ていなとりうむけっしょう
低ナトリウム血症
血液中のナトリウム濃度が低下した状態。だるさや意識障害、けいれんを起こす
5人の医師がチェック 164回の改訂 最終更新: 2021.11.30

低ナトリウム血症の検査:血液検査・尿検査など

低ナトリウム血症では問診、身体診察、血液検査、尿検査などを行い状態を把握していきます。これらの検査は低ナトリウム血症の原因や重症度の把握だけでなく、治療方針の決定にも役立てられます。

1. 問診

問診とは体の状態や生活背景につき確認することをいいます。低ナトリウム血症が疑われる場合には、以下のポイントにつき確認していきます。

  • 何か症状があるか
  • 最近の生活状況について変化があったか
  • 飲水量が多くなかったか
  • 塩分摂取量はどの程度であったか
  • 飲んでいる薬は何かあるか
  • 日頃どれくらいお酒を飲むか
  • もともと持病があるか
  • 家族で何か病気を持っている人はいるか
  • アレルギーがあるか
  • 妊娠はしているか

これらの問診は低ナトリウム血症の重症度や原因を特定するために役立ちます。治療法を決める上でも大事な質問事項になります。わかる範囲で構いませんので、診察時に説明するようにしてください。

2. 身体診察

身体診察は病気の状況や原因を特定するために身体の状況を客観的に評価することをいいます。ここでは低ナトリウム血症の原因や治療を考える上で特に重要な以下の診察内容につき説明していきます。実際の診察では想定される低ナトリウム血症の原因に応じて、ここで述べていない診察が行われることもあります。

  • バイタルサインのチェック
  • 手足の触診
  • 心音や呼吸音の聴診

以下で詳しく説明していきます。

バイタルサインのチェック

医療現場では「バイタルサイン」という言葉がしばしば聞かれます。日本語に直訳すると「生命徴候」となり、脈拍・血圧・呼吸・体温・意識などを指します。バイタルサインから体の状態を把握します。

バイタルサインのチェックが大事な理由には二つあります。一つ目は命に関わる状態であるかを把握するためです。例えば、意識がはっきりしなかったり、血圧が測定できないような低ナトリウム血症は非常に危険な状態です。

二つ目は低ナトリウム血症の治療方針を決める上で重要だからです。「 低ナトリウム血症の原因」でも詳しく説明していますが、低ナトリウム血症の原因や治療を考える上で、体の水分量を把握する必要があります。バイタルサインは体の水分量を予測する上でも役立ち、例えば脈拍数が多かったり、血圧が低いなど体の水分量の低下している低ナトリウム血症ではナトリウムの入った点滴投与が行われます。

手足の触診

触診とは触って状態を評価することです。四肢の触診は、低ナトリウム血症の治療を決める上で重要な体の水分量の評価に用いられます。ここでは体の水分量が多い場合と少ない場合に分け、触診した時の状態を説明します。

■体の水分量が多い時

体の水分量が多い場合、余分になった水分は体のむくみとしてあらわれます。むくみは重力に従うため、足からあらわれることが多いです。(ただし、寝たきりの人の場合はお尻や足の裏側にむくみがあらわれます)そのため、手足の触診をしてむくみの状態を把握することにより、体の水分量が多くないかを把握することができます。

■体の水分量が少ない時

体の水分量が少ない時や脱水になっている時は、手足の皮膚の張りがなくなります。この皮膚の張りを専門用語で「ツルゴール」と呼び、体の水分量が減って手足の皮膚の張りがない状態を「ツルゴールが低下している」といいます。手足の皮膚の張りを見るだけで、脱水かどうかを評価できるというのは、実際の診療において非常に重要です。というのは、脱水による低ナトリウム血症はお年寄りや赤ちゃんでしばしば起こりますが、お年寄りや赤ちゃんは脱水になってもそれを言葉で訴えることができないことがあるためです。

その他、脇や口が乾燥していないか、ということも脱水の評価に有用です。

心音や呼吸音の聴診

聴診器を使って心臓や呼吸の音を確認することを聴診といいます。聴診も低ナトリウム血症の状態や原因の予測に役立ちます。例えば、低ナトリウム血症の原因の一つである心不全では、聴診で異常な心臓の音が聞こえます。また、体の水分量が多く胸に水が溜まると、呼吸の音が弱く聞こえます。このように「バイタルサインのチェック」や「手足の触診」に聴診で得られた情報も含めて低ナトリウム血症の原因を考えていきます。

3. 血液検査

血液検査も低ナトリウム血症の状態や原因を調べる上で重要です。ここでは低ナトリウム血症の原因や治療を考える上で重要な以下の項目につき説明していきます。実際の診察では想定される低ナトリウム血症の原因に応じて、ここで述べていない血液検査が行われることもあります。

  • ナトリウム
  • クレアチニン、BUN
  • ADH(抗利尿ホルモン
  • 血漿浸透圧
  • 甲状腺ホルモン
  • 副腎皮質ホルモン

以下で詳しく説明していきます。

ナトリウム

低ナトリウム血症の診断は血液中のナトリウムの値によって行われます。単位はmEq/L(メックパーリットル)です。検査値はナトリウムを意味する「Na」と書かれているところに記載されていることが多いです。低ナトリウム血症は血液中のナトリウム濃度が135mEq/L未満の時をいいます。またナトリウムの値は低ナトリウム血症の重症度や症状も反映すると言われており、表にすると以下のようになります。低ナトリウム血症の症状については「 低ナトリウム血症の症状」でも詳しく説明しています。

ナトリウムの値

状態

135から145mEq/L

正常値

130から135mEq/L

低ナトリウム血症に該当するが、
症状はあらわれないことが多い

120から130mEq/L

軽症な低ナトリウム血症:
だるさ、吐き気があらわれる

120mEq/Lより低い時

重症な低ナトリウム血症:
頭痛、意識障害、けいれんが起こる

参考文献

UpToDate: Manifestations of hyponatremia and hypernatremia in adults

クレアチニン、BUN

クレアチニンやBUN(ビーユーエヌ)は腎臓の機能を調べる検査です。クレアチニンやBUNは体の中の老廃物で本来腎臓から排泄されますが、腎臓の機能が落ちてくると、血液中のクレアチニンやBUNの濃度が上昇してきます。そのため、腎臓の機能を予測する検査として用いることができます。低ナトリウム血症では以下の二つの理由からクレアチニンやBUNを調べます。

一つ目は低ナトリウム血症が腎不全によって引き起こされることがあるためです。腎不全とは腎臓が機能しなくなってしまった状態です。腎不全になるとクレアチニンやBUNの検査値が上昇するため、クレアチニンやBUNを調べることで低ナトリウム血症の原因に腎不全がないかを確認することができます。

二つ目はクレアチニンやBUNが脱水の評価にも使うことができる検査のためです。低ナトリウム血症は原因や治療を考える上で体の水分量を把握する必要があります。脱水になるとクレアチニンやBUNが腎不全の時ほどではないですが上昇するため、クレアチニンやBUNを見ることで体の水分量の評価を行うことができます。

ADH(抗利尿ホルモン)

ADHは低ナトリウム血症を起こす代表的な病気の一つである抗利尿ホルモン分泌異常症(SIADH)の診断のために必要な検査です。ADHはAntidiuretic hormoneの略で日本語の名称は抗利尿ホルモンになります。バソプレシンという名前で呼ばれることもあります。

ADHは腎臓に働きかけることで尿の中の水分を血液に取り込む作用があります。通常、ADHは脱水の時などに分泌されて血液中の水分を増やします。しかし、抗利尿ホルモン分泌異常症では脱水でないにもかかわらず抗利尿ホルモンが異常に作られ、水分が血液に取り込まれることで低ナトリウム血症を起こします。抗利尿ホルモン分泌異常症については、「 低ナトリウム血症の原因」でも詳しく説明しています。

抗利尿ホルモン分泌異常症の診断はADHと次に述べる血漿浸透圧を調べることで行います。ADHは血漿浸透圧の値によって正常値が異なるため、血漿浸透圧の値を見ながら血中のADHの量が多いかどうかを判断します。

血漿浸透圧

血漿とは血液を沈殿させた時にできる上澄みの液体のことをいいます。浸透圧とは液体の濃さを指す考え方です。血漿浸透圧検査では血液の液体成分の濃さを調べることができます。血漿浸透圧は抗利尿ホルモン分泌異常症が疑われる場合などに検査されます。抗利尿ホルモン分泌異常症は脱水でないにもかかわらずADH(抗利尿ホルモン)が大量に作られ血液が薄まる病気ですが、ADHの正常値は血漿浸透圧の値によって異なるため、ADHの量が多いかの判断をするためには血漿浸透圧の値を調べる必要があります。

甲状腺ホルモン

低ナトリウム血症の原因の一つに甲状腺機能低下症があります。甲状腺機能低下症を調べるためには甲状腺ホルモンの量を検査する必要があります。甲状腺ホルモンは血液検査の項目で言うとfT3(free T3、フリーT3)、fT4(free T4、フリーT4)があります。甲状腺機能低下症ではfT3やfT4の値が基準値より低くなります。

また、甲状腺機能低下症の診断にはTSH(甲状腺刺激ホルモン)の値も用います。TSHは脳から甲状腺へ甲状腺ホルモンを産生するよう指令を伝える物質です。脳からTSHが出ると甲状腺がTSHを受け取って、甲状腺ホルモンをたくさん作るようになります。

甲状腺機能低下症では甲状腺ホルモンが血液中で少ないため、脳から甲状腺へ甲状腺ホルモンをたくさん作るよう指令が出るようになります。言い換えるとTSHがたくさん作られるようになります。そのため、TSHを計測することで甲状腺機能低下症の診断に役立てることができます。

副腎皮質ホルモン

副腎皮質ホルモンには血液中のナトリウム濃度をあげる作用があるため、アジソン病など副腎皮質ホルモンが正常に作れなくなった状態では低ナトリウム血症が起こります。アジソン病とは生まれた時から副腎が正常に働かなかったり、感染症により障害されることで、副腎皮質ホルモンを分泌できなくなる病気です。アジソン病に関しては「 低ナトリウム血症の原因」でも詳しく説明しています。

低ナトリウム血症の原因が副腎皮質ホルモンが作れないことによるかは血液検査で調べることができます。具体的にはコルチゾールやアルドステロンなどの副腎皮質ホルモンを調べることができます。また、副腎皮質ホルモンを分泌させるような物質を体に投与して、副腎皮質ホルモンが作られるかを調べることもあります。

4. 尿検査

尿検査も低ナトリウム血症の原因や治療を決める上で重要な検査です。ここでは以下の項目につき説明していきます。

  • 尿浸透圧
  • 尿中ナトリウム

実際の診察では想定される低ナトリウム血症の原因に応じて、ここで述べていない尿検査が行われることもあります。上記2点について以下で詳しく説明していきます。

■尿浸透圧

尿浸透圧検査は尿の濃さを調べることができます。尿浸透圧検査は低ナトリウム血症の原因を考える上で重要な検査です。例えば、低ナトリウム血症の原因のひとつに水をたくさん飲むことで血液中のナトリウムが薄まる多飲症があります。多飲症では体の余計な水分を尿から出そうとするので、尿浸透圧は非常に低くなります。一方で、脱水に伴う低ナトリウム血症では、尿を濃くして水分をなるべく体内にとどめようとするので、尿浸透圧が高くなります。このように尿浸透圧を調べることで低ナトリウム血症の原因を予測することができます。

■尿中ナトリウム

尿中ナトリウム検査は尿の中のナトリウムの濃度を測る検査です。「 低ナトリウム血症の原因」でも詳しく説明していますが、いろいろなことが原因で低ナトリウム血症は起こります。その中でアジソン病や利尿剤が原因の低ナトリウム血症は腎臓からナトリウムが漏れ出ることによります。そのため、アジソン病や利尿剤などが原因の場合には尿中ナトリウム検査をすると尿のナトリウムの濃度が高くなっています。

また尿中ナトリウム検査は、低ナトリウム血症の原因検索だけでなく、治療の時にも役立ちます。低ナトリウム血症の治療については「 低ナトリウム血症の治療」でも詳しく説明しますが、ナトリウムの入った点滴が用いられることがあります。この時、低くなった血中のナトリウム濃度を上げるためには、体から失われているナトリウムの量以上のものを投与しなければなりません。つまり、点滴に入れるナトリウムの量を決める時に、尿から失われていくナトリウムの量を参考にすることがあります。このように尿中ナトリウム検査は低ナトリウム血症の原因検索、治療方針の決定の両面において重要な意味合いがあります。