きかんしぜんそく
気管支喘息
アレルギーなどで空気の通り道(気道)に炎症が起こることで、気道が狭くなってしまう病気
25人の医師がチェック 267回の改訂 最終更新: 2024.02.16

気管支喘息の治し方は病院以外にない?食べ物・運動との関係は?

気管支喘息はよくある病気だからこそ、患者さんとその家族がしっかりと病気を理解して、日常生活で工夫をしていくことが重要な病気です。ここでは病院で処方される西洋薬以外の治療や予防法について解説します。 

 

目次

喘息治療では何度も通院して薬をもらうことになります。通院は行き帰りの時間や待ち時間も含めて生活の負担になるので、楽にしたいと思うのは無理もないことです。

しかし、市販薬で喘息の十分な治療をすることは出来ません。喘息治療で中心的な役割を果たす吸入ステロイドや、ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)、テオフィリン製剤、β2刺激薬などは市販されていないからです。つまり、これらの薬を薬局などで処方箋なしで買うことはできません。

咳喘息にしても、市販の風邪薬の咳止めでは効果が不十分となる可能性が高いと考えられます。

市販の抗アレルギー薬と同様のものを病院でも処方されるかもしれませんが、LTRA以外の抗アレルギー薬は喘息治療においては補助的な役割であり、やはり十分な治療とは言い難いです。

喘息で使う主な薬が市販されていない理由は、使用にあたって専門的な注意が必要な場合が多いからです。医師が薬を処方する時には、本当に効果が期待できるのか、実は薬を使ってはいけない場合(禁忌)に当てはまらないのか、をチェックするなど多くのことを考えています。できる限り安全性を確保しながら効果的に治療するために、やはり医師の診察は欠かせないのです。

喘息を漢方薬だけで治すのは現実的ではありません。

柴朴湯(サイボクトウ)、麦門冬湯(バクモンドウトウ)、小青竜湯(ショウセイリュウトウ)、柴胡湯(サイコトウ)などの漢方薬で喘息がよくなったという報告が少数あります。しかし、本当に効くのかどうかを検討した質の高い研究は存在せず、確実に効果があるとは言えないのが現状です。

漢方薬は一般に副作用が少ないと言われますが、ほかの薬と同じように漢方薬にも副作用はあります。また、漢方薬とほかの薬の飲み合わせに注意するべき場合もあります。漢方薬を飲んでみたいと思ったら、まずは喘息治療の主治医に相談してください。

喘息治療の主治医から許可があれば、漢方薬を飲んでいても問題はないでしょう。

2015年4月から日本で保険適用の治療として認められた、喘息の新しい治療方法です。内視鏡気管支を熱することで、喘息によって狭くなりやすくなってしまった気管支を、狭くなりにくくする、という治療です。

吸入ステロイド薬や長時間作用型β2刺激薬の吸入をしっかり行っても、なお症状が出続けてしまう18歳以上の患者さんが対象となります。このような患者さん全てが必ず気管支サーモプラスティの適応となるわけではなく、実際に施行してメリットがありそうかどうかは専門の医師(通常は呼吸器科の医師)が判断します。また、気管支サーモプラスティは比較的新しい治療なので、2018年5月現在この治療ができる医療機関は日本で約110箇所ほどです。

実際の治療の流れとして現時点では、2泊3日ほどの入院を約1ヶ月おきに3回ほど行う方法が日本では主流です。3回に分ける理由は、気管支の広範囲を一度に気管支サーモプラスティで治療してしまうと合併症の危険性が高まるからです。海外では日帰りでの治療も行われています。

気管支サーモプラスティはまだ普及し始めて間もない治療なので評価が定まっていない部分もありますが、施行することによって喘息発作の頻度を減らし、普段使う薬の量が減らせる傾向にあるというデータが出ています。多くの治療薬を使っていて、生活環境についても気をつけていて、それでも喘息の症状がしばしば出て辛い、という成人喘息患者さんは一度主治医に気管支サーモプラスティが使えるかについて相談してみてもいいでしょう。

参考文献:J Allergy Clin Immunol. 2013 Dec;132(6):1295-302.

喘息の症状を良くする食品というものは現時点で明らかになっていません。ただし、食品保存料、サリチル酸塩、グルタミン酸ナトリウムなどの添加物、防腐剤などで発作を起こす患者さんもいます。何か特定のものを食べて調子が悪くなる場合には、なるべく避けるなど工夫をすることで、喘息の悪化を防ぐことが現時点でベストな食事療法ということになるでしょう。

結論から言うと運動によって喘息が治癒するとは考え難く、運動はむしろ喘息を悪化させる可能性があることが分かっています。

喘息は空気の通り道である気管支が刺激に対して過敏になり、炎症を起こして気管支が狭くなってしまうことによって息苦しさが出現する病気ですが、運動時には呼吸が激しくなることで気管支の表面が冷却されて乾燥した状態になることで喘息発作を起こしやすい状態になっています。したがって、多くの喘息患者さんは運動により喘息症状が悪化することを自覚しています。しかし、ほとんどのケースで運動終了後1時間以内には自然回復します。実際の運動では、水泳では喘息発作は起きにくく、ランニング、特に短距離走の繰り返しや中距離走で起こりやすいと言われています。

このように喘息患者さんにとって、運動が喘息発作の原因となりうることは分かっていますが、運動によって新規に喘息を発症することもあることが分かっています。アスリートは運動による激しい呼吸を繰り返すことで気管支の表面が傷ついたり修復されたりを繰り返すことで、次第に喘息のような状態になっていきます。これをアスリート喘息といいます。2012年の夏季ロンドンオリンピックでは日本選手団の11.2%が喘息と診断されました。これは日本人平均よりも高い数字であり、アスリート喘息の関与が考えられています。喘息の治療薬はドーピング禁止薬物が含まれていることも多く、喘息のあるアスリートは、喘息治療に際してスポーツ医学に精通した医師の診察を受けるのが望ましいと言えるでしょう。

参考文献

どんな薬にも副作用があります。喘息の薬を使った治療では副作用対策が避けて通れない問題です。

たとえばステロイド薬の副作用が心配になる方がいるかもしれません。ステロイド薬以外でも重症になればなるほど使用する喘息治療薬の種類は増えていき、患者さんの副作用に対する心配はどんどん増えていくと思います。副作用に対する不安があるのは、患者さんにとっては当然のことです。不安な点があればその都度担当医に尋ねて頂きたいと思います。

副作用の心配が全くない薬はこの世に存在しませんが、なるべく副作用が出にくいようにする工夫や、副作用が出たときに対策する方法もあり、担当医は副作用も考えに入れて薬を処方します。一番やってはいけないことは、むやみに副作用を怖がって、症状があるのに喘息の治療を自己中断してしまうことです。

なぜ喘息の症状を我慢して、治療を勝手に打ち切ってしまってはいけないのでしょうか。

ひとつの大きな理由が、気管支の「リモデリング」です。喘息という病気は主にアレルギーを原因として、空気の通り道である気管支が炎症を起こします。気管支が炎症を起こすと、気管支の壁は分厚くなり、空気の通り道は狭くなります。こうして、息苦しさや呼吸のしづらさ、咳などの症状が出てくるわけです。喘息の初期には、この炎症は自然に治まることも多いですが、炎症を繰り返した気管支は壁が分厚いままになり、元の厚さには戻らなくなっていきます。これを気管支の「リモデリング」といいます。リモデリングが進むと、喘息も自然には治まらなくなっていきます。つまり、喘息症状を放置すると、喘息は次第に治りにくい病気へと進んでしまうのです。

副作用が怖い、治療が大変、という患者さんの気持ちはもっともなのですが、それも踏まえたうえで担当医は治療薬を処方しています。この点をご理解いただければ、と思います。

喘息が完治する病気なのかどうか、喘息患者さんやそのご家族にとっては非常に気になるところだと思います。何をもって「完治」とするのかは難しいところですが、治療薬無しで症状を自覚しなくなることを「完治」とするのならば、小児喘息患者さんの約50%から70%は思春期にかけて喘息は「完治」するとされています。ただし、そのうち30%弱は成人してから再発してしまいます。また、小児喘息のうち約30%の患者さんは思春期にかけて軽快はするものの、症状は消失すること無く持続し、そのまま成人喘息に移行します。成人喘息患者さんの場合には小児よりも自然に「完治」する割合は少なく、その割合は10%以下と言われています。

このように喘息は、「完治」する割合は必ずしも多くない病気ではあります。しかし、年に数回くらいしか症状の出ないような軽症の患者さんも多くいますし、大事なことは喘息を放置して気管支の破壊(リモデリング)が進んだ状態にしないことであると言えるでしょう。完治しない喘息に嫌気がさしてしまう患者さんも多いと思いますが、ご自身の体質の1つと考えて、主治医とともに気長に喘息と付き合っていきましょう。

なお、喘息の治療期間をどの程度にするかは決まりがありません。例えば数年に1回しか症状が出ない方であればその時だけ症状が治まるまで治療すればよいでしょうし、気管支の破壊・変形(リモデリング)が進んでしまっていつも症状があるような方では無期限に治療を継続する必要があります。継続的な喘息治療が必要な方でも、リモデリングがあまり進んでいなければ、治療薬を段階的に減量(ステップダウン)していくことで、治療薬なしの状態までもっていくことができる場合もあります。一般的には症状のほとんど無い順調な状態が3ヶ月程度以上維持できれば、治療薬を1段階ステップダウンすることを検討します。

ただし、乳幼児ではそもそも喘息の診断自体を広い意味で捉えているため、真の喘息では無いけれども軽い喘息に準じて治療されることも多々あります。このようなケースでは早期のステップダウンが検討されます。

参考文献

  • 秋山一男, 他, わが国における成人気管支喘息の実態, 日胸疾患会誌 29: 984-991, 1991
  • 福冨友馬, 他, 本邦における病院通院成人喘息患者の実態調査 ―国立病院機構ネットワーク共同研究―, アレルギー 59 : 37-46, 2010.
  • 日本アレルギー学会喘息ガイドライン専門部会/編, 喘息予防・管理ガイドライン2015. 協和企画, 2015