しきゅうたいがん(しきゅうないまくがん)
子宮体がん(子宮内膜がん)
子宮の内側を覆っている子宮内膜からできるがん。子宮内膜がんとも言われる。
8人の医師がチェック 162回の改訂 最終更新: 2024.07.31

子宮体がんとはどんな病気なのか?

子宮体がんは閉経後の人に多く見られ、近年増加傾向にあります。性器の出血から見つかることが多く、早期発見ができれば手術によって完治が見込めます。ここでは子宮体がんの概要として、症状や原因、検査、ステージ、治療などを網羅的に説明します。

1. 子宮体がん(英語:Endmetorial Cancer)とはどんな病気なのか?

子宮は女性に特有の臓器です。下図のように体部と頸部の2つに分けられ、子宮体部にできたがんが子宮体がんです。子宮体がんと子宮頚がんはがんの性質が異なるので、この違いは重要です。

【子宮の模式図】

子宮の模式図

次に、子宮体がんの「罹患者数(患者さんの数)・死亡者数といった統計データ」と「子宮頸がんとの違い」を中心に説明していきます。

子宮体がんの患者数について

「がん登録・統計」によると、2019年に国内で子宮体がんが見つかった人(罹患者)は17880人、10万人あたりでは約26人です。

【子宮体がんの年齢調整罹患率(全国推計値)年次推移】

子宮体がんの年齢調整罹患率(全国推計値)年次推移

グラフから、子宮体がんが見つかる人が年々増加している傾向が読み取れます。子宮体がんが増加している理由については詳しいことは分かってはいません。

子宮体がんに気をつけるべき年齢について

子宮体がんは閉経後の女性(特に50歳代から60歳代の人)に多く見つかり、反対に30歳未満の世代に見つかることは少ないです。

【年齢階級別の子宮体がん罹患率(全国推計値・2014年)】

年齢階級別の子宮体がん罹患率(全国推計値・2014年)

50歳を超えた女性には子宮体がんが見つかりやすいです。早期発見には、子宮体がんの検査を定期的に受けたり、症状が現れた際のすみやかな受診が大切です。この後説明する「子宮体がんの症状」や「子宮体がんの検査」を参考にしてください。

子宮体がんと子宮頸がんの違いについて

最初に述べたように、子宮にできるがんには「子宮体がん」の他に「子宮頚がん」があります。子宮にできる点では共通していますが、病気の性質が異なります。

■がんがみつかりやすい年齢の違い

子宮体がんは、50歳代から60歳代で見つかることが多いのに対して、子宮頚がんは30歳代から40歳代で見つかることが多いです。このため、子宮頚がんの検査は若い年代から受けることが多いです。

■がんが発生する原因の違い

子宮体がんの原因ははっきりとは分かってはいませんが、閉経した人やホルモン補充療法を受けている人にみつかりやすいです。一方で、子宮頸がんヒトパピローマウイルスHPV)の持続感染が強く関連していることがわかっています。

2. 子宮体がんの症状について

子宮体がんは症状をきっかけにして発見されることが多く、主な自覚症状には次のものがあります。

【子宮体がんの主な自覚症状】

上記のなかでも、不正性器出血が重要です。不正性器出血とは、月経(生理)、分娩(お産)、産褥期(出産直後)以外に起こる性器からの出血のことを指します。子宮体がんの人によくみられ、発見のきっかけになりやすいです。一方、不正性器出血は他の病気でもみられることがあるので、出血があった時に「子宮体がん」とすぐに結びつけて考えるのは早計です。例えば、生理不順による予期せぬ出血のこともありますし、子宮筋腫萎縮性膣炎などがん以外の病気によるものの可能性もあります。

必ずしも子宮体がんが原因とは言い切れないとはいえ、がん以外にも治療が必要な病気によって不正出血が起こっている可能性があるので、原因を調べておくことが重要です。症状があった人は医療機関を受診してください。不正出血以外の症状については「こちらのページ」で詳しく説明しているので参考にしてください。

3. 子宮体がんの原因について

子宮体がんは閉経後にかかる人が多いことが知られており、閉経が原因の1つだと考えられています。その他では、次のものが子宮体がんにかかるリスクを上げるものとして知られています。

【子宮体がんのリスクを上げる主なもの】

  • 持病
  • 身体の特徴
    • 肥満
    • 閉経後
    • 妊娠を未経験
  • 薬の副作用:エストロゲン製剤の服用

上記に当てはまるものがあるからといって、必ず子宮体がんを発病するというわけではありません。また、リスクを上げるものの小さい影響しか及ぼさないものも含まれています。上記のリスクに当てはまるものがあり、子宮体がんが心配な人は、お医者さんと「定期的な検査の必要性」や「検査を受ける間隔」について相談してください。

4. 子宮体がんの検査について

子宮体がんが疑われる人や、子宮体がんと診断を受けた人には次のような診察や検査が行われます。

【子宮体がんが疑われる人や診断を受けた人に行われる診察や検査】

  • 問診
  • 身体診察
  • 血液検査
  • 画像検査
    • 超音波検査
    • CT検査
    • MRI検査
  • 病理検査
    • 組織診
    • 細胞診

子宮体がんの検査の主な目的は「子宮体がんかどうかを調べること」と「子宮体がんであったときのステージを調べること」の2つです。この2つの目的を満たすために、上記で示したような検査が組み合わせられます。 各検査の詳しい説明は「こちらのページ」を参考にしてください。

5. 子宮体がんのステージについて

診察や検査によって子宮体がんの進行度がわかります。進行度合いを表現する方法として、ステージ(病期分類)が使われます。主に「がんの広がり」から決まるステージはIからIVの4段階に分かれ、数字が大きくなるほど進行している状態を表します。

それぞれのステージの具体的な状態は次の通りです。

  • ステージI
    • がんが子宮体部にとどまっている状態
  • ステージII
    • がんが子宮体部だけにとどまらず、連続する子宮頚部(膣と子宮体部の間)にまで及んだ状態
  • ステージIII
    • がんが子宮の外に顔を出している状態もしくは、リンパ節転移がある状態
  • ステージIV
    • がんが膀胱または直腸まで広がった状態もしくは、子宮から遠く離れた場所に転移した状態

ステージを調べることは、適した治療法の選択、その後の見通し(生存率など)などに役立てられます。ステージのより詳しい説明や生存率については「こちらのページ」を参考にしてください。

6. 子宮体がんの治療について

子宮体がんの治療には次のものがあり、ステージによって効果の高い治療法は異なります。

  • 手術
  • 薬物療法
    • 抗がん剤治療
    • ホルモン治療
  • 放射線治療
  • 緩和治療

手術は基本的にすべてのステージで行われる治療です。手術の内容や他の治療法との組み合わせは、ステージ分類を元にして効果の高いものが選ばれます。次にステージごとの治療法について説明します。(治療法の詳しい説明は「こちらのページ」を参考にしてください。)
手術が基本にはなりますが、手術に耐えられない人や、妊娠を希望する人には手術以外の治療法も選択肢になります。

ステージIの人の治療

ステージIの人は手術で子宮と付属器(卵巣と卵管)が摘出されます。取り出した臓器からがんの広がりや性質が詳しく調べられ、「再発する可能性が高い人」には放射線治療や抗がん剤治療が再発予防として行われます。 「がんの悪性度が低い」「がんの広がりが筋肉の層に達していない」などの一定の条件を満たすステージIの人であれば、子宮や卵巣を残す治療法も選ぶことができます。この方法は妊娠を希望する人に検討されることが多いです。ただし、子宮・卵巣を摘出する方法に比べて、がんが再発しやすくなるというリスクがあります。子宮や卵巣を残したい人は、メリットとデメリットを踏まえてお医者さんと相談するようにしてください。

ステージIIの人の治療

ステージIIの人では、ステージIと同様に、手術で子宮と付属器(卵巣と卵管)が摘出され、再発する可能性が高い人には予防として抗がん剤治療か放射線治療が行われます。 ステージIとは異なり、子宮や卵巣を残す選択はほとんど検討されません。

ステージIIIの人の治療

ステージIIIの人ではステージI、IIの人と同様に子宮と付属器(卵巣と卵管)が摘出されます。 加えて、ステージIIIではがんがリンパ節に広がっていることが多いので、転移があるリンパ節や転移が予想されるリンパ節が摘出(リンパ節郭清)される点がステージI、IIの人に行われる手術と異なります。手術後には再発予防のために放射線治療や抗がん剤治療が行われます。

ステージIVの人の治療

ステージIVは「がんが膀胱や直腸まで広がった(浸潤した)状態」または「子宮から遠く離れた場所にがんが転移した状態」です。いずれの場合も子宮と付属器(卵巣と卵管)、リンパ節が摘出されます。がんをできる限り取り除く目的で、膀胱や直腸の一部または全てが摘出されることがあり、状況に応じて人工門や人工膀胱(回腸導管)が必要となります。
切除が困難であるケースでは手術の前にがんを小さくするために抗がん剤治療(術前化学療法)を行うこともあります。

7. 子宮体がんの人に知って欲しいこと

がんと診断を受けると、「生存率」や「治療」が気にかかると思います。ここでは子宮体がんの「生存率」や「治療中の注意点」について説明します。

子宮体がんのステージごとの生存率について

子宮体がんの診断を受けてステージが明らかになると、どうしても生存率が気にかかります。ステージごとの生存率対応したものが下の表になります。

【子宮体がんのステージごとの5年生存率(実測生存率:2014年-2015年診断例)】

ステージ 5年生存率(%)
ステージI 92.1
ステージII 84.8
ステージIII 64.0
ステージIV 21.0

ステージが進むとともに、5年生存率は低下しますが、読み解く際に気を付けて欲しいことがあります。 まず注意してほしいのが、ここで示した生存率は過去の治療に基づくものであって、現在の治療の結果ではないということです。医療は日進月歩で次々と新しい検査や治療が見つかります。このため、過去の治療を現在の治療が上回ることはあり得ることです。

また、患者さんの「身体の状態」は一人ひとりで異なります。健康状態がよく、治療をしっかりと行えた人は、十分治療を行えなかった人に比べて、長く生存できることは少なくありません。身体の状態がその後の経過に与える影響は小さくはないのです。

生存率はどうしても気になるものですが、患者個人にそのまま当てはまるものではありません。数値にとらわれるよりも、治療に前向きになることや、日々の生活に目を向けることが何より大切です。

子宮体がんを治療している人に知っておいて欲しいこと

子宮体がんを治すための主な治療は、手術、抗がん剤、放射線です。また、肉体的・心理的な苦痛を取り除くために緩和治療も並行して行われます。ここでは「治療の注意点」と、「緩和治療」について説明します。(それぞれの治療についての詳しい説明は「こちらのページ」を参考にしてください。)

■手術後の過ごし方について

手術後に注意することは次の2つです。

  • 無理して食事を摂らない
  • 適度に身体を動かす

子宮体がんの手術はお腹を切って行います。お腹を切った影響で、手術後に腸の動きが弱くなり、腸閉塞イレウスを起こしやすくなっています。腸の負担を減らすために、食事は無理に摂らないようにしてください。具体的には、腹八分目が目安になります。

また、身体は適度に動かしてください。手術の傷口が痛くて苦労するとは思いますが、過度な安静は肺炎深部静脈血栓症といった病気を起こしやすくします。お医者さんから許可された範囲で無理のない運動をすることが大切です。

■抗がん剤治療中の過ごし方について

抗がん剤はがん細胞を攻撃する一方で、正常な細胞にも悪影響を与えるので、副作用が現れます。主な副作用には次のものがあります。

【抗がん剤治療の主な副作用】

  • 吐き気・食欲不振
  • 発熱
  • 脱毛
  • 下痢
  • 口内炎

副作用の中には軽度なものから生命を脅かすものもあります。あらかじめの対策をお医者さんと相談しておくと安心です。例えば、水分も摂れないほど吐き気が強い場合は脱水のおそれがあるので速やかな受診が必要ですし、発熱にも注意が必要です。受診した方がよいタイミングを具体的に話し合っておいてください。

■放射線治療の過ごし方について

放射線治療中や治療直後に皮膚の赤みや痛みなどの症状が現れることがあります。これらの症状は時間が経つと自然におさまり、問題になることは多くはありません。一方で、治療後しばらく経って起こる下血血尿には要注意です。放射線が原因の下血や血尿は止血が簡単ではないので、速やかに医療機関を受診してください。

■緩和治療について

緩和治療を行うと、肉体的・心理的な苦痛を和らげることができます。かつては終末期の人に行われる治療と捉えられていましたが、現在は手術や抗がん剤治療、放射線治療と並行して行われます。例えば、手術後の傷の痛みに対して鎮痛剤を用いることも緩和治療の1つですし、抗がん剤治療中の吐気に薬を使うのもその1つです。緩和治療を上手に使うことで抗がん治療(手術・放射線治療・抗癌剤治療)がより受けやすいものになります。

参考文献

・日本婦人科腫瘍学会/編, 「子宮体がん治療ガイドライン2018年版」, 金原出版, 2018
・国立がん研究センター内科レジデント/編, 「がん診療レジデントマニュアル」, 医学書院, 2016
・日本産科婦人科学会/編集・監修, 「産婦人科研修の必修知識2016-2018」, 2016
・National Comprehensive Cancer Network, Inc., 日本婦人科腫瘍学会/監訳,  「NCCNガイドラインー子宮体がん
・国立がん研究センターがん情報サービス「最新がん統計
・がん研究振興財団「がんの統計’24