くろーんびょう
クローン病
腸管の壁に炎症が起こることで大腸や小腸に深い潰瘍を作る慢性の病気。潰瘍性大腸炎と合わせて炎症性腸疾患(IBD)に分類される
12人の医師がチェック 138回の改訂 最終更新: 2023.06.02

クローン病の診察と検査:内視鏡検査・画像検査・血液検査など

クローン病では内視鏡検査、消化管造影検査、CT検査、MRI検査、血液検査、便検査などが行われます。これらの検査はクローン病の診断だけでなく、病変の広がりや治療効果判定などに用いられます。

1. クローン病に診断基準はあるのか?

近年、診断を正確に行うためにさまざまな病気に対して診断基準が設けられています。日常の診療ではここで述べる診断基準を用いてクローン病であるかの判断を行います。(表記は簡単なものにするため改変しています)

  1. 主要所見
    1. 腸に縦方向に走る潰瘍がある(縦走潰瘍)
    2. 粘膜が潰瘍により不規則にえぐれて敷石のようになっている(敷石様病変)
    3. 内視鏡でとってきた組織を顕微鏡で見るとクローン病に特徴的な免疫細胞の集まりがある(非乾酪性類上皮細胞肉芽腫
  2. 副所見
    1. 腸の広い範囲でいびつな潰瘍がある
    2. 裂肛痔瘻肛門周囲膿瘍などのクローン病に特徴的な肛門の病変がある
    3. 竹の節状潰瘍(※)などのクローン病に特徴的な胃や十二指腸の病変がある

※ 胃に不連続に潰瘍ができることで竹の節のように見えること

以下のいずれかを満たす時、クローン病の確定診断とする

  • 主要所見のaまたはbがある時
  • 主要所見のcと副所見のaまたはbがある時
  • 副所見のa, b, cがある時

参考文献
厚生労働科学研究費補助金 難治性疾患政策研究事業「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」 :潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針

2. クローン病ではどんな診察や検査が行われるか?

クローン病では診断や治療方針の決定のため、以下の診察や検査が行われます。

  • 腹部の診察
  • 直腸・肛門の診察
  • 内視鏡検査
  • 画像検査(消化管造影検査、CT検査、MRI検査)
  • 血液検査
  • 便検査

これらの診察や検査について説明していきます。

3. 腹部の診察

クローン病の診断のためには、腹部の診察を行います。腹部の診察には大きく以下のものがあります。

  • お腹の見た目がどうか(視診)
  • お腹の動きはどうか(聴診
  • お腹に異常なものは触れないか、触ると痛くないか(触診)

上記に加え、お腹を軽く叩いた時の音をもとにお腹の状態を調べる診察方法(打診)を一緒に行うこともあります。ここでは、視診・聴診・触診について説明します。

お腹の見た目がどうか(視診)

クローン病では炎症で腸の壁が分厚くなり、食べ物や便が通らなくなることがあります。この状態を腸閉塞(ちょうへいそく)と呼びます。腸閉塞では先に進めなくなった便やガスが腸の中にたまっていきます。その結果、腸閉塞を起こすと外から見てもお腹が膨らんでいる様子が確認されます。

また、肛門に病変があり、肛門の切除が必要な場合には、人工肛門をつくることがあります。人工肛門は大腸を肛門につながず、お腹から体の外に出すことを言います。排便はお腹の大腸を出している場所から行われることになります。人工肛門を作った場合には、人工肛門の状態が問題ないか、見た目のチェックが定期的に行われます。

お腹の動きはどうか(聴診)

腸は動く時にゴロゴロと音を立てます。このお腹の音を聞くことで、お腹の動きや状態を想定することができます。診察の際には、腸の動く音を正確に把握するために、聴診器を用いてこの音を確認します。クローン病ではお腹の動きが悪くなると、このゴロゴロとした音が聞こえなくなることがあります。逆に食べ物が腸の狭い部分に詰まると、無理矢理詰まった食べ物を押し進めようとして、腸の音が強くなります。腸から普段経験しないような強いゴロゴロした音がする場合には、腸が詰まりかかっているサインの可能性があり注意が必要です。

お腹に異常なものは触れないか、触ると痛くないか(触診)

クローン病では炎症により腸の壁が分厚くなると、かたまりとしてお腹で触れることがあります。またお腹を触ることでお腹の痛みの場所を正確に把握することができます。お腹の中にかたまりが触れることやお腹の痛い場所の分布はクローン病かどうか判断する際に、参考にします。

4. 直腸・肛門の診察

クローン病では直腸や肛門にも異常が起こることがあります。クローン病の診察では直腸や肛門の異常を見つけるため、直腸や肛門の診察が行われることがあります。直腸や肛門の診察は専門用語で直腸診と呼ばれます。

直腸診は肛門部の見た目の確認や、肛門に指を入れることで痛みが誘発されないか、異常なしこりがふれないかなどを確認します。直腸診により、肛門周囲膿瘍がんを見つけることができます。

直腸や肛門の診察というと恥ずかしいと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、直腸や肛門の異常を見つける大事な診察になります。

5. 内視鏡検査

クローン病の診断や治療方針決定において、内視鏡検査は大事な検査です。具体的には細長いカメラを鼻や口、肛門から挿入して胃や腸を観察します。内視鏡検査には食道、胃、十二指腸を観察する上部消化管内視鏡胃カメラ)と大腸を観察する下部消化管内視鏡大腸カメラ)があります。

また、ご飯や便などがお腹の中に入っていると内視鏡で胃や腸の中を観察できないため、以下のような注意事項があります。

  • 検査前日の夜9時頃までに食事を済ませる
  • 当日内視鏡検査までは食事はしない(薬などを飲むことは可能)
  • 大腸カメラの場合、検査前夜または当日朝から下剤の内服を開始する

また、検査直前に麻酔をしたり、胃や腸を観察しやすいようにお腹の動きを調節する薬を使うこともあります。なお、腸に穴が空いている場合は、内視鏡検査はできません。

クローン病で内視鏡検査は以下の目的で行います。治療の目的に行う場合に関しては「内視鏡治療」で説明します。

  • クローン病の診断のため
  • 病気の広がりを確認するため
  • 治療の方針を決めるため
  • がんを早期に見つけるため

それぞれ以下で説明します。

クローン病の診断のため

クローン病は腹痛、下痢などの症状があらわれます。しかし、これらの症状は他の病気でも起こることがあるため、症状だけでクローン病と診断することはできません。クローン病の診断のためには、内視鏡検査で実際に何が起こっているかを観察することが必要です。クローン病は胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸)、大腸(結腸、直腸)など様々な場所に潰瘍(えぐれていること)ができます。また、時に「アフタ」と呼ばれる白い付着物のある潰瘍ができることもあります。

内視鏡検査は生検といって、腸の粘膜の一部をとってきて顕微鏡で何が起こっているのかを観察することもできます。クローン病の方の腸の粘膜を顕微鏡で観察すると「非乾酪性類上皮細胞肉芽腫」と呼ばれる免疫細胞の集まりが確認されます。

病気の広がりを確認するため

クローン病は胃、小腸(十二指腸、空腸、回腸)、大腸(結腸、直腸)などいろいろな場所に潰瘍ができます。クローン病の潰瘍はどこにできるか予想が難しく、患者さんごとにも異なります。例えば、大腸にしか潰瘍ができない方もいれば、胃、小腸、大腸すべてに潰瘍ができる人もいます。そのため、クローン病の病気の広がりは内視鏡検査で確認する必要があります。

治療の方針を決めるため

内視鏡検査の結果は治療方針を決める上でも重要です。例えば、クローン病では手術をすることがありますが、病気の広がり次第で手術の方法が変わることがあります。また下痢や腹痛などの症状がない状態でも、内視鏡で観察すると炎症が残っていることがあります。内視鏡検査をしないとわからないような小さな炎症でも、症状をぶり返すこともきっかけになることがあり、内視鏡検査で定期的に観察しながら十分な治療が行えているか確認していく必要があります。

がんを早期に見つけるため

クローン病の人はがんに注意が必要?」でも説明しますが、クローン病の人は一般の人より大腸がんになりやすいと考えられています。早期のがんは症状もあらわれにくいため、症状がない場合にも内視鏡検査で大腸がんのチェックを行うことがあります。

また、最近では早期の大腸がんであれば、内視鏡でそのまま治療することも可能です。大腸がんの内視鏡治療について気になる方は「大腸がんの内視鏡治療とは?適応や治療内容について」を見てみてください。

6. 画像検査

クローン病で行う画像検査には以下のものがあります。

  • 消化管造影検査
  • CT検査
  • MRI検査

それぞれ以下で説明します。

消化管造影検査

消化管造影検査は造影剤を胃や腸の形を確認する検査です。造影剤はレントゲンに白くうつる液体です。通常のX線検査では腸ははっきりうつらないため、造影剤を使うことで腸の形を確認します。

造影剤の投与の方法には、経口法(造影剤を飲む)と注腸法(肛門から注腸する)があります。経口法は胃や小腸の形を、注腸法は大腸の形を確認したい時に行います。クローン病の人では腸の形がいびつになったり、狭くなっているのが確認されます。そのため、消化管造影検査を用いることで、どこに病変があるかを確認することができます。

CT検査

CT検査も腸の炎症や狭窄を確認することができる検査のひとつです。筒状の機器に入って検査は行われ、お腹の中の状態や腸の形状を調べることができます。消化管造影検査と異なり、一度に腸全体を撮影することができることが強みです。

CT検査はクローン病の状態が悪い時に起こる腹腔内膿瘍(お腹の中にうみ)ができること)、腸管穿孔(腸に穴があくこと)や腸閉塞(腸がつまること)を調べるための検査としても有用です。また、内視鏡検査や消化管造影検査に比べると患者さんの負担が少ないのもひとつの特徴です。

MRI検査

クローン病では肛門のまわりに膿(うみ)ができることがあります。これを肛門周囲膿瘍(こうもんしゅういのうよう)と呼びます。MRI検査は肛門周囲膿瘍の検出に優れた検査です。肛門周囲膿瘍は内視鏡検査や消化管造影検査など他の検査では見つけることは難しく、クローン病の人で肛門の痛みや熱が続くなど、肛門周囲膿瘍が疑われる場合にはMRI検査を勧められることがあります。またMRI検査は膿瘍の広がりを確認することもできます。膿瘍の広がりの程度により治療方針が変わることもあるため、膿瘍の広がりの程度を確認することは非常に重要です。

7. 血液検査

クローン病において、血液検査は以下の目的で行われることがあります。

  • クローン病の炎症の程度を予測するため
  • 貧血が起こっていないかを確認するため
  • 薬の副作用のチェックのため

それぞれ以下で説明します。

クローン病の炎症の程度を予測するため

クローン病は腸に炎症が起こる病気です。実際に腸に炎症が起こっているかを確認するためには、内視鏡検査で観察する必要があります。しかし、内視鏡検査の体への負担を考えると、気軽に何度もできるものではありません。そのため、血液検査の「炎症マーカー」と呼ばれる項目を確認することがあります。例えば、クローン病の治療が始まって薬の効果があるかをチェックする時に、患者さんの症状の改善と合わせて炎症マーカーの数値が参考にされます。

炎症マーカーに該当するものとしては「CRP」「血沈」「白血球数」などがあります。炎症マーカーの上昇は、内視鏡検査の実施や治療内容の変更を考える一つのきっかけになります。

貧血が起こっていないかを確認するため

クローン病では腸からの出血や炎症の持続により貧血が起こることがあります。貧血は進行すると「ふらつき」「動悸」「息切れ」の原因になりますが、「疲れやすい」「だるい」といったようにわかりにくい症状であらわれる場合もあります。そのため、血液検査で貧血が起こっていないかの確認がされます。クローン病による貧血はクローン病の治療や鉄剤を内服することで改善することがあります。

医学用語ではヘモグロビンが減っている状態を貧血と呼びます。貧血でふらっとする症状はあることもないこともあります。逆にふらつきがあっても貧血が原因とは限りません。血液検査の「赤血球数」や「Hb(ヘモグロビン)」といった項目を参考にします。

薬の副作用のチェックのため

血液検査はクローン病の治療に伴う副作用のチェックのためにも行われます。具体的にはクローン病の治療薬が肝臓や腎臓の負担になることがあります。治療薬の中には血液の細胞の産生をおさえてしまう(骨髄抑制)ものもあります。これらの副作用は軽度のものだと症状もあらわれにくいことがあり、採血をして血液検査によるチェックが行われます。具体的には以下の項目が該当します。

  • 肝臓の検査
    • AST(GOT)
    • ALT(GPT)
    • LDH
    • ALP
    • γ-GTP(ガンマジーティーピー)
  • 腎臓の検査
    • Cr(クレアチニン)
    • BUN
  • 血液細胞の検査
    • 白血球数
    • 赤血球数
    • Hb(ヘモグロビン)
    • 血小板

■肝臓の検査

肝臓の検査にはAST、ALT、LDH、ALP、γ-GTPがあります。ASTをGOT、ALTをGPTと呼んでいる施設もあります。これらは正常値より上昇している場合に、肝臓に負担がかかっているとみなされます。クローン病の治療薬により肝臓に負担がかかっている場合、AST、ALT、LDH、ALP、γ-GTPの全てがあがる場合もありますが、一部しか上がらない場合もあります。専門的な話になりますが、肝臓は肝細胞、胆管細胞など様々な細胞で構成されており、それらのどの細胞に負担がかかるかによって、異常が出る検査値が異なります。クローン病の治療薬で肝臓に負担がかかった場合でも、ほとんどは中止すれば正常値に戻ることが多いです。

■腎臓の検査

腎臓の検査にはCrやBUNがあります。これらも正常値より上昇している場合、腎臓に負担がかかっているとみなします。クローン病の治療薬により腎臓に負担がかかっている場合、BUNとCrは同時に上がることが多いです。また、薬により腎臓に障害が残ってしまった場合には薬を中止しても値が正常化しなくなります。このような場合、CrやBUNの値の上昇が著しい場合には、緊急で透析の適応になることもあります。

また、薬の中には腎臓の機能に応じて用量を調整しなければならないものもあり、その際にはCrの値を参考にします。

■血液細胞の検査

血液細胞の検査には白血球数、赤血球数、Hb、血小板数があります。クローン病の治療薬では副作用で白血球数、赤血球数、Hb、血小板数の値が下がることがあります。これらは同時に白血球数、赤血球数、Hb、血小板数すべてが下がることもありますし、一部しか下がらないこともあります。

白血球は感染症から体を守る血液の細胞です。そのため、白血球数が少ない場合には感染症が重症化することがあり注意が必要です。また、一般的に白血球数が上昇した場合は感染症のサインとされますが、ステロイドを使用している場合には、感染症にかかっていなくても白血球数の上昇を起こすので、解釈には注意が必要です。

赤血球やヘモグロビンは体の中で貧血が起きているかどうかの判断で用いられます。薬の副作用で貧血が起きている場合は薬をやめることで赤血球数やHbが上昇します。一方で赤血球数やヘモグロビンの低下は薬の副作用だけでなく、クローン病自体の症状である腸からの出血によっても引き起こされるので、もし治療薬を中止しても赤血球数やヘモグロビンの上昇がみられない場合には腸からの出血を考える必要があります。

血小板は止血に関わる血液の細胞です。傷が出来た時に自然に出血が止まるのは血小板による止血効果によるものです。そのため、薬の副作用により血小板の数が減ると血が止まりにくくなってしまいます。手足にあざができやすかったり、歯を磨いている時に歯茎から出血することが多い、というようなことがあれば、血小板数が減っている可能性があるので、担当の医師と相談してみてください。

8. 便検査

便検査はクローン病と診断された場合や疑われている場合に行われる検査のひとつです。便検査には具体的には以下のものがあります。ここではこれらの検査について説明していきます。

  • 便潜血検査
  • 便培養検査

便潜血検査

便に血液が混じっているかを確認する検査です。クローン病では腸に炎症が起こると出血をきたし、便に血が混ざります。この時、大量の出血が起これば、見た目でも便に血液が付着しているのが分かります。しかし少量の場合には見た目では分からない場合もあり、このような少量の出血を検出するために便潜血検査が行われます。

便潜血検査はクローン病では腸からの出血を早期に見つけるための検査といえます。便潜血検査の結果をもとに内視鏡検査をするタイミングを決めることもあります。

便培養検査

便培養検査は便の中に血便を起こす菌がいるかを確認する検査です。血便はクローン病の代表的な症状ですが、血便を起こす病気は他にもたくさんあります。中でも感染性腸炎による血便は頻度が多いもののひとつです。そのため、クローン病が疑われる場合、感染性腸炎との見極めが必要になります。感染性腸炎との見極めでは、便の中に血便を起こすような菌がいないかを確認することが手がかりになります。