2017.09.21 | ニュース

更年期のホルモン療法、寿命に影響は?

2万7千人の比較から

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更年期障害に対して女性ホルモンを補充する治療法があります。効果的な治療ですが、乳がんを増やすなどの可能性も指摘されています。長期追跡データをもとに死亡率への影響がないかが検討されました。

女性ホルモンが乳がんを増やす?

更年期障害では、閉経にともなって女性ホルモンのバランスが崩れることにより、ほてりやだるさ、気分の変化などの症状が現れます。ホルモン補充療法はこうした症状の改善に有効です

しかし同時に、長期間のホルモン補充療法は乳がんができる確率をわずかに増加させます。現在では、ホルモン補充療法は乳がんのリスクを考えに入れ、更年期症状を改善する利益が上回るという判断のもとで使用されます。現在治療中の乳がん患者などでは禁忌(使ってはいけない)とされます。

 

ホルモン補充療法のその後はどうなった?

アメリカの研究班が、ホルモン補充療法の効果を調べた臨床試験の長期追跡データから、ホルモン補充療法によって死亡率に影響がないかを検討し、結果を医学誌『JAMA』に報告しました。

この研究は、1993年から1998年にかけて行われた2件の臨床試験の参加者をさらに追跡したデータを解析したものです。

1件の試験では、16,608人の対象者が2グループに分けられました。

  • 結合型ウマエストロゲン(CEE)とメドロキシプロゲステロン酢酸エステル(MPA)を使用するグループ(8,506人)
  • 有効成分のない偽薬を使用するグループ(8,102人)

CEE+MPAは、研究開始当時によく使われていたホルモン補充療法です。

CEE+MPAの研究は、ホルモン療法により乳がんが増えたことから中止されました。ホルモン療法の期間は対象者の半数で5.6年以上でした。

もう1件の試験では、10,739人が2グループに分けられました。

  • CEEを使用するグループ(5,310人)
  • 偽薬を使用するグループ(5,429人)

CEEの研究は、ホルモン療法により脳卒中が増えたことから中止されました。ホルモン療法の期間は対象者の半数で7.2年以上でした。

2件の試験の中止後も参加者は追跡され、2014年までおよそ18年分のデータが記録されていました。

 

全体、心血管疾患、がんの死亡に差はない

データの解析から次の結果が得られました。

プールしたコホート全体で、全死因死亡率はホルモン療法群で27.1%、偽薬群で27.6%だった(ハザード比0.99、95%信頼区間0.94-1.03)。CEE+MPA群でハザード比1.02(0.96-1.08)、CEE単独群で0.94(0.88-1.01)だった。

CEEのグループも、CEE+MPAのグループも、2群を合わせて計算しても、ホルモン療法を使ったグループの死亡率は偽薬のグループと差がありませんでした

心血管疾患による死亡率を比較しても、がんによる死亡率を比較しても、ホルモン療法のグループと偽薬のグループで差がありませんでした。

 

ホルモン補充療法は安全?

ホルモン補充療法による長期データの解析を紹介しました。

ホルモン補充療法は乳がんに影響しますが、短期間では影響が小さいとも言われます。また乳がんは深刻な病気ではありますが、現代では早期発見と治療により5年を超える生存もかなり期待しやすくなっています。

ホルモン補充療法の終了後長年が経過すれば、たとえ病気を増やす作用がわずかに働いたとしても、自然に加齢によってほかの死因が訪れ、統計的には見分けられない程度になるのかもしれません。

ホルモン補充療法による影響は決して無視できるものではありません。「万一にも命に関わる可能性があることはしたくない」という考えの人もいるでしょう。とはいえ、確率的に言えば、やはり現に現れている更年期症状を改善する利益とのバランスを考えてよい範囲と言えるのかもしれません。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Menopausal Hormone Therapy and Long-term All-Cause and Cause-Specific Mortality: The Women's Health Initiative Randomized Trials.

JAMA. 2017 Sep 12.

[PMID: 28898378]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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