2021.02.24 | コラム

眼球に塗れるほど低刺激!? 保湿剤の代表「ワセリン」の種類と効果(保湿剤シリーズ②)

ワセリンの特徴や、黄色ワセリン、白色ワセリン、プロペト、サンホワイトの違いについて解説

眼球に塗れるほど低刺激!? 保湿剤の代表「ワセリン」の種類と効果(保湿剤シリーズ②)の写真

前回のコラムでは 「エモリエント」と「モイスチャライザー」の解説をしました。そのなかで、エモリエントは皮脂膜の役目、モイスチャライザーはエモリエント+保湿成分とお話ししました。

そこで今回は、エモリエントの代表であるワセリンに関して解説していきましょう。

1. 安定性抜群! ワセリンは酸化や腐敗が起こりにくい

ワセリンの原料は石油です。 石油から得た炭化水素類の混合物を精製したものは「鉱物油」と呼ばれ、ワセリンの他にパラフィン、流動パラフィン(ミネラルオイル)などがあります。

石油を精製して…と聞くと、なんだか人工的で肌に悪いような印象を受けるかもしれません。しかし、実際は植物油より鉱物油のほうが非常に安定していて、酸化や腐敗をしにくくアレルギーも起こしにくいことがわかっています。そして「精製された」ワセリンを 塗っても、皮膚への影響も少なく内臓への影響はないと報告されています。[1]。

実際、植物成分であるピーナッツオイルを新生児に塗っているとピーナッツアレルギーを発症させやすくなった…なんていう報告[2]もありますので、植物だから安全とはいえませんよね。

 

さて、ワセリンは安定していて他の薬剤を変性させにくいことから、他の有効成分を混ぜ込む"基剤"として使われます。

というお話をすると、いかにも「何の薬効もない」と思われるかもしれません。しかし最近の研究結果では、ワセリンは単なる皮脂膜の代わりだけでなく、皮膚に備わっている抗菌機能やバリア機能をも改善させると報告されています[3]。

たとえば術後の感染症対策として、傷口に「白色ワセリンを塗るグループ」440人と、「バシトラシンという抗菌薬の外用薬を塗るグループ」444人とにランダムにわけて比べた研究があります。そして手術の4週間後に感染率を確認したところ 、両グループで感染率に差がなかったことが報告されています[4]。

 

なかなかワセリン、頑張っていますよね。

 

2. ワセリンにもさまざまな種類がある

実は、ひとくちに「ワセリン」といっても精製度に応じ、大きく4種類に分けられます。

 

【ワセリンの主な種類】

  • 黄色ワセリン
  • 白色ワセリン
  • プロペト
  • サンホワイト

 

まず石油から精製度が低い状態で作られるのが「黄色ワセリン」

そしてそこからさらに精製度を高めたのが「白色ワセリン」です。ワセリンは、精製度で色が変わるのですね。

現在では処方薬として黄色ワセリンを使う頻度は高くはありませんが、黄色ワセリンは精製度が低いためにいくらかかぶれやすくなると考えられています[5]。

 

次に、「プロペト」というワセリンです。

プロペトは、白色ワセリンをさらに精製して抗酸化物を除去したものです。白色ワセリンも低刺激ですが、刺激がさらに少なくなるため 眼球に塗る軟膏の基剤にも使われています。

しかし、精製段階で抗酸化物まで除去されるために、酸化しやすいという問題もあります。つまり、プロペトには遮光をしておいたほうが良いという注意点があります

 

そしてさらに精製度の高いものとして「サンホワイト」があります。

サンホワイトはプロペトをさらに精製し、抗酸化物を加えたものです。光に当たっても黄色になりにくいという利点があります。ただし、サンホワイトには「皮膚保護」という保険適応がないので、処方薬となることはまずありません。一般的には市販薬として入手できますが、高価という欠点があります。

 

 

これ以外にワセリンの変わり種として親水ワセリンがあります(*)。

親水ワセリンは、白色ワセリンにステアリルアルコールやコレステロールを添加して白色ワセリンよりも吸水性に優れた外用剤に仕立てたものです。ただし、親水ワセリンは皮膚バリアを障害する可能性が示唆されており、一般にアトピー性皮膚炎への使用は勧められていません[6]。

 

3. よくある疑問:ワセリンを塗ると 日焼けをしやすくなる?

「ワセリンを塗ると日焼けがひどくなりませんか?」という質問を受けることがあります。湿疹があるところには色素沈着を起こしやすいことや、「サンオイル」と勘違いする方がいるのかもしれません。

しかし、ワセリンそのものは紫外線を「多少ブロックするかもしれない」という報告、つまり日焼けを多少防止する可能性が示唆されています。

たとえば健康なボランティア35人を次の4つのグループに分けて、 最少紅斑紫外線量(紫外線を浴びて24時間後に皮膚が赤くなり炎症を起こす最少の紫外線量のこと)の変化を調査した研究があります。

 

  • グループ1:ワセリンのみ薄く塗る
  • グループ2:ワセリンのみ厚く塗る
  • グループ3:ワセリン+サリチル酸(20%)を薄く塗る
  • グループ4:ワセリン+サリチル酸(20%)を厚く塗る

 

すると最少紅斑紫外線量は、グループ4>グループ3>グループ2>グループ1の順で高かったという結果でした[7]。

最少紅斑紫外線量の値が高いほど、たくさんの紫外線を浴びても肌が影響を受けにくいことを示します。すなわち、ワセリンを厚く塗ったほうが紫外線をある程度防御するということですね。

ただし、紫外線をしっかり防ぐには「日焼け止め」を使うのが効果的です。両方塗る場合は、一般的に①ワセリン、②日焼け止めの順で塗ると、日焼け止めで皮膚がかぶれにくくなるでしょう。

 

さて、今回は、エモリエントの雄である「ワセリン」について 解説しました。

ワセリンはその精製度や性質を知っておけば、刺激も少なく使いやすい外用剤です。しっかり使用すれば、皮膚を保護するエモリエントとしての役目を存分に発揮してくれるでしょう。

この記事がみなさんのスキンケアに役立つことを願っています。

次回は、処方薬の中でもモイスチャライザーとして最もよく使われている「ヘパリン類似物質外用剤」に関して解説します。

 

*読者からご指摘をいただきプラスチベースについての記載を削除いたしました(2021.2.24)

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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