胃食道逆流症(逆流性食道炎)の原因:食事・アルコール・たばこは関係ある?
胃食道逆流症の
目次
1. 胃食道逆流症はどのくらいの人がなっているのか?
胃食道逆流症になる人は何人くらいいるのでしょうか。『胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン 2015 』は、いくつかの健康診断のデータをもとに、日本人(健康診断を受ける年代)の10%程度が
2. 胃食道逆流症が起こるしくみ
胃食道逆流症が起こるしくみについて解説します。胃食道逆流症が起こる原因については以下の3つが複合して働くと考えられています。
- 下部食道括約筋の機能が落ちる
- 消化液(胃酸など)の増加
- 胃の中の圧力が上昇する
下部食道括約筋は食道の胃に近い部分にあります。括約筋(かつやくきん)とは管状の臓器を締める筋肉という意味です。下部食道括約筋は胃から食べ物や消化液が逆流しないようにする機能があります。下部食道括約筋が巾着の紐のように食道を締めることで逆流が防止されています。
下部食道括約筋の異常により逆流を防ぐ働きが十分ではなくなると胃食道逆流症の症状が現れます。
消化液が増加することも原因の一つです。消化液は食事の量や種類によって多くなったり少なくなったりします。胃酸が多くなると逆流しやすくなり逆流した時に食道へ与える影響も大きくなると考えられます。
食べ物が胃の中に入ると胃は食べ物を揉むように運動します。正常の状態では下部食道括約筋が収縮することで逆流が防止されます。しかし胃の中の圧力が高いと下部食道括約筋の力を上回り胃食道逆流症が起こります。
胃食道逆流症の治療としては、消化液を減らす薬剤や、逆流防止機能を補う手術などがあります。詳しくは「胃食道逆流症(逆流性食道炎)の治療:薬物治療・手術など」で説明しています。
参考文献
・福井次矢, 黒川 清/日本語監修, ハリソン内科学 第2版, MEDSi, 2006
3. アルコール・チョコレート・炭酸飲料:食べ物で胃食道逆流症になる?
食べ物は胃食道逆流症の原因になるのでしょうか。さまざまな食品が研究され、いくつかは胃食道逆流症とも関係するような臓器機能への影響が見つかっています。アルコールは症状の悪化と関連するとされています。
しかし、原因となる食べ物やアルコールを避ければ胃食道逆流症の症状を軽くすることができるかははっきりしません。
現時点では、胃食道逆流症の改善のために食べ物に気を付ける必要があるとは言えません。
参考文献
・Arch Intern Med. 2006;166:965-71.
アルコール
アルコールを飲むと胃酸が多く分泌され、胃食道逆流症の症状に悪影響があるとされます。しかし、禁酒や節酒で胃食道逆流症の症状が改善するかどうかは確認されていません。アルコール依存症患者で禁酒後に逆流防止機能の改善は見られなかったとする報告があります。
胃食道逆流症の原因はアルコールだけではないので、悪い要素をひとつ減らしても効果があるとは限らないと考えられます。
飲酒をストレス発散や楽しみにしている人もいると思います。明らかに「飲むと具合が悪くなる」と感じていなければ、胃食道逆流症を理由に禁酒を考える必要があるとは言えません。
もちろん飲み過ぎは胃食道逆流症のほかにも多くの健康問題や社会生活上の問題を起こします。胃食道逆流症にかかわらず、お酒はほどほどに楽しむのがいいでしょう。
参考文献
・Gut. 1996 May;38(5):655-62.
高脂肪食品(チョコレートなど)
チョコレートや高脂肪食品は逆流防止機能に影響するとされますが、症状を悪化させるかどうかははっきりしていません。
チョコレートなどの脂肪成分の多い食事を摂取するとコレシストキニンという
一般に下部食道括約筋が緩むことは胃食道逆流症に関わると考えられていますが、チョコレートや高脂肪食品が直接胃食道逆流症を悪化させるという強い証拠はありません。
食べても症状が出る自覚がなければ、チョコレートや高脂肪食品を心配する必要はないでしょう。
炭酸飲料・香辛料・柑橘類
炭酸飲料は胃食道逆流症を悪化させる可能性がありますが、炭酸飲料を控えることで症状が改善するかは確認されていません。
げっぷは胃の中の空気が逆流して口からでる現象です。つまりげっぷが起こる瞬間には胃食道逆流症が起こっています。げっぷが多くなる食品には炭酸飲料水があります。炭酸飲料水は液体に二酸化炭素を溶かし込んだ飲み物です。胃の中に流れ込むと溶けていた二酸化炭素が気体になり胃を膨れ上がらせる原因になります。
香辛料を使った食品、柑橘類にも同様に、症状を悪化させる可能性が指摘されていますが、避けることが有益かは未確認です。
いずれも現時点の情報では、胃食道逆流症のある方全員が避けるべきとは言えません。もし明らかに症状との関係を自覚していれば、控えたほうが楽になるかもしれません。
4. 喫煙・肥満・姿勢で胃食道逆流症になる?
肥満があれば体重を減らし、寝るときに頭を高くすることで胃食道逆流症の改善が期待できます。禁煙の効果は不明な点もありますが、全身の健康のためにも禁煙をお勧めします。
参考文献
・Arch Intern Med. 2006;166:965-71.
喫煙
喫煙と胃食道逆流症には関連があると考えられています。タバコからでる煙などが下部食道括約筋の機能低下に影響している、あるいは咳き込んだときの腹圧の上昇などが悪影響を与えているとの見方があります。
しかし、禁煙した人で胃食道逆流症の改善が見られなかったとする報告が複数あります。このため胃食道逆流症のために禁煙するべきとは言えないのが現状です。
とはいえタバコはほかにも多くの病気の原因になることが知られています。禁煙をすることは胃食道逆流症の症状改善以外にも多くの利益をもたらしてくれるでしょう。
肥満
肥満は一般的には正常範囲を超えて体重が大きい状態を指します。医学的には
肥満になると皮下だけに脂肪がつくわけではありません。内臓にも脂肪が付きます。内臓に脂肪がつくとお腹の中のスペースが狭くなりお腹の中の圧力が高まります。お腹の中の圧力を腹圧といいます。腹圧が上昇すると胃の中の圧力も高くなり胃から食道への逆流が起こりやすい状況に陥ります。
体重を減らすことで胃食道逆流症の症状を軽くする効果が期待できます。
肥満は胃食道逆流症以外にも多くの病気の原因になります。肥満を解消することは胃食道逆流症以外の病気の予防にもつながります。肥満体型で体重を落としたいと考えている人はぜひ肥満解消に取り組んでみてください。
姿勢
背中が前屈気味の姿勢、つまり猫背の人は胃食道逆流症が起こりやすいと考えられます。前屈した姿勢が続くと腹圧が高くなります。腹圧が大きくなると胃の中の圧力も大きくなり胃から食道への逆流が起こりやすくなります。少し意外かもしれませんが姿勢を正すことで胃食道逆流症の症状は改善に有利に働くかもしれません。
寝るときに頭側が高い姿勢で(ベッドを傾けるようにして)寝ると胃食道逆流症の症状が軽くなったとする報告もあります。
5. 胃食道逆流症になりやすい人はいる?妊婦・子供・高齢者との関係
胃食道逆流症は年齢などと関係があります。特に関係が現れやすい人について説明します。
参考文献
・福井次矢, 黒川 清/日本語監修, ハリソン内科学 第2版, MEDSi, 2006
・Obstet Gynecol. 1997;90:83-7
・Am J Gastroenterol. 2009 Jun;104(6):1541-5
・Arch Intern Med. 2006;166:965-71.
妊婦
妊娠の中期から後期には胃食道逆流症になりやすいことが知られています。2つの原因が考えられています。
- 妊娠が進むと胎児(お腹の中の赤ちゃん)が大きくなり胃を圧迫する
- 黄体ホルモンが増加して胃腸の運動が抑制されて胃酸の分泌が増える
症状がつらく治療の必要があれば、胃酸を減らす薬を用います。胃酸を減らす薬にはH2ブロッカーやPPIと呼ばれる種類のものがあります。
胃薬には市販薬として処方箋なしで買えるものもあります。妊娠中に使える薬もあり、症状などについて主治医に相談して適切な薬を処方してもらうことができます。
子ども
子どもは異常がなくても胃食道逆流が現れることがあります。特に乳児(赤ちゃん)に多いです。生まれたばかりのときには胃から食道への逆流防止機能が十分ではないことが原因です。成長とともに逆流防止機能が成熟します。したがって多くの場合は時間が解決するので問題にならないです。
しかし嘔吐の回数が多いときや嘔吐物が原因で肺炎を起こすときなどの場合は検査をして調べます。原因となる病気が隠れているかもしれません。
診断には成人と同様に原因になりそうな背景がないか
高齢者
高齢者は下部食道括約筋の機能が低下しています。したがって高齢者は胃食道逆流症が発生しやすくなっていることが多いです。
6. 胃食道逆流症の原因になる病気や薬剤:胃のヘルニア・胃切除後症候群など
胃食道逆流症の原因になる病気や薬剤はいくつか知られています。特に胃の
参考文献
・福井次矢, 黒川 清/日本語監修, ハリソン内科学 第2版, MEDSi, 2006
食道裂孔ヘルニア
食道裂孔ヘルニアは胃食道逆流症が重症化する原因になります。
食道は
食道裂孔ヘルニアは胃の一部が食道裂孔を通って胸部に入りこんでしまった状態です。胃が食道裂孔の中に入り込むと胃の中にある食べたものや胃液が逆流しやすくなります。食道裂孔ヘルニアが原因で胃食道逆流症が起きている場合は手術で食道裂孔にはまり込んだ胃を腹部に戻す方法(噴門形成術)を用います。
胃切除後症候群
胃がんなどの治療では手術をして胃の一部または全てを切除することがあります。胃を手術した後には胃食道逆流症が起こることがあります。胃食道逆流症が起こるしくみとしては以下のことが推測されています。
- 下部食道括約筋の機能低下
- 食道運動の機能の障害
- 胃の圧力の上昇
胃切除はいくつかの術式があります。胃のうち食道に近い部分を切除する時は、食道と胃のつなぎめを締める筋肉(下部食道括約筋)を同時に切除することがあります。下部食道括約筋の機能が低下すると胃の内容物が逆流します。
胃を切除するにあたってはいくつかの神経を切除することがあります。その中には食道の動きをコントロールする神経が含まれることがあります。神経が切除されると食道の動きが悪くなり胃食道逆流症を発症します。
胃の一部を切除すると胃は小さくなり容量が減少します。胃の中に収められる容量が少なくなったところに食べ物が容量を超えて流入すると胃の中の圧力が上昇して胃の内容物が食道に逆流します。
胃切除後は様々な要因から胃食道逆流症が起こりやすくなっています。胃切除後の逆流性食道炎では通常の胃食道逆流症と同様の治療を行います。
薬剤:カルシウム拮抗薬・平滑筋弛緩薬(へいかつきんしかんやく)・抗コリン薬
持病の治療のために飲んでいる薬が胃食道逆流症の原因になることがあります。胃食道逆流症の原因になる薬として知られているのは高血圧症の治療に用いられるカルシウム拮抗薬や
胃食道逆流症の原因になる薬はいくつかあります。薬をやめることで胃食道逆流症の改善が期待できるかもしれません。薬を処方している主治医に相談して消化器内科などを紹介してもらうのが完治につながるかもしれません。
しかし、胃食道逆流症の原因になりえるからといって治療薬を自己判断でやめるのはよくありません。もともと必要があって処方されていた薬なので、やめればもちろん効果がなくなります。主治医と消化器内科の医師との間でしっかり連絡してもらい、