触って見つからない小さい乳がん、本当に怖いものなのか?
乳がんが隠れているかもしれないと言われると怖くなるでしょうか?乳がんの一部は進行が非常に遅いことが知られています。触ってもわからず検査で見つかった乳がんの生存率が調査されました。
中国でスクリーニングで見つかった乳がん患者437人の統計
中国の研究班が、早期乳がんの生存率についての研究結果を、専門誌『Oncotarget』に報告しました。
乳がん検診では、症状がない女性にも
この研究は、北京共和医院で2001年から2014年に乳がんを診断された女性を対象としています。スクリーニングにより4,574人の女性が生検を受け、うち729人は触ってもわからなかった乳がんと診断されました。
情報が不足していた30人を除いて、乳がんの進行度で分けた内訳は次のとおりでした。
- DCIS 152人
- T1 493人 うち
- 両側T1 56人
- 片側T1a 103人
- 片側T1b 142人
- 片側T1c 192人
- T2 54人
DCIS(非浸潤性乳管
T1は、がんの大きさが2cm以下という意味です。T2は2cmから5cmです。T1はさらに5mm以下のT1a、1cm以下のT1b、2cm以下のT1cに分けられます。両側・片側というのは、左右の乳房のうち左右とも(両側)にがんがあったか、片側だけだったかを指します。
5年生存率97%以上
片側にT1の乳がんがあった437人の生存率を調べると次の結果が得られました。
触知できない乳がんの5年無病生存率は、T1aで99.0%、T1bで96.9%、T1cで92.9%であり、5年全生存率はT1aで100.0%、T1bで100.0%、T1cで97.9%だった。
診断から5年後までの生存率は、T1aの患者で100%、T1bの患者で100%、T1cの患者で97.9%でした。
診断から5年後まで生存し、かつ乳がんがない状態のままでいた割合は、T1aの患者で99.0%、T1bの患者で96.9%、T1cの患者で92.9%でした。
研究班はこれらの結果から「中国人女性においてスクリーニングで検出されるT1の触知できない乳がんは低リスクのがんとみなすことができるかもしれない」と結論しています。
乳がん検診で見つかったものは本当に怖いのか?
中国人女性を対象に、早期乳がんの生存率について調べた研究を紹介しました。
乳がんになる女性の数は人種によって差があり、白人で特に多い一方、日本など東アジアの国ではそれほどでもありません。中国のデータは東アジアという共通点から参考にできるかもしれません。
触ってもわからず検査ではじめて見つかったT1の乳がんは
ほかの研究では、DCISの一部を手術なしで治療しても、手術した場合と比べて乳がんによる死亡率に差がなかったとする報告もあります。
関連記事:乳がんには手術しなくていいものもある?DCISの治療と生存率の関連
乳がんはがんの中でも長期間の生存を期待しやすいがんです。また、乳がんが発生しやすい年齢は40歳以上です。日本では40歳以上の女性に対して2年ごとのマンモグラフィーが勧められています。
世界では検査の回数が多すぎても生存率向上には結び付かず、かえって過剰治療や心理的負担、費用負担などの悪い面が強く出るため、誰が何年ごとに検査を受けるのが最適かという議論が続いています。
「がんは怖い」と思うと、予防や治療のためにできることは何でもやろうと思えるかもしれません。しかし、乳がんの中には危険性の低いものもあります。検査をすればするほど「見つける必要のないもの」も見つかってきます。
マンモグラフィーで「乳がんかもしれません」と言われても絶望する必要はありません。冷静になるのは簡単ではありませんが、自分が置かれた状況をなるべく正確に把握するため、客観的な統計データを参考にしてください。
執筆者
Tumor biology, clinicopathological characteristics and prognosis of screen detected T1 invasive non-palpable breast cancer in asymptomatic Chinese women (2001-2014).
Oncotarget. 2017 Feb 17. [Epub ahead of print]
[PMID: 28412736]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。