更年期障害とは何か:閉経のしくみ、原因、症状、治療について
更年期障害とは主に45歳から55歳の閉経前後の女性に起きる不調で、生活に支障をきたしている状態です。のぼせ・
1. 更年期と閉経との関係について:年齢・予測など
女性のライフイベントに閉経があります。更年期とは閉経の前後5年の合計10年間のことです(閉経については後で詳しく説明します)。日本人女性の閉経年齢の平均は約50歳ですから、おおむね45-55歳ごろが更年期にあたります。つまり更年期症状の訪れは閉経の前触れとも考えることができます。
閉経について
閉経とは年齢を重ねたことで自然に生理(月経)がなくなることです。40代から50代ごろの女性で、病気などの原因がなく月経が止まり、12か月以上再開しなかった場合に「閉経した」と判断されます。たとえば40代の女性で2か月生理が止まっているからといって「閉経した」と判断することはありません。
2. 更年期障害の原因
加齢にともなう
女性ホルモンと脳の関係・加齢に伴う変化
女性の性機能には、
卵巣は脳と相互作用しながら働いています。脳の
さらに、下垂体からのFSHとLHの分泌は、
FSHとLH、卵胞ホルモンと黄体ホルモンのバランスが周期的に変動することにより、月経が起こります。
卵巣機能は加齢にともなって低下していき、やがて完全に停止します。この状態を閉経といいます。閉経後の体内は通常、卵胞ホルモンが少なく、FSHが多い状態になります。つまり、更年期はホルモンのバランスが変化している時期であり、更年期にあらわれる、ほてり・のぼせ(ホットフラッシュ)、膣の乾燥などの症状は、ホルモン量の変化による影響と考えられます。
女性ホルモンの減少は骨密度にも影響する
また、卵胞ホルモンは骨の維持にも関わっています。骨は常に破壊(吸収)されるとともに新しく作られることで、少しずつ新しい組織に置き換わっています。卵胞ホルモンは骨の吸収を減らす作用があるため、閉経後には卵胞ホルモンが減少することで骨の吸収が進み、骨密度が下がります。
3. 更年期障害の症状
更年期にはさまざまな症状があらわれます。ホットフラッシュ(ほてりやのぼせ)、発汗、動悸、頭痛、めまい、肩こり、イライラなどです。こうした症状によって日常生活に支障をきたしている状態を更年期障害と言います。
【更年期障害でみられる症状について】
- 顔や上半身がほてる(熱くなる)
- 汗をかきやすい
- 夜なかなか眠れない
- 夜眠っても目をさましやすい
- 興奮しやすく、イライラすることが多い
- いつも不安感がある
- ささいなことが気になる
- くよくよし、ゆううつなことが多い
- 無気力で、疲れやすい
- 眼が疲れる
- ものごとが覚えにくかったり、物忘れが多い
- めまいがある
- 胸がどきどきする
- 胸がしめつけられる
- 頭が重かったり、頭痛がよくする
- 肩や首がこる
- 背中や腰が痛む
- 手足の節々(関節)の痛みがある
- 腰や手足が冷える
- 手足(指)がしびれる
- 最近音に敏感である
参考文献:日本産科婦人科学会/生殖・内分泌委員会, 日産婦誌, 53(5), 883-888, 2001「日本人女性の更年期症状評価表」より
上記は日本人女性の更年期症状評価表と呼ばれるものです。上の21項目についてそれぞれ「強」「弱」「無」の3段階で評価し、症状の種類や程度を把握するのに使われます。
ただし、症状はこれだけではありません。息切れ、手足の感覚の鈍さ、吐き気、皮膚をアリが這うような感じ(蟻走感)といった症状も知られています。
詳しくはこちらの「更年期障害の症状」のページで説明しています。
4. 更年期障害の検査
更年期障害の原因は女性ホルモンの減少だと考えられています。そのため、血液検査で女性ホルモンの一つであるエストロゲンの値を調べます。エストロゲンが減少することで骨粗鬆症にかかりやすくなることもわかっているので、合わせて骨密度を調べることがあります。また、更年期障害だと思っていたら、うつ病や甲状腺機能亢進症が隠れていることもあります。これらの病気を見分けていくために診察や検査が行われます。
【更年期障害の主な検査】
- 血液検査:エストロゲン、FSH、
甲状腺ホルモン 、甲状腺 刺激ホルモンなどのホルモンの量を測定します - 骨密度測定:閉経後は骨密度が低下しやすくなるため、
X線検査 や超音波検査 などで骨密度を測定します
検査について詳しくはこちらのページ「更年期障害の検査」で説明しています。
5. 更年期障害の治療
更年期障害の主な治療にホルモン補充療法があります。これは、エストロゲンを補充することによってホルモンバランスを改善する治療法です。症状の緩和に有効であり、更年期障害の有用な治療法の一つになります。
また、更年期には、萎縮性膣炎による性器の乾燥感やかゆみ、
治療について詳しくは、こちらの「更年期障害の治療」で説明しています。
6. 更年期障害で知っておくと役立つ知識
更年期障害は名前がよく知られた病気である一方で、誰もが経験するものだからと我慢しがちです。しかし、治療によって症状改善が図れますし、症状の原因が別の病気だったということもあります。
更年期障害の受診の目安
更年期障害に対する治療の主な目的は、つらい症状を軽くすることです。ホルモン補充療法などによって改善が期待できます。また、更年期障害の症状だと思っていたら、実は甲状腺の病気だったということもあります。そのため、ホットフラッシュ・発汗・イライラなどの更年期の症状で生活に支障が出ていると感じた時が、受診のひとつの目安になります。
更年期障害に関係する生活上の注意
肥満に相当する人では更年期障害の症状が重く出ることがあります。症状緩和のためには、食事の見直しや運動で減量すると効果的です。
また、バランスの良い食事は更年期に限らず大切ですが、更年期以降にかかりやすくなる骨粗鬆症を防ぐためにも、カルシウム、
若年性更年期障害とは
メディアで「若年性更年期障害」という言葉を見かけることがあります。しかし、これは医学の観点からは説明しにくい言葉です。
今までの説明でも述べてきたことですが、日本人女性では平均して約50歳で閉経します。そして、閉経の前後5年ずつの計10年間を更年期と呼びます。更年期には、ほてり、のぼせ、汗、めまい、うつ、イライラなどの症状がでやすく、これらの症状が強くて日常生活に支障をきたしている状態を更年期障害と言います。
しかし、更年期の症状があらわれる年齢には個人差があります。なかには平均的な年齢をかなり下回る人もいますが、それを「若年性更年期障害」と呼んで区別することは一般的ではありません。
また、特に異常がなくても閉経が早めの人もいるため、30代から更年期のような症状が始まったとしても、それだけで異常とは言えません。
更年期障害に似た症状があらわれる病気について
年齢がまだ若いにも関わらず、更年期のような症状が出る病気はあるのでしょうか。
■早期卵巣不全(早発閉経)
たとえば、早発卵巣不全(早発閉経)と呼ばれる状態は、30代でも更年期のような症状があらわれます。40歳未満で4か月から6か月の無月経の期間があり、検査値などの基準を満たすと早発卵巣不全と診断されます。早発卵巣不全は何らかの異常があって生じると考えられます。たとえば、別の病気の治療で行った卵巣の手術、
閉経していれば元に戻すことはできませんが、無月経の期間があってもまだ閉経に至っていない段階なら、月経が再開することがあり、出産に至る人もいます。目的に応じて、カウフマン療法やホルモン補充療法といった治療が行われます。
参考文献:Coulam CB, Adamson SC, Annegers JF. Incidence of premature ovarian failure. Obstet Gynecol. 1986 Apr;67(4):604-6.
また、一般的に更年期障害と似て見えることが多く注意するべき病気に、甲状腺の病気やうつ病があります。
甲状腺の病気は若い女性にはとてもよく起こります。慢性甲状腺炎(橋本病)による甲状腺機能低下症、バセドウ病による甲状腺中毒症(甲状腺機能亢進症)などは、更年期障害に似た症状があらわれる病気です。医療機関では、首の前側にある甲状腺の診察や血液検査などによって、甲状腺の病気を見分けます。
■こころの病気
うつ病は、気分の落ち込みや楽しめないなどの気分の変化が特徴的な病気です。加えて、月経異常やだるさなど、更年期障害に似た症状がでることもあります。更年期障害のうつ症状と更年期前後にあらわれるうつ病は区別しにくいことも多く、精神科や心療内科で専門的な検査が行われる場合もあります。
男性更年期障害とは
更年期障害は閉経の前後に起こる女性ホルモンの減少を原因とした身体の変調と定義されており、女性に特有のものです。一方、女性の更年期にあたる40代から50代の男性にも、
参考文献:日本泌尿器科学会, 日本Men’s Health医学会/編, 加齢男性性腺機能低下症候群(LOH 症候群)診療の手引き, 2007