ききょう
気胸
肋骨の内側で肺の外側の胸腔というスペースに空気が貯まった状態。肺に穴が空いてしまい空気が漏れることによって起こることが多い
24人の医師がチェック 191回の改訂 最終更新: 2021.03.31

気胸とは:原因、症状、検査、治療、再発予防など

気胸は肺に穴が空いて空気漏れを起こすなどして、肺の外側に空気が溜まってしまった状態を指します。タバコを吸う若年男性に起こりやすいタイプや、他の肺の病気に伴って起こりやすいタイプなどがあります。ここでは気胸の症状や原因、行われる検査や治療、再発予防法について解説します。

1. 気胸とはどんな状態か:肺からの空気漏れ

気胸という状態を深く理解するためには、正常な肺の働き方について知っておくと良いです。やや難しい内容になりますので、飛ばして「2. 気胸の分類、原因について」から読んでも構いません。

正常な胸の内部構造

胸には肋骨や肋間筋で作られる胸壁(きょうへき)があります。また、胸壁と横隔膜で囲まれた閉鎖空間を胸腔(きょうくう)と呼びます。「胸腔」という用語は、食道や心臓・大動脈など胸の真ん中の部分「縦隔(じゅうかく)」を含めて指す場合と、含めないで指す場合があります。このページの説明では、縦隔を含めない意味で「胸腔」という用語を使います。肺は左右で1つずつ、胸腔の中にすっぽりと収納されています。

胸壁の内側の表面と、肺の外側の表面には胸膜(きょうまく)という少し硬めの膜が張っています。胸壁の内側の表面に張っている胸膜を壁側胸膜(へきそくきょうまく)、肺の表面に張っている胸膜を臓側胸膜(ぞうそくきょうまく)と呼びます。正常では壁側胸膜と臓側胸膜はほぼ重なっており、2つの胸膜の間に空気はほとんど入っていません。

気胸:臓側胸膜と壁側胸膜の間に空気が溜まり肺がしぼんでいる

正常な呼吸

息を吸うときには肋間筋や横隔膜を働かせて、胸腔を広げるような筋肉の動きが起きます。そうすると、胸腔内は大気圧よりも圧が低い状態になるため、口や鼻から気管支を通って肺に空気が流入してきます。このような正常の呼吸方法を陰圧呼吸(いんあつこきゅう)と呼びます。

対照的に、人工呼吸器で圧力をかけて肺に空気を押し込むような呼吸方法を陽圧呼吸(ようあつこきゅう)と呼びます。

気胸とは

気胸とは何らかの理由で、肺の外側の胸腔内に空気が溜まった状態を指します。言い換えると、壁側胸膜と臓側胸膜の間に空気が溜まった状態とも言えます。

このように空気が溜まる原因としては、肺が破れることが一般的です。臓側胸膜が破れているとも言えます。臓側胸膜が破れると肺の中の空気が漏れ出し、漏れ出した空気は行き場を失うので胸腔内に溜まってしまうわけです。

肺の外に溜まった空気は、次第に肺や心臓を圧迫するようになります。そのため、呼吸や血液の循環に問題が生じてきます。胸腔は左右でつながっていないため、片方の肺が圧迫されて萎んだからといって反対側も萎むわけではありません。

軽度の気胸であれば命に関わることはありません。しかし、空気漏れが多かったり、何らかの原因で両側の肺が同時に気胸になれば、危険な状態と言えます。

なお、気胸の原因としては肺が破れることによる空気漏れが一般的ですが、それ以外の原因もありえます。例えば、事故や事件などの外傷によって胸壁に穴が空いてしまった場合です。この場合、息を吸って胸腔内が陰圧になると、傷口から胸腔内に空気が吸い込まれます。そのようにして吸い込まれた空気は肺の外の胸腔内に溜まり、気胸を引き起こします。

2. 気胸の分類、原因について:ブラの破裂など

ここまで、気胸は肺が破れたり胸壁に穴が空くことによって起こることを説明しました。以下ではなぜ肺が破れるのか、などの原因を説明するとともに、気胸を分類する様々な用語について解説します。

自然気胸

自然気胸(しぜんききょう)は自然に肺が破れることによって生じる気胸を指します。「自然に」とは「交通事故で折れた肋骨が刺さって肺が破れた」、「針が刺さって肺が破れた」というような、明らかな外傷以外が原因となる全ての気胸、と考えて差し支えありません。気胸が起きた人の多くは、この自然気胸にあてはまります。

自然気胸はさらに、原発性(げんぱつせい)気胸続発性(ぞくはつせい)気胸に分けられます。それぞれ原発性自然気胸、続発性自然気胸とも呼ばれます。次にそれらについて説明します。

原発性気胸

原発性気胸は、特に大きな病気のない人で起きる自然気胸です。若年(10代後半〜30代)・痩せ型・高身長・喫煙者の男性が発症しやすいと分かっており、最も典型的なタイプの気胸です。痩せ型・高身長・喫煙者の男性では、肺の上の方(頭の方)に「ブラ」と呼ばれる風船状の空気の溜まりができやすくなっています。このブラが破れることによって起きるのが原発性気胸です。

ブラがある人は多くいますが、ブラがあっても必ずしも破裂して気胸を起こすとは限りません。ただし、ブラがある人は気胸を発症する危険が高いことも事実です。

片側にブラがある人の多くは、反対側にもブラがあります。そのため、原発性気胸を起こしたことのある人は、同じ側の気胸の再発だけでなく、反対側の気胸も起こしやすいと言えます。ブラが自然に小さくなったり消えることは残念ながらありません。しかし、喫煙者は禁煙することで、ブラの更なる悪化をかなり抑制できると考えられます。

続発性気胸

続発性気胸は、肺が破れやすくなる病気や背景がある人に起きる自然気胸です。原因として、以下のようなものが知られています。

【続発性気胸の主な原因】

これらがある人では、気胸を発症しやすくなることがあります。逆に、気胸をきっかけとしてこれらが見つかることもあります。

なお、原発性気胸の人も元々肺にブラがあるという点で、肺が破れやすくなる背景を持っていると言えます。明確な線引きはないものの、ブラが多少あるだけで他の点ではほぼ健康な肺の人が気胸を起こした時は、続発性気胸ではなく原発性気胸に含まれます。

ここまで気胸の大部分を占める自然気胸について説明してきました。次に、自然気胸には当てはまらない「外傷性気胸」、「医原性気胸」、「人工気胸」について説明します。

外傷性気胸

外傷性気胸は何らかの外力が働いて発症する気胸です。「交通事故で折れた肋骨が肺に刺さって肺が破れる」、「ナイフで刺されて胸壁に穴が空き、肺も破れる」などの状況があります。このような状況では、胸腔内で出血して血が溜まる「血胸」を合併して血気胸となることがあります。

医原性気胸

医原性気胸とは、医療行為に伴う合併症として起こる気胸です。医原性気胸を外傷性気胸に含めて考えることもあります。医原性気胸が起きる原因として、以下のようなものが挙げられます。

【医原性気胸の主な原因】

  • 中心静脈穿刺
  • 気管支鏡検査
  • 心臓ペースメーカー留置
  • 胸腔穿刺
  • 人工呼吸による陽圧換気
  • 胸骨圧迫(心臓マッサージ)
  • 鍼灸治療 など

近年は医療技術の進歩によって医原性気胸の頻度は減ってきています。しかし、それでも医原性気胸は一定頻度で起こりうるものです。これは単に担当者の技術に問題があるだとか、医療ミスだということではありません。人それぞれの状況によって、やむなく医原性気胸を生じてしまうのです。

検査や治療に伴って医原性気胸が起きてしまった人では、なかなか現実を受け入れるのが難しいこともあります。担当者への不信感が湧いてくることもあるかもしれません。緊急事態でない限り、医原性気胸が起こりうる検査や治療を受ける際には、担当者からそのリスクを含めて事前に説明があることが多いです。その時に十分に説明を理解し、検査や治療のメリット・デメリットについて納得しておくことが重要だと考えられます。

人工気胸

人工気胸法は20世紀の前半に、肺結核の治療法として行われていた外科治療の一種です。当時、肺結核は有効な薬も乏しく、日本人の死亡原因トップを争う重大な病気でした。治療としては、人工的に胸腔内に空気を注入して肺を押しつぶす「人工気胸法」が結核の治療に良いと考えられていました。

現代では有効な薬も開発され、人工気胸法は行われなくなっています。しかし、今でも若い頃に人工気胸法や、それに関連した手術を受けた痕が残っている高齢の人は多くいます。

月経随伴性気胸

月経随伴性気胸は、やや特殊なタイプの自然気胸です。月経が始まる3-5日ほど前に気胸を繰り返すのが特徴です。ほとんどの人で右側の気胸になることが知られています。

月経随伴性気胸は子宮内膜症という病気の一種だと考えられています。これは、子宮の内膜が子宮以外の場所で定着してしまう病気です。どうやって右側の胸腔内に子宮内膜がたどり着くのかはよく分かっていません。

気胸全体として見れば、月経随伴性気胸は比較的珍しい病気です。一方で原発性自然気胸の多くは男性に起こるため、若年女性で自然気胸を起こしている人は月経随伴性気胸であることも十分考えられます。

緊張性気胸

ここまで気胸ができる原因に着目して、気胸の分類について説明してきました。緊張性気胸は気胸の原因による分類ではなく、気胸の重症さを表す用語です。

気胸で胸腔内に溜まっている空気の量が多くなると、肺や心臓・大きな血管を圧迫して押し潰します。その程度が酷くなると、心臓は必要とされる量の血液を送り出せなくなります。その結果、全身の血圧が維持できなくなるなど、生命に関わる危険な状態となってしまいます。この状態を「緊張性気胸」と呼びます。緊張性気胸は急死の原因となることがあり、分単位で急いで治療が行われる必要があります。

3. 気胸の症状について

気胸では、肺が萎んだり心臓が圧迫されることなどによって症状が出ます。以下では、気胸で出やすい症状と、出てくると危険な症状に分けて説明します。

気胸の主な症状

まずは気胸でよく出る症状を以下に挙げます。

【気胸で出やすい症状】

  • 胸の痛み(急に始まることが多い)
  • 息苦しさ
  • 乾いた咳 
  • 皮膚の下に空気が入り込み生じる違和感(皮下気腫) など

原発性気胸では、何らかの症状が出ることが多いです。一方で、もともと肺の病気がある人が軽度の気胸を起こしたとき(続発性気胸)などでは、自覚症状がないこともあります。

胸の痛みは気胸で最も起こりやすい症状です。気胸を発症するときに急に痛みを自覚しますが、一度肺が萎むとそれ以降はあまり痛まなくなります。

皮下気腫は外傷性気胸や、その他気胸治療のために胸壁や壁側胸膜に穴が空いている時に出やすい症状です。空気が皮下に入り込んでしまうことで、皮膚を触ると新雪を握ったときのようなギシギシした感触がします(握雪感)。

気胸の危険な症状

次に、よく出る症状以外に、危険な気胸に関連した症状を以下に挙げます。

【危険な気胸の症状】

  • 強いめまいやふらつき
  • 意識が遠のく、失神
  • 皮膚や粘膜が青紫に変色(チアノーゼ) など

これらは緊張性気胸になって、命の危険が迫っているときに出てくる症状のことがあります。このような症状がある人は、救急車での医療機関受診が適切です。

4. 気胸の検査、診断について

気胸は人それぞれの背景や症状、聴診で呼吸の音が聞こえにくいこと、などから疑われます。そして、胸部X線レントゲン)検査で診断されることが多いです。胸部CT検査や超音波(エコー)検査で診断されることもあります。以下では、それぞれの検査について説明していきます。

身体診察、バイタルサインのチェック

受診のきっかけとなった症状や、持病などその他の背景から気胸の可能性が考えられた人には、血圧、脈拍数、酸素飽和度、呼吸数、意識状態など「バイタルサイン」と呼ばれる項目がチェックされます。

バイタルサインに目立った異常がある人では急いで検査や治療を進める、あるいはより高度な医療機関への転院が必要になるため、真っ先にチェックされるわけです。バイタルサインのチェックは重症度を判定するうえでとても大事で、しかも簡単なので、お医者さんの問診の前に行われることもあります。

また、気胸が起きている側の胸に聴診器をあてると、呼吸の音が弱く聞こえる、あるいは聞こえないのが特徴的です。軽度の気胸の人では聴診しても分からないことがありますが、ある程度以上の気胸であれば気胸を起こしていることが身体診察のみで推測できます。

胸部X線(レントゲン)検査

胸部X線(レントゲン)検査は気胸の診断を確定するうえで、最も広く行われている検査です。気胸では肺が萎み、胸腔内に肺がない部分が、血管が見えない部分として確認できます。通常、レントゲン検査は息を吸って止めた状態で撮影しますが、小さな気胸を見つけるために息を吐いた状態でも撮影することがあります。

レントゲン検査は手軽に行える検査なので、気胸の可能性が考えられる人には、ほぼ必ず行われます。次に説明する胸部CT検査や超音波(エコー)検査と比較しても、1枚の写真で両側の肺全体が写って全体像を把握しやすい点は大きなメリットです。一方で、わずかな気胸をレントゲン検査で見つけるのは難しく、気胸を検出する感度においては胸部CT検査や超音波検査に劣ります。

胸部CT検査

胸部CT検査は胸部を輪切りにして観察する検査です。胸部CT検査では、かなり小さな気胸まで見つけることができ、気胸の診断において最も精度が高い検査と言えます。また、原発性気胸においては、どこのブラが破裂したのか推定するのにも役立ちますし、続発性気胸においては元々の肺の病気を確認するのにも役立ちます。

肺が萎んでいるときに撮影すると、ブラの位置や元々の肺の状態が分かりにくいことがあります。そのため、いったん治療で肺を膨らませてから胸部CT検査を行うこともよくあります。原発性気胸で手術を受けない人では、胸部CT検査までは行われず、レントゲン検査のみで十分なこともあります。

超音波(エコー)検査

超音波(エコー)検査は、超音波の出る機械を身体に押し当てて行う検査です。仰向けに寝た状態で、胸に機械を当てて気胸の有無を判定します。身体への負担が少ない検査であり、手早く行うことができます。

本来、超音波検査は空気を多く含む肺のような臓器を対象にするのは得意ではないと考えられてきました。そのため、気胸の診断に超音波検査が使われるようになったのは比較的最近であり、現在でも広く普及しているとは言えない状態です。

一方で、熟練したお医者さんが使えばレントゲン検査よりも高い精度で気胸を有無を調べることができます。それでも、気胸の程度や肺そのものの情報まで得られるという点では、胸部CT検査の方が優れています。

このような背景があるため、肺に対する超音波検査は「救急担当のお医者さんが、救急搬送されてきた人に対して、取り急ぎ気胸の有無を手早く調べる」などの状況でよく使われます。

5. 気胸の治療について

気胸の主な治療目標は「萎んだ肺を膨らませること」および「肺の破れている箇所の修復」です。

【萎んだ肺を膨らませる】

  • 経過観察:様子を見て自然に膨らむのを待つ方法
  • 胸腔穿刺、脱気:針を刺して胸腔内に溜まった空気を抜く方法
  • 胸腔ドレナージ:胸の外側から胸腔内にチューブを入れっぱなしにして持続的に空気を抜き続ける方法

【肺の破れている箇所を修復する】

  • 自然に塞がるのを待つ
  • 手術して塞ぐ

これらの方法を、気胸の原因や程度、人それぞれの背景を考慮して使い分けていくことになります。以下では、これらの方法についてもう少し詳しく説明していきます。

経過観察

肺の萎み具合が軽度であれば、直ちに危険な状態になることは少ないため、処置は行わず様子を見るだけにすることがよくあります。

また、肺の破れている箇所は1-2週間ほどかけて自然に塞がることが多いとされています。ブラが破裂して生じる原発性自然気胸では、何らかの肺の病気が原因で起きる続発性自然気胸よりも、破れた箇所が自然に塞がる頻度が高いと言われています。

ただし、治癒せず状態が悪化していくこともあるため、様子を見ている途中で症状が悪化した際には、担当のお医者さんに速やかに相談するようにしてください。

胸腔穿刺(脱気)

局所麻酔をしたうえで肋骨の間から胸腔内に針を刺して、空気を抜く方法です。ある程度(中等度)以上に肺が萎んでいる人に行われることが多いです。

脱気して肺を広げたあとは、肺の破れた箇所が自然に塞がるのを待つことになります。原発性気胸では、この治療方針で少なくとも半数以上の人はうまくいくとされています。

一方で、自然に肺の破れた箇所が塞がらず、いったん脱気してもまた肺が萎んでくることもあります。その際は再度の脱気を行う、次に説明する胸腔ドレナージや手術を行う、などの方針が検討されます。また、続発性気胸では肺からの空気漏れが多すぎて、あるいは元々の肺の病気で肺が硬くなって、脱気しても肺が広がらない人もいます。そのため、続発性気胸の人では原発性気胸の人よりも胸腔ドレナージが優先されることが多くなります。

胸腔ドレナージ

胸腔ドレナージは、肋骨の間からチューブを挿入・固定して持続的に胸腔内の空気を外に排出する方法です。入院しないで済む特殊な方法もあるものの、チューブが入りっぱなしの状態になるため、原則としてチューブが抜けるまでは入院し続ける必要があります。胸腔ドレナージが必要になる目安としては、以下のようなものが挙げられます。

【胸腔ドレナージの主な適応】

  • 肺が著しく萎んでいる
  • 緊張性気胸である
  • 両側で同時に気胸が起きている
  • 胸腔内に空気以外にも、水や血液が溜まっている
  • 高齢者である
  • 元々の肺の病気が進んでいる など

空気漏れが非常に多い、肺が元々の病気で硬くなっている、など特殊な状態でなければ、基本的には胸腔ドレナージによって肺は膨らむことができます。

原発性気胸の人では胸腔ドレナージを続けて1,2週間もすれば、ほとんどの人で肺の空気漏れは自然に治ると言われています。続発性気胸の人でも1,2週間ほど胸腔ドレナージを続ければ空気漏れは治ることが多いものの、全く治らない人もいます。このように空気漏れが治らない人では、次に説明する手術や胸膜癒着療法を行って空気漏れを治める必要が出てきます。

手術

気胸に対する手術では、空気漏れを治すために、ブラなど空気漏れが起きている部分を切除する、特殊なシートで空気漏れの箇所を被覆・補強するなどの処置を行います。

気胸の手術では大きく胸を切り開くことはあまりありません。近年では、肋骨の間に3箇所ほど穴を空けて、そこからカメラやピンセット、ハサミなどを入れて行う術式が一般的になっています。この手術方法は「ビデオ補助胸腔鏡手術」と呼びます。英語で「Video-Assisted Thoracic Surgery」と書くので、頭文字をとって「VATS(バッツ)」と呼ぶことが多いです。

どのような人で手術を行うのか、明確な基準はありません。しかし、以下のような項目が手術を行う場合の参考とされます。

【手術が検討される目安】

  • 肺からの空気漏れが5日以上続いている
  • 以前にも気胸を起こした人が再発した
  • 両側で同時に気胸が起きている
  • パイロットや潜水士など気胸の職業リスクがある
  • 妊娠中である など

なお、上記の胸腔ドレナージの項で、原発性気胸の人は1,2週間胸腔ドレナージを続ければ空気漏れは治ることが多いと説明しました。ところが、ここでは5日以上空気漏れが続いている人では手術が検討される、とあります。

自然に治るのを待たずに手術を検討するのは、手術に次のようなメリットがあるためです。

まず1つは、早く退院できる可能性があることです。胸腔ドレーンが入っている間は基本的に入院している必要があり、いつ空気漏れが治って退院できるか予測がつきません。ところが手術を受けると、気胸以外に問題がなければ手術後数日で退院できることが一般的です。原発性気胸の人は元々若くて健康な男性が多く手術自体のリスクも低めですので、原発性気胸の人で特にこのメリットは大きいと考えられます。

2つめのメリットとしては、手術により気胸の再発率が大きく下がることが挙げられます。研究によってかなりデータにばらつきはあるものの、原発性気胸で肺の空気漏れが自然に塞がった人では1年以内の再発率が20-50%前後、手術を受けた人では数%になると言われています。手術で、ブラを切除するなど根本的な治療を受けておけば、このように以降の気胸再発率を大きく減らすことができます。

なお、ここでは「5日」としましたが数字はケースバイケースで、3日や7日、14日などを目安としている病院もあります。

胸膜癒着療法

胸膜癒着療法は、胸腔内に炎症を起こす物質を注入し、臓側胸膜と壁側胸膜が癒着することを期待した治療法です。臓側胸膜と壁側胸膜が癒着すると、間のスペースに空気が溜まることができなくなるため、気胸が起こりにくくなります。

気胸に対して胸膜癒着療法が行われる状況には、大きく分けて2通りあります。

1つめの状況は手術をした際に、再発率をさらに低くすることを期待して念のため癒着しておく場合です。ただし、胸膜癒着療法を行っても気胸が再発してしまうことは一定頻度あります。そして、もし気胸が再発してまた手術を検討する際には、癒着があると再手術がやや難しい手術になってしまいます。このようなデメリットもあるため、手術時の胸膜癒着療法は必ずしも行われるわけではありません。

2つめの状況は、続発性気胸で手術を行いたいけれども、元々の病気が重かったり、高齢で体力がなかったりして、手術に耐えられないと考えられる場合です。このような人では、胸腔ドレナージを行っているチューブから薬剤などを流し込んで、胸膜癒着療法を行うことが検討されます。ただし、必ずしもしっかりと癒着されるわけではなく、気胸が再発することもよくあります。

胸膜癒着療法後は胸膜に炎症を起こすため、発熱したり胸の痛みを生じることが多いです。

6. 気胸の再発予防について

気胸では治療後に再発してしまうことがよくあります。特に、手術などの治療を受けないで、肺からの空気漏れが自然に治った人では再発しやすいことが分かっています。

以下では、気胸の再発予防のために気をつけたほうがよい行動について説明します。

タバコ

タバコを吸うと、原発性気胸を発症する確率が大きく上がることが分かっています。また、禁煙によって再発率を下げることを示す研究結果も発表されています。加熱式タバコや電子タバコなどのいわゆる「次世代タバコ」についてはデータが乏しいのが現状ですが、次世代タバコも有害物質を生じることが報告されています。そのため、安易に「次世代タバコだから気胸を起こしたことのある人でも大丈夫」と考えることはできません。

気胸にとってタバコは天敵とも言えます。気胸を起こした人は、発症したその日から完全に禁煙することを強く勧めます。

飛行機の搭乗

飛行機に搭乗することで気胸を発症しやすくなるというデータは十分ではありません。しかし、飛行機に乗ると気圧の変化が生じるため、気胸が悪化する可能性が指摘されています。

気胸の治癒後数週間は飛行機の搭乗を避けるよう指導されることが一般的です。ただし人によって状況が異なるので、飛行機に乗る予定がある人は担当のお医者さんに確認しておくと安心です。また、気胸の後に飛行機に乗ってはいけない期間を航空会社ごとに設定していることがあるので、航空会社にも確認しておくと良いと思います。

なお、気胸を治療する前の状態で飛行機に乗ることはできません。機内で気胸が悪化した際には速やかな治療が受けられず、命に関わるからです。そのため、旅行先で気胸を発症したような人は、飛行機に乗らずにいける医療機関にて治療を受けることになります。

スキューバダイビング

スキューバダイビングは水圧の変化により気胸を再発する可能性が高いため、気胸になったことがある人では避けたほうがよいと考えられています。これは手術を受けて病状が落ち着いている人にも当てはまり、基本的にはスキューバダイビングを行わないのが無難です。

職業などで潜水することを避けられない人では、初めて気胸を発症した時から積極的に手術を受けることが推奨されます。また、避けられないならば、手術を受けたうえで慎重にスキューバダイビングをすることをお医者さんから許可されることもあります。

参考文献

・日本気胸・嚢胞性肺疾患学会/編, 「気胸・嚢胞性肺疾患 規約・用語・ガイドライン(2009年版)」, 金原出版, 2009年

Baumann MH, et al. Management of spontaneous pneumothorax: an American College of Chest Physicians Delphi consensus statement. Chest 2001; 119: 590-602.

MacDuff A, et al. Management of spontaneous pneumothorax: British Thoracic Society Pleural Disease Guideline 2010. Thorax 2010; 65 Suppl 2: ii18-31.

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