2017.02.08 | ニュース

がんの「緩和ケア」を受けると何が起こる?

71人から話を聞いた研究

from CMAJ : Canadian Medical Association journal = journal de l'Association medicale canadienne

がんの「緩和ケア」を受けると何が起こる?の写真

がんを告知され、「痛みを緩和(かんわ)する治療をしましょう」と勧められたらどうしますか?緩和ケアには悪いイメージを持っている人もいます。実際に利用した人たちから話を聞いた研究の結果が報告されました。

カナダの研究班が、がんの治療を受けた患者と家族などを対象に緩和ケアをどう思うか尋ねた研究を、医学誌『CMAJ』に報告しました。

この研究は、緩和ケアが生活の質を改善する効果の研究にあわせて行われたものです。

対象者として、進行がんと診断され、余命が6か月から24か月と推定されていて、全身の状態が「歩行可能で自分の身のまわりのことは全て行え、日中の50%以上はベッド外で過ごす」かそれ以上に元気な患者が選ばれました。

患者ひとりに対して、家族などで主に看病をしている人(介護者)がひとり選ばれ、患者自身とともに研究対象とされました。

研究には24か所のがん治療施設が参加しました。施設ごとに、治療方針をランダムに2グループのどちらかに分けられました。

  • 患者が早い段階で緩和ケアチームに紹介され、最低でも月に1回の外来通院で緩和ケアを受けるグループ(介入群)
  • 患者は通常のがん治療を受け、希望すれば緩和ケアを受けることもできるグループ(対照群)

4か月の治療の結果、介入群のほうが生活の質が改善したことが以前に報告されています。今回紹介する報告は、この研究で治療を受けた対象者から面談で話を聞いたものです。

どちらのグループでも4か月の治療後におよそ60分の面談が行われました。面談では、決められた質問によって、緩和ケアについてどう感じたかが聞き取られました。

介入群の患者26人と介護者14人、対照群では患者22人と介護者9人がそれぞれ面談を受けました。

 

緩和ケアを紹介されたときの印象について次のような回答がありました。

  • 頭に浮かんだのは、寝たきりで、死の床にあり、終わりを迎えるということでした。(対照群の患者)
  • 治療薬を禁止して楽にするケアだけをすることだと思いました。(介入群の患者)
  • 緩和ケアをするというのは、もうほかにできることがないということだと思いました。(対照群の患者)
  • 緩和ケアというのはもうかなりそこまで来ていて、自分のことを自分でできなくなったときのことかと思いました。(介入群の患者)
  • 緩和ケアがどういう意味なのか知りもしませんでした。(介入群の患者)

 

緩和ケアに対して、自分の最初の反応を振り返ってもらうと、次のような回答がありました。

  • 「嫌です、嫌です、戦います。緩和ケアなんかしません」と言いました。怖かった。本当に怖かった。(対照群の患者)
  • 「うわっ、思ってたより悪いらしい」と思って…とても驚きました。(介入群の患者)
  • もっとずっと悪くて、生きているだけで家族の負担になるとかいった状態だったら、緩和ケアを考えたかもしれませんが、ちょっと…。そうでもなければ、緩和ケアにならないためにはほとんど何でもやろうと思いました。(対照群の患者)
  • 実を言うと、考えたこともありませんでした。私の頭の中は楽観的なので。(対照群の患者)

 

介入群の患者と介護者に、早期から緩和ケアを受けた後の印象を尋ねると次のような回答がありました。

  • 詳しく知れば知るほどだんだん怖くなくなって、心配でもなくなってくると思います。緩和ケアで前より快適になります。(介護者)
  • 最初は「うわっ」と思ったけど、2-3週間やそこらで死ぬわけではないとわかって、とても、とても、役に立つものになりました。(患者)
  • そうですね、本当は、緩和ケアは人生の終わりを宣告するものではなくて、全体的に症状を管理することで、何でも…できることがあるならあらゆる面から症状を管理することですね。そのことを知りませんでした(患者)

「緩和ケア」という呼び方について次のような回答がありました。

  • 今は知識がついて、理性的に、緩和ケアは最後の段階ではないとわかっていますが、感情的には「緩和ケア」という言葉は、少し怖い言葉かもしれません。(患者)
  • 他人には「薬物治療の専門家」に診てもらうと言っていました。ときどきもう少し詳しく尋ねられたときは、その医師は確かに緩和ケア診療部にいるのだけれども、少し手を広げて私のような患者も診ているのだと言いました。…理由ですか?「緩和ケア医師」に診てもらうと言ったら、あと数週間か数か月で死ぬと思われてしまうからです。(患者)
  • なぜか、ケアを受けても緩和ケアに対する感情は変わっていません。緩和ケア医師は私に素晴らしいケアをしてくれましたから。あの医師がしてくれたことを緩和と呼ぶ気持ちになれません。(患者)
  • 実際に目指されていることを正しく描写できる名前をぜひとも考えなければならないと思います。緩和ケアは命の最後の日々を送る人のためのものではないのです。(患者)
  • ほかの呼び方は思いつきません。何と呼んだとしても、議論が難しくなる問題だし、実際にも難しい、だから名前はそれほど影響がないと思います(介護者)
  • 言い換えよりも、腫瘍内科医が座れる場所で一対一で緩和ケアについて話してくれて、「誤解しないでください。あなたが明日や近い将来にも死ぬからではありません。緩和ケアはこれから通過する段階に立ち向かう助けになるからです」と言ってくれるのがいいと思います。…だから、比較的経験豊富で訓練を積んだ腫瘍内科医、緩和ケアの訓練を積んだ腫瘍内科医に、「きっとやってみたほうがいいですよ!」と言ってもらいたいです。(患者)

 

緩和ケアについて、体験する前と体験した後の印象を語った声を紹介しました。

緩和ケアはよく誤解されています。実際の緩和ケアはどんなものでしょうか。

  • 緩和ケアは末期がんだけでなく、がんと診断されたときから受けることができます。
    • 緩和ケアを勧められても「余命が短い」という意味ではありません。
  • 余命を延ばすための治療と緩和ケアは同時に行われるべきものです。
    • 抗がん剤の副作用を抑える薬なども緩和ケアの一種です。
    • 苦痛があることで治りがよくなりはしません。苦痛を減らすことも大切な治療です。
    • 苦痛が除かれることによって、積極的治療に前向きになれる人もいます。
  • 緩和ケアに使うモルヒネなどの薬で意識がなくなったりすることはありません。
    • 緩和ケアに使う薬は副作用も把握され、リスクを管理しながら使われます。
    • モルヒネの主な副作用は吐き気・便秘などです。人格が崩壊するようなことはありません。
  • 緩和ケアは身体的苦痛だけでなく、精神的苦痛などさまざまな面から苦痛を和らげます。
  • 緩和ケアは患者だけでなく家族や周りの人もケアの対象とします。
  • 緩和ケア病棟に入院することも、自宅で在宅の緩和ケアを受けることも自分で選べます。
  • 緩和ケアは、一人一人の患者が生活の中で大切にしたいことを実現する助けをします。

自分ががん治療を経験する前には、実際の緩和ケアを詳しく知る機会が少ないかもしれません。「末期がん」という言葉の恐ろしさにとらわれてしまうと、テレビや本の情報も怖いものばかりが目に入ってしまうかもしれません。しかし、緩和ケアをよく理解することは、いざ自分ががんになったとき、自分らしい治療生活を送るために大切なことです。

日本人の2人に1人が一生に一度はがんを経験します。いつか自分にも来ることだと思って、緩和ケアについてよく知ったうえ、もしものときにはどうするかを身近な人と話し合ってみてください。

緩和ケアについての情報はほかのページに詳しくまとめています。関心のある方はぜひ一緒にご覧ください。

関連記事:緩和医療って末期がんに対して行う治療じゃないの?

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Perceptions of palliative care among patients with advanced cancer and their caregivers.

CMAJ. 2016 Jul 12.

[PMID: 27091801]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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