韓国の甲状腺がんはなぜ増えた?
韓国では甲状腺がんの検診が盛んに行われています。
2000年ごろから韓国で甲状腺がんを診断される人は急増しています。ところが、その間に甲状腺がんで死亡する人はほとんど増えていません。
このため、韓国の甲状腺がん検診は放っておいても害がないはずのものを見つけている場合が多いのではないか、という議論があります。
ここで紹介する研究では、韓国全国のがん登録データのうち1999年、2005年、2008年を参照し、合計5,796人の甲状腺がん患者のデータを集計することで、人口あたりの甲状腺がんの発生率を計算しています。
また、甲状腺がんが診断された方法を区別して、症状があるなどの理由があって診断に至った場合と、症状がない多数の人を対象とした検診(スクリーニング)で発見された場合をそれぞれ集計しました。
スクリーニングによる発見が急増、94%は2cm未満
統計解析により次の結果が得られました。
1999年から2008年の間に、甲状腺がんの発生率は人口10万人あたり6.4例(95%信頼区間6.2-6.6)から40.7例(40.2-41.2)まで6.4倍に増加した(95%信頼区間4.9-8.4)。増加分のうち94.4%(10万人あたり34.4例)は20mm未満の腫瘍であり、主にスクリーニングで検出されていた。
人口あたりで推定された甲状腺がんの発生率は、1999年から2008年の間で6.4倍に増加していました。増加した分のうち94.4%は大きさ2cm未満でした。
甲状腺がんの診断のうちスクリーニングで見つかった甲状腺がんは1999年には15.0%でしたが、2008年には56.1%でした。
研究班は「現在韓国で見られる甲状腺がんの『流行』は小さい腫瘍の検出の増加によるものであり、過剰検出の結果であることが最も考えやすい」と結論しています。
その検査、必要ですか?
韓国で甲状腺がんが一見急増しているのは、2cm未満の小さいがんが多く見つかっているせいだったという報告でした。
2cm未満の甲状腺がんとはどういうものでしょうか。
甲状腺がんの大部分を占めるタイプ(甲状腺乳頭がん)は、進行が非常に遅く、死因になることもあまりありません。
国際対がん連合(UICC)の基準では、大きさ2cm未満の甲状腺がんで、甲状腺の外に広がりがなく、リンパ節転移や遠隔転移がない場合は最も軽度の「ステージⅠ」(1期)に分類されます。
日本各地の病院から報告されたデータによれば、ステージⅠの甲状腺がんが見つかり治療されたあとの5年相対生存率は「1.000」、すなわち甲状腺がんがない人と違いがないとされています。
同じデータでは、次に進行した段階の「ステージⅡ」の甲状腺がんの5年相対生存率は「0.995」、すなわち甲状腺がんがない人と比べて99%以上の確率で5年後も生存できるとされています。ステージⅢでは「0.987」、最も進行したステージⅣでも「0.709」です。甲状腺乳頭がんのステージⅣが診断されるのは45歳以上だけと決められています。45歳未満の人に甲状腺乳頭がんが見つかっても、危険性が高い例は非常に少ないため、ステージⅣとは診断しないのです。
つまり、ステージⅠの甲状腺がんを若いうちから発見する必要性は、胃がんや大腸がんなどに比べるとかなり小さいと言えます。
一方で、検査を行うことによりお金と時間は確実にかかり、もし疑わしい結果が出たときにはさらに詳しい検査をする負担もかかる上、自分はがんではないかと不安になる負担もあります。
乳がんや前立腺がんなどでも、検診のやりすぎが世界的に指摘されています。
検査はすればするほどいいものではありません。誰がどんな検査をいつ受けるといいかは、良い面と悪い面の両方を考え、実際のデータに基づいて決める必要があります。
執筆者
Association between screening and the thyroid cancer "epidemic" in South Korea: evidence from a nationwide study.
BMJ. 2016 Nov 30.
[PMID: 27903497]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。