まんせいふくびくうえん(ちくのうしょう)
慢性副鼻腔炎(蓄膿症)
急性副鼻腔炎が治りきらずに慢性化したもの。一般的には蓄膿症と呼ばれることも多い
11人の医師がチェック 54回の改訂 最終更新: 2024.10.25

慢性副鼻腔炎(蓄膿症)の薬はどんな薬?

慢性副鼻腔炎(蓄膿症)で使用する薬について説明します。慢性副鼻腔炎は長期間にわたって薬を服用することもあり、そのため副作用についても知っておくとよいです。ここでは慢性副鼻腔炎治療に用いられる薬について説明します。

目次

慢性副鼻腔炎の市販薬には、以下のものがあります。

  • チクナイン®錠
  • ベルエムピ®L錠
  • ホノミビスキン®
  • エンピーズ®
  • フジビトール®

これらの市販薬は漢方薬をベースにつくられています。ベースとなる漢方薬はいくつかあります。

チクナイン錠®は辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)、ベルエムピ®L錠は荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)は同成分です。フジビトール®B錠は葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)の成分を含みます。いずれも蓄膿症に対して効能・効果がある漢方薬です。

辛夷清肺湯には、鼻の粘膜収縮作用によって鼻通りをよくし、鼻粘膜の線毛運動機能の改善作用によって鼻汁や後鼻漏の症状を改善する報告があります。漢方薬は、体質によって合うものが異なるため、いずれの市販薬の効果も個人差があります。

効果効能に蓄膿症がある漢方薬としては、下記があります。

  • 葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)

  • 荊芥連翹湯(けいがいれんぎょうとう)

  • 辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)

漢方では体質(証)によって用いる薬が異なります。体力があり胃腸が丈夫な人を「実証(じっしょう)」といい、上記のうち、葛根湯加川芎辛夷(ツムラ2番、クラシエなど)と辛夷清肺湯(ツムラ104番、クラシエ、コタローなど)が用いられます。反対に、体力がなく、弱々しい感じの人を「虚証(きょしょう)」といい、荊芥連翹湯(ツムラ50番など)が用いられます。

葛根湯加川芎辛夷は若年者や成人の慢性副鼻腔炎で漢方での治療をする場合の第一選択薬となります。比較的体力のある人で、鼻づまり、鼻水、後鼻漏などが長引く場合に用います。この時、頭痛、頭重感(ずじゅうかん)、首のうしろから背中にかけてのこわばりなどの症状が伴う場合により有効だと言われています。

辛夷清肺湯は中高年の人に対してまず選ばれる薬です。体力が中等度以上で患部に熱をもっている場合や疼痛がある場合、色のついたねばっこい鼻水がある場合、後鼻漏が多い場合、鼻茸がある場合に使用されることが多いです。鼻の粘膜収縮作用から、鼻通りをよくしたり、鼻粘膜の線毛運動機能の改善作用から、鼻汁や後鼻漏の症状が改善する報告があります。

荊芥連翹湯は体力が中等度前後の人で、皮膚の色が浅黒く、副鼻腔、外耳、中耳扁桃などに症状を起こしやすい場合に用いられます。

上記のような使い分けを行いますが、体質によって効果の期待も異なりますし、漢方薬の有効性も明らかなものはありません。

葛根湯は体力が中等度以上の人の、かぜのひきはじめに有効ですが、蓄膿症の効果効能はありません。

慢性副鼻腔炎の治療ではどのような薬が処方されるのでしょうか。通常と異なる治療方法の薬もあるので、薬による治療方法を詳しくみていきましょう。

慢性副鼻腔炎は病気になる過程で、最初はウイルス感染や細菌感染が関与しますが、長引く状態では感染はありません。そのため、細菌を退治する目的での抗生物質の使用は行いません。

それでは、慢性副鼻腔炎に日本でもっとも使われている抗生物質であるマクロライド系抗菌薬(商品名クラリス®、クラリシッド®、クラリスロマイシンなど)は何の目的で使用されているのでしょうか。慢性副鼻腔炎に対するマクロライド系抗菌薬の使用方法は、通常と異なり、常用量の半分を8-12週間内服します。この投薬方法はマクロライド少量長期投与と呼ばれます。常用量の半分で内服することで、炎症を抑えたり、分泌物を減らす作用や、分泌物を排泄する線毛の運動を促進する作用があり、慢性副鼻腔炎の症状改善につながるとされています。鼻内環境の改善を目的として、細菌を退治する目的では使用されていません。

では、細菌を退治する目的で使用する場合はどのような状況でしょうか。それは慢性副鼻腔炎で治療中に、新たな細菌感染を起こして、症状の急激な悪化があった場合です。発熱が持続したり、頭痛や顔面痛の悪化、鼻水の悪化が一週間程度続く場合は慢性副鼻腔炎急性増悪と考え、ペニシリン系抗菌薬(商品名サワシリン®、アモリン®など)や、重症の場合は、ニューキノロン系抗菌薬(商品名ジェニナック®など)を用いることもあります。子供の場合はペニシリン系抗菌薬を用いることが多いです。鼻水の中にどんな細菌がいるかを確認して、原因の細菌にあった薬を使うこともあります。副作用として、いずれの薬も下痢があります。現在、抗菌薬の不適切使用が問題となっており、下痢などの副作用や、耐性菌の増加を考える必要があります。これらの副作用と、抗生物質の使用による症状の改善のメリットを比べて、抗生物質使用のメリットが大きい場合は使用します。

症状に応じて、適切な抗生物質を使用することが重要です。他の病気でもらった薬や、他の人がもらった薬を自己判断で内服するのは、危険なのでやめましょう。

フロモックス®(一般名:セフカペンピボキシル)は第三世代セフェム系の抗菌薬です。同じ仲間にセフゾン®(一般名:セフジニル)、メイアクト®(一般名:セフジトレン)などがあります。第三世代セフェムは飲んでも腸から吸収されにくい(バイオアベイラビリティが低い)という弱点があります。

また慢性副鼻腔炎では病気の成立に細菌感染が関与するものの、長引く状態では細菌感染は関与していないため、フロモックスなどの抗菌薬を飲んでも、退治するべき細菌がもういないといった事態が考えられます。

病院で抗菌薬が処方される場面としては、慢性副鼻腔炎で経過をみている間に、細菌感染などをおこした場合です。その場合は鼻水の量が増えたり、頬の痛みや頭痛の悪化があるなどがあります。発熱が持続したり、症状が長期間にわたる場合は、抗菌薬を使用することがあります。セフェム系抗菌薬は妊婦や授乳中でも使用可能な抗菌薬です。

フロモックスなどの抗菌薬を飲んだのに効かないと感じたときは処方した医師に相談してください。

マクロライド少量長期投与とは、日本でびまん性汎細気管支炎に対して、はじめに試みられた治療です。マクロライド系抗菌薬に分類されるエリスロマイシンを通常の量より少ない量で数ヶ月から数年に渡って投与する治療法です。14員環マクロライドと呼ばれるクラリスロマイシン(商品名クラリス®など)や、15員環のアジスロマイシン(商品名ジスロマック®など)でも同様の効果があります。炎症を抑えたり、分泌物を減らす作用や、分泌物を排泄する線毛の運動を促進する作用があり、症状の改善につながるとされています。

現在は、マクロライド少量長期投与が慢性副鼻腔炎にも効果があるとされ、日本を中心に用いられています。ヨーロッパやイギリスのガイドラインでも記載されている治療方法です。(EPOS 2012: Rhinol Suppl. 2012 Mar;(23)、 BSACI guideline: Clin Exp Allergy. 2008 Feb;38(2):260-75)

慢性副鼻腔炎においては、14員環マクロライド系抗菌薬(商品名クラリス®、クラリシッド®など)を通常の治療量(常用量)の半分を目安として、8−12週間内服することが多いです。鼻ポリープのない場合は3か月のマクロライド少量長期投与でQOL(生活の質)の改善に有効という報告もありますが、効果がないという報告もあります。

副作用として下痢が起こりやすいことや、長期間の抗菌薬内服による耐性菌の増加の可能性の問題あり、個々の症状に応じて、マクロライド少量長期療法を行うか検討が必要です。

現在、抗菌薬の不適切使用が問題となっています。抗菌薬は特効薬ではありませんので、上手に使わないと副作用ばかり起こることがあります。抗菌薬を使う場合には本当に必要なのかを一度立ち止まって考えてみることが大切です。自分の症状やその強さを医者に伝えて、状況を一緒に考えてみて下さい。

参照:JAMA. 2015 Sep 1;314(9):926-39. Laryngoscope. 2006 Feb;116(2):189-93. Allergy. 2011 Nov;66(11):1457-68.

慢性副鼻腔炎の治療期間は、鼻水や咳、痰などの症状を参考に決めます。画像での副鼻腔炎所見は、症状に遅れて改善するため、治療中止に必ずしも画像検査を必要としません。マクロライド少量長期投与では8-12週間の投与を行います。治療効果は2週間程度で出てきます。マクロライド以外の薬に関しても、症状が落ちついた時点で終了で構いません。自覚症状と、鼻内の鼻水の量などに差がある可能性があり、耳鼻咽喉科で鼻内を診てもらい、治療終了時期を検討します。