胞は本来、ウイルス細菌などの外敵から身を守るための抗体をつくる役割をもっています。しかし、骨髄腫細胞は正常な抗体を作ることはできず、機能のないタンパク質を大量に作り出します。この役に立たないタンパク質はM蛋白と呼ばれ、血液中に放出されて全身に影響を及ぼします。

一年間に多発性骨髄腫を新たに発症する人は、人口10万人あたり男性で5.8人、女性で4.8人と言われています。40歳未満での発症は非常にまれで、高齢になるほど発症する人が増えます。日本では高齢化が進むにつれて、多発性骨髄腫と診断される人が多くなっています。

2. 多発性骨髄腫の症状

多発性骨髄腫の初期には症状がないことが多いです。進行すると、次のような症状がみられます。

【多発性骨髄腫の主な症状】

  • 骨がもろくなって起こる症状
    • 骨折、骨の痛みなど
  • 貧血による症状
    • 立ちくらみ、息切れ、動悸など
  • 腎臓の機能低下による症状
    • だるさ、むくみなど
  • 高カルシウム血症による症状
    • 倦怠感、吐き気、便秘など
  • 易感染性(感染症にかかりやすい)
    • 発熱など
  • 出血傾向(出血が止まりにくい)
  • 血液の流れが悪くなる:過粘稠度症候群(かねんちょうどしょうこうぐん)
    • 頭痛、めまい、目の見えにくさなど

さまざまな症状の中で、多発性骨髄腫が見つかるきっかけになるのは骨折による症状がもっとも多いです。多発性骨髄腫の人では骨が溶けてもろくなり、全身の骨で骨折が起きやすくなっています。そのため、例えば軽くしりもちをついたり、転んだだけで脊椎骨(背骨)が押しつぶれてしまうことがあります。(これを圧迫骨折といいます。)このような理由で、多発性骨髄腫は骨折による腰や背中の痛みをきっかけに疑われることが多いです。とはいえ、骨がもろくなる病気には他にも骨粗鬆症があり、圧迫骨折があるからといって多発性骨髄腫が原因とは限りません。腰や背中に痛みが続くときは、原因をはっきりさせるためにお医者さんに相談してください。なお、その他の症状についてはこちらで詳しく説明しているので参考にしてください。

3. 多発性骨髄腫の原因

多発性骨髄腫は骨髄で骨髄腫細胞というがん細胞が増殖する病気です。現在の医学では、骨髄腫細胞が発生する原因ははっきりとは分かっていません。しかし、多くの場合「意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症(MGUS)」と呼ばれる状態から起こることが知られています。

多発性骨髄腫になる手前の状態:意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症(MGUS)とは

多発性骨髄腫の多くがMGUSから発生すると言われています。やや難しいですが、下記に診断基準を使って違いを示します。

■MGUSの診断基準と多発性骨髄腫(MM)の診断基準

MGUSの診断基準 MMの診断基準
血清中のM蛋白の量が 3 g/dL未満 血清中のM蛋白の量 が 3 g/dLより多い
骨髄中の形質細胞 が10 %未満 骨髄中の形質細胞が10 %より多い
高カルシウム血症、腎障害、貧血、骨症状がない 高カルシウム血症、腎障害、貧血、骨症状がある
もしくは骨髄腫のマーカー(※1)を満たす

※1 骨髄腫のマーカー:骨髄中の形質細胞が60%以上、血清遊離軽鎖比が100以上、MRIで5mm以上の骨病変が2ヶ所以上ある

簡単にいうと、M蛋白が少なく症状がない状態をMGUSと呼びます。MGUSから病状が進行して多発性骨髄腫になる割合は年に1%で、10年後に12%、20年後に25%の人が多発性骨髄腫になると言われています。MGUSは治療の必要はないので、診断されたあとは定期的に検査を行い、病気の状態を確認していきます。

4. 多発性骨髄腫の検査

多発性骨髄腫が疑われたときには、次のような診察や検査が行われます。検査の目的は「症状の確認」と「多発性骨髄腫かどうかの診断」です。

  • 問診
  • 身体診察
  • 血液検査
  • 尿検査
  • 骨髄検査
  • 画像検査

血液検査と尿検査では腎臓の機能、貧血の有無やその他の問題がないかを確認します。また、骨髄検査は骨髄腫細胞の有無を調べるために行われ、診断に必要です。画像検査では全身の骨の状態を調べ、病気の広がりを確認します。これらの検査に関してはこちらで詳しく説明しているので参考にしてください。

5. 多発性骨髄腫の治療

多発性骨髄腫の治療には抗がん剤を使った化学療法と自家造血幹細胞移植(自家移植)の2種類があります。自家移植は骨髄腫に対する効果は大きいですが、身体に対する負担も大きい治療です。そのため、自家移植が行えるかは、患者の若さと(目安として65歳未満かどうか)、心臓や肺など重要な臓器に問題がないことを確認して判断します。これらの条件を満たした人は化学療法で病気の勢いを抑えたあと自家移植を行います。自家移植をしない人は化学療法のみで病気をコントロールします。

自家造血幹細胞移植を行う人の治療の流れ

年齢が若く(目安として65歳未満)心臓や肺など重要な臓器に問題がないことを確認できた人は、化学療法を行ったあとに自家移植を行います。

まず、化学療法では1から3種類の薬を組み合わせて、病気の勢いを十分に抑えます。1つ目の薬の組み合わせで病気の勢いを十分に抑えられない時は、異なる薬の組み合わせに変更して治療します。2つ目の薬の組み合わせで病気の勢いを十分に抑えられれば良いのですが、それでも病気の勢いが抑えられない時は、さらに異なる薬の組み合わせを使います。このように、病気の勢いを抑えられるまで薬の組み合わせ変えながら治療をしていきます。化学療法で病気の勢いを十分に抑えた後に、自家移植を行います。

自家造血幹細胞移植を行わない人の治療の流れ

年齢(目安として65歳以上)が高い人や心臓や肺など重要な臓器に心配な点がある人は、身体への負担を少なくするために、化学療法のみを行います。化学療法については自家移植を行う人と同様で、病気の勢いを十分に抑えられるまで、薬の組み合わせを変えながら治療をしていきます。

化学療法や自家移植の詳細についてはこちらを参考にしてください。

6. 多発性骨髄腫の人に知っておいてほしいこと

多発性骨髄腫は血液のがんなので手術でがん細胞すべてを取り除くことができません。そのため、化学療法で骨髄腫細胞の増殖を抑えたとしても、ある一定数の骨髄腫細胞は身体に残ってしまいます。このような理由で、多発性骨髄腫は完治が難しく、再発する人は少なくありません。しかし、多発性骨髄腫の治療は目覚ましい進歩を遂げていて、さまざまな種類の薬を組み合わせることで、再発をした場合にも長い間病気をコントロールすることが可能となっています。

骨髄腫の治療中は感染症にかかりやすくなります。長期にわたって治療が続くことがあるので、普段の生活では手洗いやうがいを丁寧にしたり、生ものを食べることを避けたりして、感染症を予防することが大切です。また、感染症予防のためには、肺炎球菌インフルエンザに対する予防接種も有効です。その他にも、知っておいて欲しいことをこちらにまとめましたので参考にしてください。

参考:

・国立がん研究センターがん情報サービス「がん登録・統計
・日本多発性骨髄腫学会多発性骨髄腫の診療指針 2016