けっかく(はいけっかく)
結核(肺結核)
結核菌を吸い込むことで発症する肺の感染症。せき、たん、血痰、喀血, 発熱、体重減少などを起こす
13人の医師がチェック 129回の改訂 最終更新: 2024.03.18

結核の治療:治療薬(イソニアジド・リファンピシン・エタンブトール・ストレプトマイシンなどや治療期間、耐性菌対策についても知りたい

結核には薬を用いた治療が行われます。治療期間中、欠かさずに薬を飲みきることが完治するために大切です。また、結核治療薬は副作用が出やすいことが知られているので、副作用に早く気づくためにも正確な知識を持つことが重要です。

1. 感染と発病の違い:治療の説明の前に知っていてほしいこと

NIAD(CC BY 2.0) Scanning electron micrograph of Mycobacterium tuberculosis bacteria, which cause tuberculosis.

© chombosan - fotolia.com / NIAD(CC BY 2.0) Scanning electron micrograph of Mycobacterium tuberculosis bacteria, which cause tuberculosis.

結核の治療についてお話しする前に少し難しいことを説明します。誰もが勘違いしやすいポイントなのですが、感染症を考える上で大切なことなので是非読んで下さい。

感染することと発病することは違います。

細菌が身体に入ると感染が起こります。しかし、細菌は人体に入り込んだだけで必ず感染を起こすわけではありません。常在菌という言葉を聞いたことはあるでしょうか。例えば腸の中には数百兆の腸内細菌がいると言われています。それでも感染は起こりません。一方で、お腹に細菌が入った時に、体調が悪かったり、細菌の量が多かったり、細菌の種類が人体への有毒性が高いものだったりすると感染が起こります。つまり、細菌の種類や体調などの多くの要因が重なって、感染が起こるかどうかが決まります。

感染が起こった部位では炎症が起こります。しかし、この時点ではまだ発病(症状のある病気になること)するかどうかはわかりません。感染から身体を守るための免疫という働きがあります。この免疫が感染を押さえ込めば発病することはありません。

感染と発病を区別することで、結核対策も理解しやすくなります。結核菌の感染と発病に当てはめて見ていきましょう。

結核菌による感染と結核の発病

結核感染は体内に結核菌が入ってくることで始まります。結核菌が吸い込まれて肺の奥(肺胞)に至ると、結核菌はそこで増殖します。その後、結核菌はリンパ液や血液に侵入し全身に広がっていきます。

しかし、身体も結核菌にやられるがままになっているわけではありません。結核菌が体内に入ってくるとこれを排除しようとする力が働くため、多くの場合結核菌が入ってきても感染が起こる前に体内からいなくなります。また、結核菌による感染が起こっても、結核菌を記憶した免疫が力を発揮して、結核菌が増えないように働きます。そのため、結核菌の感染が成立しても、大半の場合では結核を発病しません。実際に、結核菌に感染した人のうちおよそ5-10%程度が結核を発病すると言われています。結核菌に感染したけれど発病しなかった人は、体内に結核菌が潜んだ状態(潜在性結核)になります。

結核に感染しても自然治癒する人はいるのか?

結核菌に感染した状態から治療しなくても発病しないでいることはよくあります。しかし、治療しなければ身体から完全に結核菌がいなくなることは少なく、多くの場合は体内に結核菌が潜んでいる状態が続きます。この状態は免疫が結核菌を抑え込んでいる状態と言えます。言葉だけを見ると「菌が入っても自然治癒した」と思えるかもしれませんが、結核菌はまだ体内に残っています。結核菌が身体内に存在しているために、免疫の力が弱ってきた時に発病することがあります。特に年齢を重ねてから結核を発病することが多いので注意が必要です。これを二次性結核(再燃)と言います。

ここで感染と発病を区別することが大事になってきます。つまり、発病していなくても感染しているかもしれないのです。結核対策は発病だけでなく感染も考えに入れなければなりません。

2. 結核の治療はどんなことをする?

結核治療の基本は抗結核薬の服用です。現在は結核菌に対して有効な薬剤がたくさんあります。複数の薬を同時に飲んで治療します。最も多く治療で用いられている組み合わせは以下になります。

  • 4剤併用療法(HRZE)
    • イソニアジド(INH)
    • リファンピシン(RFP)
    • ピラジナミド(PZA)
    • エタンブトール(EB)  
  • 3剤併用療法(HRE)
    • イソニアジド(INH)
    • リファンピシン(RFP)
    • エタンブトール(EB)

*エタンブトール(EB)はストレプトマイシン(SM)に変更することができる

近年薬剤耐性菌の存在が問題となっています。耐性菌というのは薬が効かない菌のことです。どれかの薬が効かないことがわかっている場合は、違う薬に替える必要があります。詳しくは「薬の効かない結核菌の恐ろしさ」で説明します。

結核は治療すれば治るのか?

結核は治療すればほとんどの場合で治ります。なかなか結核が治らないということはほとんどなくなってきています。しかし、ここで言う「治る」とは、結核菌が身体の中から完全にいなくなるということを指していません。結核菌の活動性が失われ、周囲に結核をうつさない状態になるということです。この状態に至れば自分の免疫力が結核菌を抑えてくれるので、結核を発病することはありません。

しかし、免疫力が加齢や薬剤などの影響を受けて弱くなると結核が再燃することがあります。これを二次性結核と言います。そのため結核を治療した人も、以前と同じ症状が出てきた場合は、一度医療機関で検査してもらうようにして下さい。

また、結核を治療する時に非常に大事なことがあります。

第一に、必ず抗結核薬を複数用いるようにして、単剤で治療しないということです。抗結核薬を単剤で用いると簡単に効かなくなることが分かっています。

次に大切なのは、決められた日時に決められた量の抗結核薬を飲むということです。これを守らないと、結核は耐性化して抗結核薬が効かなくなることがあります。そのため、飲み忘れがないようにしなくてはなりません。

結核の治療に用いる薬について

結核で用いる薬は多種ありますが、ここでは主に用いられるものを以下に紹介します。

上記の治療薬の中でも、リファンピシンとイソニアジドが軸になります。しかし、どちらも副作用が出やすい薬ですし、ほかの薬との相互作用にも注意が必要な薬です。

次の章で薬の注意点について説明します。

結核治療薬の副作用

結核の治療薬は副作用が出やすいです。また、薬によって出やすい副作用が変わるため注意が必要です。治療薬ごとに副作用を見ていきましょう。

イソニアジド(INH)

  • 注意すべき副作用
    • 肝機能障害
    • 末梢神経障害
    • けいれん
    • 悪心(吐き気)
    • 下痢
    • 皮疹
    • 血球減少
    • 関節痛
  • 注意すべき他の薬との関係
    • 胃酸を抑えるタイプの胃薬を飲んでいると薬の吸収が悪くなる
    • けいれんを抑える薬(フェニトイン、カルバマゼピンなど)と一緒に飲むとそれらの薬の血液中の濃度を上げてしまう

リファンピシン(RFP)

  • 注意すべき副作用
    • 肝機能障害
    • 皮疹
    • 尿や汗の変色(オレンジ色)
    • 悪心(吐き気)
    • 下痢
    • 血小板減少性紫斑
  • 注意すべき他の薬との関係
    • 肝臓が薬剤を分解する酵素(CYP3A4)に強く作用するため、同時に使用できない薬が多い
  • 同時に使用してはいけない主な薬
    • インジナビル(HIV治療薬)
    • サキナビル(HIV治療薬)
    • ネルフィナビル(HIV治療薬)
    • ホスアンプレナビル(HIV治療薬)
    • アタザナビル(HIV治療薬)
    • デラビルジン(HIV治療薬)
    • ボリコナゾール(抗真菌薬)
    • プラジカンテル(抗寄生虫薬)
    • タダラフィル(肺動脈性肺高血圧症前立腺肥大症ED治療薬)
    • テラプレビル(C型肝炎治療薬)
    • ソホスブビル(C型肝炎治療薬)
  • 同時に使用する際に注意が必要な薬
    • 非常に多数であるためここに記載することが難しい(参考:薬剤添付文書

ピラジナミド(PZA)

  • 注意すべき副作用
    • 肝機能障害
    • 悪心(吐き気)
    • 下痢
    • 皮疹
    • 尿酸値上昇
    • 痛風発作
    • 血球減少

エタンブトール(EB)

  • 注意すべき副作用
    • 肝機能障害
    • 腎機能障害
    • 球後性視神経炎
    • 末梢神経炎
    • 悪心(吐き気)
    • 下痢
    • 皮疹
    • 血球減少

ストレプトマイシン(SM)

  • 注意すべき副作用
    • 肝機能障害
    • 腎機能障害
    • 聴力障害
    • 前庭障害(平衡機能障害)
    • 皮疹
    • 関節痛
    • 血球減少

リファブチン(RBT)

  • 注意すべき副作用
    • 肝機能障害
    • 末梢神経障害
    • 悪心(吐き気)
    • 下痢
    • 皮疹
    • 血球減少
    • 尿や汗の変色(オレンジ色)

これらの副作用を知っておくことはとても大切です。自分の飲んでいる薬に出やすい症状を自覚した時には、副作用の出現を考えて主治医に相談するようにして下さい。

また、結核のほかに持病がある人は、副作用の出現を鑑みて使用するのを避けるべき薬を選別します。持病がある人が結核の診断を受けた場合は、治療開始する前に持病の詳細を主治医に伝えてください。

結核の治療期間

結核の中でも肺結核の治療期間は通常6ヶ月あるいは9ヶ月になります。治療薬に何を用いたかによって治療期間が決まります。ここでは主に使用される治療方法の治療期間について述べます。

  • 4剤併用療法(合計6ヶ月)
    • 2ヶ月間:イソニアジド(INH)+リファンピシン(RFP)+ピラジナミド(PZA)+エタンブトール(EB)
    • その後4ヶ月間:イソニアジド(INH)+リファンピシン(RFP)
  • 3剤併用療法(合計9ヶ月)
    • 2ヶ月間:イソニアジド(INH)+リファンピシン(RFP)+エタンブトール(EB)
    • その後7ヶ月間:イソニアジド(INH)+リファンピシン(RFP)

*エタンブトール(EB)はストレプトマイシン(SM)に変更することができる

ここに述べた治療期間は通常の場合です。状況によってはなかなか治らないために治療期間が延長されることもあります。

また、肺結核以外の結核に関しても治療期間がある程度定まっており、たいていの場合は6−9ヶ月になります。しかし、病状によっては判断が難しい場合も多いです。そのため、特に肺以外の結核では専門家の診察を受けることが望ましいです。

DOTS(ドッツ)ってなに?

DOTS(Direct Observed Treatment, Short-course)はドッツと読みます。DOTSは結核患者のサポートのために海外で考えられた概念で、日本では「直接監視下短期化学療法」と言われています。抗結核薬を、決められた日時に決められた量を飲めるように環境を整えることです。

主治医と保健所と、時に薬局も連携して、結核患者が正しい時間に治療薬を飲めるようにサポートします。患者の治療薬の飲み忘れがなくなることで予想されるメリットを挙げます。

  • 治療成功率が上がる
  • 治療が長引くことによる医療費の無駄がなくなる
  • 世の中に結核が蔓延する機会を減らせる
  • 薬剤耐性結核菌を減らせる

以前と違って結核は治る病気です。病気を怖がらず前向きになることは大切なのですが、ともすれば治療に向かう気持ちが薄れてしまい、飲み忘れがあっても明日はちゃんと飲めばいいかなと思ってしまいがちです。しかし、きちんと抗結核薬を飲まないと、自分だけでなく周囲の人に迷惑をかけてしまうことになりかねません。子どもなどの次の世代にも影響があるかもしれません。自分で服薬管理をしたりDOTS戦略を用いたりすることはとても大切です。DOTSに関して興味がある方は主治医あるいはお近くの保健所に相談してみて下さい。

治療にかかる費用に関して

結核は国を挙げて蔓延を防ぐ必要のある感染症です。そのため、結核の治療に際して、結核医療費公費負担制度というものがあります。

どのくらい公費で負担されるのかは、治療の場が外来なのか入院なのかによって異なります。基本的には外来治療であれば95%の公費負担となり、入院治療であれば全額公費負担となります。ただし、所得の程度によって自己負担額が変わることがあります。自分の治療費が気になる人は、受診する医療機関に確認して下さい。

3. 薬の効かない結核菌の恐ろしさ

本来有効なはずの抗菌薬抗生物質、抗生剤)が効かない細菌のことを耐性菌と言います。結核菌においても耐性菌が問題になっています。結核菌が耐性化した場合は、治療に苦労することも少なくありません。

薬の効かない結核菌(薬剤耐性結核菌)とは?

薬剤耐性菌とは特定の抗菌薬が効かなくなった菌のことを指します。ひとつの薬が効かなくなってもほかの薬は効く可能性があります(同時にいくつもの薬が効かなくなる場合もあります)。一人の治療中に菌が変化して、あるときから薬が効かなくなることもあります。

薬剤耐性は実験室のデータと、実際に抗菌薬で治療した際のデータの両方から判定されます。つまり、採取した菌を用いて実験室で抗菌薬との相性を判定することで、実際の患者に対して効果的かどうかを推定しているのです。

ここで、抗菌薬が効きにくいのであれば使う薬の量を増やせばいいという考え方があります。確かに、量を増やすことで耐性菌を打ち倒すことができる場合はあります。しかし、結核の治療薬においてはこの作戦は有効ではありません。抗結核薬の量を通常量以上に増やすと副作用が容易に出るようになるからです。

そのため、実際の治療中にどれかの抗結核薬が効かなくなった場合は、効かなくなった抗結核薬を外して他の治療薬を加えながら治療することになります。

結核の治療において特に重要な薬はリファンピシンとイソニアジドです。この両方に耐性化してしまった結核菌を多剤耐性結核菌(MDR-TB)と言います。また、多剤耐性結核菌の中でも、オフロキサシンあるいはレボフロキサシンに対して耐性があり、さらにカナマイシンあるいはアミカシンあるいはカプレオマイシンに耐性を示すものを超多剤耐性結核菌(XDR-TB)と言います。国内では多剤耐性結核菌は多くないですが、世界中では48万人に多剤耐性結核菌が見られています。特に、中国・インド・ロシアで多いと言われています。

耐性菌は増えているのか?

平成27年度の厚生労働省の発表では、培養した結核菌の中で主要4剤(イソニアジド、リファンピシン、ピラジナミド、エタンブトール)に対して全く耐性が見られなかったものは89.2%と報告されています。逆に言うと、国内の結核菌のおよそ1割には何らかの耐性化が見られていたことになります。

また、多剤耐性結核菌は国内で48人に見つかったと報告されています。これはおよそ全体の0.5%になります。この数字が多いのかどうかの判断は別として、多剤耐性結核菌になったときには治療を慎重に行わなければなりませんので、結核を疑った場合は必ず耐性菌でないかのチェックも行った方が良いです。

最近、国内の薬剤耐性結核菌は増えても減ってもおらず横ばいです。とは言え、結核菌の1割に耐性化が見られている現状は、決して楽観できるものではありません。抗結核薬の飲み忘れをなくすことも、薬剤耐性結核菌を増やさない努力のひとつとしてとても大事です。

耐性菌の治療は非常に複雑になり、一筋縄でいかないことが多いです。薬剤耐性結核菌と判明した場合は、感染症科や呼吸器内科の専門家に診てもらうようにして下さい。

参考文献
日本結核病学会/編, 結核診療ガイド, 南江堂, 2019