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震災で乳がんを3年見過ごすことになった59歳女性
南相馬市立総合病院から症例報告

from Medicine


震災で乳がんを3年見過ごすことになった59歳女性の写真

写真はイメージです。本文の内容とは関係ありません。 (c) acworks


東日本大震災は、直接の被害だけでなく、地域に住む人の生活を大きく変えてしまいました。震災後に家族や友人から孤立してしまい、乳がんの発見が遅れた女性の例が、南相馬市立総合病院などのチームから報告されました。

福島県の南相馬市立総合病院の尾崎章彦氏らが医学誌『Medicine』に報告した、59歳で乳がんの診断・治療を受けた女性の例を紹介します。

この女性は、2011年4月に右乳房のしこりに気付きました。しかし、2012年7月に痛みが発生するまで診断を求めることはせず、マンモグラフィー検診も受けていませんでした。

痛みが発生したときにかかりつけ医を受診しましたが、「痛みがある」という訴えから肋間神経痛と診断されました。

症状はしだいに悪化し、乳がんかもしれないという自覚もありましたが、考えないようにしていました。セカンドオピニオンを求めることもしませんでした。

2014年にしこりが急に大きくなり、1か月後の7月に南相馬市立総合病院を受診しました。

診察と検査の結果、ステージⅢBの乳がんと診断され、手術と術後化学療法が行われました。

報告が書かれた2016年5月時点で再発予防のためのホルモン療法を継続中です。

 

この女性は、2011年3月11日の震災以後、家族と友人から孤立していました。夫が死去して以来一人暮らしでしたが、震災前は近所に住んでいた娘の家族や友人とはたびたび会っていました。

震災後に娘の家族は80km離れた市に避難しました。女性は、ただでさえ苦しい状況で負担になりたくないと考え、娘に電話をかけることも、友人に会うこともまれになってしまいました。

報告の中ではこの女性の診断が遅れた理由について考察されています。診断を遅らせることが知られている要素として以下が挙げられています。

  • 乳がんの知識が少ないこと
  • しこり以外の症状で見つかること
  • 乳がん以外の原因によると思いこむこと
  • 医療不信
  • 医療にアクセスしにくい状況

この女性はいずれにも当てはまらないこと、震災後に生活環境が大きく変わったことから、報告の著者らは社会的孤立が主な原因ではないかと考えています。

 

震災の社会的側面が病気の治療に影響したと考えられた例を紹介しました。

もし最初に症状に気付いた2011年4月に身近な家族や友人に相談できていれば、1年以上も経つ前に受診を勧められていたかもしれませんし、肋間神経痛と診断されたときにもう一度診察してもらうよう勧められたかもしれません。

医療にアクセスする行動が変わるという面でも、震災の影響を忘れてはいけない例と言えるでしょう。

 

震災後には地域の生活の変化などにより、健康状態が悪化する懸念がありました。

たとえば、阪神大震災のあとの神戸では、1998年の論文で糖尿病患者の血糖値コントロールが悪化したことが報告されています(Effect of the Kobe earthquake on stress and glycemic control in patients with diabetes mellitus. Arch Intern Med. 1998 Feb 9)。

東日本大震災の影響についても、相馬市と南相馬市で行われている健康診断のデータから、糖尿病高脂血症の頻度が高くなったことが指摘されています(関連記事:原発事故のあと、福島の人の健康に長期的な影響はあったのか?)。

 

原発事故による放射線被曝の影響については、WHO(世界保健機関)から2013年に出された文書(Health risk assessment from the nuclear accident after the 2011 Great East Japan earthquake and tsunami, based on a preliminary dose estimation)で、「この線量は低く、放射線関連の健康リスクを増加させることはない」とされています。

放射線被曝による影響以上に、放射線の被害を恐れる行動が有害に働く懸念が多くの面から指摘されています。

2015年に医学誌『Lancet』に掲載された論文は、福島で行われている子どもの甲状腺がんの検査について、「[...]このプログラムの倫理的側面と、甲状腺の異常の過剰検出および過剰治療が予想されることについて、議論が進行中である」としています(関連記事:福島で原発事故は健康にどんな被害をもたらしたのか? )。

過去の例として、韓国では2000年ごろから甲状腺がんの検診が盛んに行われている結果、報告される甲状腺がんの数は急増しているにもかかわらず、甲状腺がんで死亡する人はほとんど増えていません(関連記事:韓国では無駄な検査で甲状腺がんが6倍に? )。

甲状腺がんのうち最も多い甲状腺乳頭がんは、進行がきわめて遅く、寿命を縮めることも症状を現すこともないまま一生存在する場合があると考えられています。見つける必要のなかったものを検査で指摘して、「念のため」の治療を行うことは、治療効果なしに不安や治療負担だけを増す恐れもあります。

このため、福島県小児科医会は2016年8月25日に、検査規模の縮小を含め、検査の在り方を再検討するよう福島県に要望しています。

前述の『Lancet』の論文は、原発事故による影響の心理社会的側面として、以下のような事例が見られたことを指摘しています。

  • 放射線被曝のリスクについて、家庭の中で認識の違いがある
  • 政府による規制・補償について、同じ地域社会の中でも家族によって違いができる
  • 大勢の避難者を受け入れた地域社会の中で、もともとの住民と避難者の間に不満が生まれる
  • 放射線被曝の影響についての誤解から、若い女性が将来の妊娠について差別的に見られることを恐れ、避難先で福島出身であることを隠す

 

震災は直接的に人の健康を脅かしただけでなく、地域社会を大きく変えてしまいました。福島で起こっていることは地域医療の面からも注目し続け、どう取り組むかを考え続けなければならないのではないでしょうか。

◆参照文献

Social isolation and cancer management after the 2011 triple disaster in Fukushima, Japan: A case report of breast cancer with patient and provider delay.

Medicine (Baltimore). 2016 Jun.

[PMID: 27368025 ]

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