けつゆうびょう
血友病
血を止めるのに必要な凝固因子という体内物質が不足して、出血が止まりにくくなる病気
6人の医師がチェック 89回の改訂 最終更新: 2024.08.11

血友病とはどんな病気?:症状、原因、検査、治療、注意点などについて

血友病は、出血を止める凝固因子と呼ばれる物質が欠乏する病気です。けがをしたときに出血が止まりにくかったり、けがをしていないのに口の中、皮膚、関節、筋肉、頭などさまざまな場所に出血による症状が起こります。一方で、適切な治療を受けることによって、健康な人と変わらない生活を送ることができます。このページでは血友病の原因、症状、検査、治療などについて説明します。

1. 血友病とはどんな病気?

血友病という病気は風邪のように誰でもかかる病気ではないため、多くの人にとっては聞きなれない病気かもしれません。ここではまず最初に血友病とはどんな病気かを説明します。

血友病は出血が起きやすくなる病気

出血が起こると、血を止めるために血小板や凝固因子が働きます。血友病はこの凝固因子が欠乏していることが原因で、出血が起きやすくなる病気です。具体的には以下のような症状がみられます。

  • ぶつけていないのに皮膚にあざができる
  • 関節に痛みや腫れがある
  • 筋肉に痛みや腫れがある
  • 口腔内(口の中)に出血がある

このような症状が続く病気は血友病だけに限りません。出血が止まりにくくなる病気が隠れていることがあるので、原因をはっきりさせるために医療機関で相談するようにしてください。血友病の症状については「血友病の症状について」で詳しく説明しているので確認してください。

血友病は遺伝し、主に男性に発症する

凝固因子は12種類あり、1から13の番号(6番は欠番)で呼ばれています。血友病には血友病Aと血友病Bが知られ、凝固因子8(第8因子)が欠乏すると血友病A、凝固因子9(第9因子)が欠乏すると血友病Bと診断されます。

凝固因子の欠乏は、凝固因子の情報が書かれている遺伝子の問題によって起こります。そのため血友病は遺伝しますが、血友病の人の子ども全てが血友病を発症するわけではありません。少し難しいですが、遺伝の仕組みについて知ると、その理由について深く理解ができます。

遺伝に必要な人間の情報は「染色体」に保存されています。染色体は23対(46本)あり、そのうち22対は常染色体、残りの1対は性染色体といいます。性染色体は性別を決める役割を担っていて、XとYの2種類があります。男性はX染色体Y染色体を1本ずつ、女性はX染色体を2本持っています。両親からX染色体とY染色体のいずれか一つずつ受け継ぎ、XとXを引き継いだ人は女性となり、XとYを引き継いだ人は男性となります。

このようにX染色体は性別を決めるものではありますが、他にも役割があり凝固因子8と凝固因子9の情報も書き込まれています。血友病ではX染色体上の凝固因子の遺伝子に問題があるため、凝固因子の働きが悪くなります。

X染色体は、女性(XX)なら2本ありますが、男性(XY)には1本のみしかありません。女性では片方のX染色体で問題が起こっても、もう片方が正常であれば、通常は血友病になりません。一方、男性のX染色体に問題が起こると、血友病を発症します。つまり、血友病を発症するのは基本的に男性のみとなります。

2. 血友病の症状

血友病の主な症状は出血による症状ですが、血友病の人が全員症状を自覚するわけではありません。重症でない人は、普段の生活で自覚症状はなく、けがをしたときに出血が止まりにくいことに気づく程度です。一方で、重症になるとけがをしていなくても出血が起きてしまうため、色々と問題がみられるようになります。

血友病に関連する症状についてもう少し詳しく説明します。

血友病になっても症状がないことがある?

血友病は凝固因子の欠乏によって起こりますが、凝固因子の欠乏の程度によって軽症、中等症、重症の3つに分けられます。そのうち軽症や中等症の人は日常生活の中で下記で説明すような血友病に特徴的な出血症状を自覚することはまれです。ただし、普段出血による症状がなくても、けがや手術の時には出血が止まりにくいことがあるので注意が必要です。

最初に気づくことが多い出血症状

軽症や中等症の人は、日常生活で出血による自覚症状がないことが多いですが、重症の人はけがなどのきっかけがなくても出血による症状が起こる場合があります。

最初に出血による症状が起こる時期は、重症であるほど早いことが多いです。重症度が非常に高いと、生まれたばかりの赤ちゃん(新生児)に以下のような症状がみられることがあります。

  • 頭の周囲の血腫(血のかたまり)による頭のこぶ
  • 頭蓋内出血(頭の中の出血)による活気のなさ、嘔吐、けいれんなどの症状

また、生まれてすぐに症状がなくても、年齢を重ねるうちに以下のような症状がみられることがあります。

  • 皮膚のあざ
  • 関節内の出血による腫れ、痛み
  • 筋肉内の出血による腫れ、痛み
  • 口内の出血
  • 鼻血
  • 赤い便や黒い便(食べ物の通り道である消化管の出血による)
  • 血尿(腎臓、膀胱などの出血による)

このように重症の人はさまざまな出血による症状がみられます。もしこのような症状がみられるときは、原因をはっきりさせるために医療機関を受診してください。

診断されてしばらく経って起こる症状

血友病と診断されてからしばらくして、新たな症状がみられることがあります。病状が進行してみられる症状や治療の影響を受けてみられる症状がそれにあたります。具体的には以下のような症状に気をつける必要があります。

  • 関節の症状(関節の炎症や破壊による痛み)
  • インヒビターという物質が作られ、治療が効きにくくなること
  • 肝炎ウイルスHIVなどの感染症の症状

血友病によって関節の出血を繰り返すと、関節の痛みや変形がみられるようになります。このような関節の症状は凝固因子の補充による治療で予防することができます。

一方、治療を繰り返すことで起こる症状もあります。1つ目はインヒビター(治療の効果が低下する物質)が作られることです。インヒビターにより補充した凝固因子の効果が弱まり、治療しているにも関わらず出血による症状がみられます。インヒビターがある人には別の治療法があるため、凝固因子の補充の効果が弱くなってきたと感じた場合にはお医者さんに相談してください。

2つ目は治療に使われる血液製剤による感染症の症状です。肝炎ウイルスやHIVの感染症が問題になっていましたが、現代ではこれらの感染症が起こることは非常にまれです。

3. 血友病の原因

血友病は出血を止める作用のある凝固因子の問題によって起こります。遺伝するものに血友病Aと血友病Bがあり、欠乏している凝固因子の種類が異なります。また、遺伝が原因でないものを後天性血友病といい、凝固因子の働きが弱まることが原因となります。ここでは、血友病の原因について説明します。

出血はどうやって止まるの?

血友病の原因について理解するために、まず最初に出血が止まる仕組みについて説明します。

出血が止まるプロセスは2種類あり、「一次止血」と「二次止血」と呼ばれます。出血が起きた時には、一次、二次の順番に働き止血します。一次止血は主に血小板(血液の成分の一つ)による止血です。しかし、この仕組みだけで十分止血できない場合には、傷によって弱った部分を丈夫にするため二次止血が働きます。二次止血には凝固因子と呼ばれるたんぱく質などが関わっています。その結果、傷がかさぶたで覆われ止血が完了します。

血友病は凝固因子が問題となる

血友病A、血友病Bはいずれも二次止血に関わる「凝固因子」と呼ばれる物質が欠乏することで起こります。血友病Aでは凝固因子8が欠乏しており、血友病Bでは凝固因子9が欠乏しています。

一方で、遺伝が影響しない血友病もあります。これを後天性血友病といいます。さまざまな状況を背景に凝固因子の働きを弱める「抗体」が作られることが原因となります。背景となる状況は、関節リウマチなどの自己免疫疾患免疫機能の異常によって免疫が自分自身を攻撃してしまう病気)やがんなどさまざまです。

男性と女性の違い

血友病は性染色体のうちX染色体の問題が原因で起こります。X染色体は、女性(XX)なら2本ありますが、男性(XY)には1本のみしかありません。したがって、女性では片方のX染色体で問題が起こっても、もう片方が正常であれば、通常は血友病になりません。このような女性のことを「保因者」といいます。一方、1本しかない男性のX染色体に問題が起こると、血友病を発症します。

血友病の人や保因者の子どもへの影響については「血友病の人や保因者の子どもはどうなるのか」で詳しく説明しているので確認してください。

4. 血友病の人が受ける検査

血友病が疑われた人は主に次のような診察や検査が行われます。検査の目的は「出血症状があるかどうか」と「出血しやすい原因」を調べることです。

  • 問診
  • 身体診察
  • 血液検査

問診や身体診察では出血症状がないかを確認されたり、家族に関する情報を聞かれたりします。また、出血のしやすさの程度を客観的に確認するために血液検査も行われます。

それぞれの検査の詳しい説明は「血友病の検査について」を参考にしてください。

5. 血友病の治療

血友病の治療は凝固因子の補充が基本となります。凝固因子の補充による治療を受けることによって「出血を防ぐこと」ができ、健康な人と変わらない生活を送ることができます。ここでは出血したときの治療や手術時の対応、出血していない時の対応などをケースごとに個別に説明します。

出血時の対応

症状の軽い血友病A(軽症から中等症)の人の出血に対しては、デスモプレシンという薬がまず最初に使われます。血友病Bや重症の血友病に対してはデスモプレシンはあまり有効ではないため、凝固因子の補充が必要となります。

手術時の対応

出血が止まりにくいことがわかっている人が出血を伴う手術を受ける場合には、不安も大きいと思います。手術中の出血を増やさないために、手術前には凝固因子の補充を行います。大きな手術(関節手術、開腹手術、開胸手術、開頭手術など)の際は、手術中に凝固因子を持続的に点滴する方法がとられることもあります。

非出血時の対応

重症の血友病と分かっている人は、出血していないときも治療が行われることがあります。出血のリスクを抑えるために、重症であればあるほど出血予防目的の凝固因子の補充が必要です。また、2018年から血友病Aに対してエミシズマブ(ヘムライブラ®️)という薬が使用できるようになり、治療の新たな選択肢として期待されています。

治療の効果がだんだん低下してしまう人について:インヒビターがある場合の治療

血友病に対して凝固因子の補充治療を繰り返しを行いるうちに、効果が薄れていくことがあります。その理由の一つに凝固因子の働きを弱めてしまうもの(インヒビター)の存在があります。インヒビターができてしまうと凝固因子を補充しても効果が弱くなります。

インヒビターができた場合は、主に「バイパス療法」や「中和療法」が行われます。バイパス療法は凝固因子8、9以外の凝固因子を使って止血しやすくする治療法で、中和療法は大量の凝固因子8、凝固因子9製剤を投与する治療法です。基本的にはインヒビターのない人と同じように、出血している時や手術などの出血が予想される時、あるいは出血による症状が重い時に治療を受けることになります。

6. 血友病の人に知っておいてほしいこと

血友病は適切な治療を受けることによって、健康な人とほぼ変わらない生活を送ることができます。とはいえ、血友病は遺伝する病気なので、自分のことはもちろん、子どもに対する影響などを不安に思う人もいると思います。遺伝についての理解を深めることは不安の軽減につながります。血友病の人に知って欲しい遺伝や日常生活での注意点などを「こちらのページ」で詳しく説明しているので参考にしてください。