なるこれぷしー
ナルコレプシー
日中に耐えることが出来ないほどの強い眠気をもよおす病気
10人の医師がチェック 82回の改訂 最終更新: 2023.09.25

ナルコレプシーの検査について:診断はどのようにして行うのか

日中の眠気が強いなど睡眠に問題を抱えている人には問診や身体診察、睡眠時ポリグラフ検査、睡眠潜時反復検査などが行われます。診察や検査によって睡眠の問題がナルコレプシーか他の病気によるものかがわかります。

1. 問診

問診は対話形式の診察方法です。患者さんの困ってる症状や背景が問診によって確認されます。以下はナルコレプシーの疑いがある人に聞かれる質問の例です。

  • 日中の眠気について
    • いつから感じ始めたか
    • 眠気の強さはどのくらいか
    • どのような状況で寝てしまうか
    • 休日と平日で眠気に差があるか
    • 居眠り後の目覚めはどうか
  • 夜間の睡眠について
    • 睡眠は何時間か
    • 寝付きは良いか
    • 睡眠中に起きることはあるか
    • いびきや無呼吸はあるか
  • 治療中の病気について
    • 通院中の病気はあるか
  • 使用中の薬について
    • 使用中の薬の種類
    • 薬を使用し始めた時期(いつから薬を飲んでいるのか)

このなかから大切な「どのような状況で寝てしまうのか」と、「使用中の薬について」の2つの質問について詳しく説明します。なお、ナルコレプシーの症状については「ナルコレプシーの症状」で説明しているので参考にしてください。

どのような状況で寝てしまうのか

日中に眠ってしまう状況を詳しく聞くことで、睡眠が病気によるものかどうかの判断がつきやすくなります。例えば次のような具体的な状況で自分が寝てしまうかどうかをお医者さんに伝えるのも1つの方法です。

  • 新聞や本を読んでいるとき
  • テレビを見ているとき
  • 会議、映画館、劇場などで静かに座っているとき
  • 運転をしない状態で1時間続けて自動車に乗っているとき
  • 午後、横になって休息をとっているとき
  • 座って人と話をしているとき
  • 昼食をとった後(飲酒なし)、静かに座っているとき
  • 手紙や書類をかいているとき

上の状況の中で寝てしまう項目が多ければ多いほど、日中の眠気の原因が病気である可能性が高まります。医療機関を受診する際には参考にしてみてください。

内服薬の確認

薬の副作用によって日中の眠気が現れることがあります。薬の副作用による眠気は、原因となっている薬をやめることで症状がよくなります。日中の強い眠気を起こす薬として睡眠導入薬や抗うつ薬、抗てんかん薬、抗ヒスタミン薬などさまざまなものが知られています。原因をきちんと調べるために、飲んでいる薬はすべてもらさずに伝えるようにしてください。

飲んでいる薬が多い場合は、把握するのが難しくなります。その場合は「お薬手帳」を活用してみてください。お薬手帳には「薬の種類」や「薬の開始時期」などの詳しい情報が記載されています。手帳をみせるだけでお医者さんに薬の情報をもれなく伝えることができます。ただし、市販薬やサプリメントなどはお薬手帳には記載されていませんので、忘れずに伝えるようにしてください。

2. 身体診察

身体診察では、身体の状態をお医者さんがくまなく調べて客観的な評価が行われます。問診で得た情報をもとに、疑わしい原因をさらに絞り込むために行われます。

身体診察には次のものがあります。

  • 視診:身体の見た目を観察する診察法
  • 触診:身体を触って調べる診察法
  • 打診:身体を軽く叩いて調べる診察法
  • 聴診:聴診器による診察法

身体診察は原因となっている病気を推測するために重要です。日中に眠気を起こす病気はナルコレプシー以外にもありますが、身体診察が診断の手がかりになることは少なくありません。例えば、ナルコレプシーと同じように日中の眠気を起こす睡眠時無呼吸症候群は「口蓋垂(のどちんこ)や扁桃が大きい人」や「顎が小さい人」、「首の周りの肉付きがよい人」に起きやすいことがわかっています。このため、お医者さんは日中の眠気を訴える人の視診では首の周りや口の中を特に注意深く観察しています。身体診察と他の診察方法を組み合わせて、どの病気の可能性が高いかが絞り込まれていきます。

3. 睡眠ポリグラフ検査

ナルコレプシーの人の睡眠のパターンには正常の人と異なる特徴があります。睡眠ポリグラフ検査では睡眠時の脳波や眼球の動き、心電図、四肢の動きなどを調べ、睡眠のパターンを知ることできます。ナルコレプシーが疑われる人では「脳波」と「眼球の動き」が重要な検査項目です。

脳波と眼球の動きから何がわかるのか?

眠りの状態には「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」の2つがあります。レム睡眠とノンレム睡眠は一定の周期で繰り返されており、 どちらの睡眠パターンであるかは「眼球の動き」や「脳波」から知ることができます。

レム睡眠は身体は休んでいますが脳が起きている状態です。脳の活動が活発なので、脳波は起きている時に似たパターンになります。また、眠りは浅く、眼球の動きがあるのが特徴です。これに対して ノンレム睡眠は脳が休む時間とされていてます。脳はほとんど活動していなので眠りは深く、眼球の動きもほとんどありません。深い睡眠を示す特徴的な脳波がみられます。

正常な睡眠の人は入眠後すぐにノンレム睡眠が起こり、その1時間から2時間後にレム睡眠が起こります。一方で、ナルコレプシーの人は入眠後すぐにレム睡眠が起こることが特徴的です。睡眠ポリグラフ検査の結果、入眠直後にレム睡眠が見られる人はナルコレプシーである疑いが強くなります。

どのように行うのか?

頭や顔、体幹、手足にシールのようなものを貼り付けた状態で睡眠をとり検査を行います。身体に針を刺したりすることはないので痛みはありませんが、コードを装着しているのでうっとうしく感じるかもしれません。検査は1泊2日で行うことが多く、後日に検査結果の説明があります。

4. 睡眠潜時反復検査

日中の眠気の程度を調べる検査で、結果はナルコレプシーの診断にも使われるので重要です。睡眠潜時反復検査は睡眠時ポリグラフ検査の翌日に行われます。睡眠時ポリグラフ検査と同様に、睡眠中の脳波などを詳しく調べます。具体的には、暗い部屋で横になって昼寝をして、検査が行われます。入眠してから15分間の脳波などを記録します。入眠しない場合は検査開始から20分後に検査を終えます。検査は2時間毎、合計5回行われます。睡眠潜時反復検査では入眠までの時間や入眠時レム睡眠の有無が注目されます。診断の詳しい内容については、この後のナルコレプシーの診断基準を参考にしてください。

5. 髄液検査

髄液脳脊髄液)は脳や脊髄の周りを満たす液体です。他の診察や検査でナルコレプシーかどうかの判断がつかない場合には、髄液検査が行われます。一部のナルコレプシーの人では髄液中に含まれるオレキシンという物質が少ないことが知られています。髄液の中のオレキシンの量を調べると、診断に役立つことがあります。

検査で使われる髄液は腰椎穿刺(腰に細い針を刺して液体を抜き出す方法)で身体から取り出されます。髄液検査は痛みをともない身体に負担がかかるので、ナルコレプシーが疑われる人の全員に行われるわけではありません。 また、腰椎穿刺の詳しい説明は「腰椎穿刺(ルンバール)の目的、方法、合併症」を参考にしてください。

6. ナルコレプシーの診断基準

ナルコレプシーには診断基準があります。診断基準は情動脱力発作の有無によって2つに別れます。診断基準は専門的な言葉も並んでいるので、診断基準の全てを理解する必要はありません。難しく感じた人は下の解説を読みながら、目を通してください。

【情動脱力発作を伴う場合】

A)患者が、最低でも3ヶ月の間、ほとんど毎日、過度の日中の眠気が生じると訴える。
B)感情によって引き起こされる、急激で一過性の筋緊張消失エピソードで定義される、情動脱力発作の明確な既往歴がある。

注:情動脱力発作と名づけるためには、これらのエピソードが、強い感情(最も信頼できるのは大笑いや冗談)によって引き起こされて、一般に両側性で短く(2分未満)なければならない。少なくともエピソードのはじめには、意識は清明である。一過性で回復可能な深部腱反射の喪失を伴う情動脱力発作の観察は、まれではあるが大変強力な診断所見である。

C)情動脱力発作を伴うナルコレプシーの診断は、可能な場合はいつでも、睡眠時ポリグラフ後に睡眠潜時反復検査を実施して確認するべきである。検査前の晩に十分な夜間睡眠(最低6時間)をとった後には、睡眠潜時反復検査上の平均睡眠潜時は8分以下で、複数の入眠時レム睡眠が観察される。あるいは、脳脊髄液 のヒポクレチン-1(オレキシン)レベルが110pg/mL以下、つまり正常コントロール 群平均値の3分の1である。

注:睡眠潜時反復検査中の複数の入眠時レム睡眠は極めて特有の所見であるが、正常人口の30%で、8分以下の平均睡眠潜時が認められる。情動脱力発作を伴うナルコレプシー患者の90%以上でCSFヒポクレチン-1(オレキシン)レベルが低く(110pg/mL以下、つ まり正常コントロール群平均の3分の1)、これは正常群や他の病変が認められる患者ではあり得ない。

D)この過眠は、他の睡眠障害、身体疾患や神経疾患、精神障害、服薬、または物質使用障害で説明できない。

「ナルコレプシーの診断・治療ガイドライン項目」を参考に作成

【解説】

■A)とB)について

AもBも患者さんの自覚症状によって判断されます。診察の前には具体的にどのくらい前から日中の眠気で困っているかを伝えてください。また、情動脱力発作とは喜怒哀楽などの強い感情とともに突然身体全体または一部の力が抜けてしまう症状のことです。思い当たるエピソードがあれば詳しくお医者さんに伝えてください。

詳しくは「ナルコレプシーの症状」で説明しているので参考にしてください。

■C)について

病院で行われる検査の結果です。検査の詳細については、このページ上部の「睡眠時ポリグラフ検査」や「睡眠潜時反復検査」、「髄液検査」を参考にしてください。

■D)について

「日中の眠気」はナルコレプシー以外の病気でも起こりますし、薬の副作用でも起こります。ナルコレプシー以外に原因がないことを調べることが診断のために重要です。他の病気の可能性が否定できない場合は、血液検査などが追加で行われることがあります。

【情動脱力発作をともなわない場合】

A)患者が、最低でも3ヶ月の間、ほとんど毎日、過度の日中の眠気が生じると訴える。
B)典型的な情動脱力発作は存在しないが、疑わしい、もしくは非典型的な情動脱力発作 が認められることがある。
C)診断は 睡眠時ポリグラフ検査(以下PSG) に続いて 睡眠潜時反復検査(以下MSLT) を実施して確認しなければならない。前夜に十分な夜間睡眠を取り(最低 6 時間以上)、MSLT による平均睡眠潜時が8分以下で、2回以上の入眠時レム睡眠が確認観察される。

注:MSLT における 2 回以上の睡眠時レム睡眠はこの疾患に特異的な所見であるが、睡眠潜時 8 分以下は正常対象者でも 30%に認められる。

D)この過眠は、他の睡眠障害、身体疾患や神経疾患、精神障害、服薬、または物質使用障害で説明できない。

「ナルコレプシーの診断・治療ガイドライン項目」を参考に作成

【解説】

■A)とB)について

Aは上の「情動脱力発作をともなう場合」と同じです。AもBも患者さんの自覚症状によって判断されます。情動脱力発作があるかどうかの判断は難しい場合もあるので、気になる症状はもれなく伝えるとよいです。

■C)について

病院で行う検査結果のことです。検査の詳細は、このページ上部の「睡眠ポリグラフ検査」や「睡眠潜時反復検査」を参考にしてください。上の「情動脱力発作をともなう場合の診断基準」とは、髄液検査が診断に用いられない点が異なります。

■D)について

「情動脱力発作をともなう場合」と同様に、他に原因がないかが確認されます。他の原因が疑わしい場合は血液検査などが追加されることがあります。

【参考】

「ナルコレプシーの診断・治療ガイドライン項目」日本睡眠学会