原発事故のあと、福島の人の健康に長期的な影響はあったのか?
2011年3月11日の震災による福島第一原発の事故は、史上有数の規模で放射線被曝を引き起こしただけでなく、近隣地域の人々の生活を大きく変えてしまいました。長期的なデータから、健康への影響を検討した結果が報告されました。
◆事故と避難による長期的な影響は?
大きな災害のあとでは、生活の変化などによって健康状態に影響があることが考えられます。ここで紹介する論文の著者らは、阪神大震災のあと神戸で糖尿病患者の
ここでは、福島第一原発の近くにある相馬市と南相馬市で毎年行われている健康診断による、2008年から2014年のデータが解析されました。
健康診断を受けた人のうちで糖尿病、高脂血症、高血圧の頻度に変化があったか、またその変化に事故後の避難による影響が見られるかが検討されました。
◆糖尿病と高脂血症が増加
次の結果が得られました。
避難の有無にかかわらず、糖尿病と高脂血症のリスクについて事故後に
有意 な上昇が観察された(糖尿病で相対リスク1.27-1.60、高脂血症で1.12-1.30、避難状態と事故後の年数に依存する)。共変量で調整したのち、高脂血症の増加は無避難者・一時避難者に比べて避難者の間で有意に大きかった(オッズ比1.18、95%信頼区間1.06-1.32、P<0.01)。
事故後に避難した人でも、避難しなかった人でも、糖尿病と高脂血症の頻度が高くなっていました。特に、調査時点でも避難している状態だった人では、避難しなかった人と一時的に避難したあと帰還した人のグループに比べて、高脂血症が多くなっていました。
著者らは避難後の環境を「身体運動の減少、食生活の変化、医療へのアクセスの減少、社会経済的状態の変化を特徴とする」ととらえたうえで、そうした環境の悪化にもかかわらず、避難した人とそうでない人で糖尿病の頻度に差が見られなかった結果について、「[...]糖尿病に対する社会と臨床家の相当な関心があったことを反映しているかもしれない」と考察しています。
また、放射線被曝の影響については次の結果でした。
これらの結果は、放射線被曝の程度はこれらの慢性疾患に対しては、疾患リスクに影響しなかったことを示している。
放射線被曝の程度によって、これらの病気の危険性に影響は見られませんでした。
この点について、著者らはWHOから2013年に出された文書(Health risk assessment from the nuclear accident after the 2011 Great East Japan earthquake and tsunami, based on a preliminary dose estimation)を参照して、次のように述べています。
WHOによる線量の推定によれば、事故のあと最初の年の年間実効線量は、最も影響が大きかった地域(浪江町と飯舘村、発電所の30km北西)を除く福島県の一般人口では3から5mSvだった点に注意せよ。以前に言及されたとおり、この線量は低く、放射線関連の健康リスクを増加させることはない。
ここで報告された点でも、震災と原発事故の影響はまだ続いています。
糖尿病は日本人の主要な死因である心筋梗塞や脳卒中の原因になり、
執筆者
Postnuclear disaster evacuation and chronic health in adults in Fukushima, Japan: a long-term retrospective analysis.
BMJ Open. 2016 Feb 4.
[PMID: 26846896]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。