いしょくどうぎゃくりゅうしょう(ぎゃくりゅうせいしょくどうえん)
胃食道逆流症(逆流性食道炎)
胃液が胃から食道へ逆流する状態で、食道の粘膜がただれて(炎症が起きて)しまう病気
13人の医師がチェック 171回の改訂 最終更新: 2024.03.24

胃食道逆流症(逆流性食道炎)が原因で起こるバレット食道とは?

胃食道逆流症が長期間続いたりひどくなったりすると、食道の状態がさらに変化したり食道以外にも影響することがあります。胃食道逆流症が原因で起こる病気について解説します。

1. 胃食道逆流症が原因で起こる病気

胃食道逆流症が長く続いたり逆流の程度が大きい場合にはそれにともなう病気が起こることがあります。胃食道逆流症にともなう病気は大きく2つに分けることができます。

2. びらん性食道炎・食道潰瘍

胃食道逆流症が起こると食道は消化液にさらされることになります。胃食道逆流が長時間続いて食道の粘膜が消化液による損傷に耐えられなくなることが、びらん性食道炎食道潰瘍の原因になります。「びらん」とは粘膜がただれた状態です。胃酸に食道粘膜が耐えられなくなり、粘膜が傷つき赤みを帯びた状態になります。

潰瘍(かいよう)はびらんがさらに進み、食道粘膜がくぼんで穴が掘られたような格好になった状態です。食道粘膜のダメージが大きくなると食道に潰瘍ができることがあります。

びらん性食道炎・食道潰瘍の症状

びらん性食道炎食道潰瘍の症状は胃食道逆流と共通したものが多いです。主な症状は以下のものになります。

  • 胸やけ
  • 呑酸(どんさん)
  • げっぷ
  • 胸の痛み
  • 出血(吐血

びらん性食道炎食道潰瘍は胃食道逆流症から発展するのでその症状は似ています。異なる点は、びらんや潰瘍形成をしているので食道の壁の中にある血管に影響が及びやすくなり出血することです。出血は少量のこともあれば大量のこともあります。出血の程度や全身状態を考慮して治療法を決めます。

胃食道逆流症と共通した症状に関しては「胃食道逆流症(逆流性食道炎)の症状:胸やけ・呑酸・吐き気など」で解説しているのであわせてご覧ください。

びらん性食道炎・食道潰瘍の検査

びらん性食道炎食道潰瘍の検査は胃食道逆流症の検査と同様です。以下のものを用います。

  • 問診
  • 内視鏡検査
  • 造影検査:食道造影
  • 病理検査
  • 食道pHモニター
  • 食道内圧測定

内視鏡による観察が診断に有効です。食道がんでもびらんや潰瘍ができることがあるので食道がんと見分けることが必要になるケースがあります。食道がんと見分けるために病気の部分を数か所内視鏡を用いて取り出して顕微鏡でみて食道がんではないかを確認します。

びらん性食道炎・食道潰瘍の治療

びらん性食道炎食道潰瘍の治療は基本的には胃食道逆流症の治療と同様の治療を用います。胃酸の分泌を抑える薬や必要に応じて胃酸逆流を防止する手術などを行います。

びらんや潰瘍から持続的な出血がある場合は内視鏡を用いて止血をすることがあります。胃酸を抑える薬や手術の内容については「胃食道逆流症(逆流性食道炎)の治療:薬物治療・手術など」で解説しています。

3. バレット食道(Barrett’s esophagus)

胃食道逆流症が長年続くと胃酸に耐えるために食道の構造が変化することがあります。食道の壁が変化した食道をバレット食道と言います。バレット食道からは食道がんが発生しやすくなっています。

少し専門的な話になりますが、食道はもともと食べ物が通過するなどの物理的な刺激に対しては強い一方、胃酸などの化学的な刺激には弱い性質があります。

胃酸が食道に逆流を続けると食道の粘膜は胃酸に適応するように変化します。正常な食道の粘膜は、顕微鏡で見ると扁平上皮(へんぺいじょうひ)という構造になっています。胃食道逆流症によって炎症が長期間続くと、食道粘膜は扁平上皮から円柱上皮に変化します。

円柱上皮に変化した粘膜をバレット粘膜と言います。バレット粘膜が広がっている部分を指してバレット食道ともいいます。バレット食道からは腺がんという組織型の食道がんが発生しやすいことがわかっています。

バレット食道には種類があります。バレット粘膜が食道の内側を一周してつながっていて(全周性)、かつ上下方向に3cm以上広がっている場合を「long segment Barrett esophagus(LSBE)と呼びます。バレット粘膜が3cm未満であるか、または全周性につながっていない(非全周性)ものをShort segment Barrett esophagus(SSBE)と呼びます。

バレット食道の症状

バレット食道は胃食道逆流症が長年続いて食道自体が変化したものです。バレット食道に変化したからといって胃食道逆流症と違う症状が現れるわけではありません。主な症状は以下のものになります。

  • 胸やけ
  • 呑酸(どんさん)
  • げっぷ
  • 胸の痛み

基本的には胃食道逆流症とバレット食道の症状には変わりがありません。つまりバレット食道の状態かを見分けることは難しいです。

バレット食道の検査

バレット食道は胃食道逆流症と同じ検査を用いて診断します。バレット食道に用いる検査は以下のものになります。

  • 問診
  • 内視鏡検査
  • 造影検査:食道造影
  • 病理検査
  • 食道pHモニター
  • 食道内圧測定

胃食道逆流症とバレット食道の検査で異なるのは病理検査を行う点です。少し専門的な話になりますがバレット食道は扁平上皮という本来ある組織が円柱上皮という組織に変わった状態です。この違いは内視鏡ではおおよそでしか判断ができません。そこで内視鏡検査をしたときにバレット食道になっていると思われる部分から一部組織をつまみとり顕微鏡で確認します。これを病理検査といいます。

バレット食道は食道がんになるのか?

バレット食道からは食道がんの中で腺という組織型のものが発生する危険性が高くなることが知られています。日本人の食道がんは扁平上皮癌という組織型が多数を占めており、欧米などは腺癌が多数です。そしてバレット食道には以下の2つの種類があります。

  • LSBE:long segment Barrett esophagus
    • 全周性に3cm以上のバレット粘膜がある
  • SSBE:short segment Barrett esophagus
    • バレット粘膜が3cm未満であるか、または非全周性

食道がんと関連が強いのは日本人には少ないLSBEです。胃食道逆流症の人でLSBEの状態である人は1%以下とされています。

米国からの報告はLSBEの人に1年間で食道がんが発生するリスクは0.4%としています。日本人ではSSBEの方が多いので、「バレット食道です」と言われたとしても多くの人の場合食道がんになる割合は年間0.4%よりも低いと推測できます。

バレット食道の治療

バレット食道は内視鏡検査で見つかることがあります。バレット食道から食道がんが発生する可能性がありますが、バレット食道でも必ず食道がんになるとは限りません。現在のところバレット食道を定期的に検査するべきか、治療するべきかという問いには確実な答えが出ていません

バレット食道の治療は内視鏡を用いてレーザーで病気の部分を焼き払ったり切り取ったりします。どの方法が適しているか、またどんな人に効果が期待できるかはまだわかってはいません。

バレット食道が見つかった場合は、治療をするべきかどうか、また検査で様子をみるならばその間隔などを主治医と話し合ってみてください。定期的な検査はせず生活の負担を少なくするという選択肢もあります。治療や検査によって得られるメリットやデメリットについての吟味が大事です。

参考文献
・日本消化器病学会, 胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン, 南江堂, 2015

4. 食道狭窄(しょくどうきょうさく)

食道狭窄は食道が狭くなることです。胃食道逆流症の一部が食道狭窄になることがあります。食道狭窄の中でみると胃食道逆流症が最も多い原因です。

胃食道逆流症から食道狭窄が起こる理由は度重なる炎症などです。食道狭窄の症状や検査などを解説します。

参考文献
Am J Gastroenterol. 1993;88:1160-73.

食道狭窄の症状

食道狭窄が起こると食べ物が喉を通りにくくなる症状が主に現れます。この症状を嚥下困難(えんげこんなん)と呼ぶことがあります。食道が狭くなってものが飲み込みにくくなると食事の量が減っていきます。結果として体重が減る(体重減少)こともあります。

食道狭窄症の嚥下困難や体重減少は、他の病気(食道がん食道アカラシアなど)が原因でも起こることがあります。症状から病気を完全に見分けることは困難なので検査を用いて診断します。

食道狭窄の検査

食道狭窄は狭くなった食道を正確に評価することが大切です。以下の検査を用います。

  • 問診
  • 内視鏡検査
  • 造影検査:食道造影
  • 病理検査

検査で狭くなっている部分を確認して治療計画をたてるのに参考にします。

食道狭窄症のほとんどは胃食道逆流症の影響で発症します。しかしその一部は食道がんなどによる可能性があります。このために内視鏡検査では病気の部分を確認してその一部を取り出してがんかどうかの確認をすることがあります。この検査を病理検査といいます。

食道がんの場合は治療法が大きく変わります。食道狭窄に大きな病気が隠れていないかを調べることはとても重要です。

食道狭窄の治療

食道の狭窄の治療には、食道を広げる方法があります。治療用に作られた風船を食道に入れ、狭窄している場所で膨らませて食道を押し広げます。風船のようなものを使うことからバルーン拡張術ということもあります。

食道狭窄症は胃食道逆流症でびらんや潰瘍ができた後の治癒過程で発生すると考えられています。したがって食道狭窄症を拡張した後には食道にびらんや潰瘍が起こらないようにしなければなりません。びらんや潰瘍を予防するには胃酸を減らす薬を用いて治療します。

食道狭窄症の治療後の経過は一度の治療で症状が改善する場合もあれば治療効果が不十分な場合や再び症状が現れる(再発)場合など様々です。効果が不十分な場合や再発した場合には再び拡張術を行います。

参考文献
Gastroenterology. 1983;85:346-50

5. 食道以外の臓器に起こる主な病気

胃食道逆流症が起きこると胃酸が食道以外の場所にも逆流して口の中や耳・鼻、肺などの病気の原因になることがあります。主な病気は以下のものになります。

口の中に起こる病気

胃酸などが口の中まで達するとその刺激から歯や口の中の粘膜がダメージを受けます。歯や口の中に障害が起こると虫歯口内炎が起こることがあります。

呑酸(口の中がすっぱく感じる)などの症状が目立つ人は口のなかまで胃酸が達していることが推測されるので注意が必要でしょう。

喉に起こる病気

食道と口の間には咽頭(いんとう)と喉頭(こうとう)という場所があります。咽頭と喉頭は日常「のど」と呼んでいる場所を指す医学用語です。のどは呼吸(空気の出入り)や発声(声を出す)、嚥下(ものを飲み込む)といった役割を果たしています。

胃酸が食道を超えて咽頭や喉頭に達すると慢性的な炎症(咽頭炎喉頭炎)の原因になり、のどの痛みや声がれ(嗄声)といった症状が現れることがあります。

胃食道逆流症が原因の咽頭炎喉頭炎は胃酸を抑える薬などで治療することで改善が期待できます。

耳や鼻に起こる病気

図:耳とその周りの構造。中耳は耳管を通じて上咽頭とつながっている。

耳や鼻は口の中とつながっています。

胃食道逆流症がおこり逆流したものが耳の中に逆流して炎症を起こすと中耳炎が起こります。中耳炎が起こると耳に痛みなどが生じます。

鼻の周りにある副鼻腔(ふくびくう)という空間も口の中と通じています。

図:副鼻腔の位置。

胃食道逆流症で逆流した消化液などが副鼻腔に流れ込むこむことがあります。逆流したものが原因で副鼻腔炎がおこります。慢性の副鼻腔炎蓄膿症(ちくのうしょう)と呼ばれることもあります。副鼻腔炎が起こるとねばっこい鼻水や頑固な鼻詰まりなどの症状が現れます。

中耳炎副鼻腔炎は胃食道逆流症以外の原因でも起こります。まず専門的な診察が受けられる耳鼻科を受診して原因を調べることが大事です。胃食道逆流症の関与が強く考えられる場合には消化器内科などと連携して治療することで改善が期待できます。

肺や気管支に起こる病気

胃食道逆流症が起こり逆流した胃液などが呼吸の役割を果たす気管支や肺などに流れ込んでしまうことがあります。胃液などを含んだ逆流物が気管支や肺に流れ込むと気管支炎肺炎の原因になります。気管支炎肺炎が起こると咳や痰、発熱などの症状が現れます。気管支炎肺炎の治療は内科や呼吸器内科で行われます。