2016.03.05 | コラム

ナルコレプシーの症状と診断方法:過眠、情動脱力発作など

過眠等の症状と診断方法について

ナルコレプシーの症状と診断方法:過眠、情動脱力発作などの写真

ナルコレプシーは過眠症状などを主とする病気ですが、その他にも症状が診断に結びつくことがあります。ナルコレプシーの症状と診断に必要な検査について説明します。

◆ナルコレプシーの症状

ナルコレプシーは、過眠症状を代表とする病気のひとつです。その他にも、突然がくんと力が抜けるような発作(情動脱力発作と呼びます)など、特異的な症状があります。これらの症状が起きる理由は、脳の視床下部と呼ばれる部分に必要なオレキシンという物質が欠乏状態にあるためだと言われています。

ナルコレプシーの特異的な症状をさらに細かく見ていくと、以下の症状が挙げられます。

 

◎過眠症状

  • 日中の過度な眠気と、その眠気が我慢できない結果、居眠りするような状態が主な症状です。居眠りは、断続的なものです。反復して現れますが、1回の居眠りは15分程度で、居眠りのあとは眠気がすっきりしている場合もあります。数時間すると、再度眠気に襲われ、居眠りを繰り返すことになります。
  • 例えば、仕事中に集中して行わなければいけない課題を前にして、突然の眠気に襲われ、そのまま我慢できずに寝てしまうといったことがあります。
  • 「眠気」に注目されやすいですが、人によっては「眠気」が「集中力の低下」といった別の感覚として現れることもあります。

 

◎情動脱力発作

  • ナルコレプシーでは、情動脱力発作がある場合とない場合があります。
  • 情動脱力発作とは、強い情動的な刺激によって起こる「突然がくんと力が抜けるような発作」です。強い情動的な刺激とは、例えば、怒る、大笑いする、びっくりするといった感情刺激のことを指します。
  • 発作は、場合によっては立っていられなくなり、ストンとその場に倒れこんでしまうこともあります。顔の筋肉の力が入らなくなることもありますが、意識障害までは至りません。
  • なかには、情動脱力発作からそのまま寝てしまうこともあります。

 

◎入眠時の幻覚

  • ​​REM睡眠関連症状(速い眼球運動を伴う睡眠状態、Rapid Eye Movementの略です)と呼ばれる症状のひとつです。
  • その多くは、入眠時に夢を見るといったものですが、場合によっては、幻視、錯視(目の前にいないはずの人や動物が見える)、浮遊感(浮いているような感覚)、幻聴などを体験する人もいます。

 

◎睡眠麻痺

  • REM睡眠関連症状のひとつです。
  • 寝るとき、または起きるときに金縛りのように体が動かせなくなることを言います。

 

これらの症状だけでナルコレプシーが確定されるわけではありませんが、参考になる情報のひとつです。それでは、ナルコレプシーはどのような基準により確定診断となるのでしょうか?

 

◆ナルコレプシーの症状からどうやって診断されるの?

ナルコレプシーは、問診による症状のチェックだけではなく、検査も併せて診断に至ります。検査は主に2つの方法が行われます。

 

◎睡眠ポリグラフ検査(PSG)

  • 睡眠障害の診断に使われる検査法のひとつです。
  • 睡眠の状態、心電図、睡眠時の姿勢や体の動きなどを一晩中測定します。基本的には1泊の入院で検査を行います。

 

◎反復睡眠潜時検査(MSLT)

  • 脳波を測定しながら、日中に数回の昼寝を行い、睡眠潜時(寝ようとしてから実際に寝るまでの時間)を調べる検査法です。
  • 入眠までにかかる平均の時間と一定の時間で現れるREM睡眠の回数を測定します。

 

◎オレキシンレベルの測定

  • 脳脊髄液(CSF)に含まれるヒポクレチン-1(オレキシン)という物質の濃度を測定します。

 

前述した症状と上記の検査によって、ナルコレプシーの診断を行うことになります。ナルコレプシーの診断基準は、2つの種類に分けられ、情動脱力発作を伴う場合のナルコレプシーと伴わない場合のナルコレプシーによって異なります。情動脱力発作を伴う場合のナルコレプシーの診断基準は以下の通りです(日本睡眠学会、ナルコレプシーの診断・治療ガイドラインを引用)。

A)患者が、最低でも3ヵ月の間、ほとんど毎日、過度の日中の眠気が生じると訴える。

B)感情によって引き起こされる、急激で一過性の筋緊張消失エピソードで定義される、情動脱力発作の明確な既往歴がある。 注:情動脱力発作と名づけるためには、これらのエピソードが、強い感情(最も信 頼できるのは大笑いや冗談)によって引き起こされて、一般に両側性で短く(2分 未満)なければならない。少なくともエピソードの始めには、意識は清明である。 一過性で回復可能な深部腱反射の喪失を伴う情動脱力発作の観察は、稀ではあるが 大変強力な診断所見である。

C)情動脱力発作を伴うナルコレプシーの診断は、可能な場合はいつでも、PSG後にMSLTを実施して確認するべきである。検査前の晩に十分な夜間睡眠(最低6時間)をとった後 には、MSLT上の平均睡眠潜時は8分以下で、複数のSOREMPが観察される。あるいは、CSF のヒポクレチン-1(オレキシン)レベルが110pg/mL以下、つまり正常コントロール 群平均値の3分の1である。

注:MSLT中の複数のSOREMPは極めて特有の所見であるが、正常人口の30%で、8 分以下の平均睡眠潜時が認められる。情動脱力発作を伴うナルコレプシー患者の9 0%以上でCSFヒポクレチン-1(オレキシン)レベルが低く(110pg/mL以下、つ まり正常コントロール群平均の3分の1)、これは正常群や他の病変が認められる 患者ではあり得ない。

D)この過眠は、他の睡眠障害、身体疾患や神経疾患、精神障害、服薬、または物質使用障害で説明できない。

簡単に説明すると、以下のようになります。

  • 3か月以上ほとんど毎日、日中の過度な眠気がある。
  • 情動脱力発作がある(※情動脱力発作は前述を参照)。
  • 睡眠ポリグラフ検査と反復睡眠潜時検査を行い、寝ようとしてから寝るまでの時間が平均8分以下で複数回の入眠時REM睡眠が見られる。または、オレキシンレベルが低い。
  • 他の病気や薬などが原因ではない。

さらに、情動脱力発作を伴わないナルコレプシーでは、

  • 3か月以上ほとんど毎日、日中の過度な眠気がある。
  • 典型的な情動脱力発作はないが、疑わしいものはある場合がある。
  • 睡眠ポリグラフ検査と反復睡眠潜時検査を行い、寝ようとしてから寝るまでの時間が平均8分以下で2回以上の入眠時REM睡眠が見られる。
  • 他の病気や薬などが原因ではない。

という診断基準があります。

これらの症状や検査についてチェックしていくと、ナルコレプシーの診断に至ります。

 

ナルコレプシーの症状と検査を合わせてどのように診断されるかについて解説してきました。ナルコレプシーは極端な睡眠不足でもないのに日中に異様な眠気に襲われたり、急に脱力したりといった症状から気付かれます。説明のつかない症状で困っていれば、医療機関で原因を調べることが、治療が必要な病気を見つけることにもつながります。

執筆者

Shuhei Fujimoto

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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