新たに承認されたRSウイルスワクチンは打ったほうがいいのか?
60歳以上の成人を対象にGSK社のRSウイルスワクチンが、2023年9月25日に厚生労働省によって製造販売が承認されました。今後日本において、60歳以上の人は、ワクチン接種を受けられるようになります。このコラムでは、感染症内科医として皆さんに知っておいて欲しいRSウイルスとそのワクチンについて説明します。
RSウイルス感染症は何が怖い?
RSウイルス感染症は、RS
通常、大人や年長児が感染した場合は、発熱、せき、鼻水などの症状だけで自然におさまります。しかし、乳児が感染した場合、重症化して細気管支炎や肺炎になり、入院治療が必要になることがあります。その場合、風邪のような症状に続いて次のような症状が出ます。
【RSウイルス感染症が重症化した時の症状】
- 咳がひどくなる
喘鳴 (ヒューヒュー、ゼーゼーという呼吸音)がでる- 呼吸困難になる など
一方、大人でも
RSウイルスワクチンとは?
このように、日常的によく見る感染症でありながら一部の人では重症化してしまうことから、RSウイルスワクチンは開発優先度の高いワクチンとして厚生労働省に指定されていたものの、長い間実用化されていませんでした。そのような中で、米国国立衛生研究所(NIH)により融合前Fタンパク質に関する基礎研究が発表されました。融合前Fタンパク質というのは、RSウイルスがヒトに感染するステップで重要な働きをするものです。この知見に基づいて各社でワクチン開発がすすめられました。そして今回、ついに、GSK社のRSウイルスワクチンが承認されることとなりました。
予防効果はどれくらい?
今回の承認にいたった、GSK社が開発したワクチンに関する元の情報は2月16日号のNew England Journal of Medicineに出ています。この研究では、高齢者の感染予防に関する有効率が82.6%、重症化予防に関する有効率が94.1%でした。また持病のある人でも94.6%と高いワクチンの有効性が認められています。
接種後の有害事象としては、注射部位の
打つといいのは誰?
現時点では、60歳以上の人が接種可能です。今後、
表. RSウイルス感染症の重症化
・肺疾患(慢性閉塞性肺疾患[COPD]や喘息など) ・慢性心血管系疾患( ・糖尿病 ・神経疾患 ・腎臓疾患 ・肝臓疾患 ・血液疾患 ・免疫不全 ・医療者が重症呼吸器疾患のリスクを高めると判断したその他の |
RSウイルスワクチンは単回接種が推奨されていますが、今後時間の経過とともに再接種が必要かどうか(必要な場合は、いつ必要か)を判断するための研究が進行中です。
おわりに
現在、各社のRSウイルスワクチンの開発および承認申請の競争が激化しており、今後、乳児のRSウイルス感染症予防目的での妊婦へのワクチン接種が日本でも承認されると考えられています(妊娠中に母体にワクチンを接種することにより、母体から胎児へRSウイルス中和
1. CDC:Respiratory Syncytial Virus Infection (RSV)
2. 国立感染症研究所:IASR Vol. 43 P79-81:2022年4月号
3. 国立感染症研究所:IDWR 2023年第28号<注目すべき感染症> ヘルパンギーナ・RSウイルス感染症
4. Papi A, Ison MG, Langley JM, Lee DG, Leroux-Roels I, Martinon-Torres F, Schwarz TF, van Zyl-Smit RN, Campora L, Dezutter N, de Schrevel N, Fissette L, David MP, Van der Wielen M, Kostanyan L, Hulstrøm V; AReSVi-006 Study Group. Respiratory Syncytial Virus Prefusion F Protein Vaccine in Older Adults. N Engl J Med. 2023 Feb 16;388(7):595-608.
5. Savic M, Penders Y, Shi T, Branche A, Pirçon JY. Respiratory syncytial virus disease burden in adults aged 60 years and older in high-income countries: A systematic literature review and meta-analysis. Influenza Other Respir Viruses. 2023 Jan;17(1):e13031.
6. 厚生労働省(MHLW):Handbook of Health and Welfare Statistics 2022.
7. 厚生労働省:予防接種に関する基本的な計画2014
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。