急性膵炎の原因:アルコール・胆石・腫瘍など
大量の飲酒、油っぽい食事、喫煙が急性膵炎になりやすい生活習慣として知られています。また、慢性膵炎などの病気も急性膵炎を引き起こす直接として知られています。ここでは急性膵炎の原因について詳しく解説します。
1. 急性膵炎の原因になりやすい生活習慣
アルコールをたくさん飲む人や脂肪食をよく食べる人、喫煙者には急性膵炎が多いとされています。以降ではこれらについて個別に詳しく解説します。
アルコール
アルコールの大量摂取は急性膵炎の原因として知られています。アルコールを多くとると急性膵炎が起こるメカニズムについて以下のような仮説が考えられています。
- 膵管を締めたり緩めたりする役割をもつOddi括約筋(オッディかつやくきん)が痙攣する
- 膵管内に液体に溶けない物質ができて膵管を閉塞する
- 膵プロテアーゼが活性化する
難しい言葉が多いので解説します。
膵臓で作られた膵液は、膵管という管を通って十二指腸に出ていきます。膵管の出口には膵管を締めたり緩めたりする筋肉がありOddi括約筋といいます。食べ物が十二指腸に流れ込むとその刺激でOddi括約筋が緩んで膵液が分泌されます。刺激がないときにはOddi括約筋は締まって膵液を出さないようにしています。

しかし、アルコールを大量に飲むとOddi括約筋が痙攣していまい、食べ物が流れ込んでも膵液を出すことができなくなります。行き場をなくした膵液は膵管内に溜まり続け、膵管の圧力が上がります。膵管内の圧力が高くなると、膵液が活性化して膵臓を溶かし始めてしまい、急性膵炎が起こると考えられています。
別の説として、アルコールを大量に飲むと膵管内に固形物ができてそのため膵管の圧力が上昇し膵液が活性化するというものや、アルコールそのものが膵プロテアーゼ(タンパク質などを分解する
詳しいメカニズムは別としても、アルコールの大量摂取と急性膵炎の発生は明らかに続いて起こる関係があります。過去の調査によると1日4ドリンク(エタノール48g)以上の飲酒量で急性膵炎を
【お酒毎の1ドリンクの量】
| お酒の種類(%) | 量 |
| ビール(約5%) | 250mL(中瓶・ロング缶の半分) |
| チュウハイ(約7%) | コップ1杯または350mL缶の半分 |
| 焼酎(約25%) | 50mL |
| 日本酒(約15%) | 0.5合 |
| ウイスキー・ジンなど(約40%) | 30mL(シングル1杯) |
| ワイン(約12%) | ワイングラス1杯弱 |
大量の飲酒は、急性膵炎を発症する危険性を上昇させるだけではなく、肝硬変など他の病気の原因にも成りえます。飲酒は適量を守り過度な飲酒をしないようにすることが大切です。
脂肪食
脂肪が胃や十二指腸に流れ込むと、膵液の分泌を促す刺激を与えます。たくさんの油ものを摂取すると膵液の分泌を過剰に促してしまい、急性膵炎を起こす危険性が高まります。脂肪食をどの程度食べれば急性膵炎が起こるかのはっきりとしたデータはないのですが、常識の範囲を超えるような食生活は控え、バランスのとれた食生活を送るのが望ましいです。
バランスのよい食事については、厚生労働省と農林水産省による「食事バランスガイド」などを参考にして下さい。
参考文献
・日本消化器病学会, 胆石症診療ガイドライン2016
喫煙
喫煙者には急性膵炎が多いことが分かっています。
アルコールは急性膵炎の発症と強い関連があることはわかっているのですが、喫煙について調べようとすると、アルコールをたくさん飲む人が喫煙をしていることが多いため、喫煙が急性膵炎の発症にどれほどの影響を与えるかははっきりしていませんでした。最近の研究結果によると、アルコールの影響を差し引いても喫煙が急性膵炎を発症する原因の一部であることが分かってきました。ただし、喫煙がどのような影響を与えて急性膵炎を発症するかははっきりとはわかっていません。
喫煙と急性膵炎の関係について不明な点はありますが、喫煙している人には急性膵炎が多いのは事実です。
喫煙は肺がん・肺気腫などの肺の病気や咽頭がん・喉頭がんなどの喉の病気の発生に強く関わっていることが知られています。禁煙することにより、多くの病気から身を遠ざけることができます。禁煙を考えているのであれば、ぜひ取り組んでみて下さい。禁煙には禁煙外来を活用するのも良い案です。禁煙外来に興味がある人は、禁煙外来を行っている医療機関のページなどでお近くの医療機関を探してみて下さい。
参考文献
・Lindkvist B, et.ai. A prospective cohort study of smoking in acute pancreatitis. Pancreatology. 2008;8(1):63-70.
・Sadr-Azodi O, et al. Cigarette smoking, smoking cessation and acute pancreatitis: a prospective population-based study Gut. 2012 Feb;61(2):262-7.
2. 急性膵炎の原因になる病気
ここまでは急性膵炎につながる可能性がある生活習慣を紹介しました。ほかにも、急性膵炎の直接の原因になる病気があります。
- 慢性膵炎
- 膵臓にできる
腫瘍 - 膵臓がん
- IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm))
免疫 の異常- 自己免疫性膵炎(じこめんえきせいすいえん)
- 膵臓の先天異常
- 膵・胆管合流異常症(すいたんかんごうりゅういじょうしょう)
- 膵管癒合不全(すいかんゆごうふぜん)
- 輪状膵(りんじょうすい)
- 胆石
急性膵炎の原因となる病気は、胆石や慢性膵炎が多いです。ほかにも、多くはありませんが、腫瘍や先天異常によって急性膵炎が引き起こされることがあります。以下ではそれらについて詳しく解説します。
慢性膵炎
慢性膵炎は、膵臓に
慢性膵炎では、急性膵炎を起こさないようにすることが治療の目的の1つです。症状に応じて、以下のような薬物療法や生活習慣の改善をまず行います。
- 薬物療法
- 消化酵素の内服
- 生活習慣の改善
- 禁酒
- 禁煙
- 脂肪食の制限
薬物療法や生活習慣の改善にも関わらず症状が改善しない場合には、痛みの原因となっている膵臓を取り除くために手術を行うこともあります。
膵臓にできる腫瘍
膵臓にできた腫瘍が急性膵炎の原因になることがあります。膵臓の主な腫瘍は膵臓がん、IPMN(膵管内乳頭粘液性腫瘍(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm))です。膵臓がんとIPMNについて説明します。
■膵臓がん
膵臓がんは膵臓の中の膵管という場所から発生する
膵臓がんは、腹痛や食思不振、体重減少、下痢などをきっかけに発見されることがあります。膵臓がんによって急性膵炎が起きた場合は、まずは急性膵炎の治療をして炎症を抑えます。急性膵炎の治療を行った後に、
がんが膵臓にとどまっている早期の段階であれば、手術によって治療することができます。膵臓から離れた所に
■IPMN:膵管内乳頭粘液性腫瘍(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasm)

膵管内乳頭粘液性腫瘍という病気も急性膵炎の原因になることがあります。一般的には英語のIntraductal Papillary Mucinous Neoplasmを略してIPMN(アイピーエムエヌ)と呼ばれることが多いです。IPMNは、膵管から発生して乳頭状の形をしています。見た目から「いくら」や「ブドウの房」に例えられることがあります。
IPMNは時間とともに大きくなり膵管を塞いでしまうことがあり、その影響で急性膵炎が起こります。IPMNは無症状であることが多く、検診などをきっかけにして発見されます。IPMNの中には悪性化するタイプがあり、検査結果で手術をしたほうがよい(手術適応がある)と判断される場合があります。手術が望まれるIPMNは以下の条件に当てはまる場合です。
【IPMNの手術適応】
- 主膵管が10mm以上に拡張している場合
- 閉塞性
黄疸 の症状がある 造影 CT 検査で造影される血流のある結節(塊)がある
IPMNの悪性化が懸念される場合や、閉塞性黄疸を引き起こしている場合には、手術が必要になります。閉塞性黄疸は、胆汁がIPMNにせき止められて流れが悪くなった状態のことです。皮膚が黄色くなったり身体が痒くなったりします。IPMNは
IPMNが原因で急性膵炎が起きた場合には、炎症を抑える治療を行い、その後検査によって適した治療を選びます。
免疫の異常
免疫は人間の身体に備わっている機能で、
自分の身を守るのに役立つ免疫ですが、時に自らの身体を攻撃してしまうことがあります。これを「
自己免疫性膵炎の治療では、炎症を抑えるために
膵臓の先天異常
先天異常とは、臓器の形や機能が生まれつき正常とは異なる異常のことです。先天異常はさまざまな臓器に起こりえて膵臓にも起きます。膵臓の先天異常はいくつかあり、その中でもいくつかは急性膵炎の原因になります。
■膵・胆管合流異常症(すいたんかんごうりゅういじょうしょう)

膵・胆管合流異常症は膵管と
ところが、胆管と膵管が十二指腸乳頭部より手前で合流している人がいます。こうした人では、Oddi括約筋の働きが及ばないので胆汁や膵液の逆流が起きてしまいます。これが膵・胆管合流異常です。
膵・胆管合流異常症は腹痛やお腹のしこりなどの症状をきっかけに発見されることが多く、そのまま経過を見ていると胆道がんや急性膵炎になりやすいことが知られています。このために、膵・胆管合流異常症の人に対しては手術をして、膵管と胆管を正常に近い形に修復します。
■膵管癒合不全(すいかんゆごうふぜん)
身体が作られる過程で、膵臓の中には膵管のもととなる管が2本でき、それが合わさって膵管になります。膵管癒合不全は、膵管のもととなる2本の管がうまくつかずに膵管が不十分な形ででき上がってしまった状態です。
膵管癒合不全がある人は急性膵炎を起こしやすいことが知られています。膵管が正常な形をしていないために、膵管の中の圧力が高くなることなどが急性膵炎を起こす理由として考えられています。
そこで、急性膵炎を防ぐ目的や膵管癒合不全自体の症状の改善目的で、手術や内視鏡治療が検討されます。
ただし、膵管癒合不全にも程度があり、異常の程度が軽い場合には、積極的な治療をしなくてもよいことがあります。一方で、痛みなどの症状がある場合や膵炎を繰り返す場合は手術や内視鏡治療を行います。
■輪状膵(りんじょうすい)
輪状膵は膵頭部の一部が十二指腸を輪っかのように取り囲む先天異常です。
膵臓と十二指腸は本来は接しているだけで、膵臓が十二指腸の周りを取り囲むことはありません。しかし、輪状膵では、十二指腸の横に接する膵臓が浮き輪のような形になって、十二指腸を取り囲んでいます。輪状膵は、正常な膵臓に比べて急性膵炎を起こしやすいと考えられており、急性膵炎をきっかけに輪状膵が発見されることもあります。
輪状膵は症状がない場合もあり
胆石
胆石は胆汁が固形化したものです。
胆汁は脂肪の吸収に関わる液体です。肝臓でつくられて、胆道という管を通って膵臓の中を通過し、十二指腸に流れ込みます。十二指腸と胆道はつながっていて、つなぎ目をファーター乳頭といいます。実は、膵液が流れる膵管もファーター乳頭とつながっていて、胆道が十二指腸とつながる直前に合流します。
胆石ができて十二指腸の近くで詰まりを起こすと、膵管の流れにも影響を及ぼしてしまいます。膵液の流れが悪くなると、膵管の中の圧力が上昇して急性膵炎を起こすと考えられています。
胆石が原因の膵炎を「胆石性膵炎」といいます。治療では内視鏡などを用いて胆石を除去します。胆石が取り除かれれば膵液の流れが改善して急性膵炎は回復に向かいます。胆石性膵炎の治療については「急性膵炎の治療」で解説しているので参考にして下さい。
3. 病気以外の急性膵炎の原因
病気以外にも急性膵炎の原因になるものがあります。主な原因は以下のものになります。
- 内視鏡を使った検査・治療の影響
- 内視鏡的逆行性胆道膵管造影(
ERCP : endoscopic retrograde cholangiopancreatography) - 内視鏡的乳頭括約筋切開術(ES: endoscopic sphincterotomy)
- 内視鏡的逆行性胆道膵管造影(
- 手術の影響
- 腹部の外傷:お腹を強く打つこと
- 薬の副作用
これらの原因について以下で詳しく解説をしていきます。
内視鏡を使った検査・治療:内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP: endoscopic retrograde cholangiopancreatography)・内視鏡的乳頭括約筋切開術(ES: endoscopic sphincterotomy)
胆道や膵臓の病気を調べるために行った内視鏡検査の後に、急性膵炎が起きることがあります。内視鏡検査や治療では、膵管や胆道に管を挿入します。管越しに造影剤という薬を注入することもあります。これらの操作が、急性膵炎を起こすきっかけになることがあります。
内視鏡検査後の急性膵炎は、検査や治療自体に特に問題がなくとも、一定の確率で起ることがあるので注意しなければなりません。このために、検査や治療の後には採血や必要に応じて画像検査(
手術の影響
胃や膵臓、腎臓などの腹部の手術では、膵臓の周りを剥がしたり膵臓の一部を切り取ったりします。手術操作が影響して急性膵炎が起こることがあります。手術の後、血液検査をしたり
腹部の外傷:お腹を強く打つ
急性膵炎は、お腹を強く打つ怪我(腹部外傷)の後にも起きることが知られています。外からの衝撃がどのようにして急性膵炎の発症に影響しているかのメカニズムはまだ詳しくはわかってはいませんが、腹部を強く打った後には急性膵炎が起きることは事実として知られています。腹部に強い衝撃を受けた後に急激な腹痛が現れた場合、腹痛の原因として急性膵炎は注意が必要なものの1つです。
薬の副作用
薬の副作用で急性膵炎が起きることがあります。
参考文献
・福井次矢, 黒川 清/日本語監修, ハリソン内科学 第5版, MEDSi, 2017
・急性膵炎診療ガイドライン2015改訂出版委員会, 急性膵炎診療ガイドライン2015, 金原出版, 2015
・日本消化器病学会, 慢性膵炎診療ガイドライン, 2015
・神澤輝実, 膵胆管形成異常の臨床, 日消誌 2008;105:669-678