かいようせいだいちょうえん
潰瘍性大腸炎
免疫の異常により大腸の粘膜に炎症が起こり下痢や血便を起こす原因不明の病気。10代から30代で発病し長年続くことが多く、大腸がんなどの原因となることがある
9人の医師がチェック 169回の改訂 最終更新: 2022.11.07

潰瘍性大腸炎とはどんな病気?

潰瘍性大腸炎は免疫の異常により腸が攻撃される病気です。血便や下痢、腹痛などがあらわれます。5-ASA製剤、ステロイド、生物学的製剤などで治療されます。治療は長期に及ぶことがあり、難病にも指定されています。

1. 潰瘍性大腸炎とはどんな病気?

潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)は免疫の異常により腸が攻撃される病気です。腸が免疫により攻撃されると、腸のむくみや出血の原因となります。また時に「潰瘍」といって腸がえぐられた状態になります。

潰瘍性大腸炎は腸が免疫により攻撃されることで、血便や下痢、腹痛などの様々な症状があらわれる病気です。

潰瘍性大腸炎は英語でUlcerative Colitisといいます。UC(ユーシー)の略称で呼ばれることもあります。

免疫とは

免疫とはウイルス細菌などの外敵が体の中に入ると駆除する体の中のシステムのことです。免疫は通常、外敵だけを攻撃し、自分の体は攻撃しないように制御されています。しかしながら、潰瘍性大腸炎ではこの免疫の制御が上手く働かなくなり、自分の体を攻撃するようになってしまいます。

炎症性腸疾患とは

炎症性疾患とは免疫が間違えて腸を攻撃してしまう病気のことをさします。潰瘍性大腸炎は炎症性腸疾患の1つにあたります。

炎症性腸疾患は潰瘍性大腸炎以外にもクローン病という病気があります。潰瘍性大腸炎とクローン病は症状が似ているので、間違われやすいですが、異なる病気です。

炎症性腸疾患は英語でInflammatory Bowel Diseaseといいます。IBD(アイビーディー)の略称で呼ばれることもあります。

クローン病とは

クローン病は潰瘍性大腸炎と同じく、炎症性腸疾患に分類される病気です。腹痛や下痢など潰瘍性大腸炎と似た症状があらわれます。潰瘍性大腸炎かクローン病かで治療法が変わることもあるので、潰瘍性大腸炎とクローン病を見極めることは重要です。

潰瘍性大腸炎とクローン病の違いは専門的な話になりますが、まとめると以下のようになります。

     潰瘍性大腸炎 クローン病
病気が起こる場所 大腸(結腸、直腸) 小腸、大腸(結腸、直腸)、肛門
病気のでき方 直腸から大腸に連続して広がる 病変はまばらにできる
潰瘍の深さ クローン病と比較すると浅い 深い潰瘍ができる
腹痛 強い腹痛はあまり起こらない しばしば起こる
血便 よく起こる 潰瘍性大腸炎と比べると少ない
腸が詰まること
腸閉塞
あまり起こらない しばしば起こる

※その他、腸の生検(組織を一部採って顕微鏡で見る検査)も潰瘍性大腸炎とクローン病で異なる結果が出るので、2つの病気を見分けるために有用です。

2. 潰瘍性大腸炎になるとどんな症状が出るの?

潰瘍性大腸炎になると血便、しぶり腹、下痢、腹痛などの腹部症状があらわれるほか、熱やだるさを伴うこともあります。しぶり腹とは便意を感じるにも関わらず、トイレに行って排便しようとしても便が出ない状態を言います。

血の混じった下痢が止まらなかったり、強い腹痛がある場合は、重症のサインの可能性があります。

詳しくは「潰瘍性大腸炎になると出やすい症状」で説明します。

3. 潰瘍性大腸炎の原因

潰瘍性大腸炎は免疫の異常により腸が攻撃されることで起こる病気です。免疫は通常、外敵だけを攻撃し、自分の体は攻撃しないように制御されています。潰瘍性大腸炎ではこの免疫の制御が上手く働かなくなり、自分の体を攻撃するようになってしまいます。免疫の制御がうまく働かなくなる理由としては、遺伝子や腸内細菌などが関わっているのではないかと考えられていますが、はっきりしたことは分かっていません。

潰瘍性大腸炎の治療では免疫を制御(抑制)する薬を使い、おかしくなった免疫を正常化することで症状の改善を目指します。

4. 潰瘍性大腸炎を疑ったときに行う検査

潰瘍性大腸炎が疑われた場合、内視鏡検査、注腸X線検査、血液検査、便検査などを行います。

詳しくは「潰瘍性大腸炎が疑われたらどうやって診断する?検査はどんなものがあるのか?」で説明します。

ここでは簡単にどんな検査があるかを説明します。

内視鏡検査

潰瘍性大腸炎が疑われた場合には下部消化管内視鏡検査が行われます。「大腸カメラ」とも呼ばれています。下部消化管内視鏡検査は肛門から細長いカメラを挿入し、大腸粘膜を直接観察します。潰瘍性大腸炎の人の大腸粘膜は赤くなっていたり、潰瘍ができていたりします。

注腸X線検査

注腸X線検査とは造影剤を肛門から注入して腸の形を確認する検査です。造影剤はレントゲンに白くうつる液体です。通常のX線検査では腸ははっきりうつらないため、造影剤を使うことで、腸の形を確認します。潰瘍性大腸炎では大腸に潰瘍が多発するため、腸の形が非常にいびつなものになります。また、腸の構造が保たれなくなるため、本来腸にあるはずのヒダがなくなって見えます。

血液検査

血液検査では「CRP」、「血沈」などの炎症マーカーを見ることで病気の勢いを予測できます。また、「Hb(ヘモグロビン)」は腸からの出血がないかの参考になります。血液検査は薬の副作用で内臓の障害が起きていないかを調べる上でも重要です。

便検査

潰瘍性大腸炎で行われる便検査には便潜血検査と便培養検査があります。便潜血検査は「便に血液が混ざっていないか」を確認します。便培養検査は便の中に「血便を起こす菌がいないか」を確認します。

5. 潰瘍性大腸炎の治療

潰瘍性大腸炎では5-ASA製剤、ステロイド、免疫抑制薬、生物学的製剤などの薬が治療に用いられます。非常に重症なケースや薬の治療の効果が乏しい場合には、白血球除去療法や手術を行うことがあります。

詳しくは「潰瘍性大腸炎の治療法には何があるか」で説明します。

5-ASA製剤

5-ASA製剤(5-アミノサリチル酸)は、潰瘍性大腸炎のうち軽症から中等症例を中心に用いられる薬です。代表的な製剤にはサラゾスルファピリジン(商品名:サラゾピリン®)、メサラジン(商品名:ペンタサ®、アサコール®、リアルダ®)などがあります。

ステロイド薬

ステロイド薬は炎症を抑える作用のある薬です。中等症から重症の潰瘍性大腸炎の最初の治療に用いられます。代表的な製剤にはプレドニゾロン(商品名:プレドニン®など)、メチルプレドニゾロン(商品名:メドロール®など)、ベタメタゾン(商品名:リンデロン®など)などがあります。

免疫抑制薬

潰瘍性大腸炎のおかしくなった免疫細胞をコントロールするための薬です。代表的な製剤にはアザチオプリン(商品名:イムラン®など)、メルカプトプリン(商品名:ロイケリン®など)、シクロスポリン(商品名:ネオーラル®など)、タクロリムス(商品名:プログラフ®など)があります。

生物学的製剤

近年医学の進歩に伴い、症状の原因となっている物質の解析や原因物質を阻害する薬の開発が進んでいます。潰瘍性大腸炎で有効性が認められている生物学的製剤として炎症に関わる物質であるTNF(TNFα)を阻害する薬(TNF阻害薬)とインテグリンに対する抗体薬(抗α4β7インテグリンモノクローナル抗体)があります。TNF阻害薬にはインフリキシマブ(商品名:レミケード®)、アダリムマブ(商品名:ヒュミラ®)、ゴリムマブ(商品名:シンポニー®)があります。インテグリンに対する抗体薬にはベドリズマブ(商品名:エンタイビオ®)があります。

JAK阻害薬

JAK阻害薬は免疫細胞のシグナル伝達に関わっている物質であるJAK(ヤヌスキナーゼ)を阻害することで、免疫細胞の過剰な活性化を抑えることができる薬です。具体的な製剤としてはトファシチニブ(ゼルヤンツ®)やフィルゴチニブ(ジセレカ®)、ウパダシチニブ(リンヴォック®)があります。

α4インテグリン阻害薬

大腸の炎症に関わるインテグリンを阻害する薬剤で、ベドリズマブ(エンタイビオ®)と似た作用を発揮する薬です。具体的な製剤はカロテグラスト(カログラ®)です。

白血球除去療法

潰瘍性大腸炎は白血球という免疫細胞との関連が知られています。薬物治療で十分よくならない場合、一時的に白血球除去療法が行われることがあります。白血球除去療法は血液を取り出し、白血球を取りのぞいた後に、血液を体内に戻す治療法です。

手術

潰瘍性大腸炎は薬物による治療が主体ですが手術をすることもあります。手術は生命の危機に関わる緊急的な状況と、それほど急がない(待機的な)状況の2つの場面で用いられます。以下が緊急手術が必要な場合と待機的な手術を検討する場合の例です。

  • 緊急手術が必要な場合
    • 中毒性巨大結腸症
    • 腸管穿孔
    • 大量出血
  • 待機的な手術を検討する場合
    • 薬物治療での効果が小さい
    • 薬物療法による副作用が強い
    • 大腸粘膜にがんが発見された、またはがんが発生する危険性が高い

6. 潰瘍性大腸炎は難病なのか

原因が十分にわかっておらず治療法が確立されていない疾患は、厚生労働省が指定難病(難病)に分類しています。潰瘍性大腸炎は指定難病の一つになります。また、指定難病は国が定めた基準を満たせば、医療費助成を受けることができます。具体的な難病の手続きに関しては「潰瘍性大腸炎の人が知っておきたい注意点」で説明しています。

7. 潰瘍性大腸炎患者の日常生活における注意点

潰瘍性大腸炎は多くの方で治療の継続が必要であり、病気との付き合いも長くなります。病気と付き合っていく上で日常生活でも注意点があります。「潰瘍性大腸炎の人が知っておきたい注意点」では、妊娠や旅行の時の注意点に関しても説明しています。