ひふがん
皮膚がん
皮膚に生じるがんの総称
6人の医師がチェック 162回の改訂 最終更新: 2023.09.11

皮膚がんの治療について:手術、抗がん剤、放射線治療など

皮膚がんの治療は手術が中心ですが、その他には抗がん剤治療放射線治療、緩和治療があります。このページでは皮膚がんの治療を掘り下げて詳しく説明します。

1. 手術(外科的治療)

手術ではまず、がん化している皮膚を切除します。転移を起こす前に取り除くことができれば、完治が期待できます。リンパ節に転移している場合、あるいは転移の可能性の高い場合にはリンパ節も手術で取り除かれます。

手術の内容について

がんの手術というと、がんのある部分を取り除く手術を指すことが多いですが、皮膚や粘膜を切ったり縫ったりする処置の全般を「手術」と呼びます。検査のために行われる手術も含めると、皮膚がんの手術には主に次の4つがあります。

  • がんの切除
  • 切除した部分の再建
  • センチネルリンパ節生検
  • リンパ節郭清

がんの進行度に応じて行われる手術の内容が変わります。例えば、初期で転移する可能性が低いと考えられる人には「がんの切除」と「再建」だけが行われます。一方で、リンパ節に転移がある人には「がんの切除と再建」に「リンパ節郭清」が追加されます。

■がんの切除

皮膚がんの手術ではがんの部分だけをピンポイントで取り除くのではなく、周りの正常な部分も含めて取り除かれます。がんの輪郭線より余分に切り取られる部分のことをマージンといいます。

がんの縁ぎりぎりに沿って切除をすると、目に見えないレベルのがん細胞が残ってしまうことがあるので、がんを取り切るためにマージンが欠かせません。余白をとることでがんを取り残す可能性を下げます。一方で、マージンが大きくなりすぎると、切り取る範囲が広くなりすぎて皮膚を縫い合わせるのが難しくなります。取り残す可能性を少なくし、かつ切り取る大きさが最小になるように考えられたのが、下の表のマージンの幅です。

マージンの幅は皮膚がんの種類によって違います。(皮膚がんの種類について詳しい説明は「こちらのページ」を参考にしてください)。

【皮膚がんの種類とマージンの幅】

皮膚がんの種類 有棘細胞がん 基底細胞がん 悪性黒色腫メラノーマ
マージンの幅 0.4cmから0.6cm 0.4cmから1cm 0.3cmから2cm

皮膚がんは種類によって悪性度が異なるので、それを踏まえた上で種類ごとの最適なマージンが決められています。

■切除した部分の再建

主な再建方法には「縫縮(ほうしゅく)」「植皮(しょくひ)」「皮弁(ひべん)」の3種類があります。切り取った範囲の大きさや深さによって適した再建方法が選ばれます。

◎縫縮

縫縮は単純に皮膚と皮膚を縫い合わせる方法です。がんを切除した範囲が比較的狭いときには縫縮で再建ができます。

◎植皮(皮膚移植) 皮膚の欠損が大きく縫縮が難しいときには、他の部分の皮膚を切り取って持ってくる必要があります。この方法を植皮(皮膚移植)といいます。

◎皮弁

がんが皮膚より奥深く入り込んでいる場合は、皮膚だけではなくその下の筋肉などを含めて切り取られます。この場合、皮膚だけ持ってくる植皮では再建に不十分です。他の部位から皮膚と皮膚の下の組織を含めて切り取ったものを使って再建する方法を皮弁といいます。

■センチネルリンパ節生検:最初に転移しやすいリンパ節を調べること

がんが移動して他の部位で大きくなる現象を転移といいます。転移の経路の1つにリンパ管があります。リンパ管にはリンパ液が流れており、血管同様に全身に張り巡らされています。

がん細胞がリンパ管に入り込むのは転移が起こる段階の一つですが、リンパ節という関所のような役割をしている場所があるため、がんがせき止められて、いきなり遠くに転移しないようになっています。リンパ節への転移は、がんができた場所に近いリンパ節から順に広がっていきます。 センチネルリンパ節は最初にがんが転移をする可能性が高いリンパ節のことを指します。センチネルリンパ節を調べて転移がなければ、他のリンパ節に転移をしている可能性も低いと考えられます。反対に転移がある場合には、その先のリンパ節にも転移が広がっていると考えて、この後に説明する「リンパ節郭清」が行われます。

■リンパ節郭清

センチネルリンパ節生検でがん細胞がみつかった人や、がんが進行した人にはリンパ節郭清が行われます。リンパ節郭清では転移が疑われるリンパ節をできるだけ多く取り除くために広い範囲のリンパ節が切除されます。

手術の合併症について

治療にともなって身体に起こる不利益を合併症と言います。皮膚がんの手術で起こる主な合併症は出血と感染症です。

■出血

皮膚を切り取る際には細い血管をいくつか切断をします。手術中に止血が十分行われますが、手術後に再出血することがあります。再出血が起こると、血の滲みや腫れ、痛みなどが現れます。出血を疑わせる症状が現れた場合は、手術を受けた医療機関にすぐに連絡してください。

一方で、再出血をしていなくても、手術後には多少の血が滲みや腫れ、痛みがともないます。傷を覆うガーゼの交換を何回も交換しなければならないほどの滲みであれば再出血が疑われますが、色がかすかに付く程度であれば自宅で様子を見ることができます。退院前に、どの程度の傷の異常で受診したほうがよいかをお医者さんに確認しておくと心配が少ないです。

■感染症

皮膚には細菌などの感染から身体を守る働きがあります。術後は皮膚に傷がついているので、病原体が侵入しやすく、感染が起こりやすくなっています。傷口に感染が起こると赤みや腫れ、痛みなどの症状が現れ、を出すために傷の一部を開いたり、抗菌薬を使うなどの治療が必要になります。出血のときと同様に、どの程度で医療機関を受診したらよいかをお医者さんに確認しておくと安心です。

2. 抗がん剤治療

皮膚がんが転移している人には抗がん剤治療が検討されます。抗がん剤にはいくつかの種類があり、皮膚がんの種類によって、効果があるものが異なります。 基底細胞がんでは抗がん剤治療が行われることは多くはないので、有棘細胞がん悪性黒色腫の抗がん剤治療について説明します。

有棘細胞がんの抗がん剤治療

有棘細胞がんの治療には主に次の抗がん剤が使われます。

シスプラチンとドキソルビシンを組み合わせて治療が行われることが多いです。効果が小さい場合や、身体の状態が薬に合わない場合は、イリノテカンやペプロマイシンが検討されます。

悪性黒色腫(メラノーマ)の抗がん剤治療

悪性黒色腫の治療には主に次の抗がん剤が使われます。

転移がある場合に加えて、再発率を下げるために、手術後にも抗がん剤治療が行われることがあります。

3. 放射線治療

放射線治療の目的はがんが大きくなるのを防いだりがんを小さくすることです。皮膚がんには手術が行われることが多いのですが、「身体が手術に耐えられない人」や、「がんが転移をしている人」には放射線治療が検討されます。

放射線治療の方法

放射線を当てるといっても、治療中に痛みや熱さを感じることはほとんどありません。1回の治療時間は10分から30分程度で、これを数日から数十日間繰り返します。がんの大きさや、場所などによって治療回数が変わります。

放射線治療の効果

放射線には細胞にダメージを与える効果があり、放射線治療はこの効果を利用しています。放射線が当たったがん細胞は、細胞増殖が起こりにくくなり、がんが小さくなったりなくなったりします。一方で、がんだけではなく、正常な部分にも放射線治療の影響が及んで副作用として現れます。

放射線治療の副作用

放射線はがんの部分に焦点を絞って照射されますが、正常な皮膚への影響を完全には避けるのは難しく、副作用が現れます。現れる時期によって、副作用は「早期障害」と「晩期障害」の2つに分けられます。

■早期障害

早期障害は治療中から治療を終えてから数ヶ月以内に現れます。

【主な早期障害】

  • 皮膚の赤みや痛み
  • 喉の違和感や飲み込みにくさ

皮膚に起こる早期障害はひどい日焼けに似ています。強い痛みを感じる人もいますが、時間とともに改善することがほとんどです。痛みが強い間は、柔らかい衣服を着用するようにしたり、洗う際に皮膚を強くこすらないようにするといった工夫で和らげることができます。

一方、首に放射線を照射した影響で現れる喉の違和感や飲みこみにくさには注意が必要です。程度が重い場合は治療を一時休まなければならないので、これらの症状を自覚した場合はすみやかに担当医に相談してください。

他の早期障害には「全身のだるさ」や「食欲不振」といったものがあります。日常生活に影響が出やすく、治療の継続に悪影響が及ぶこともありますが、ひと工夫で乗り切れることがあります。例えば、食欲不振には1回あたりの食事量を減らすことが有効です。食事の回数を増やして1回あたりの食事量を分割して減らしたり、カロリーが多く含まれた補助食品を利用すると良いです。また、喉ごしの良いアッサリとしたものを中心にするのも一つの方法です。お医者さんや看護師さんからヒントが得られるかもしれないので、遠慮せず相談してみてください。

■晩期障害

晩期障害は治療を終えてから数ヶ月後から現れます。

【主な晩期障害】

  • 皮膚が縮んで固くなる
  • 手足が浮腫む(むくむ)
  • 皮膚がえぐれる(潰瘍ができる)

晩期障害による皮膚の変化はいずれも皮膚のバリア機能を低下させ、感染(蜂窩織炎など)の危険性が高まります。皮膚を清潔に保つことが感染予防になるので、シャワーなどはできるだけかかさないようにしてください。また、皮膚の赤みや痛みといった感染が疑われる症状が出た場合は、大事に至る前すみやかにお医者さんに相談してください(予防法については「こちらのページ」で説明しています)。

4. 緩和治療

緩和治療は生命を脅かす病気によって生じる肉体的・心理的な苦痛を和らげる治療です。一昔前のがん治療においては「末期の人に行われる治療」とほとんど同義として理解されていました。しかし、今では認識が変わって、緩和治療は手術や抗がん剤治療、放射線治療と並行して行われるものとして理解されており、さまざまな場面に登場します。例えば、「手術による傷の痛みを和らげること」や「抗がん剤の吐き気を少なくすること」は緩和治療に含まれます。また、精神面の負担を軽減させるのも緩和治療の役目です。緩和治療を上手に組み合わせることで、治療による苦痛が軽減され、がんと向き合えることにつながります。より具体的な緩和治療の内容は「こちらのページ」で詳しく説明しているので参考にしてください。

参考文献

日本皮膚科学会ガイドライン作成委員会, 皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン第2版, 日皮会誌:125(1),5-75,2015
・「あたらしい皮膚科学 第2版」(清水 宏 / 著)、中山書店、2011年
・「がん診療レジデントマニュアル 第7版」(国立がん研究センター内科レジデント / 編)、医学書院、2016年