かいようせいだいちょうえん
潰瘍性大腸炎
免疫の異常により大腸の粘膜に炎症が起こり下痢や血便を起こす原因不明の病気。10代から30代で発病し長年続くことが多く、大腸がんなどの原因となることがある
9人の医師がチェック 169回の改訂 最終更新: 2022.11.07

潰瘍性大腸炎の人が知っておきたい注意点

潰瘍性大腸炎は国の指定難病です。国が指定する基準を満たせば、医療費助成を受けられます。ここでは難病の手続きの話や日常生活での注意点に関して説明しています。

1. 潰瘍性大腸炎は難病?医療費助成はあるのか?

潰瘍性大腸炎は難病に指定されています。国が指定する重症度基準で中等症以上にあたる方と、高額な医療を継続することが必要な方が、医療費助成の対象となります。ここでは医療費助成の申請方法に関しても説明しています。

難病指定とは?

厚生労働省は原因が十分にわかっておらず治療法が確立されていない疾患を指定難病(難病)と分類しています。難病患者の負担を軽減するため、医療費助成制度があります。現在300を超える病気が難病に指定されており、潰瘍性大腸炎も難病のひとつです。潰瘍性大腸炎の場合、以下の人が医療費の助成を受けることができます。

  • 重症度基準で中等症以上の人
  • 高額な医療を継続することが必要な人(軽症の場合も可)

重症度分類

     重 症 中等症 軽 症
(1)排便回数 6回以上 重症と軽症の中間 4回以下
(2)顕血便 (+++) (+)か(ー)
(3)発熱 37.5℃以上 37.5℃以上の発熱がない
(4)頻脈 90回/分以上 90回/分以上の頻脈なし
(5)貧血 Hb10g/dL以下 Hb10g/dL以下の貧血なし
(6)赤沈 30mm/h以上 正常
  • 顕血便の判定
    • (ー)血便なし
    • (+)排便にわずかに血液が付着している
    • (++)ほとんどの排便時に明らかな血液が混ざっている
    • (+++)大部分が血液
  • 重症度の判定
    • 軽症 :軽症の基準6項目を全て満たすもの
    • 中等症 :軽症、重症の中間にあたるもの
    • 重症 :以下の3つすべてを満たす
      • (1)排便回数または(2)顕血便が重症の基準を満たす
      • (3)発熱または(4)頻脈のいずれかが重症の基準を満たす
      • (1)から(6)のうち4項目が重症の基準を満たす

※ここでは詳しく説明しませんが、特に重症なものを、劇症と分類します。

難病の医療費助成の申請

難病の医療費助成の申請は大まかに以下の手順です。自治体ごとに準備する書類が異なりますので、詳しくは住んでいる都道府県の保健所にお問い合わせください。

  • 医療費助成に必要な以下の書類を準備します。(カッコ内は入手可能な場所)
    • 臨床調査個人票(厚生労働省のホームページ、福祉保健局のホームページ、市区町村の窓口)
    • 特定医療費支給認定申請書(福祉保健局のホームページ、市区町村の窓口)
    • 個人番号に関わる調書(市区町村の窓口)
    • 住民票(市区町村の住民票窓口)
    • 市区町村税課税証明書(市区町村の住民税窓口)
    • 健康保険証の写し
    • その他必要なもの
  • 臨床調査個人票の記入を医師(※)に依頼します。臨床調査票は難病であることの証明(診断書)でもあるので、医師による記入が必要になります。
  • 上記の書類を揃えて、住んでいる市区町村窓口で申請します。指定難病として認定されると、医療券が発行されます。要件が満たされないと判断された場合には不認定通知が発行されます。認定の決定は、指定難病審査会で行われ、結果が出るまでには3ヶ月程度の時間がかかります。

※臨床個人調査票は難病の臨床調査個人票の記入を都道府県知事から認定された医師しか作成できません。この都道府県知事から認定された医師を指定医と呼びます。主治医が指定医であるかは主治医に直接問い合わせてください。各自治体の福祉保健局のホームページなどにある一覧などでも確認できます。

2. 潰瘍性大腸炎の人は大腸がんになりやすいのか?

潰瘍性大腸炎の人は一般の人と比べると大腸がんになりやすいと考えられています。これは炎症により大腸に傷ができるとそれがきっかけでがんができてしまうと考えると理解しやすいかもしれません。大腸がんのリスクが高いと言われているのは(1)大腸全体に炎症が起こるタイプ(全大腸型)の方と(2)発症して8-10年以上経っている方です。

そのため、大腸がんを早期に見つけるため、定期的な内視鏡のチェックを勧められる場合があります。

参考文献
・J A Eaden, J F Mayberry, Colorectal cancer complicating ulcerative colitis: a review. Am J Gastroenterol. 2000 Oct;95(10):2710-9

3. 潰瘍性大腸炎の人は寿命が短くなるのか?

潰瘍性大腸炎があっても平均すると一般の方と比べて寿命は短くならないと考えられています。

ただし、潰瘍性大腸炎の中には腸に穴が開くなど重症化するものがあります。まれではありますが、このように重症化した潰瘍性大腸炎の場合には、命に関わることはあります。

4. 潰瘍性大腸炎は完治するのか?

潰瘍性大腸炎は完治することが難しい病気です。一生涯付き合う必要がある病気と言えるかもしれません。しかし、最近では新しい治療薬の登場もあり、薬を継続することで、症状がない状態を維持できるようになりました。この状態を「寛解(かんかい)」と呼びます。寛解に至れば、病気を患っていない方々と同じように生活を送ることができます。

5. 潰瘍性大腸炎は再発するのか?

新しい治療薬の登場もあり、多くの潰瘍性大腸炎の方で寛解に至ることができるようになりました。最初の症状が良くなって以降、一生涯寛解を維持できることもあります。しかし、残念ながら一生涯寛解を維持できるのは全員ではなく、再び症状が悪くなることも珍しくありません。

このように書くと、今の症状が落ち着いていても、また悪くなるのではないか、と不安になることもあるかもしれません。しかし、潰瘍性大腸炎の治療は以前に比べると大きく進歩しています。新しい治療薬も登場し、症状が悪くなった時の治療の選択肢も増えています。再発に対して不安があったり、以前の症状がまた出て来ていると感じれば、主治医の先生とも相談してみてください。

6. 潰瘍性大腸炎の人の妊娠の注意点は?

潰瘍性大腸炎になっても一般の方と同様に妊娠することはできます。ただし、妊娠にあたってはいくつかの注意点があります。ここではその注意点に関して説明したいと思います。

妊娠するための条件

妊娠が可能となるためには潰瘍性大腸炎の症状が落ち着いている必要があります。これには二つの理由があります。

一つ目の理由は赤ちゃんの発育への影響です。赤ちゃんはお母さんから栄養をもらって成長していきます。しかし、お母さんの潰瘍性大腸炎が悪い状態で妊娠するとお腹の中の赤ちゃんに栄養が行き渡らず、赤ちゃんが元気に育たなくなります。そのため、赤ちゃんが元気に育つという意味において、潰瘍性大腸炎の症状が落ち着いて妊娠することが望ましいと言えます。

二つ目は妊娠中の潰瘍性大腸炎の治療は妊娠していない時より難しくなるからです。妊娠中は治療薬が赤ちゃんに移行するリスクを考えなければなりません。また、潰瘍性大腸炎の状態が悪く手術が必要と判断された場合も、妊娠中は手術を受けることが難しくなります。このように、妊娠中は潰瘍性大腸炎の治療の選択肢が狭まってしまいます。そのため、妊娠中の潰瘍性大腸炎の治療が難しくならないよう、妊娠時には潰瘍性大腸炎の症状が落ち着いていることが望ましいと言えます。

赤ちゃんに対する治療薬の影響

薬の効果と副作用は、医学研究として実際の患者さんに使用してもらうことで確認されています。しかし、妊婦や赤ちゃんを対象にした研究を実施するのは難しいため、赤ちゃんに対して治療薬がどのような影響を与えるのか、ということは非常に難しい問題になります。

では赤ちゃんのことを考えると妊娠中は潰瘍性大腸炎の治療を中断した方が良いのでしょうか。

もし、治療を中断したことで潰瘍性大腸炎が悪くなってしまえば、それは赤ちゃんの成長という観点でも悪い影響があります。そのため、妊娠中は赤ちゃんに影響が少ないと想定される治療薬を選び、お母さんの潰瘍性大腸炎の治療を行っていきます。

7. 潰瘍性大腸炎は遺伝するのか?

自分が潰瘍性大腸炎と診断された場合、お子さんに遺伝しないか不安になる方もいらっしゃるかもしれません。潰瘍性大腸炎は病気と関連する遺伝子は複数報告されていますが、病気になるかどうかを決定づけるほどのものではなく、発症しやすさが少し上がる程度のものと考えられています。そのため、もしご自身が潰瘍性大腸炎であったとしても、お子さんも潰瘍性大腸炎を発症する可能性はあまり高くないと考えられています。

8. 潰瘍性大腸炎の人の生活の注意点は?

潰瘍性大腸炎は多くの方で治療の継続が必要であり、病気との付き合いも長くなります。病気と付き合っていく上で日常生活でも注意点があります。ここでは注意点に関して説明します。

服薬を守る

潰瘍性大腸炎では新しい治療薬の登場もあり、多くの方で寛解に至ることができるようになりました。症状がない状態が続いていると「この薬は必要なのか」と疑問に思うこともあるかもしれません。

しかし、これまで病気の経過や各種検査結果から治療の継続が必要であると判断されることもあります。もし、治療に関して疑問に思うことがあれば、主治医の先生とも相談してみてください。

体調不良を感じたら

潰瘍性大腸炎は治療開始して一回良くなっても、時間経過とともに悪くなることがあります。また、潰瘍性大腸炎の治療ではいくつかの薬を同時に使うこともあるので、副作用により体調不良が起こることも珍しくありません。

重要な副作用が出た場合は、原因となった薬を中止することも考える必要があります。ただし、ステロイドなど急にやめることができない薬もあります。体調が悪いと感じた時には、自己判断せず主治医の先生と対応を相談するようにしてください。

旅行の時の注意

潰瘍性大腸炎の方も旅行することはできます。ただし、病状によっては旅行が望ましくない場合もあります。旅行が可能かは担当の医師に確認するようにしてください。また、潰瘍性大腸炎の治療薬の中には急に中止しない方が良いものがあります。薬を紛失した場合に備えて、薬の名前を書き留めておくことをお勧めします。