2020.10.13 | コラム

アトピー性皮膚炎の抗炎症薬外用剤にJAK阻害薬「デルゴシチニブ軟膏」が登場:ステロイド外用薬・タクロリムス軟膏との違いとは?

デルゴシチニブ軟膏(コレクチム®️軟膏)の利点や注意点
アトピー性皮膚炎の抗炎症薬外用剤にJAK阻害薬「デルゴシチニブ軟膏」が登場:ステロイド外用薬・タクロリムス軟膏との違いとは?の写真
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アトピー性皮膚炎の治療の三本柱といえば①薬物療法、②スキンケア、③悪化因子の検索と対策です。このうち、薬物療法として皆さんよくご存知なのは、ステロイド外用薬でしょう。タクロリムス軟膏を使っている人も少なくないかもしれません。この2種類の抗炎症外用剤に加え、2020年に新しくJAK阻害外用薬がアトピー性皮膚炎の治療薬として登場しました。今回はこの3つの薬の特徴について紹介します。

1. ステロイド外用薬の登場

ステロイド薬は、1948年に関節リウマチに対し初めて使用されました。当時は関節リウマチに対する特効薬がなく関節の痛みや腫れで動けなくなる患者が多くいたそうですが、ステロイド薬の効果はめざましく、ベッドに寝たきりの患者が歩き出した…というニュースがあったそうです[1]。

しかし、ステロイド内服薬や注射薬による全身投与には明らかな副作用があります(詳しくは「ステロイド内服薬の副作用とは」にて説明しています)。ですので当時から、副作用を軽減するためにも患部に直接塗ろうとする動きにつながったのでしょう。

そして1953年に最初のステロイド外用薬が開発されました。その後、1970年代には現在にも通じるさまざまなランク(強さ)のステロイド外用薬が揃うことになったのです。しかし、当時はまだ、ステロイド外用薬の有効な使用法は十分わかっていたとは言えません。今の使い方と照らし合わせると誤用や、もしかすると安易な処方などもあったかもしれません。

ステロイド外用薬の炎症を抑える作用のひとつに、血管を収縮する作用があります。炎症を収め、さらに一時的に皮膚を白くする作用があるわけです。そして、美容目的で『化粧の下地』に使う方までいらっしゃったそうです[2]。

そんな誤った使い方を続ければ、ステロイド外用薬の副作用が起こったのも当然だったでしょう。実際、皮膚は薄くなり(菲薄化)、血管の収縮能が失われ逆に血管拡張を起こして「酒さ様皮膚炎(いわゆる"赤ら顔")」などの副作用を起こすといった事例が発生しました。

ステロイド外用薬は怖い、というイメージができたのはこれらの事例が広く知られるようになったことも一因と考えられます。そのような状況を改善するべく、アトピー性皮膚炎に対するガイドラインが策定されました。今では、副作用を最小限にしつつ効果を得る適切な方法がわかっていますので、お医者さんと相談しながら使ってください。

 

2. タクロリムス軟膏の登場

さて、とはいえステロイド外用薬の連用による副作用は課題として残っており、これを回避するための薬剤も求められるようになりました。

そして、その副作用を回避するための外用薬として1999年、タクロリムス軟膏(商品名:プロトピック®️軟膏など)が登場し、2003年には小児にも使用できるようになりました。タクロリムス軟膏は、皮膚の菲薄化が起こらないことから、ステロイド外用薬を長期に連用しづらい顔面などによく使用されるようになりました。

たとえば顔面のアトピー性皮膚炎は、繰り返される掻きむしりにより、白内障網膜剥離といった合併症を起こしえます。タクロリムス軟膏の登場は、そのような重篤な合併症が減ることにつながりました。

たとえば東京医科大学に1991-1993年と2012年-2015年に受診されたアトピー性皮膚炎患者の眼合併症を比較したところ、1991-1993年には網膜剥離が2%で観察されていたのに、2012年-2015年に受診された群には1例もいなかったそうです[3]。

しかし、タクロリムス軟膏には使いにくい場面もあります。

ひとつは塗ったときの刺激感です。16歳以上の中等症〜重症のアトピー性皮膚炎患者60人に対し、顔にタクロリムス(0.1%)軟膏を2週間塗布したところ、30人に刺激感が発生したという報告もあります[4]。

もうひとつは、悪性リンパ腫皮膚がんに対するリスクの説明を医師が患者にしなければならないことも大きな足枷です。このリスクは概ね否定されていますが、説明を受けることで薬の使用に抵抗を感じてしまう人もいます。

しかしアトピー性皮膚炎患者293,253人に対する横断研究で、すでに悪性リンパ腫のリスクは増加しない(むしろアトピー性皮膚炎の重症度がリスク要因となる)と報告されていますし[5]、そろそろこの文言は削除してほしいところですが…。

また、強い紫外線を避ける必要があることもやや使いにくさを助長しています。

 

3. 新しく承認されたJAK阻害外用薬「デルゴシチニブ軟膏」とはどのような薬か?

さて、JAK(Janus-associated kinase)阻害薬デルゴシチニブ(商品名:コレクチム®️軟膏0.5%)とは、10年以上ぶり2020年に承認されたアトピー性皮膚炎に使用される抗炎症薬外用薬のニューフェイスです。ステロイドともタクロリムスとも異なる機序で作用します。少々難しいのですが、アレルギーの炎症の情報を伝える通り道であるJAK受容体の働きを邪魔することで、特定の情報伝達物質(サイトカイン)の働きを抑えて有効性を発揮します。

いまのところ16歳以上にしか使用できませんが、この原稿を書いている2020年9月29日現在、2歳以降での適応が予定されるコレクチム®️軟膏0.25%が承認申請中です[6]。

 

デルゴシチニブ軟膏とタクロリムス軟膏の違いとは?

デルゴシチニブ軟膏の使用タイミングは基本的にタクロリムス軟膏と同様ですが、比較するといくつかの利点、そして注意点があります。

 

アレルギー専門医が考える利点①:悪性リンパ腫皮膚がんのリスク説明が不要

まず、今のところタクロリムス軟膏のような悪性リンパ腫皮膚がんの警告はありません。前に述べたように、現実的にはタクロリムス軟膏にも悪性腫瘍の発生を増やすリスクがあるわけではないことはすでに明らかになってきているのですが、現状では医師が説明する必要があります。デルゴシチニブ軟膏には、その説明がないため心理的に安心して使いやすいことは良い点でしょう。

 

アレルギー専門医が考える利点②:刺激感が少ない

タクロリムスは高頻度に刺激感が現れますが、デルゴシチニブ軟膏で刺激感が出ることは少ないです。もちろん外用薬である以上、一定の『合わない』方はいらっしゃると想定されますが、デルゴシチニブ軟膏には添付文書に記載がありません。

 

アレルギー専門医が考える利点③:強い紫外線を気にしなくても良い

そして紫外線への注意喚起がないことも利点です。タクロリムス軟膏も、あくまで『日焼けサロンのような強い紫外線』や『PUVA療法などの紫外線療法』に関しての記載なのですが、配慮を要するとされています。デルゴシチニブ軟膏にはその必要はないようです。

 

注意点:やや高価である

タクロリムス軟膏には後発品があるので安価(1gあたり先発品100円程度、後発品50円程度)になってきている一方、デルゴシチニブ軟膏の薬価は1gあたり139.7円と高価です。また、タクロリムス軟膏は1日1-2回の塗布ですが、コレクチム®️は1日2回塗布(最高1回塗布量5g)ですので、使用量が多くなりがちなことも考慮すると費用がやや嵩みます。

 

前述までの利点と、このあたりの『コスト』との兼ね合いが難しいところになるかもしれず、ご自身の価値観と照らし合わせながら、どちらを使いたいか医師と相談してみてください。

 

使い方に関しての補足

医療関係者向けに補足をしておくと、デルゴシチニブ軟膏はステロイド外用薬と併用しても問題ないようです。

なお、JAK阻害外用薬は皮膚のバリアを改善させるという作用もあるという報告があります[7]。ステロイド外用薬の連用で皮膚の菲薄化が起こってきている患者さんには良い適応かもしれませんね。

 

3. さいごに

さて、今回は新しいJAK阻害外用薬としてデルゴシチニブ軟膏を紹介しました。さらにSTAT(signal transducer and activator of transcription)阻害外用薬、PDE4(phosphodiesterase 4)阻害外用薬など複数の製剤の有効性が臨床試験中です。今後、さまざまな外用薬をどのように使い分けていくかが医師の腕の見せどころになってきそうですし、患者にとっては外用薬の選択肢が増えることで、一人ひとりの症状によりあったアトピー性皮膚炎の治療につながることが期待されます。

もちろん、アトピー性皮膚炎の治療の三本柱の残りの二本、「スキンケア」と「悪化因子の検索と対策」も普段から忘れずに行い、抗炎症薬の使用量を減らしていくことも大事です。

 

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。