2015.05.27 | ニュース

手術前のβ遮断薬で心筋梗塞、脳卒中のリスクは減ったのか?

研究不正を受けて再検証

from Circulation

手術前のβ遮断薬で心筋梗塞、脳卒中のリスクは減ったのか?の写真

心臓以外の手術を行う直前には、β遮断薬という種類の降圧薬(血圧を下げる薬)を使うと、結果がよくなると信じられていたことがあります。ところがその根拠のひとつとなった「DECREASE研究」という大規模研究に研究不正の疑いがかかり、アメリカなどで参照されている「ACC/AHAガイドライン」が2014年に改訂されました。ガイドライン改訂のために過去の研究を再検証した報告を紹介します。

◆過去の研究からβ遮断薬と死亡率の関連を検証

研究班は、論文データベースから過去の論文を集め、心臓以外の手術直前にβ遮断薬を使った場合と使わなかった場合とで、手術のあとの死亡率に違いがあるかどうかを検証しました。

死亡率として、心血管疾患による死亡率と、すべての死因を合計した死亡率(全死因死亡率)を評価しました。

心血管疾患とは虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)など心臓の病気と、脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)などの総称です。

 

◆全死因死亡率は実は上がっていた?

集まった17の研究から、合計12,043人の対象者のデータが得られました。

DECREASE研究のデータを含めた場合にも、除いた場合にも、「β遮断薬は死に至らない心筋梗塞を減らした」一方で、「死に至らない脳卒中を増やした」という関連が見られました。

β遮断薬と死亡率の関連として、全死因死亡率については、DECREASE研究では統計的に差がないとされましたが、ほかの研究ではβ遮断薬を使った場合に死亡率が高くなっていました。

心血管疾患による死亡に限って解析すると、DECREASE研究ではβ遮断薬を使ったときに少なく、ほかの研究では統計的に差が見られませんでした。

もともとの理由があってβ遮断薬を使っている場合もありますし、β遮断薬は有害だという結果ではありません。これらの研究の結果を受けて、現在のACC/AHAガイドラインは、心臓以外の手術直前にβ遮断薬を使うことに対して、一部の場合では旧版よりも推奨度を落としています。

 

不正はあってはならないことですが、後からの研究でそれ以前の研究の結果が修正されたり、否定される場合もあります。このような再検証や新たな研究成果を踏まえて、医療の世界では常にどのような治療がよいか、知識、知見が更新されていきます。新たな情報を踏まえて常に変化し続けることが、健全な科学の発展のために重要なのでしょう。

 

【訂正のお知らせ】

2015年5月27日

もとの文章が、「周術期(手術前や後)にβ遮断薬という薬剤を使うことが間違っている」という印象を与えてしまう可能性があることから本文を一部改訂致しました。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Perioperative beta blockade in noncardiac surgery: a systematic review for the 2014 ACC/AHA guideline on perioperative cardiovascular evaluation and management of patients undergoing noncardiac surgery: a report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Practice Guidelines.

Circulation. 2014 Dec 9

[PMID: 25085964]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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