なるこれぷしー
ナルコレプシー
日中に耐えることが出来ないほどの強い眠気をもよおす病気
10人の医師がチェック 82回の改訂 最終更新: 2023.09.25

ナルコレプシーの症状について

ナルコレプシーの代表的な症状は日中の強い眠気ですが、他にも情動脱力発作や睡眠麻痺(金縛り)、入眠時幻覚などよくみられるものがあります。
また、ナルコレプシーと似た症状が現れる病気は他にもあるので、症状がナルコレプシーによるものか他の病気によるものかをはっきりさせる必要があります。

1. ナルコレプシーの症状

ナルコレプシーの症状は主に次のものが知られています。

  • 日中の強い眠気
  • 情動脱力発作
  • 睡眠麻痺(金縛り)
  • 睡眠発作
  • 入眠時幻覚

耳に馴染みのない言葉もあるので、それぞれについて説明してます。

日中の強い眠気

日中の強い眠気はナルコレプシーの代表的な症状の1つです。 夜間に十分睡眠をとっていても、日中強い眠気によって眠り込んでしまいます。特に、電車の中や講義中、会議中などのあまり刺激がない状況で居眠りをしてしまうことが知られています。多くの場合、居眠りを始めてから10分から20分後には爽快に目が覚めて、眠気はなくなります。しかし、数時間周期でまた強い眠気を感じて、居眠りを繰り返してしまいます。

面談や商談中などの大事な場面であっても眠ってしまうことから、学校や職場で「怠けている」「たるんでいる」「不真面目」といった印象を持たれることもあります。順調な社会生活を送るためには、治療を早く始めることや周りの人の理解を得ることが重要です。

情動脱力発作:突然力が抜けること

怒りや驚き、喜びなどの強い感情にともなって全身または身体の一部の力が突然抜けることを情動脱力発作といいます。カタプレキシー(cataplexy)と呼ばれることもあります。情動脱力発作はナルコレプシーの代表的な症状の1つで、ナルコレプシーの診断を行う際に重要です(診断の詳細は「ナルコレプシーの検査」を参考)。

情動脱力発作の現れ方はさまざまです。発作が軽い場合は「ほほや顎が緩む」「目を開けていられなくなる」といった形で現れます。一方で、発作が重い場合は「首の力が急に抜けて前のめりになる」「膝がガクガクしてとまらない」「倒れ込む」といった症状が現れます。

情動脱力発作は激しい喜怒哀楽とともに起こるので、ナルコレプシーの人は意識的に会話を避けたり、感情を抑え込もうとすることがあります。こうした行動が過ぎると、他の人とのコミュニケーションが上手くいかない原因になってしまいます。情動脱力発作は薬により改善が見込めるので、薬を上手に使うことで、発作を気にするあまり喜怒哀楽を抑え込む必要がなくなります。

睡眠麻痺(金縛り)

睡眠麻痺はいわゆる金縛りのことで、寝入りばなや起きがけに起こります。意識ははっきりしているのに身体が動かず声も出せないので恐怖を覚えます。睡眠麻痺はナルコレプシーの人に多くみられる症状ではありますが、健康な人にも起こりえるものです。

睡眠麻痺を経験したからといってナルコレプシーを過度に心配する必要はありません。とはいえ、他にも症状がともなう場合やたびたび睡眠麻痺が起こる場合は、ナルコレプシーの可能性を無視できないので、医療機関で詳しく調べてもらってください。

睡眠発作

通常なら居眠りしないような状況(面談、試験、歩行中など)で前触れがなく突然眠り込んでしまうことを睡眠発作といいます。あまりに突然起こると、眠っているのではなく、気を失ったようにみえることがあります。この様子が、特にてんかんの症状と似てみえます。

入眠時幻覚

寝入りばなに実体験のような生々しい夢をみることを入眠時幻覚といいます。入眠時幻覚の多くは恐怖心を感じさせるものです。例えば、「部屋に誰かが入ってきて襲われる」「大きな虫が身体にのしかかって這いずり回る」といったものです。入眠時幻覚は睡眠麻痺をともなうことが多く、身体を動かしたり声を出したり出来ないので、恐怖心はさらに増します。

入眠時幻覚はナルコレプシーの人に多く見られますが、健康な人も経験するものです。入眠時幻覚を経験したからといってナルコレプシーかもしれないと考えるのは早計です。ナルコレプシーに当てはまる症状が他にもある場合や頻回に入眠時幻覚を自覚する場合は詳しく調べてもらってください。

2. ナルコレプシーに似た症状が現れる病気

ナルコレプシーに似た症状が現れる病気はいくつか知られています。例えば、突然眠り込んでしまう睡眠発作はてんかんパーキンソン病の症状とよく似ています。

似た症状が現れる主な病気は次のものです。

【ナルコレプシーに似た症状が現れる主な病気】

それぞれの病気について、ナルコレプシーと共通した症状を中心に説明します。

行動誘発性睡眠不足症候群

行動誘発性睡眠部毒症候群は、睡眠不足のために、日中に強い眠気を感じることです。いわゆる寝不足です。日中の強い眠気はナルコレプシーと共通していますが、前日の睡眠が十分である場合は強い眠気を感じない点が異なります。

十分な睡眠をとった翌日には日中の眠気を感じないのであれば、ナルコレプシーより行動誘発性睡眠不足症候群の可能性が高いと考えられます。

特発性過眠症

特発性過眠症はナルコレプシーと同じように日中の強い眠気を感じる病気です。しかし、その眠気はナルコレプシーよりは軽く、我慢できることも多い点が異なります。

【特発性過眠症とナルコレプシーの違い】

  特発性過眠症 ナルコレプシー
日中の居眠りの時間 1時間以上が多い 30分以内が多い
居眠りからの目覚め 困難 容易
夜間の睡眠時間 10時間以上 正常範囲内
睡眠中の覚醒 少ない 多い

特発性過眠症の詳しいメカニズムはまだわかっていません。診断の決め手になる検査も確立されていないので、ナルコレプシーなど眠気の原因になる他の病気の可能性がないことが判断材料の一つになります。また、有効な治療もみつかってはいないので、夜間の十分な睡眠時間の確保や計画的な昼寝などによって日中の眠気を抑えます。

薬剤過眠症

薬の副作用で日中の眠気が起こることがあります。睡眠導入薬や抗うつ薬、抗てんかん薬、抗ヒスタミン薬などさまざまなものが日中の強い眠気を起こすものとして知られています。

薬剤過眠症は薬を中止することで睡眠状態の改善が望めます。医療機関で日中の眠気の相談した際には自分が服用している薬をもれなく伝えるようにしてください。飲んでいる薬を上手に伝えるには、薬の詳しい情報が書いてある「お薬手帳」を活用すると良いです。ただし、市販薬は「お薬手帳」には載っていないので、忘れずに伝えるようにしてください。

概日リズム障害

概日リズム障害は睡眠と覚醒のリズムが昼夜の周期と合っていないために、睡眠に影響を及ぼすことです。具体的には夜に眠れなかったり、日中に居眠りをしてしまったりします。日中の強い眠気がナルコレプシーと共通しています。概日リズム障害を治すには、就寝時間と起床時間をできるだけ決まった時間にすることや、起床時に日光を浴びることなどが有効だと考えられています。

甲状腺機能低下症

甲状腺機能低下症甲状腺ホルモンの分泌が減る病気で、身体にはさまざまな症状が現れます。主な症状は「疲れやすさ」や「首の腫れ」、「むくみ」、「皮膚の乾燥」です。日中の眠気も症状として現れることがあります。身体診察や血液検査(甲状腺ホルモンなどの測定)、甲状腺超音波検査などを用いて診断が行なわれます。より詳しい情報は「甲状腺機能低下症の基礎知識ページ」を参考にしてください。

パーキンソン病

パーキンソン病は脳からの命令を伝えるドパミンという物質の不足によって、身体が自由に動かなくなる病気です。身体が突然動かなくなることがあり、この症状がナルコレプシーの睡眠発作と似通っています。じっとしているときの手足の震えや、緩慢な動作などパーキンソン病に特有の症状の有無や身体診察を中心にして診断されます。パーキンソン病のより詳しい情報は「パーキンソン病の詳細情報ページ」を参考にしてください。

てんかん

てんかんは脳に異常な電気的な興奮が起こる病気です。意識を失って身体全体がけいれんしたり、手足がピクピクと動くといったものまでさまざまな症状が現れます。てんかんが起こると突然倒れることがあり、その様子がナルコレプシーの睡眠発作などに似て見えることがあります。どちらの病気かは身体診察や検査によってはっきりさせることができます。それぞれの病気の検査については「てんかんの検査」と「ナルコレプシーの検査」で説明しているので参考にしてください。

睡眠時無呼吸症候群

睡眠中に呼吸が止まってしまう病気です。睡眠中の無呼吸は身体の中への酸素の取り込み不足や日中の眠気につながると考えられています。空気の通り道が狭いことや呼吸をコントロールする脳の機能が鈍くなることが、睡眠時無呼吸症候群の原因です。顎が小さい、肥満扁桃が大きいなどの特徴を持つ人に起こりやすいとされています。

無呼吸低呼吸指数(睡眠中に無呼吸が起こる回数の測定)や睡眠ポリグラフ検査(詳しくは「ナルコレプシーの検査」)によって診断が行なわれ、ナルコレプシーと区別されます。

より詳しい情報は「睡眠時無呼吸症候群の基礎知識ページ」を参考にしてください。

【参考】

・「睡眠障害診療ガイド」(日本睡眠学会/著)、文光堂、2011
・「神経内科ハンドブック」(水野美邦/編集)、医学書院、2016