2017.07.12 | ニュース

乳がんの症状に気付いたのに病院に行かなかったのはなぜ?震災前後の変化

南相馬市219人の記録から

from BMC cancer

乳がんの症状に気付いたのに病院に行かなかったのはなぜ?震災前後の変化の写真

東日本大震災は、地域に住む人の生活を大きく変えてしまいました。福島県南相馬市で乳がんを診断された人の統計から、震災後には症状に気付いてから3か月以上過ぎてはじめて受診する人が増えていたことが報告されました。

福島県の南相馬市立総合病院の尾崎章彦氏らが、南相馬市の2施設で乳がんを診断された人の統計から震災前後の変化を調べ、専門誌『BMC Cancer』に報告しました。

この研究は、南相馬市立総合病院と渡辺病院で2005年から2016年の間にはじめて受診し、検査等の結果乳がんを診断された人について調べています。

研究班は乳がんの症状(乳房のしこりなど)に気付いてからはじめて医療機関にかかるまでの期間に着目しました。症状に気付いてから受診までが3か月以上または12か月以上だった人の割合に変化があるかを検討しました。

219人の乳がん患者の記録が対象となりました。

 

震災前にはじめて受診した122人のうち、症状に気付いてから3か月以上過ぎていた人は22人(18%)、12か月以上過ぎていた人は5人(4.1%)でした。

震災後にはじめて受診した97人のうち、症状に気付いてから3か月以上過ぎていた人は29人(29.9%)、12か月以上過ぎていた人は18人(18.6%)で、いずれも震災前よりも多くなっていました。

震災後を1年ごとに見ても、2015年3月11日から2016年3月10日までにはじめて受診した23人のうち、12か月以上過ぎていた人は5人(21.7%)と震災前より多くなっていました。

子供と同居していた人は震災前には59.0%でしたが、震災後は47.4%に減っていました。

震災後には、家族が何らかのがんを経験していた人では、症状に気付いて3か月以上過ぎてはじめて受診することが少なくなっていました。

研究班は、震災後に12か月以上過ぎてはじめて受診した18人のうち子供と同居していた人は4人だけで、それ以外の79人のうちでは42人だったことに比べて少ないことなどから、身近な人からの支援の違いが受診の遅れと関係するのではないかという解釈を提示しています。

 

福島県南相馬市の記録をもとに、震災前後で乳がんの受診の遅れが増えたとする報告を紹介しました。

この報告は、証拠として確実に何かを結論できる性質のものではありません。子供と同居することが受診の遅れを防ぐかどうかも確かとは言えません。しかし、病院に行こうかどうか迷っている親を同居している子供が後押しするという状況は想像できます。

この報告の著者らとも重なるメンバーは、以前に1人の例として、乳がんの症状に気付いてから3年以上過ぎて診断された女性について報告しています。その女性は、震災前には娘が近くに済んでいましたが、震災後に娘が避難したことで電話をかけることも少なくなっていました。

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震災によって社会的に孤立してしまった人は実際にいます。乳がんとの関係が仮にあるとして、それは起こっていることのひとつの側面でしかないのかもしれません。

誰もが適切な医療を享受できるよう、社会全体が支え合って進むために、震災によって生まれた生活環境の変化に目を向けることには大きな意義があるのではないでしょうか。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Breast cancer patient delay in Fukushima, Japan following the 2011 triple disaster: a long-termretrospective study.

BMC Cancer. 2017 Jun 19.

[PMID: 28629330]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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