皮膚がんの治療について:手術、抗がん剤、放射線治療など
皮膚がんの治療は手術が中心ですが、その他には
1. 手術(外科的治療)

手術ではまず、
手術の内容について
がんの手術というと、がんのある部分を取り除く手術を指すことが多いですが、皮膚や粘膜を切ったり縫ったりする処置の全般を「手術」と呼びます。検査のために行われる手術も含めると、皮膚がんの手術には主に次の4つがあります。
【皮膚がんの手術】
- がんの切除(がんを含む皮膚を切り取る)
- 切除した部分の再建(
縫合 ・皮弁・植皮などで形と機能を補う) - センチネルリンパ節生検(最初に転移が起こりやすいリンパ節を調べる検査の手術)
- リンパ節郭清(転移したリンパ節をまとめて取り除く手術)
がんの進行度に応じて行われる手術の内容が変わります。例えば、初期で転移する可能性が低いと考えられる人には「がんの切除」と「再建」だけが行われます。一方で、リンパ節に転移がある人には「がんの切除と再建」に「リンパ節郭清」が追加されます。
■がんの切除
皮膚がんの手術ではがんの部分だけをピンポイントで取り除くのではなく、周りの正常な部分も含めて取り除かれます。がんの輪郭線より余分に切り取られる部分のことをマージンといいます。
がんの縁ぎりぎりに沿って切除をすると、目に見えないレベルのがん細胞が残ってしまうことがあるので、がんを取り切るためにマージンが欠かせません。余白をとることでがんを取り残す可能性を下げます。一方で、マージンが大きくなりすぎると、切り取る範囲が広くなりすぎて皮膚を縫い合わせるのが難しくなります。取り残す可能性を少なくし、かつ切り取る大きさが最小になるように考えられたのが、下の表のマージンの幅です。
マージンの幅は皮膚がんの種類によって違います。(皮膚がんの種類について詳しい説明は「こちらのページ」を参考にしてください)。
【皮膚がんの種類とマージンの幅】
皮膚がんは種類によって
■切除した部分の再建
切除したあとの皮膚の欠損は、そのまま閉じられない場合があります。その際に、傷を閉じて形や機能を回復させるための処置が「再建」です。主な再建方法には、「縫縮(ほうしゅく)」「植皮(しょくひ)」「皮弁(ひべん)」の3種類があります。切り取った範囲の大きさや深さ、部位によって決まります。なお、再建方法の選択は、がんを確実に取り切ることを最優先にしたうえで、見た目(整容性)や機能(
◎縫縮
縫縮は、切除した部分の周りの皮膚を寄せて、皮膚どうしを縫い合わせる方法です。がんを切除した範囲が比較的狭い場合は、縫縮で再建できます。
◎植皮(皮膚移植)
皮膚の欠損が大きく、周りの皮膚を寄せて縫い合わせる(縫縮)のが難しい場合は、別の場所の皮膚を薄く採って欠損部に移す必要があります。この方法を植皮(皮膚移植)といいます。
◎皮弁
がんが皮膚より奥深く入り込んでいる場合には、皮膚だけでなく、その下の脂肪や筋肉などを含めて切除が必要になることがあります。この場合、皮膚だけを移す植皮では、厚みや血流の面で再建に不十分なことがあります。
そこで、皮膚と皮膚の下の組織を一緒に移して再建する方法を皮弁といいます。皮弁では、移す組織に血流(血管)を保ったまま移す、あるいは血管をつなぎ直して移すことがあります。
■センチネルリンパ節生検:最初に転移しやすいリンパ節を調べること
がんが体の別の場所へ移動し、そこで増えていく現象を転移といいます。転移の経路の1つにリンパ管があります。リンパ管の中にはリンパ液が流れており、血管と同じように全身に張り巡らされています。
がん細胞がリンパ管に入り込むと、流れに乗ってリンパ節へ運ばれることがあります。リンパ節は体のあちこちにある“フィルター”のような役割を担っており、転移が起こる場合には、まずがんができた場所に近いリンパ節から広がっていくことが多いと考えられています。
このとき、最初にがんが転移する可能性が高いリンパ節をセンチネルリンパ節と呼びます。センチネルリンパ節を調べて転移がなければ、他のリンパ節に転移している可能性も低いと考えられます。
反対に、センチネルリンパ節に転移が見つかった場合には、その先のリンパ節にも転移が広がっている可能性を考えて、状況に応じてこの後に説明する「リンパ節郭清」などの追加の治療が検討されます。
■リンパ節郭清
センチネルリンパ節生検で転移が見つかった人や、画像検査などでリンパ節への転移が疑われる(または確認されている)人では、リンパ節郭清が検討されます。
リンパ節郭清とは、転移が起こりやすい範囲のリンパ節を、まとまった領域として切除する手術です。目的は、リンパ節にあるがんをできるだけ取り除くことに加えて、転移の広がりを正確に評価し、その後の治療方針(薬物療法や放射線治療など)を決める材料にすることです。
※リンパ節郭清を行うかどうかは、がんの種類や進行度、体の部位などによって異なり、状況に応じて他の治療(薬物療法・放射線治療など)が選択されることもあります。
手術の合併症について
治療にともなって身体に起こる不利益を
■出血
皮膚を切り取る際には細い血管をいくつか切断をします。手術中に止血が十分行われますが、手術後に再出血することがあります。再出血が起こると、血の滲みや腫れ、痛みなどが現れます。出血を疑わせる症状が現れた場合は、手術を受けた医療機関にすぐに連絡してください。
一方で、再出血をしていなくても、手術後には多少の血が滲みや腫れ、痛みがともないます。傷を覆うガーゼの交換を何回も交換しなければならないほどの滲みであれば再出血が疑われますが、色がかすかに付く程度であれば自宅で様子を見ることができます。退院前に、どの程度の傷の異常で受診したほうがよいかをお医者さんに確認しておくと心配が少ないです。
■感染症
皮膚には
2. 薬物療法(抗がん剤治療・分子標的薬・免疫療法薬)
皮膚がんが転移している場合や、手術や放射線治療だけでは治療が難しい場合には、薬物療法が検討されます。薬物療法にはいくつかの種類があり、皮膚がんの種類によって効果が期待できる治療が異なります。
薬物療法は大きく分けて、①
有棘細胞がんの薬物療法
有棘細胞がんでは、転移がある場合や手術・放射線治療が難しい場合に、免疫療法(PD-1阻害薬)が治療の中心になることがあります。代表的な薬として、セミプリマブ(リブタヨ®)やペムブロリズマブ(キイトルーダ®)などがあります。
一方で、病状や体の状態によっては、従来型の抗がん剤治療が検討されることもあります。抗がん剤としては、たとえば次の薬が用いられます。
シスプラチンとドキソルビシンを組み合わせて治療が行われることが多いです。効果が小さい場合や、身体の状態が薬に合わない場合は、イリノテカンやペプロマイシンが検討されます。
悪性黒色腫(メラノーマ)の薬物療法
悪性黒色腫では、
- 免疫療法薬(免疫チェックポイント阻害薬)
- 分子標的薬:BRAF変異がある場合に用いられる治療薬
- べムラフェニブ(ゼルボラフ®)
- ダブラフェニブ(タフィンラー®)
- トラメチニブ(メキニスト®)
- ビニメチニブ(メクトビ®)
- 抗がん剤(従来型)
転移がある場合に加えて、再発率を下げるために、手術後にも薬物療法(術後補助療法)が行われることがあります。
3. 放射線治療
放射線治療の目的はがんが大きくなるのを防いだりがんを小さくすることです。皮膚がんには手術が行われることが多いのですが、「身体が手術に耐えられない人」や、「がんが転移をしている人」には放射線治療が検討されます。
放射線治療の方法
放射線を当てるといっても、治療中に痛みや熱さを感じることはほとんどありません。1回の治療時間は10分から30分程度で、これを数日から数十日間繰り返します。がんの大きさや、場所などによって治療回数が変わります。
放射線治療の効果
放射線には細胞にダメージを与える効果があり、放射線治療はこの効果を利用しています。放射線が当たったがん細胞は、細胞増殖が起こりにくくなり、がんが小さくなったりなくなったりします。一方で、がんだけではなく、正常な部分にも放射線治療の影響が及んで副作用として現れます。
放射線治療の副作用
放射線はがんの部分に焦点を絞って照射されますが、正常な皮膚への影響を完全には避けるのは難しく、副作用が現れます。現れる時期によって、副作用は「早期障害」と「晩期障害」の2つに分けられます。
■早期障害
早期障害は治療中から治療を終えてから数ヶ月以内に現れます。
【主な早期障害】
- 皮膚の赤みや痛み
- 喉の違和感や飲み込みにくさ
皮膚に起こる早期障害はひどい日焼けに似ています。強い痛みを感じる人もいますが、時間とともに改善することがほとんどです。痛みが強い間は、柔らかい衣服を着用するようにしたり、洗う際に皮膚を強くこすらないようにするといった工夫で和らげることができます。
一方、首に放射線を照射した影響で現れる喉の違和感や飲みこみにくさには注意が必要です。程度が重い場合は治療を一時休まなければならないので、これらの症状を自覚した場合はすみやかに担当医に相談してください。
他の早期障害には「全身のだるさ」や「食欲不振」といったものがあります。日常生活に影響が出やすく、治療の継続に悪影響が及ぶこともありますが、ひと工夫で乗り切れることがあります。例えば、食欲不振には1回あたりの食事量を減らすことが有効です。食事の回数を増やして1回あたりの食事量を分割して減らしたり、カロリーが多く含まれた補助食品を利用すると良いです。また、喉ごしの良いアッサリとしたものを中心にするのも一つの方法です。お医者さんや看護師さんからヒントが得られるかもしれないので、遠慮せず相談してみてください。
■晩期障害
晩期障害は治療を終えてから数ヶ月後から現れます。
【主な晩期障害】
- 皮膚が縮んで固くなる
- 手足が
浮腫 む(むくむ) - 皮膚がえぐれる(
潰瘍 ができる)
晩期障害による皮膚の変化はいずれも皮膚のバリア機能を低下させ、感染(蜂窩織炎など)の危険性が高まります。皮膚を清潔に保つことが感染予防になるので、シャワーなどはできるだけかかさないようにしてください。また、皮膚の赤みや痛みといった感染が疑われる症状が出た場合は、大事に至る前すみやかにお医者さんに相談してください(予防法については「こちらのページ」で説明しています)。
4. 緩和治療
緩和治療は生命を脅かす病気によって生じる肉体的・心理的な苦痛を和らげる治療です。一昔前のがん治療においては「末期の人に行われる治療」とほとんど同義として理解されていました。しかし、今では認識が変わって、緩和治療は手術や抗がん剤治療、放射線治療と並行して行われるものとして理解されており、さまざまな場面に登場します。例えば、「手術による傷の痛みを和らげること」や「抗がん剤の吐き気を少なくすること」は緩和治療に含まれます。また、精神面の負担を軽減させるのも緩和治療の役目です。緩和治療を上手に組み合わせることで、治療による苦痛が軽減され、がんと向き合えることにつながります。より具体的な緩和治療の内容は「こちらのページ」で詳しく説明しているので参考にしてください。
参考文献
・日本皮膚科学会ガイドライン作成委員会, 皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン第2版, 日皮会誌:125(1),5-75,2015
・「あたらしい皮膚科学 第2版」(清水 宏 / 著)、中山書店、2011年
・「がん診療レジデントマニュアル 第7版」(国立がん研究センター内科レジデント / 編)、医学書院、2016年