破傷風の基礎知識
POINT 破傷風とは
破傷風は破傷風菌による感染で起こります。破傷風菌は土の中に存在し、多くの場合、傷口から侵入して感染を起こします。ワクチンが存在するため予防できる病気ですが、今でも国内で年間100人ほどが破傷風を発症しています。症状は、発熱や倦怠感以外に神経が麻痺することが特徴的です。具体的には、口を開けにくくなったり、顔の筋肉が引きつったり、手足の筋肉がけいれんしたりします。治療には破傷風トキソイドや破傷風グロブリンを用います。時に全身のけいれんや呼吸困難を起こすことがあるため、破傷風かもしれないと自覚した人は必ず医療機関を受診して下さい。特に感染症内科や救急科を受診すると良いです。
破傷風について
- 破傷風菌と呼ばれる
細菌 が傷口から体内に侵入して、けいれんを起こしたり息ができなくなったりする病気 - 国内では毎年40人から100人程度が
発症 している- 発症した人の95%以上が30歳以上
- 発症した人のおよそ30%が命を落とす
- 傷や症状の具合によって破傷風かどうかをある程度判断できる。以下の場合には破傷風を疑う
- 破傷風菌が傷口に入ったとしても、傷の挫滅、砂や泥などの異物混入、他の菌による混合感染がなければ発症することは少ない
破傷風の症状
- 特徴的と言われている症状
- 口が開きづらい(開口障害)
- 顔の筋肉がこわばり笑ったような表情になる(痙笑)
- 腕や体の大きな筋肉のぴくつき(筋攣縮)
- 体をのけぞるようなけいれん(後弓反張)
- その他の症状
- 体がだるい、疲れやすい
- 噛んでいると顎が疲れる
- 呂律が回りにくい
- 飲み込みにくい
- 首筋の筋肉が突っ張る
潜伏期間 (ケガなどで破傷風菌が体に入ってから発症 するまで)は3日から14日程度で、平均で7日間と言われている- 発症初期の症状は口の開きにくさや飲み込みにくさから始まり、次第に顔の筋肉のこわばりや全身のけいれんへと進行する
- 重症になると全身のけいれん
発作 や自律神経 の異常が起きる- 全身のけいれん発作では呼吸ができなくなって命に関わることもある
- 自律神経異常により、血圧や心拍数が急激に変化し、突然心臓が止まることもある
- 運動の障害が起こるが、
意識障害 は起こらないのも特徴
破傷風の検査・診断
- 血液検査や画像検査ですぐに診断することはできないため、症状や経過を見てまずは仮の診断の下で治療が開始される
- 補助的に傷口から菌を
培養 して遺伝子解析をすることがある - 破傷風を
発症 している人でも培養で破傷風菌が検出されるのは30%に満たない - 血液中の破傷風毒素に対する
抗体 の濃度を調べることがある
- 補助的に傷口から菌を
破傷風の治療法
- 主な治療
- 傷口を開いて、洗い流し、
膿 や血流が通わなくなった組織を取り除く - 破傷風トキソイドや抗破傷風ヒト
免疫グロブリン 製剤を用いる - けいれんを抑える薬を使う
- けいれんの引き金になる音や光の無い静かな部屋で安静にする
- 傷口を開いて、洗い流し、
- 当初軽症と思われても、その後全身のけいれんや呼吸困難を起こすこともあるので、厳重な注意が必要
- 呼吸障害が強い場合には、人工呼吸管理を行う
- 傷口から菌が入るようなけが(切り傷など)をした場合、破傷風の予防接種(ワクチン)を考慮する
- 特に以下の人には予防接種が考慮される
- 予防接種を受けたことがない人
- 現在では定期予防接種として小児期にワクチン(3種混合、4種混合、5種混合ワクチン)をほとんどの人が受けている
- 小児期に予防接種を受けて以降、追加接種をしていない成人
- 傷口の汚れが目立つ人
- 特に傷口が広く汚れが目立つ場合には、点滴薬(抗破傷風ヒト免疫グロブリン)を追加で使用する
- 予防接種を受けたことがない人
破傷風の経過と病院探しのポイント
破傷風が心配な方
破傷風では想定している状況によって、受診すべき医療機関が変わってきますので、以下に順を追って説明します。
口が開きづらい、筋肉に力が入ってしまうなどの症状で、破傷風ではないかと心配している場合は、救急科または感染症科のある総合病院の受診をお勧めします。また、破傷風は国内で年間100名前後しか患者がおらず、中小病院では破傷風の対応に慣れていない可能性があるため、地域の中核病院や大学病院の受診が適切です。
次に、身体に傷ができて、今後破傷風になるのを予防したいとお考えの場合には近所の外科のクリニックの受診をお勧めします。外科のクリニックであればほとんどのところに破傷風のワクチンが置いてあり、予防接種が可能です。
破傷風の診断は、一つの検査だけで行うのは困難です。採血や細菌の培養検査を行いますがどれも決め手にかけることが多く、基本的には問診(過去数週間以内に、菌が入るようなケガをしていないか)と実際の症状を元に診断します。レントゲンやCTなどの画像検査で診断をすることはできません。
もし破傷風であった場合には緊急での治療が必要となるため、「症状から、破傷風の可能性がある」という時点で、診断が確定していなくても入院して治療を開始することとなります。従って、入院ができないクリニックでは(予防ではなく)破傷風治療の対応は困難です。
破傷風でお困りの方
まだ破傷風を発症しておらず、「ケガを負ったので今後破傷風になる心配がある」という段階であれば、破傷風の予防接種を行うだけで十分です。一般的な外科のクリニックであれば対応が可能です。ケガの程度や医師の判断によっては、予防接種を繰り返して合計3回まで行う場合や、グロブリンと呼ばれる別の種類の免疫の注射を併用する場合があります。
実際に破傷風を発症している可能性がある場合、先述のように入院の上で治療を行います。重症の方では人工呼吸器を用いた集中治療が必要となるので、地域の中核病院の受診をお勧めします。特殊な疾患であるため、感染症専門医もしくは救急科専門医の在籍している病院があればなお良いと言えます。