しきゅうたいがん(しきゅうないまくがん)
子宮体がん(子宮内膜がん)
子宮の内側を覆っている子宮内膜からできるがん。子宮内膜がんとも言われる。
8人の医師がチェック 157回の改訂 最終更新: 2024.02.20

子宮体がんの治療について

子宮体がんの治療には手術、薬物治療(抗がん剤治療ホルモン療法)、放射線治療、緩和治療があります。この中から進行度に応じて適した治療が選ばれます。ここではそれぞれの治療法について詳しく説明します。

1. 子宮体がんの治療について

子宮体がんの治療には次のものがあります。

【子宮体がんの治療】

  • 手術
  • 薬物治療
    • 抗がん剤治療
    • ホルモン療法
  • 放射線治療
  • 緩和治療

子宮体癌の治療は基本的には手術になりますが、進行度(ステージ)によって適した手術方法が異なります。加えて、手術後には摘出した子宮を詳しく調べることで、再発リスクを推測することができ、追加治療の必要性を判断します。具体的には、早期の人は、手術のみで治療を終えることが多いですが、再発する可能性がある人には、手術後に抗がん剤治療や放射線治療が行われます。また、転移をしている人には、全身に広がったがん細胞に対して効果が現れるように抗がん剤が治療の主体になります。身体や精神の苦痛はがんの進行度に関わらずあらゆる場面で現れるので、必要に応じて緩和治療も行われます。

ステージと治療法の関係については「こちらのページ」を参考にしてください。

2. 手術

手術の目的はがんを取り除くことです。

子宮体がんの手術では、がんの部分だけを取り除くのではなく、子宮全てが取り除かれます。続いて、「手術の詳しい内容」や「手術の合併症」、「開腹手術と腹腔鏡手術(ロボット手術を含む)の違い」について説明します。

手術の詳しい内容

手術では子宮と付属器(卵巣と卵管)が取り除かれます。

子宮摘出

また、進行している人に対しては、加えてリンパ節郭清が行われます。イメージがつきにくい内容なので、個別に説明します。

■子宮摘出

手術の説明で「単純子宮全摘」という術式の説明を受けることがあるかも知れません。これは子宮だけを取り除く方法という意味です。その一方で、子宮だけでなく子宮頸部とその周りにある組織を一緒に摘出する方法があり、「広汎子宮全摘除術」「準広汎子宮全摘除術」といいます。進行した子宮体がんで行われることもありますが、主には「子宮頸がん」に対して行われることが多いです。子宮は膣と切り離して取り出され、膣の断端が縫い閉じられます。

■付属器摘出

付属器(子宮付属器)とは卵管と卵巣のことです。卵巣は卵巣動静脈という血管とつながっています。この血管を切断(切離)して卵巣と卵管が取り除かれます。付属器は原則として取り除かれますが、患者さんが付属器の温存を強く希望する場合には、再発のリスクが上昇する可能性を十分に理解した上で温存を選ぶことが可能です。

■大網切除

大網とは胃にのれんのようにぶら下がった布のような構造物です。大網は子宮体がんが転移をしやすい場所の一つです。そのため、転移や転移の可能性がある人には大網の切除が行われます。

■リンパ節郭清
リンパ節郭清の説明する前に、まずリンパ節転移について説明します。 身体にはリンパ管という血管に似た管が張り巡らされており、中にはリンパ液が流れています。リンパ管にがんが入り込むと、リンパ液の流れにのってリンパ節にたどり着きます。リンパ節とはリンパ管がいくつか集まってできたもので、がん細胞は一度リンパ節にとどまります(リンパ節転移)。リンパ管に入り込んだがん細胞がいきなり遠くに転移を起さないのは、このリンパ節のせき止める機能のおかげです。

リンパ節にとどまったがんはやがて大きくなり、再びリンパの流れに乗って転移を起こします。このようにがんは、リンパ節を経由しながら、元々いた場所から少しずつ遠くに離れて転移していくと考えられています。 転移があるリンパ節や転移が予想されるリンパ節を取りきれれば、がんを身体からなくせる可能性が高くなります。この「がんが転移しているリンパ節」や「転移が起こりうるリンパ節」を切除する操作のことをリンパ節郭清と言います。
再発リスクが低い人にはリンパ節郭清は行われませんが、中・高リスクの人にはリンパ節郭清が行われます。取り除かれるリンパ節は骨盤の中のリンパ節に加えてお腹の中のリンパ節も含まれます。

手術の合併症

手術や検査にともなって起こる身体への悪影響のことを合併症と言います。子宮体がんの手術の主な合併症には次のものがあります。

■創部感染(創感染):傷の感染

子宮体がんの手術はお腹を切って行います。お腹の傷に細菌がついて感染を起こすことがあり、これを創部感染と言います。創部感染が起こると、傷が赤くなったり痛みが出たり、が溜まります。 創部感染が起こっても再手術の心配はほとんどありません。傷を少し開いて溜まった膿を身体の外に出すとよくなることが多いです。

縫合不全:縫った場所が上手くっつかないこと

子宮は膣とつながっており、摘出する際には膣と切り離されます。体内に残った膣は切り口を縫って閉鎖されます。この縫った部分のくっつきが悪く開いてしまうことを縫合不全と言います。 開いた部分が小さければ自然に塞がるのを待ちますが、開いた部分が大きいと腸などの臓器が膣から体外に出てきて腸閉塞などが起こることがあります。このため、開いた部分の大きさに応じて再手術で縫い閉じられます。入院中は何回か内診(性器の診察)が行われ、膣の縫合不全が起きていないかどうかが確認されます。

腸閉塞イレウス:腸がつまる・腸の動きが悪くなる

お腹の手術を行った後に腸の調子が悪くなることがあります。腸の動きが悪くなることをイレウスと言い、腸がねじれたりつまったりすることが腸閉塞と言います。 イレウス腸閉塞が起こると、吐き気や腹痛、腹部膨満感(腹部が張った感じ)などの症状が現れます。治療が必要な状態なので、疑わしい症状があれば医療者に伝えてください。 イレウス腸閉塞の程度に応じて、「食事の中止」や「鼻から管を挿入して腸に溜まった液体を抜く治療」「手術」の中から適した治療が選ばれます。

開腹手術と腹腔鏡手術(ロボット手術を含む)について

子宮体がんの手術には、開腹手術と腹腔鏡手術(ロボット手術を含む)の2種類があります。どちらの手術でも子宮を摘出することには変わりはありませんが、適応が存在し、メリットとデメリットもあります。適応や、両者のメリットとデメリットを踏まえることで、自分にあった方法を選ぶことができます。

■進行度と手術方法の適応について

基本的に、開腹手術は早期であっても進行した人でも選ぶことができますが、腹腔鏡手術(ロボット手術含む)は早期のがんと術前に診断された人だけが選択できます。手術方法の適応は施設ごとで基準を設けていることもあるので、治療を受ける医療機関で確認すると良いです。また、今後は腹腔鏡手術の治療成績が明らかになって、進行した人でも腹腔鏡手術を行うことが一般的になるかもしれません。

■開腹手術

開腹手術では、下腹部を10cmから20cm程度切って行います。お医者さんが直接手を入れられるので、触感を活かした手術が行えます。例えば、傷つけてはいけない大事な血管や臓器の近くでは、場所を手で触って確認しながら、より慎重に手術を進めることができます。また、血管や臓器に損傷が起こっても、すぐに対応できることもメリットの1つです。 一方で、デメリットとしては、「傷が大きい」「手術後の痛みが強い」ことが挙げられます。

■腹腔鏡手術(ロボット手術を含む)

大きくお腹を切る開腹手術に対して、腹腔鏡手術(ロボット手術を含む)では親指ほどの小さな穴が数箇所開けられるだけで治療を受けることができます。開けた穴から腹腔鏡(内視鏡の一種)と、鉗子と呼ばれる器具を挿入して手術が進められます。鉗子は長い棒状の器具で先がハサミやピンセット状になっており、手元で操作ができます。

腹腔鏡手術

実際には、腹腔鏡で捉えたお腹の中の様子をモニターで見ながら手術が進められます。腹腔鏡手術(ロボット手術を含む)の傷は小さいので、痛みは開腹手術より少なく、日常生活に早く戻れる点が優れています。一方で、腹腔鏡手術(ロボット手術を含む)では映している場所しか見えないので、視野の狭さや死角の多さがデメリットになります。また、重要な血管を傷つけてしまった場合には開腹手術に切り替えて対処しなければならないことが多く、開腹手術に比べて対応に時間がかかることもデメリットの1つです。

■開腹手術と腹腔鏡手術(ロボット手術を含む)の比較

開腹手術と腹腔鏡手術(ロボット手術を含む)のメリットとデメリットを整理します。

  開腹手術 腹腔鏡手術(ロボット手術を含む)
メリット
  • 視野が広い
  • 緊急時に素早く対応できる
  • 傷が小さい
  • 回復が早い
デメリット
  • 傷の痛みが強い
  • 大きな傷あとが残る
  • 視野が狭く死角が多い
  • 緊急時の対応に時間がかかる

開腹手術であっても腹腔鏡手術(ロボット手術を含む)であっても内容に変わりはありません。どちらも選べる状況であれば、メリット・デメリットを自分の価値観に照らし合わせて、納得できる方法を選んでみてください。

なお、ロボット手術については、違う病気ではありますが、「こちらのコラム」で詳しく説明しているので、参考にしてみてください。

手術後の追加治療について

手術で取り除いた子宮やリンパ節を調べることで、再発のしやすさを知ることができます。リスク分類という方法で、再発のしやすさは下記のように3段階に分けます(詳しい内容については「こちらのページ」を参考にしてください)。

【子宮体がんのリスク分類】

  • 低リスク
  • 中リスク
  • 高リスク

低リスクの人には追加治療は必要はありませんが、中リスクと高リスクの人に薬物治療もしくは放射線治療を行うと、再発率が下がることが分かっています。追加治療は手術の影響が落ち着いた頃合いで始めることが多いです。

3. 薬物治療

薬物治療の主な目的は「がんの進行抑制」と「再発予防」です。子宮体がんの薬物治療には抗がん剤治療(化学療法)とホルモン療法の2つがあります。

抗がん剤治療(化学療法)

抗がん剤治療が行われる場面は2つあります。1つは手術後の人に再発を抑える目的で行われるもので、もう1つは転移や再発をした人にがんの進行を抑える目的で行われるものです。

(なお、抗がん剤治療の副作用については「こちらのページ」で説明しているので参考にしてください。)

■手術後の再発を抑える目的

手術で見える範囲のがんがすべて取り除かれても、一定の確率で再発します。再発の可能性をできるだけ下げるために、手術後に抗がん剤治療が行われます。手術後の抗がん剤治療はドキソルビシンシスプラチンという抗がん剤を組み合わせたAP療法またはパクリタキセルシスプラチンを組み合わせたTC療法が行われます。

■転移や再発をしたがんの進行を抑える目的

転移や再発した人にはがんの進行を抑える目的で、抗がん剤治療が行われます。効果が確認されているのは次の治療です。

【転移や再発をした人に行われる抗がん剤治療】

「患者さんの身体の状態」「期待できる効果」「予想される副作用」などを踏まえて上記の中から適した治療が選ばれます。抗がん剤治療は決まった間隔で何回か繰り返して行われ、定期的に画像検査(CT検査など)や血液検査などを使って効果が調べられます。

抗がん剤治療はいつまでも同じ効果が得られるわけでありません。繰り返していくうちに効果が小さくなり、最終的にはほとんど効かなくなりますが、無効になった人にはまた別の抗がん剤治療を行います。例えば、AP療法に効果がなくなった後には、TC療法を行うといった具合です。身体が抗がん剤治療に耐えられ、効果のある方法があるうちは治療を続けることができます。

ホルモン療法

プロゲステロンというホルモンには子宮体がんの進行を抑える効果があるので、がんの治療薬として用いられることがあります。ホルモン療法は抗がん剤に比べて副作用が軽いことが多く、また、飲み薬であるといったメリットがあります。ホルモン療法は基本的に子宮体がんが再発した人に検討される治療法ですが、全ての人に使えるわけではなく、次の条件を満たす人に適していると考えられています。

【ホルモン療法が行える条件】

  1. 無症状である
  2. がん細胞にエストロゲン受容体(ER)およびプロゲステロン受容体(PgR)がある
  3. 子宮体がんの中でも類内膜腺に分類されるものでグレードが1である

上の2,3の条件を平たく説明すると、「がん細胞にホルモン療法が効きやすい性質がある」「がんの悪性度が低い」ということです。この項目に当てはまる人にはホルモン療法を検討することができます。また、再発した人以外では「子宮温存を希望する人」や、「抗がん剤による卵巣への影響を少なくしたい人」にも検討されます。メリットがあるホルモン療法ですが、効果が乏しいときには、抗がん剤治療が必要になります。

4. 放射線治療

放射線がもつ細胞にダメージを与える力を利用して、がん細胞を減らす治療法です。子宮体がんの放射線治療は主に「手術後の再発予防が必要な人」「再発した人」「転移した人」に行われるので、ここではそれぞれの状況について説明します。

放射線治療中の過ごし方については「こちらのページ」を参考にしてください。

手術後の再発予防

再発する可能性が高い子宮体がんには、 手術後に再発予防のために放射線治療が行われます。再発は目に見えないほど小さながん細胞が体内に残ったことによると考えられています。このため、がんが残っている可能性が高い下腹部を中心に放射線を照射すると、再発率が下がると考えられています。

再発した子宮体がん

子宮体がんが再発した場合の治療では、主に抗がん剤治療が検討されますが、放射線治療が検討されることもあります。放射線治療によって、がんが大きくなったり周りの臓器に広がるのを防ぐ効果が期待できます。

転移した子宮体がん

子宮体がんは骨に転移をすることがあり、起こると骨に痛みを感じます。また、背骨の中には神経(脊髄)が通っており、背骨にがんが転移し大きくなると、神経を圧迫して麻痺や感覚障害(しびれなど)、運動障害(手や足の動かしにくさなど)が起こります。骨への転移に対しては放射線治療が有効です。放射線治療によってがんが小さくなり、痛みを和らげたり神経への影響を少なくすることができます。

5. 緩和治療

緩和治療では、生命を脅かす病気によって生じる肉体的・心理的な苦痛を和らげることができます。以前は終末期の治療と同義と考えられていましたが、現在は手術や薬物治療、放射線治療と同時に行われることが多いです。いわゆる抗がん治療(手術・抗がん剤治療・放射線治療)が終わった人だけに行われる治療というわけではありません。 例えば、手術の痛みを和らげる治療や抗がん剤による吐き気を抑える治療、がんと診断されたことで起こる精神的な問題への対応などが緩和治療に含まれます。緩和治療を上手に取り入れることで、苦痛を減らして積極的に治療に取り組める効果が期待できます。

緩和治療についての詳しい説明は「こちらのページ」を参考にしてください。

6. 子宮体がんの治療ガイドラインはあるのか

ガイドラインが作られる目的は治療の成績や安全性の向上です。子宮体がんには日本婦人科腫瘍学会が作成した「子宮体がん治療ガイドライン2023」があります。ガイドラインの内容は、過去の治療の報告を根拠に、場面ごとに最適だと考えられる治療法が記されています。ガイドラインを踏まえることで、お医者さんは最も効果の高い治療法を選びやすくなります。一方で、医学は日進月歩であり、ガイドラインの改定が追いつかずに書かれている内容が最適でなくなることもあります。 また、ガイドラインは患者さん一人ひとりの身体の違いを鑑みて作られているわけではありません。病気の状況と同じくらい身体の状況は治療法を選ぶ際の重要な判断材料です。一人ひとりに最適な治療を行えるように、ガイドラインを踏まえつつ、最新の知見と、患者さんの身体の状態などの条件を鑑みて、治療法が選択されます。

参考文献

・日本婦人科腫瘍学会/編, 「子宮体がん治療ガイドライン2023年版」, 金原出版, 2023
・国立がん研究センター内科レジデント/編, 「がん診療レジデントマニュアル」, 医学書院, 2016
・日本産科婦人科学会/編集・監修, 「産婦人科研修の必修知識2016-2018」, 2016
・National Comprehensive Cancer Network, Inc., 日本婦人科腫瘍学会/監訳,  「NCCNガイドラインー子宮体がん