1型糖尿病の基礎知識
POINT 1型糖尿病とは
膵臓のインスリンを出す細胞が自身の異常な免疫などにより破壊され、インスリンの分泌量がごくわずか、または無くなってしまう病気です。インスリンは血糖値を下げるために重要なホルモンで、不足すると血糖値を下げることができずに様々な症状が現れます。 発症時の症状は、喉が乾く・水を多く飲みたくなる・尿の量が増える・おねしょが増える・体重が減る・いらいらしやすい・だるい・視界がぼやける、などがあります。 1型糖尿病は、ウイルス感染や遺伝などが関与すると考えられており、小児期や思春期に発症することが多いです。 インスリンの注射や食事療法、生活指導で血糖値を抑える治療行い、高血糖による合併症を予防します。1型糖尿病が心配な型や治療したい方は小児科や糖尿病内科を受診してください。
1型糖尿病について
- 膵臓のβ(ベータ)細胞(
インスリン を分泌する細胞)が破壊されることによるインスリン不足が原因で起きる糖尿病- 感染などをきっかけにβ細胞を攻撃する
自己抗体 ができる - 自己抗体の種類は30種類以上
- 抗GAD
抗体 - 抗IA-2抗体
- 抗インスリン抗体
- 抗膵島細胞抗体
- 抗ZnT8抗体 など
- 抗GAD
- 自己抗体が関与していない1型糖尿病もあり、その場合は
特発性 1型糖尿病と呼ばれる
- 感染などをきっかけにβ細胞を攻撃する
- 2型糖尿病との最大の違いはβ細胞そのものが破壊されてしまうこと
- インスリンの分泌がほとんどできなくなる
- 多くは数日から数ヶ月単位の進行でインスリン投与が不可欠になる(インスリン依存)
- インスリンが分泌されないために、糖分を栄養として利用することができなくなりさまざまな
症状 が起こる - 2型糖尿病が中年-高齢者に多いのに対して、1型糖尿病は小児期から青年期に
発症 することが多い- 年間発症率は10万人あたり1-2人ほど
- 全糖尿病の約5%ほどを占める
- 男女差はない
- 若い人の発症する事が多い一方で、成人になって初めて発症することもあるので注意が必要
- 特に成人女性の場合、
甲状腺 疾患(慢性甲状腺炎)が合併 することもあるので甲状腺も併せて検査する場合もある
- 特に成人女性の場合、
1型糖尿病の症状
高血糖 による症状 - 尿が増える
- のどの渇き、多飲
- 糖分がうまく使えないことによる症状
- 体重の減少
- 疲れやすい、だるい
- 重症化すると糖尿病
昏睡 を起こす- 1型糖尿病では糖尿病性ケトアシドーシスを起こしやすい
- 著しい高血糖、
アシドーシス (体が酸性に傾く)、意識障害 、呼吸不全 、嘔吐、腹痛などを起こす インスリン を適切に打たなかったことや感染症 が原因となることが多い- 1型糖尿病は進行が早く、糖尿病性ケトアシドーシスに至って診断がつくことも多い
血糖 値が高い状態が続くと多くの合併症 が起こる- 合併症が進行すると下記の症状がみられることもある
1型糖尿病の検査・診断
- 尿検査:尿からでる糖分やケトン体の量などを調べる
- 血液検査:糖尿病の進行度合いなどを調べる
血糖 値、インスリン 分泌量、HbA1c、自己抗体 などを測定する
- 身長体重測定:体格指数を確認する
- 幼児ではカウプ指数、学童ではローレル指数、成人ではボディ・マス指数(
BMI )などを指標とすることが多い
- 幼児ではカウプ指数、学童ではローレル指数、成人ではボディ・マス指数(
- 経口
ブドウ糖 負荷試験:糖分に対する反応を調べる 視力検査 :視神経障害を起こしていないか確認する
1型糖尿病の治療法
- ほとんどの場合に
インスリン 治療(インスリン皮下注射)が必須となる- 2型糖尿病と異なり、食事療法・運動療法・飲み薬でのコントロールはできない
- インスリン注射は一生涯必要になるが、
合併症 がない限り日常生活の制限はほとんどない - 基本的に、毎食前と寝る前の1日4回インスリン注射が必要
血糖 値は毎食前後と寝る前の7回は測定することが望ましい- 食前のインスリンは即効型もしくは超速効型、寝る前のインスリンは持効型を使うことが多い(可能な限り生理的なインスリン分泌に近づける)
- おしりやお腹、太ももなどに自身で(もしくは保護者が)注射する
- 食事内容や量の変動が大きい小児ではカーボカウントを、成人などではスライディングスケールを使用してインスリンの量を決定することが多い
- カーボカウントとは食事中に含まれる炭水化物の量を元にインスリン量を決定する方法
- スライディングスケールとは食事前の血糖値を元にインスリン量を決定する方法
- 両者を組み合わせる方法もあり、適切なインスリン量は各々異なる
- 乳幼児では食べる量にむらがあるため、食前打ちではなく食後打ちにすることもある
- おやつを食べる場合には適宜血糖測定、インスリン注射を追加することもある
- ある程度の血糖変動はやむを得ないが、低血糖発作には十分に注意が必要
- 低血糖症状(だるさ、冷や汗、
動悸 、手の震え、顔面蒼白など)がみられた場合にはすぐに糖分の入ったジュースやお菓子などを摂る - 重症化すると
意識障害 を起こすこともある:自分で食べるのが難しい場合には保護者がブドウ糖 を歯茎と唇の内側にすり込む
- 低血糖症状(だるさ、冷や汗、
- 低血糖発作を予防するため、運動前にはあらかじめビスケットなどを食べておくことも有用
- かぜなどをひいて体調が悪い時(いわゆるsick day:シックデイ)には、血糖コントロールが難しくなるため注意が必要
- 食事がとれない状態で普段通りのインスリン量を打つことで低血糖になったり、逆に
副腎皮質ホルモン などの影響で普段よりも高血糖 になることがある(糖尿病性ケトアシドーシスにも注意が必要) - その都度主治医の指示を仰ぐ必要がある
- 脱水を避ける、少しでも食事を摂る、インスリンの自己中断をしないことが重要
- 食事がとれない状態で普段通りのインスリン量を打つことで低血糖になったり、逆に
- 成長とともにインスリン必要量は変動するので、適宜調整が必要
- 思春期には生理的にインスリンの必要量が増える
- 運動療法や食事療法も重要
- 小児期の
発症 が多いことを踏まえると、極端な食事制限は避けるべき- 成長、発達に十分なエネルギーをとり、バランスの良い食生活を心がける
- 食事内容により血糖値の上がり方は変動するため、注意が必要 例)脂肪・蛋白質が多いと、血糖値の上昇はゆるやか
- 重大な合併症がない限り、基本的に運動制限は必要ない
- 小児期の
- 一回の血糖値の一喜一憂せず、HbA1cの値を参考に血糖コントロールを調整していく
- HbA1cは過去数か月の血糖値の平均を反映する値であり、長期的な合併症を抑える目的では7.0%未満を目指すことが望ましい
- 健常人と同程度のHbA1cを維持しようとすると、低血糖発作を頻発することがある:無理のない範囲でコントロールすることを目指す
- 1型糖尿病の治療は個々人で大きく異なる部分があるため、その都度主治医と相談しながら治療を進めていくことが重要である
- 子ども時代から発症するが多いことを考慮して、保育所や学校の理解、協力を得ることも不可欠
1型糖尿病に関連する治療薬
インスリン製剤
- インスリンを体内に投与することで、血糖値を下げ糖尿病による合併症を防ぐ薬
- 糖尿病は血糖値が高い状態で、この状態が続くと様々な合併症を引き起こす
- インスリンは血糖を下げるホルモン
- インスリン製剤はインスリンアナログ製剤とヒトインスリン製剤に分かれる
- インスリン製剤は作用発現時間や作用持続時間などにより以下の種類に分かれる
- 超速効型:作用発現時間が10〜20分、作用持続時間は3〜5時間で「食直前に投与」
・フィアスプ注やルムジェブ注は通常、食事開始時(食事開始前の2分以内)に投与 - 速効型:作用発現時間は30分〜1時間、作用持続時間は5〜8時間で「食前30分に投与」
- 持効型:作用持続時間は約24時間又はそれ以上で、継続使用時に明らかなピークが見られないため、中間型に比べてよりスムーズに基礎分泌を補いやすいメリットが考えられる
・アウィクリ(インスリン イコデク)は、ほかの持効型よりも作用持続時間が長く「週1回投与」が可能 - 中間型:作用発現時間は30分〜3時間、作用持続時間は18〜24時間(同じ中間型でも製剤によっては作用持続時間に開きがある場合もある)
- 混合型:超速効型又は速効型に、一定量の添加物を加えたり中間型を組み合わせた製剤(超速効型又は速効型の配合割合により規格が複数存在することがある)
- 超速効型:作用発現時間が10〜20分、作用持続時間は3〜5時間で「食直前に投与」
- 一部のインスリン製剤は高カリウム血症の治療に使われる場合もある
1型糖尿病の経過と病院探しのポイント
1型糖尿病が心配な方
1型糖尿病は2型糖尿病と異なり、特に生活習慣の乱れなどがなくても若い方に発症することがあり、自覚症状としては喉の渇きや尿量の増加といったような症状がみられます。
上記のような症状に該当してご心配な方は糖尿病内科、もしくは一般内科のクリニックの受診をまずはお勧めします。糖尿病の傾向があるかどうかは簡単な検査で分かりますので、深くお悩みになる前に一度検査を受けた上で、医師に対応をご相談下さい。
1型糖尿病でお困りの方
慢性期の糖尿病の治療は特殊な設備を要するものではなく、内科のクリニックでも十分に行うことができます。その中でも担当が糖尿病専門医であれば、よりきめ細やかな治療や、合併症の早期発見が可能となります。
糖尿病では、糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症と呼ばれる3大合併症があります。神経障害では、手足のしびれや感覚の低下が生じます。網膜症では視力が徐々に低下し、そのまま放置すると失明につながります。腎症では腎臓の機能が徐々に低下して、自覚症状のないまま症状が進行し、放置すると血液透析といって、週3回4時間などで、日々医療機関で血液中の老廃物を取り除く処置を受ける必要が生じたりします。
初めて糖尿病と診断されたタイミングでは、これらの合併症がないかの検査を行うため、またインスリンの自己注射方法を学ぶため、そして糖尿病についての理解を深めてその後の自宅での生活の工夫に役立てるためなどの目的で、数日から1週間など、短期の入院が必要となることがあります。この場合、糖尿病と診断されたのが地元のクリニックであったとしたら、入院先として地域で連携している医療機関を紹介してくれるはずです。1型糖尿病の場合にはインスリンの自己注射が必須になるということや、若くして糖尿病と診断された場合には、その先何十年と病気と付き合っていく必要があります。その点からも、一度入院をしてしっかりと糖尿病について、そして糖尿病と付き合っていく生活について理解と考えを深める機会が重要となります。
また、その後も定期的に眼科の診療を受けるために眼科のクリニックでかかりつけ医療機関を作ることになります。糖尿病の合併症による失明は、日本の成人失明原因の第1位であり、こまめな検診が必要です。また、もし血液透析が必要になった場合には、透析クリニック、透析病院と呼ばれるような、血液透析に力を入れている医療機関が全国各地にあります。そのようなところで通いやすい場所を見つけることが重要です。
長期的な通院が必要となりますので、何よりも主治医との相性や病院の通いやすさが重要です。信頼できて食事や運動など日常生活の悩みをしっかり相談できる主治医を見つけることはとても大切で、細かな薬の使い分けなどよりも影響が大きい部分かもしれません。
糖尿病の治療の中心は血糖値が上がらないように注意すること(運動療法、食事療法、薬物療法)ですが、それと同時に、上記の合併症が生じた場合に早期発見することも大切です。症状が出てからでは遅いので、1年に1回以上眼科を受診する、定期的に尿検査や血液検査を受ける、手足の感覚がにぶっていないかや足先に切り傷や水虫がないか(糖尿病の方では、これらの傷から菌が広がって悪化しやすいためです)を確かめる、といった点が大切になります。主治医を作り定期的な検査を受けることと、それと同時に自身でも糖尿病についての理解を深め、食事の工夫を含めたセルフケアを行っていくことが、他の病気にも増して重要になるのが糖尿病です。