直腸がん末期の80歳男性はなぜ家に帰れなかったのか

がん治療には周りの人からの支援も欠かせません。福島県南相馬市で直腸がんを診断され、終末期は自宅で過ごすという希望を叶えられなかった男性の例が報告されました。
進行直腸がんがあった80歳男性
南相馬市立
この男性は2016年6月に
2015年5月に血便を自覚し、大腸がんかもしれないと思っていましたが、出血が少なくほかに症状がないので1年以上診察を求めませんでした。めまいが出てから医師に相談しました。
血液検査では
なぜ1年以上放置していたのか?
この男性は、
震災後は近所の人が避難して友達とほとんど会わなくなり、症状を感じてから病院に行く前には誰にも症状の話をしていませんでした。
手術、抗がん剤治療とその後
2016年6月に手術が行われました。しかし、がんの広がりが強く取り切れませんでした。7月から
痛みを和らげるために
終末期は自宅で過ごしたいと希望し、ソーシャルワーカーなどと何度も相談しましたが、家族や近所の人から十分な支援を得られず、退院ができませんでした。2017年1月に長期ケア施設に転院となり、2月に亡くなりました。
報告の著者らは考察の中で「災害後の状況では孤立を減らすことを公衆衛生上の決定的な問題と考えるべきである」と述べています。
震災と孤独
直腸がんの診断と治療に、震災による社会的孤立が影響したと思われる例を紹介しました。
がんかもしれないと思ってから受診まで1年以上の間隔があったこと、放射線治療を断念せざるをえなかったこと、亡くなる前の期間を自宅で過ごせなかったことのどれも、孤立していなければと思わざるをえません。
この報告の著者らはほかにも、乳がんの症状に気付いてから受診までが遅くなった人が震災後に増えたことを報告しています。
関連記事:乳がんの症状に気付いたのに病院に行かなかったのはなぜ?震災前後の変化
こうした例が全体に当てはまるかどうか、また震災がなければ違っていたと言えるかどうかは、確かめられない部分もあります。しかし、震災・津波と原発事故のあと、生活環境が大きく変わった人は実際にいます。
生活環境の変化、特に孤立は、震災後の医療にとって大きな課題と言えるのではないでしょうか。
執筆者
Social isolation and cancer management - advanced rectal cancer with patient delay following the 2011 triple disaster in Fukushima, Japan: a case report.
J Med Case Rep. 2017 May 16.
[PMID: 28506309]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。