2016.01.24 | コラム

がんの検査で「陽性」と言われたら、がんがあるのか?

感度・特異度・陽性的中率とは

がんの検査で「陽性」と言われたら、がんがあるのか?の写真

検査には信頼性の高いものも低いものもありますが、どれも絶対ではありません。信頼性を表す数字はどう読み解けばいいのでしょうか。

「陽性」「陰性」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

大まかに言って、検査が陽性とは「何かが見つかった」ということであり、陰性は「見つからなかった」ということです。多くの検査は、病気がありそうな特徴を探すので、陽性なら病気がありそう、陰性なら病気がなさそう、ということになります。

しかしどんな検査も完璧ではないですので、陽性でも病気がない場合や、陰性でも病気がある場合があります。病気がないのに検査が陽性になることを偽陽性、病気があるのに検査が陰性になることを偽陰性と言います。偽陽性や偽陰性が少ない、つまり間違いの少ない検査ほど信頼できるということになります。

 

では、偽陽性・偽陰性が少なく、信頼できる検査かどうか、数字で言うとどうなるのでしょうか。

最近のMEDLEYニュースで少し意外な数字が出てきたので、この数字を例に解説します。元の記事はこちらです。

「マンモグラフィーが陰性、超音波検査が陽性のとき、乳がんは「3%」」

http://medley.life/news/item/56a0ae6a4f229825008b4570

ここで報告された、マンモグラフィーが陰性だった人に超音波検査をしたときの結果を荒っぽく言うと、次のようなものでした。

  • がんがあるとき、検査は8割陽性になる
  • がんがないとき、検査は9割陰性になる

ある程度は信頼できる検査だ、と感じる人が多いのではないでしょうか。ではこの検査で陽性が出たとき、がんがある割合はどれぐらいでしょうか。8割でしょうか?9割でしょうか?

正解は3%です。

なぜこんなことになるかというと、全体の中でがんがある人が少ないからです。

 

この問題を理解するために、「感度」「特異度」という言葉を説明します。

感度とは、探したい病気がある人のうち、検査で見つけられる人の割合のこと。特異度とは、調べたい病気にかかっていない人のうち、検査で正しく「病気がない」と判断できる人の割合のことです。表にするとこのようになります。

表の中でaとdが多く、b(偽陽性)とc(偽陰性)が少ない検査ほど、信頼できる検査です。この「多い」「少ない」を言うための指標が感度と特異度です。上の論文に出てきた検査の信頼度は、「感度が80%」、「特異度が90%」と言い換えられます。

たとえば1000人が検査を受けて、本当は10人に乳がんがある(990人は乳がんがない)とします。表で言うと、a+c=10、b+d=990です。

乳がんがある10人のうち、8人を「乳がんかもしれない」と判断できれば、感度は80%です。つまりa=8、c=2なのでa/(a+c)=8/10という計算です。

乳がんではない990人のうち、誤って「乳がんかもしれない」と判断した人が10%の99人なら、つまり891人を「乳がんがない」と判断できれば、特異度は90%です。つまりb=99、d=891なのでd/(b+d)=891/990=9/10です。

  乳がんがある 乳がんがない
検査陽性 8 99
検査陰性 2 891

では、検査が陽性だった人のうち、本当に乳がんがあった人はどれぐらいでしょうか。

検査が陽性だった人は、8人と99人で足して107人です。そのうち乳がんがあった人は8人。ということは、検査が陽性のとき、乳がんがある人は8/107=7.5%程度という計算になります。

数式がたくさん出てきてややこしいので、言葉でまとめると、全体の中で乳がんがある割合は1%しかないので、検査が陽性の人を選んでも数%にしか増えない、ということです。全体の中で乳がんが少ないほど、検査が陽性のときにも乳がんがある見込みは小さいと言えます。

 

ではこの検査は信頼できないのでしょうか。

そんなことはありません。上の例でわかるように、「検査が陽性のときに病気の確率はどれぐらいか」(陽性的中率と言います)は、全体の中に病気が多いか少ないかで変わります(感度と特異度は変わりません)。この例では病気が少ない集団に検査をしたので、陽性的中率が低くなったのです。マンモグラフィーが陰性だった人の中には乳がんが少なくなるので、超音波検査が陽性でもやはり乳がんは少ないのです。

 

このように、「病気のうちどれだけを指摘できるか」(感度)と「検査が陽性のとき病気がどれだけあるか」(陽性的中率)の意味はまったく違います。報道などで「検査の精度は○○%」といった表現を見かけることがありますが、この「精度」が感度なのか、特異度なのか、陽性的中率なのか(ほかにも今回は触れなかった「陰性的中率」「正診率」といった指標もあります)が区別されていなければ、90%と3%を取り違えるといったことにもつながりかねません。

検査の信頼性について調べたとき、何か数字が出てきたら、上のような表を書いて、その数字が何を意味するか計算してみるのをお勧めします。

 

【訂正1/28】誤記があったので下記のとおり訂正しました。

誤)病気がないのに検査が陰性になることを偽陰性

正)病気があるのに検査が陰性になることを偽陰性

執筆者

大脇 幸志郎

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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